未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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ほぼ同名のサブタイトルが過去にあったり。




常冬の島と泥みたいなコーヒー

 

 

 

 船の方に戻れば子供たちはもうタンカーに乗り込んでいて、ローは救命用のヨットの上に悪趣味なオブジェを作っていた。

 船の近くではルフィたちにお別れを言おうとする子供たちと、海賊相手に恩を感じるな、と引き離そうとするG-5共との間でちょっとした言い合いになっている。リオは最後に、とスモーカーの方に近寄って、「上手くやれよ」と肩を叩いた。

 

 

「必要なら私の名前を出しても良い。ヴェルゴのことはその方が多分スムーズだしね。まァ、手伝ってもらったお礼と、諸々のお詫びも込めて。サカズキさんによろしく」

「え、海軍に報告するのか!?」

 

 

 ぴょん、と飛び上がったチョッパーを見下ろして、リオは「そりゃ報告はするでしょうよ」と頭を撫でた。

 

 

「私たちが去った後でね。でしょ?」

「……どちらにせよ、ここから本部に連絡はできねェ」

「うん。海軍ってのは組織だから、この島の後始末や子供たちの治療のために力を割いてもらうなら、本部主導にしてもらった方がいい。現場の上申よりはトップに直接ねじ込んだ方が進むのが早いしね。クザンの名前は出せないだろうから、後はスモーカーがどれだけサカズキさんに口うるさくするか、みたいな所があるし……。私の名前を出せば少しはすんなり通るでしょ」

「その、今でも自分は海軍内で力がある、という態度は改めておけ」

「あるんだなァ、これが。じゃなきゃその辺の海賊に5億なんてつけないよ。ま、悪い方で、だけど。いいね、海賊リオが、じゃなくてメルリオールが、って伝えるんだよ」

「……その必要はねェよ。海軍も、もう前とは違う」

「そう。ならいい」

 

 

 まァともかく、と首を振って、リオは「いい隊長やってるじゃん、スモーカー」と呟いた。

 

 

「G-5のバカ共がよく懐いてる。やっぱりお前はその基地が合ってたね。私が気に入るワケだ」

 

 

 フン、なんて鼻を鳴らして、スモーカーは踵を返した。

 代わりに、やいやい言っていたバカ共の一部が、チラチラとリオに視線を寄越してくる。

 

 

「ハァ、ったく」

 

 

 歩み寄ってやれば、「次会ったら捕まえてやるけどな」と今更な口上を述べながら、「上手くやってるのか?」なんて囁いた。

 

 

「何がだよ。そもそも、海軍側からの『上手くやってる海賊』って何だ」

「でも、海賊になって偉大なる航路(グランドライン)にいるなら、そうそう北にはいけねェだろ?」

「恩人の墓参りだって、メルちゃんひどい時は週一で北に船動かしてただろ」

「その割に途中から毎回行き先違ェし」

「おれらを寒空の下でずっと放置して!」

「ひどい時ってなんだ! その言い方は!」

 

 

 背後では戻ってきたナミたちに、ロビンが「北の海出身のルーキーの話をしましょうか?」なんて、わざとリオに聞こえるようにこちらに視線を向けながら言っている。

 

 

「コホン、その、なんだ。達者でやれよ。お前らバカなんだからスモーカーの言うことをよく聞け。敵わない相手に無闇に突っ込むな。面倒でも銃のメンテナンスは毎日すること、それから……」

「白鳴」

 

 

 スモーカーが割って入った。絶対に青筋を立ててる。見えないけれど分かる。

 

 

「……いや、これは私が悪かった、すまん。それじゃあな、遠い再会になることを願ってるよ、G-5」

 

 

 白いマントを揺らして、リオは一足先にサニー号へと乗り込んで行った。去り際、クザンに向けて振った片手には、一瞥だけが返る。別れなんて何度も経験してるのに、今回ばかりは少し寂しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒い、寒い、寒〜いなァ〜」

 

 

 調子外れの歌を口ずさんで、リオは軍靴を雪に埋もれさせながら歩いていた。

 

 

 常夏ならぬ常冬の島は、いつだって体の芯から凍えそうになる。自分だったら絶対に住まないぞ、と思いながらも、雪道を進む足取りは軽かった。

 

 

 横から見るとツバメのような大岩を中心に抱く島、スワロー島。その港町、プレジャータウンを抜け、一時間ほど歩けばローが仲間と共同生活を送る家が見えてくる。

 

 

 10年前。リオがポッキリ折れる、そのずっと前。15回目の作戦で崩れた国の復興に目処がついて、犠牲者の追悼も終えて、リオはいつものように勝手にG-5に忍び込み、暇そうなバカ共を借りて船を動かしたのだ。

 

 

 着慣れたスーツの上に雪国用のコートを着込み、正義のコートは片手で振り回している。もう片方の手に南国の鮮やかな花の花束を持ち、軍帽も預けてきたリオは、ただちょっと能天気なだけの少女に過ぎない。はず。

 

 

「ぶえっくしょん!」

 

 

 それにしても、寒い。何度訪れても、自分が寒さに弱いと言うことを痛感するだけで、ここの気候には一向に慣れなかった。この島の夏だって、「暖かくなった」と皆言ったけれど、リオからすれば普通に寒い。

 

 

「……あれ?」

 

 

 ようやく家に辿り着いて、リオは首を傾げた。

 気配が無いな、と思いながらもドアをノックする。時間帯を間違えただろうか。もう夕方で、彼らも仕事から帰ってくる時間だろうに。

 

 

 しばらく待てば、老人が扉を開けた。

 

 

「ああ、リオか」

 

 

 入るといい、なんて軽く言われてすぐ奥に引っ込んでしまう。特に遠慮することもなく、リオはその後に続いた。

 家に入れてもらえるようになったのは、3回目か4回目かの訪問からだ。あちこち骨折し、血塗れの包帯を適当に巻いただけのリオは、ローを探す前に驚いた街の人に診療所に担ぎ込まれたのだ。

 治療はもう受けたから大丈夫、と暴れるリオは、運ばれた先の診療所で働いていたローに雷を落とされ、ギャンギャン口喧嘩を重ねていたら流れで家まで招待された。

 恐らく、治療から逃げ出そうとしていたリオの監視のためだ。

 

 

 通されたリビングで湯を沸かしていた老人、ヴォルフを前に、リオは「そっか」と呟いた。

 

 

「もう、海に出たのか」

 

 

 広々としていた。4人の悪ガキ共がいつも騒がしかった家は、静まり返っている。探せば彼らの痕跡はいくらでもあった。椅子の数、食器の数、大きなブランケットに少し凹んだ床。けれど、この家に彼らが戻ってくる未来は視えない。

 

 

 習慣のように花束をテーブルの上に置いて、リオはいつもならその上に並んでいるはずの花瓶や変なオブジェ、宝石箱などが全て片付けられていることを認識した。どれも、リオがこの家に持ち込んだものだ。

 

 

「お前さん、矢張り聞いとらんのか」

 

 

 湯気のたつマグカップを両手に振り返ると、ヴォルフは「もう一週間ほど前になる」と薄っすらと笑った。

 彼はこの家の家主だと聞いている。ロシナンテと別れた後、死にかけていたローを拾ったのが彼だ。その後、ベポ、シャチ、ペンギンを迎え入れ、騒がしくも仲良く暮らしていた。

 

 

「一週間前なら、私は新世界で駆けずり回ってた。なんかあった?」

「二週間前にな」

「そ。視えなかったってことはそこまで大事にはならなかったんだ。街の方もいつも通りに見えたし」

 

 

 言いながらテーブルに着いて、片方のマグカップを受け取る。

 見覚えのないものだった。リオがいつも使っていたものは、捨てられてしまったんだろうか。

 

 

 後で一応近くの支部に寄って作戦記録でも漁っておこう。多分怒られるが、どうせそれだけだし。見覚えのない新品のカップを両手で包めば、冷え切った体にジン、と響いた。

 

 

「一応、あいつらには言ったんじゃがな。出航の前に会わなくていいのか、と」

「二週間前なら……やっぱり私は新世界にいたよ。ドレ……いや。ともかく、北に来れる状況じゃなかった」

「そうか」

「まァ、独り立ちできたんなら……いいか。どうせそれまでだし……」

 

 

 呟いて、熱いコーヒーを胃に流し込む。泥みたいな味がした。

 

 

「なんじゃ、保護者みたいな言い草じゃな」

「ん……。そう、だね。これで一つ肩の荷が降りた気分だ。ま、ちょと乗り過ぎてて一つ下ろしたくらいじゃ変わんないんだが!」

 

 

 彼が選択した『自由に生きること』が海賊になることなら、別にそれはいい。リオは友人の代わりに、彼が変な気を起こしたりしないか、安寧に生きていけるかを見ていただけなのだ。それだけだ。

 

 

「世話になったね、ヴォルフ。何か困ったことがあれば、海軍本部のメルリオールまで連絡して。話は通しておくから」

 

 

 空いたカップを返して、リオは立ち上がった。もう帰るのか、なんて言葉に頷いて、堂々と正義のコートを肩にかける。これがきっと、『リオ』としてする最後の行為だ。メルリオールは『すべてを救う』ために、寄り道をしている時間はない。『リオ』の友人の頼まれ事はもう終わった。

 

 

()()()()()()()()()()()が沢山あるんだ。今この時も、私がいれば助けられたかもしれない悲劇があちこちで起きてる。だから、行かなくちゃ」

 

 

 そうして家を飛び出した足で何日も、何週間も、メルリオールは不眠不休で海を飛び回った。助けた人間の数と、犠牲者の数はいつまでも増え続け、もうどちらが多いのか分からない。気づいてはいけないことに気づかないふりをして、より悲劇が起きる方へ、激戦地帯へ。朝から晩まで、艦を乗り換え、部下を切り替え、カフェインで無理やり体を動かし、帰還命令を無視して。

 

 

 気付いた時、メルリオールは見覚えのある海で、見覚えのある顔の乗った新聞を握りしめたまま波に揺られていた。

 

 

「ほら、この島だろ?」

 

 

 振り返れば、色濃い疲労を顔に残した部下たちが、心配そうに陸地を指差していた。ぼんやりと指先を辿れば、ツバメの形をした岩がいつものように佇んでいる。

 

 

「は?」

「メルちゃん、今月は墓参りに行けてねェだろ?」

「墓……参り」

「おう。いつも、墓参りの帰りはスッキリした顔してるからよ、最近根詰めすぎだし、気分転換した方が良いって思って」

「気分、転換……」

「そうだぜ。まァ墓参りが気分転換でいいのかはおれらにも分からねェけどよ……」

 

 

 もう一度スワロー島を見上げたメルリオールは、次に握りしめていた新聞をゆっくりと開いた。

 

 

 一面、二面、三面と通り越した先の、小さな記事。ローの顔が映っている。

 旗揚げしたばかりのルーキーが大商人を襲撃したという記事。後の調査で商人には麻薬密売容疑がかけられている、とある。端に見切れるようにベポの耳が映っていて、見えないがシャチとペンギンもいるのだろう。スワロー島から3つか4つ先の島だ。

 

 

 ページを捲れば、新しい手配書が挟み込まれていた。笑っちゃうような些細な金額。メルリオールが相手にしている新世界の海賊とは桁が一つも二つも違う。

 

 

「……腹が減った!!」

 

 

 新聞を部下に押し付けて、メルリオールは船内へと向かった。

 

 

「え、メル准将、墓参りは!?」

「バカ共が、島が違うんだよ! それより飯だ飯! 食ったらこの辺の海図引っ張り出してこい!」

「でもいつもはこの島……」

「手ェ動かせ、止まってる暇はねェぞ! あ、待て、お前は寝てろ! お前も寝てろ! ……何だお前ら、今にもぶっ倒れそうな顔しやがって……」

 

 

 船内を見渡して、メルリオールはゾンビのような顔色の部下たちに腹を抱えて笑った。

 

 

「そうか、私もか。世話かけたなァ!」

 

 

 そうだ、偉大なる航路(グランドライン)に入るまでにしよう。懸賞金がせめて億に乗らないと独り立ちとは言えないはずだ。そうしていつか新世界に乗り込んできた『ハートの海賊団』と、百戦錬磨になったメルリオールが敵として出会う。それがきっと、海賊ローと海兵メルリオールのあるべき姿だ。

 

 

「海軍にだって非番はあるし。こいつら途中で置いてけば大丈夫だろ」

 

 

 そんな事を言いながらメルリオールは時折、騙し騙し北の海を駆けたのだった。

 

 

 ──それも、そこまで長くは続かなかった。ハートの海賊団はいよいよ懸賞金が億に届こうとし、メルリオールの訪問はパタリと途絶え。

 4年前、南の海での一件をきっかけに思想を変えたメルリオールは、ハートの海賊団の偉大なる航路(グランドライン)入りを自分の中での建前として、逃げるように新世界を去ったからだ。

 

 





第一部にて、メルリオールはローがいる場面では一人称が絶対に『リオ』だった事にお気づきでしょうか。強いて言うなら香っている、というのがその辺り。

『メルリオール』と本名のリオの両方を知る者で、一度もメルリオールと呼んだ事の無い人が彼含め二人おります。両者とも、メルリオールがどういうものかをよく知っているから。
ドレスローザ編ではその辺含めた話になっていきます。
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