未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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おもちゃと妖精と愚者

 

 

 

 

 

「メルリオール、か」

 

 

 愛と情熱とおもちゃの国。その王城にて、男は一人の名を呟いていた。

 

 

「ヴェルゴをやったのも奴に違いない。とうとうこちらに敵対する気になったみたいだぜ、ドフィ」

「問題ねェさ。そうだろ?」

 

 

 一呼吸置いて、男は片腕を振り下ろした。積み重なった手配書の中心が、テーブルナイフによって引き裂かれている。

 

 

「おれは、()()()()()()()()()()……!」

 

 

 誰も口を開かなかった。ファミリーたちは揃って同じ食卓で、不気味に笑みを浮かべるのみ。

 

 

「脅威にはならんさ。そうだろ? 海軍最大の裏切り者、███████・リオ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドレスローザが見えた、と報告があったのは昼時を過ぎた頃。

 閉じこもっていた船室から出たリオは、脳裏に昔訪れたドレスローザの光景を思い描いた。

 

 

 海からだと、岸壁が迫り出して要塞のように見える島だ。いくつかある港以外では接岸が難しく、海からのならず者の侵入を阻んでいる。

 高台に築かれた街の、さらに高い所にあるのが王宮だ。かつてはリク王が座し、そして今はドフラミンゴが簒奪した玉座。

 

 

「段取りは決まった?」

「トラ男君がシーザーの引き渡しにグリーンビットに向かうって所までは」

「索敵と狙撃にニコ屋と鼻屋を借りたい」

「分かった。じゃあ、おれたちで島の方に乗り込もう。錦も行くだろ?」

 

 

 錦えもんによれば、ワノ国からゾウという国を目指した所で遭難し、モモの助ともう一名の同心がドレスローザに漂着したという。そこでドフラミンゴらに狙われた一行は、同心が囮となったことでなんとか逃げ出すことに成功し、パンクハザードへと繋がる。

 

 

「錦えもん、その同心の名前は思い出せるんだよね?」

「うむ、名は……カン十郎。傾奇者の装いをした拙者と同じ妖術使いだ」

「じゃあ最悪な事にはなってないでしょ」

「最悪というのは……リオ殿が昨日話していた、知っていたはずの人を忘れてしまう、ということか」

「そうだね。次点で島に入った途端その人が殺気マシマシで襲ってくるとか……。まァいいでしょう。これは正面衝突じゃなくて潜入作戦なんだし」

 

 

 首を振って、リオは何か言いたげなローに口を閉ざした。

 

 

「島に着き次第二手に分かれる。船番と潜入チームはそちらで組み分けしてくれ」

「はい! はいはい! あたし船番!」

「おれも! おれも!」

「では、私も残りましょうかね」

 

 

 ナミ、チョッパー、ブルックが船番を希望した。という事は残りが潜入組か。

 

 

「リオ、お前は船に残れ。島内に立ち入るな」

「……冗談」

 

 

 吐き捨てて、リオは「君はあくまで同盟相手だろ」と呟いた。

 

 

「この中で唯一ドレスローザに立ち入った事があるのが私だ。長年地図を作り続けてきたのも私。言い出した以上責任は取る」

 

 

 だってこれはリオのすべき事だ。

 

 

 その後、ローはリオに言い返す事はなく。また、リオもローにそれ以上は言わずに作戦の話へと移行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが愛と情熱の国かァ〜!」

「ちょっと……よそ見、しないでよ……?」

 

 

 大丈夫かなァ、とサンジの腕を引く。ドレスローザ西部の港町、アカシア。

 活気溢れる街は、香り豊かな料理の匂い、南国の花の匂い、そして止む事のない喧騒に包まれている。

 それは人も。そして、この国の名物、命あるおもちゃたちも。

 

 

「グエ〜、オエオエ」

「お前の方が大丈夫じゃねェだろ、リオ」

 

 

 呆れ混じりにゾロが見下ろした。サンジの腕に掴まってヨロヨロ歩いているリオは、上陸から5分もしないうちにグロッキーだった。

 

 

「気持ち悪い〜〜」

「だからトラ男が辞めとけって言ってたのか。船戻っとくか?」

「やだやだ、とりあえず腹一杯になるまでは居座るから〜!」

「リオさん、よければおれがプリンセス♡抱っこを……」

「メ、メインの通りを3ブロック進んで、確か右に1本入れば……オエ〜」

 

 

 呆れ混じりのゾロが、「キン、ともかく変装を」と指示を出した。彼の能力で現地に溶け込みやすい服装に変装できるのだと言う。

 

 

「オエ〜、マントは、マントだけは取らないで……!」

「お前もう帰ってろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 帰るはずもなく。

 リオの指示通りに大衆食堂に向かった一行は、ルフィがメニューの上から下までをするのを横目に周りの様子を窺っていた。

 

 

「マント……」

「お前のそれが一番目立つんだよ」

 

 

 リオの白マントは、錦えもんのフクフクの実による変装のためフランキーに取り上げられていた。他の皆も、アロハシャツのルフィ以外は今のリオと同じく黒スーツだそうだ。

 

 

「リオさん、サングリアを」

「ありがとう」

「体調はもう大丈夫かい?」

 

 

 心配してくれたサンジに頷いて、受け取ったストローを挿した。多分これからテーブルの上がパンパンになるだろうから、とグラスを持ち上げておく。

 

 

「慣れてきたよ。にしても変だな、ここのおもちゃ」

「動いてるもんな!」

「それもだけど、生きてるんだよね」

 

 

 まだ頭の奥底に響いている気がする、と被りを振った。リオはルフィと違って、人以外の動物の声に対する感覚は鋭くない。勿論、集中すればなんとなくの感情を感じ取れるが、すぐに同調して仲良くなれるルフィのようにはいかない。

 それでも、この状態のリオが()()()する街。

 

 

 なるほどなァ、と納得を腹の奥に流し込むように、リオは酒を煽った。

 

 

「それで、どうする? 仮にもこの国の王が今朝王位を放棄したばっかとは思えないが」

「知らねェんじゃねェか?」

「んなバカな!」

 

 

 フランキーが首を振る。確かに周囲の地元民の様子は、確かに10年もの間この国を統べた王の退位の直後なようには見えない。

 

 

「やっぱなんかあったかねェ」

「聞いてみよう。おいおっさ……」

「やめろ! 今朝の一面だぞてめェ!」

 

 

 すんでのところでサンジがルフィを止め、ちょうど届いた料理たちにルフィの意識は奪われた。

 

 

「ドレスエビのパエリア、ローズイカのイカスミパスタ! 妖精のパンプキン入りガスパチョ!」

「どれもうまほ〜」

「リオさん、取り分けるね」

「ありがとう。妖精って、この国の伝説の?」

 

 

 おもちゃの店員の顔あたりに視線を向けながら、リオはサンジから小皿を受け取った。この後いつも通りサンジが料理説明をしてくれるはずだ。

 

 

「ご存知でしたか! この国では伝説の妖精が出るとか出ないとか! どうぞ旅の人! お気をつけになるとかならないとか!」

「なんだそれは?」

 

 

 去っていくおもちゃの背中を見ていたフランキーの問いに、リオは「御伽噺よりは現実に近い、不思議な生き物の伝説さ」と返した。

 

 

「なんでも、遥か昔からいる目に見えないドレスローザの守り神で、たまに現れては色んなものを持っていくんだって」

「なんだそりゃ、盗っ人か?」

「信仰されてるんだから、捧げ物になるんじゃない? 人間の盗賊とは違って、妖精の仕業だと国民も仕方ないで済ませるらしいよ。あ、これ美味しい!」

 

 

 海軍内でもドレスローザで装備を盗られ、『妖精の仕業』とかいうふざけた始末書が書かれる事があった。島ごとに風習というのは違うものだし、少なくとも現地民が悪感情を抱いていないなら従う方が賢明だ。

 

 

「向こうが騒がしいのはルーレットか?」

「食堂でギャンブルやってんの?」

 

 

 向こう、というのをゾロに指差してもらって、リオは首を傾げた。

 

 

「勝ってるってこと?」

「いや、大負けしてるらしい。白いマントのおっさんが一人でやってんな」

「小悪党のチンピラ共が盲目のおっさんから金をむしり取ってる」

 

 

 フランキーとゾロの言葉を聞いて、リオはおもむろに腕を組んだ。

 

 

「盲目白マントってキャラァ……被ってね? またワンワン言っとこうかなァ、ワンワン」

「それやっぱキャラ付けだったのかよ!」

「ちょっと文句つけてくるわ」

「あ、おい、リオ! というか、ルフィはどこ行った?」

 

 

 ダン、と立ち上がって、先に様子を覗きに行ったルフィの後に続く。気配を頼りに歩けば、カウンターの辺りでルフィの隣に並ぶ。

 

 

「来い! 来い! 白っ!」

 

 

 テーブルでは有り金全部突っ込んだアホみたいなギャンブルの真っ最中だった。

 

 

「どっちですかい!?」

「……残〜〜〜念だったなァ、おっさ〜〜〜ん……。勝負はく」

「白だ!」

 

 

 料理を口に突っ込んだままのルフィが器用に叫ぶ。このおっさんはなんでギャンブル中に相手の言を鵜呑みにしてるんだろうか。

 

 

「あァ? 誰だてめェ!」

「白じゃん、おっさん勝ちだな!」

「よく見やがれ黒だよバカ野郎!」

「おうおう、そしたらおっさん、次は私とだ」

「お前も何だ!」

 

 

 ドカリと隣に腰掛けてから、リオは「ん?」と首を傾げた。

 

 

「待て、あんた……。いや、なんで真昼間からギャンブルしてんだ仕事しろ」

 

 

 呟いたリオとずっとムシャムシャしているルフィに頭を下げたおっさんは、「どなたか存じませんがご親切にどうも」とリオの言葉を丸っと無視した。

 大丈夫なのか、これ。多分海軍大将だろ。

 

 

「あー、いいよ。見たまま言っただけだし。それよりおれの仲間がおっさんと遊びたいんだって」

「へェ。でしたらルーレットか、札遊びなんかどうでしょう」

「いや悪い、私も今目が見えないんでそういうのはちょっと。そもそもトランプ出来るの?」

「そうでしたか、じゃあ丁半で」

 

 

 なんで賭け事しか出てこないんだ、と首を振りながら立ち上がった。触らぬ蛇になんとやら、だ。あれ、違ったっけ。それに、と斧のようなものを振り上げたチンピラを見遣る。

 

 

「おい、いい加減にしろお前ら! そいつはどうせ見えてねェんだ、黙っておれたちに従ってりゃあいい! 邪魔な奴は消えろォ!」

「こらァいけねェ! お兄さん方、ちょいとどいてておくんな」

 

 

 ルフィを狙った攻撃にリオが手を出す前に、おっさんが動いた。ぶわりと肌を刺すような感覚が凝縮されていく。

 

 

「その人ら、地獄へ落ちて貰いやすんで……!」

 

 

 異変はすぐに感じ取れた。チンピラ共が床にはたき落とされ、それでも堪らず床が軋んでいく。

 

 

「すげー穴があいた」

「はえ〜」

 

 

 重さ操作か、重力系の能力だろう。触れた様子がないから後者かな。

 

 

「見えねェ事もまた一興。この人の世にゃあ見たくもねェウス汚ねェモンも……たくさんありましょう」

「そりゃあ、よーく見えてた奴のセリフだね」

「おっと、気に障りましたか、お嬢さん」

「いや? ……なるほど、参考になった」

 

 

 メルリオールの存在くらいは聞いているかもしれない。リオは大穴を覗き込んで、「地下かァ」と呟いた。脇をピュン、と何かが通り過ぎる。

 

 

「お、これが妖精」

 

 

 去っていく大将には振り返らず、リオは穴の前で考え込んでいた。

 

 

 

 

 

 

「案の定……ドフラミンゴの手下だってのはよく分かった」

「ひーー!」

 

 

 路地裏。ルフィと共にフランキーに引っ張られていったリオは、さきほどのチンピラを恫喝しているフランキーを眺めていた。

 ゾロは妖精に何かを取られたらしく飛び出して行ってしまい、錦えもんとサンジはゾロを追いかけて行ってしまった。ゾロが迷子になったらリオの出番だ。準備だけしておこう。

 

 

「だ……だから言ったろ! 確かに侍たちを追い回した任務は覚えてるが、どう捕まってどこにいるかなんて知らねェし……! その「スマイル』ってのも意味が……」

「スマイルの『ス』の字もか!?」

「スの字もだし、工場の『コ』の字もだよ……!」

「じゃあおもちゃは? この国のおもちゃはどこで作られて、どこに帰っていく?」

 

 

 口を挟んだリオは、怪訝そうなフランキーに「この国に新しく出来た法律によると、おもちゃは人間の家に入ることはできず、夜はおもちゃの家に帰るらしい」と補足した。

 

 

「おもちゃと本当に共存してるなら変な法律だよね。君もこの国の人間だろ?」

「おもちゃなら、ファミリーの力で製作されてるとしか……。おもちゃの家なら街にいくつもあるが、ただの家だ。あいつらは人間の家に入ったり、夜家に帰らねェと『人間病』を発症する! だから、人間とは分けなきゃいけねェんだ」

「人間病? なんだそれは」

「詳しくは知らねェ! ただ、ある日突然おもちゃが自分を()()()()()()()()んだ! それでおかしくなって人間に危害を加え始める……!」

「自分を、人間だと思い込む……」

 

 

 復唱して、リオは一歩退いた。話の続きをフランキーに任せる。

 

 

 突如現れたドレスローザのおもちゃたち。他国への売買の記録はなし。製造方法は不明。メルリオールが命じた複数回に渡るドレスローザの調査任務。誰の記憶からも消えた人間たち。人とは異なる物でありながら、リオの見聞色で人酔いするほどおもちゃの声が聞こえる事。

 

 

 咄嗟に電伝虫に手を伸ばそうとして、首を振って押し留めた。それじゃあダメだ。これまでと変わらない。

 

 

 それに──。リオは今、声を上げることに躊躇していた。

 

 

 魚人島、パンクハザードと、リオが自己判断で行った行動は裏目に出続けている。

 拘束したネプチューンや襲ってきたホーディ、デッケンを放置して竜宮城を出たこと。ノアの船体を保護しようと速度を抑えたこと。研究所の壁を破壊したこと。

 それから恐らく──モネを倒したと判断したこと。

 

 

 失敗ばかりだ。

 そりゃそうだ、リオは今まで自分の頭で考えて判断したことなんて殆ど無かった。未来を視て、その対処として動いていただけ。だからこそ海軍でも、作戦立案に関わりながら参謀将校ではなかった。

 

 

 これまでは仲間のサポートがあったから、最終的にはなんとかなった。けれど、今回は絶対に失敗できない。

 

 

 それなら未来を視たらいい。わかってる、けれど。

 ルフィ、と名前を舌に乗せようとしたところで、リオは聞こえてきた言葉に固まった。

 

 

「エースのメラメラの実が、闘技場(コロシアム)の賞品……!?」

 

 

 固まったリオの前で話は流れていく。

 同じ悪魔の実が同時期に2つ存在することはない。けれど、能力者が死ぬと世界のどこかにその実が復活する。悪魔の実の基本知識だ。

 

 

 エースが死んだ以上、メラメラの実がまた出現するのは当然。闇ブローカーであるジョーカーの元にその実が辿り着いたというのも、おかしな話ではない。

 

 

「おれほしい! メラメラの実!」

 

 

 叫んだルフィが、パッとリオを振り返った。

 

 

「おれにはゴムゴムがあるからもう食えねェけど、リオ、お前食うか!?」

「え、あ……」

 

 

 しどろもどろになったリオに、ルフィは「どっかの誰かにエースの能力を持ってかれんのはイヤだぞ!」と畳み掛けた。

 

 

「なるほど、エースの形見ってとこか……」

「能、力者が死んだ後、後釜の能力者が現れるのはよくあることだよ」

「じゃあリオは知らねェ奴がメラメラの実を食ってもいいのか!?」

「それは……」

 

 

 言い淀んだ。リオには既に経験があるから。白ひげのグラグラの実をてにした簒奪者。黒ひげティーチ。

 頂上戦争で、リオがリタイアした後の話だ。まだ未来を視ていて、リオが今のリオでなかった頃の話。思い返したくもない思い出を、揺り起こす。それを知った時、リオの心はどう動いただろうか。

 

 

 潜水艇の奥まった部屋で、薬品の匂いの中、ローが一つずつ語っていく戦争の顛末。両手を握りしめて、リオは。

 

 

「私は──────」

 

 





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