未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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その感情は、嫌いだ

 

 

 

 

「メル!」

 

 

 快活な声に、メルリオールは溜息を吐きながら振り返った。

 思ったよりは近くにいた青年が、赤い炎に包まれたままメルリオールの前に着地する。横着して、そこまで離れていない距離を飛んできたのだろう。

 手を伸ばして、半分炎になった青年の頬を摘む。

 

 

「街中で能力を使うな」

「イテテテテ! ゴメン、本当ゴメン!」

「分かってないな。ったく」

 

 

 謝罪の言葉通りにシオシオと弱まっていく炎に、メルリオールは溜息を吐きながら手を離した。赤い炎を掬うようにして、馬鹿みたいに輝いている夏島の太陽を見上げる。

 

 

「おい、危ねェぞ、メル!」

「お前の炎如き、どうともない」

「本当にどうともねェな……。なんでメルはそんな自然系(ロギア)に強いんだ?」

「私が強いから。見聞色が得意だから。ついでに武装色も使えるから。周りに強い自然系が多いから。私が捕まえる海賊に自然系が多いから。どれがいい?」

「全部じゃねェか……」

 

 

 ハァ、とまた溜息を吐いて、メルリオールは「食い逃げ、3件」とデコを弾いた。

 

 

「イテッ!」

「味占めやがって、初めて入った店でツケ請求されたよ」

「お、払ってくれたのか、助かった! ……イテッ!」

「マッチ代わりにはなるか……? 全く、どうせ帰る気はないんだろ。通りの先のレジャー施設で一時間後給湯器が壊れる。少し働いていけ」

「はァ!?」

 

 

 そんな、3年ほど前の記憶。復旧が終わるまで、ブツクサ文句を言う彼のチロチロ揺れる炎をずっと眺めていた、もう随分と遠い記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルフィはもう行った?」

 

 

 滑り込みで闘技場の参加申し込みをし、リオは隣のフランキーに声をかけた。ルフィは既に選手控え室の方に向かったようだ。あの後結局闘技場(コロシアム)で行われる剣闘会に参加することにして、チンピラに道を確認した三人は急いで闘技場まで移動していた。

 

 

「ああ。おれはチケットを取ってくるが、リオももう行くか?」

「いや、ちょっとおもちゃに聞いてみたいことがあって」

「おもちゃに?」

 

 

 そう、と頷いてリオは振り返った。

 

 

「えーっと、兵隊さん?」

 

 

 今のリオは大まかな気配でしか周りを捉えていないから、他人の人相や、街の詳細なんかは分からない。その代わりに壁に阻まれずに建物の構造を観察したり、気配を探ったり出来る。

 何が言いたいかと言うと、そのおもちゃが人型らしい、としか分からないという事だ。

 

 

 片足の兵隊のカタチをしたおもちゃだという。闘技場に到着したばかりの時は何やら憲兵と揉めていたが、華麗に躱した後は通りがかりのリオたちの周りをうろちょろしていた。

 

 

「いかにも! 何か質問かな、旅の方! 絶品グルメ? それとも絶景スポット?」

「言葉にしなくていい。考えるだけでいい。それで、私には聞こえる」

 

 

 言って、リオはしゃがみこんだ。顔を寄せて話しかける。

 

 

()()()()()?」

 

 

 ピタ、と動きを止めたおもちゃに、リオは声を潜めたまま問いを重ねた。

 

 

「元の君を、覚えている人間はいるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し、昔の話をしよう。

 

 

 ドンキホーテ・ドフラミンゴが七武海の席を勝ち取ったのが10年と少し前。その直後、彼はドレスローザに英雄として降り立った。

 

 

 全てはこのためだったのか、とメルリオールは慄いた。当然、未来を視ていたからだ。新世界での挨拶回りと情報収集を兼ねて加盟国を回ったばかりだったため、ほどなくドレスローザの未来が視えたのだ。

 

 

 メルリオールも、ドフラミンゴがロシナンテの仇である事は認識していた。死の瞬間を視ていたからだ。

 だからこそ、偉大なる航路(グランドライン)を駆け上がっていくその海賊団をメルリオールは注視していた。

 

 

 七武海入りを視た時も、止めようと動こうとした矢先にそれが成った時も。どのようにしてドフラミンゴが国を簒奪するのかが視えた時も。

 メルリオールは、上官に訴えた。あれは既に腐った根だ。早晩に処理しないとロクな事にならない、と。

 

 

 けれど結局、革命は一晩のうちに成った。

 

 

 別に、海軍が手をこまねいていたわけではない。七武海の件はともかく、ドレスローザ陥落の未来視には軍の派遣を決定したし、メルリオールもその一員となった。

 ただただ、ドフラミンゴが早かったのだ。恐らくずっと前から、この為だけに準備をしてきたのだろう。

 

 

 メルリオールの視た未来は現実のものとなった。

 後に分かった限りで時系列に直すと、視えた未来はこうだ。

 

 

 まず、ドレスローザ国王から金品差し出しの命が全国民に発され、国民はそれに従って出せる限りの金品を供出した。

 

 

 次に、突如馬に乗った国王が市街に現れ、無抵抗の国民を襲った。

 

 

 そして、国王軍すらも敵に周り、無差別な虐殺を繰り広げた。

 

 

 大混乱の最中、それを止める者たちが現れた。海賊、ドンキホーテファミリー。彼らは国民の信頼を勝ち取り、リク王に代わって国王の座についた。

 

 

 これだけだ。

 

 

 一見、国王の乱心により国が滅びかけたところを海賊が助けに入った、と見える。事実、元々ドフラミンゴに敵愾心のあるメルリオールの視点ですらそう見えた。

 違う、という確信はあった。けれど、証拠はなかった。ただドフラミンゴの治世が続く未来しかなかった。

 

 

 ドレスローザに現着した海軍は、そのまま救援部隊となった。焼かれ、崩れた街並みの復興を手伝い、仮設テントを張り、炊き出しをし、怪我人の手当てをし。

 

 

 一息ついて北に船を出した時には、その事実を共有しようとしていた相手はいなかった。かえって良かったかもしれない。少し、冷静になれた。

 馬鹿正直に「ドフラミンゴが国を救ったがどう思う」、なんて聞いていたらぶっ飛ばされていた。

 

 

 それからというもの、メルリオールは一切ドレスローザに立ち入らなかった。その代わり、長年に渡って部下へ巡回を建前とした調査任務を課し、街並みの変化を観察した。ある程度、メルリオールが怪しんでいた事は知られているだろう。真実に踏み入った部下は、きっと帰っていない。最後にローに会いに行った時、もうすぐだと言われて、きっと。メルリオールは己の腹心に最後の調査を任せたはずだ。今はただ、誰かも分からないリストが残るだけ。

 

 

 海賊を王に戴く国は、こうして出来上がった。大規模な海軍の調査を許さず、仮初めの平和を演じ、誰にも見えない所で大規模な闇取引の土壌が築かれた。それだって、『彼でしかあり得ない』、『ここでしかあり得ない』というだけの話だ。

 

 

 何か、確実な物証さえあれば。それさえあれば、リオは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、グリーンビット。

 

 

「良かったのか?」

「何がだ」

「いや、喧嘩別れみてェだったけどよ」

 

 

 リオだよリオ、と後ろを振り返る素振りをするウソップ。同盟相手のクルーだ。

 答えず前を向き直せば、彼と含め、二対の視線が背中に突き刺さった。気にせずに、奪った心臓で脅して気球代わりにしていたシーザーから島へ降り立つ。

 

 

 ドレスローザから北へ伸びる橋は、リオの情報の通り闘魚の群れに破壊され途中で寸断されていた。グリーンビットの情報は取れなかったのか、緑の多い島、としか記載が無い。

 

 

 原住民がいることは確かなようだが、と重い物を引き摺った後の抉れた地面を見下ろした。橋を渡る途中、正面から飛んできた身の丈以上の闘魚が網に捕らえられ、複数の声と共に引き摺られていったのだ。その人物達の姿は無く、跡も途中で途切れている。

 

 

「おい無視するなって!」

「作戦中だぞ、こっちに集中しろ。そもそも、おれとあいつは別に仲良しこよしじゃねェ。ただ目的が一致してるだけだ」

「ドンキホーテ・ドフラミンゴの打倒?」

 

 

 知っているはずだが、とニコ・ロビンに視線だけをやった。

 

 

「あの時リオが誤魔化したかったのか、貴方を庇ったのか、よく分からなかったのだけど。どちらもだったのかしら?」

「何がだ」

「だから、リオの目的の話だよ」

 

 

 ウソップの返答に、ローは顔を背けた。

 リオは船で、「ドフラミンゴは仇だが、直接倒すことには固執しない」、とそれ以上の問答を拒んだ。

 

 

 少し笑って、ニコ・ロビンは「私たちは対四皇を名目に同盟を組んだ。上手く行くことを願っているわ」と続ける。

 

 

「……作戦に変わりはねェ。おれたちはドフラミンゴを出し抜き、カイドウの戦力を削ぐ」

「ええ。私達は出来る限り時間を稼げばいい。その間、リオ達なら上手く目的を果たすわ。そうしたら、次は貴方の番。言い出したからには、本当に四皇を倒すまで付き合ってもらうわよ。それが同盟だもの」

 

 

 見透かされているな、とは思いつつもローはこくりと頷いた。

 

 

「約束の南東のビーチはあそこだ。15時にシーザーを放り出す」

「それはいいけどよ。ああそうだ、最後にもう一つ」

 

 

 そう前置きしたウソップは、ニコ・ロビンと一度顔を見合わせてからニンマリと笑った。

 

 

「これ聞きたくて着いてきたみてェなもんだからよ!」

 

 

 ツン、と指先で脇腹を突かれる。眉を顰めたローに構わず、二人は楽しそうに「それで、どうなんだ?」と囁いた。

 

 

「あ?」

「リオだよリオ!」

「どうって、見ての通りだが?」

「そうじゃなくてだな! もっとこう……あるだろ?」

「リオもちゃんと答えてくれなかったのよ」

「……だからおれに、か。変に勘ぐるな、何もねェのは見ての通りだろ。ただの医者と患者だ」

 

 

 一応、健康状態に問題はない、と添えておく。彼らの期待する答えがそれでは無いことは、分かっているが。

 

 

「それは良かったわ。けれど、リオの上陸は反対していたじゃない?」

「お前ら、あれの猪突猛進振りは知ってるだろ……。こうと決めたら止まらねェぞ」

「あら、私たちといる時はそうでもないけれど……幸い、うちの船には同じようなのが沢山いるの」

「ルフィとかな。確かにお前の言う通り、リオのやつは最初無茶苦茶言って船に乗り込んできた。だがよ、必要なら嘘も吐くし、必要がねェと思えば濁したりもするが、会話自体を拒むって珍しいだろ? それに、何かを『嫌いだ』ってハッキリ言ったのも、天竜人を除けばトラ男の時だけ……」

「は?」

「あーいやいや、悪い、そういうんじゃなくてだな!」

「っ、クソ! 面倒だからハッキリ事実を言ってやるが、そもそもあいつとおれがどうこうなることは()()()()()。何故ならあいつには、()()()()()()()()()()からだ」

 

 

 断言したローに、驚いたような表情の二人が顔を見合わせた。

 

 

「そうか? でも、リオはもう心が戻ってるんだろ? これまでの冒険だって楽しそうにしてたし、そうとは思えねェが」

「ええ。私たちのことや、エースや白ひげのことなんかは素直に好きだって態度に示してくれていると思うのだけど」

「お前たちが聞きてェのは、そういう()()話じゃないはずだ。嫌いだと、言ったんだろう。恐らくは……。()()()()()()()()()感情そのものを」

 

 

 この件に踏み込んだことのある誰もが、似たように苛烈な対応をされているはずだ。

 

 

『その感情は嫌いだ』

 

 

 他人の好き嫌いなど分かっていない癖に、嫌いだと言って問答を棄却する。少なからずリオは自分の中の好悪について考えたことがあって、第三者の抱くそれを具に観察したことがあって。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「あれは鏡だ。確かに同じように動き、確かにそれが真実ではあるが、本質ではない」

 

 

 何故ならリオは、与えられた感情を返すだけの機械だから。

 

 

「あいつがお前たちに好意を示すのは、お前たちがあいつを同じように好いているからだ。あいつが誰かを嫌うのなら、それはそいつがリオのことを憎んでいるからだ。どうしてメルリオールが『すべてを救う正義』なんて曖昧で甘っちょろいものだと思ってる? それは、あいつが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 敵対者には厳しく、身内には際限なしに甘く。相手の感情とそっくりそのまま同じものを返す。

 それが、リオにとっての『好悪』だ。

 

 

 他人に向けるものと、自分の中で完結するものと。人の感情には二種類あると言う。少なくとも、()()()()()()()()()()

 未来が視えた時、そこに他者がいるか、いないか。

 

 

 好悪は、前者だ。須く他人に向けられるもの。その形も深さもリオは手に取るように確かめることができ、同じように他者へ返すことが出来る。

 自分の中で完結する喜怒哀楽についても、今はちゃんと認識して表現することが出来る。

 ローの施した処置を()()と呼ぶのなら、確かに今のリオの心は治療済みだ。ローの知るそれにほど近い。

 

 

 それでも、表出してこないものがある。

 元から欠けていて、原状回復だけでは取り戻せないものがある。

 

 

 何故なら、『すべてを救う』と本気で誓っていたリオにとって、文字通りすべての人間が等価だから。

 銃口を向ける先も、斬り捨てた相手のことですら、彼女にとっての『すべて』だからだ。

 

 

「あいつの覇気は、お前らも見たことがあるだろ」

「あの、白い雷のことだろ?」

「綺麗よね、あれ。煌めいていて、あの子によく似合うわ」

「その感覚は正しい。あいつはあれがこの海で最も美しいものだと思っている」

 

 

 リオにとってあの光は、他者の感情そのものだ。自分以外の。

 先払いされた()()に対して、真っ先に己の心を差し出す。彼女の財産の中で()()()()()()()()()()()に辛うじて見合うものはそれくらいだから。そうやってこの世のすべてに心を砕いて潰れていく。

 

 

 本質的に、リオにとって()()()()()()など存在せず、よって彼女に好悪という概念はない。

 

 

 ニコ・ロビンは少し考えるように目を伏せてから、少し笑った。

 

 

「今の話だと、リオの方の問題しか出てこなかったけれど。()()()()()()、と受け取っても良いのかしら?」

 

 

 答えずに、ローはグリーンビットの森を振り返った。

 どれほど隔たれようと、リオとローが同じ返答をする問いが一つある。

 

 

()()()()()()()()

 

 

 押し黙った二人に、溜息混じりに首を振る。

 

 

「……くだらねェこと言ってねェで、島の偵察でもしてこい」

 

 

 海軍が来てるぞ、と浜の先に乗り上げた軍艦を指す。スモーカーを通じて呼び寄せたのはロー本人なのだが、それは黙っておく。

 だいたい、リオも後からスモーカーの報告内容に念を押していたはずだ。その点においても、ローとリオは同じ視点を持っている。

 

 

 今日この日のこと以外、考える必要はないのだから。

 

 

「ちょっと待て、海軍がいるなんて予定外だ!」

「まさか取引がバレてるのか!? おいおれは賞金首だ!! ボスであるジョーカーが七武海を辞めた今、おれを守る法律は何もない!」

 

 

 途端に騒ぎ始めた男二人を無視して、ローは「あと10分だ」と時計を見下ろした。

 

 

「お前ら、狙撃と諜報でおれの援護を頼む。森に異常があったらすぐに連絡を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう必要ない、と変装の為に身につけていた付け髭とサングラスを取り、二人と別れて待つこと数分。

 引き渡しまで2分を切った頃、ローの子電伝虫に着信があった。

 

 

『おいロー! こちらサンジ!』

「黒足屋か……工場は見つかったか?」

『それ所じゃねェ! よく聞け、すぐにそこを離れるんだ……!』

「何言ってやがる……これからシーザーの引き渡しだ」

 

 

 何を、と問うたローに、サンジは深く息を吸い込んだ。

 

 

『ドフラミンゴは七武海をやめてなんかいねェ! シーザーを引き渡しても何の取引も成立しねェんだ、おれたちは完全に嵌められた!!』

 

 

 子電伝虫越しの声に、ローはハッと顔を上げる。

 ドフラミンゴは元天竜人。海軍からは見えない権力を持っている。

 リオはそう言った。頭の片隅に置いておくくらいでいい。ローはそう返した。

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 リオではその事実が齎す可能性について推理することは出来ない。リスクを承知する素振りを見せれば脅すつもりだった彼女は満足する。リオを納得させれば一味も口を挟まない。

 この計画はローが火蓋を切った時点で目的が果たされていて、元々捨てるつもりだったものを拾うか拾わないかの話に過ぎない。

 

 

 だから、どうでもいい。

 

 

『とにかく、その島から早く逃げろ!』

「バカ、手遅れだよ」

 

 

 グリーンビットへ向かう二つの勢力を、ローの見聞色は捉えていた。

 

 

「今の連絡聞いたわ、サンジからね!」

「ニコ屋!」

「ウォー! 何じゃ、女が半分出てきた!」

「お前の本体と鼻屋は何処だ!? すぐにこの島から脱出する!」

 

 

 能力を使って半身を送ってきた相手は「それが、私たち今地下にいるの!」と返した。

 

 

「地下!?」

「ちょっとトラブルに巻き込まれて。でも二人とも無事よ。補助は出来ないけど脱出するなら先に行って。約束の港には後で必ず向かうわ!」

「そうか、わかっ……」

 

 

 タイムリミットだ。「武運を!」とだけ告げて上半身が掻き消える。

 

 

「ジョ〜〜カァ〜〜〜」

 

 

 約束の刻限、15時。ドフラミンゴ、そして。

 

 

「ゲェー!! 海軍!! いや……いいのか!?」

 

 

 森の中から、海兵たち。

 

 

「フッフッフッフッフ……!」

 

 

 特徴的な笑い声を上げながら、ジョーカー、ドフラミンゴはローの前に降り立った。

 

 

「お前にしちゃあ上出来じゃねェか! まさか海軍大将がお出ましとはァ……。おいロー! 七武海を辞めたおれは恐くて仕方ねェよ!」

「派手にやったな、ドフラミンゴ。世界政府の力を使って、わずか10人余りのおれたちをダマす為だけに世界中を欺いたってのか!? いくら元天竜人だとしても、これほどの事、そう出来るはずがねェ」

「ほう、調べたか。調べて出てくるような話じゃねェんだが……。残念だな、これはもっと根深い話だ。ロー……! とにかくお前を、殺したかった!!」

 

 

 相変わらず、人の神経を逆撫でする男だ。ローはシーザーの服を引っ掴み、「コイツを返すわけにはいかねェ! 何も約束は守られてねェんだからな!」と返して足を引いた。

 取引は白紙だ。工場がまだ破壊出来ていない以上、おいそれとシーザーという手札を渡すわけにはいかない。それならそれで、次のプランがある。

 

 

「フッフッフッフ! それが10年以上も無沙汰をしたボスに言う言葉か!? 置いてけロー! シーザーはおれのかわいい部下だ!」

 

 

 シーザー、という言葉に少なからず海軍がざわついた。ここでドフラミンゴが本当に七武海を脱退していれば、賞金首のシーザーは海軍に引き渡せばよかった。前とは違い、二度は逃がさないだろう。けれど今、七武海の部下であることを宣言したならば──恩赦だ。

 むしろ、この場で立場が怪しいのは麦わらとの同盟を結んだローの方。

 

 

「それで、海軍は今回のローの処分をどう決めた」

「報じられた麦わらの一味の件、記事通り同盟なら黒! 彼らが……ローさん、あんたの部下になったのなら……白だ。返答によっちゃ……あっしらの仕事はあんたさんと麦わらの一味の逮捕って事になりやす」

 

 

 どう答えるべきか、逡巡する。

 一つ、部下と答えて海軍を退かせる。論外。ドフラミンゴとの交戦は海軍が許さず、工場の破壊が済んでない上、シーザーも引き渡すことになる。

 ならば。

 

 

「麦わらとおれに上下関係はねェ! 記事通り同盟だ!」

 

 

 時間を稼ぐ。可能な限りここで逃げ回り、工場を破壊するまで粘ればいい。

 もし、それで間に合わなかったとしても。どうせ、問題はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故出ない! ナミ屋! 番号は合ってるはずだ!」

 

 

 開幕早々無差別に隕石を落とした大将に対し、ローはほぼ逃げ回っていた。まだローにもなんとか電伝虫をかける余裕がある。

 が、サニー号が応答しない。

 

 

「クソ、だから船に残っておけと……!」

 

 

 いない奴に文句をつけても始まらない。また落ちてきた隕石をすんでのところで躱して、ローは歯を食いしばった。

 

 

『もしもしおれだぞ! 誰だ!? おれたち今ピンチなんだ助けてくれ〜〜!』

「トニー屋か!」

 

 

 ごろごろと地面を転がりながら、ローは子電伝虫に向かって叫んだ。

 

 

「そっちの話はいい、いいか、今すぐグリーンビットに船を回せ! お前らにシーザーを預ける!」

 

 

 言い終わると同時にその場を飛び退く。スパスパと、目と鼻の先までの全てが無造作に切り捨てられた。ドフラミンゴだ。

 

 

「ムダだぞ、ロー。今誰を呼んだ!? フッフッフ、早くシーザーの心臓を返せ!」

 

 

 余裕ぶった態度が癪に触るが、今追い詰められているのは確かにローだった。息を整える隙も無い。

 

 

「お前の相棒麦わらはもうおれの仕掛けたエサに食らいついている。コロシアムの剣闘会に出場中だ! それから、メルリオール……あの女海兵もだ」

「…………」

「こんなに効率のいいエサもそうねェ! 負ければ地獄行きのコロシアム、奴らはもう出て来れやしねェよ! 同盟は終わりだ、ロー、観念しろ!!」

「……火拳絡みか……」

 

 

 呟いて、ローは重たい体を引き上げた。

 ルフィと、リオが無視できないもの。コロシアムで手に入れられるもの。

 

 

 火拳のエース。

 彼の処刑に端を発する2年前の頂上決戦。時代の節目となったその戦場で、多くの海賊が火拳救出に命を懸けた。

 義兄弟だというルフィ。そして──リオも。

 

 

 火拳がリオと初めて会ったであろう3、4年前。既にリオの訪問は途絶えていた。

 『すべてを救う』という青臭い理想を諦めた後のリオの事を、ローは殆ど知らない。

 同様に、火拳と謳われた海賊のことも、知らない。

 

 

 だが、()()()()()()()()()、まだ新世界にすら到達していなかったかの海賊の手配書を上機嫌で持ってきたリオのことを覚えている。それを見て、息を呑んだことを覚えている。

 

 

 あの青年を知ったリオが何を考えたのかは、想像に難く無いのだ。

 

 

 何故、リオが頂上戦争の前に会わないと決めていたローに会いに来たか。

 それは、火拳が生きてさえいれば治してもらえると期待したからだ。

 

 

 死ぬつもりだと思った。だからドレスローザの話を持ち出した。責任を果たせと焚き付けて、与えられたものを返すだけの機械に、死ねない理由を与えた。ローが余計なことをしなければ、あの場でリオは火拳の死をその目で見ることなく死ねていたはずだった。

 

 

 何故、リオは頂上戦争を己の墓場と決めたのか。

 

 

 この海で限られた人間しか知らない真実を、ローは知る立場だった。

 火拳相手なら仕方ないと、言わなければならない立場だった。

 

 

「何も、問題はねェさ」

 

 

 リオだって、ローに告げずにドフラミンゴと相対するプランを練っていた。ローにだって、その程度の心積もりはある。

 

 

 第一、とドフラミンゴの攻撃を弾き返しながら薄く笑った。

 あれを、この国から遠ざけて船に残そうとしたのは、ローの方だった。

 

 

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