未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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冷え切った鏡面

 

 

 

 

 ドレスローザ王宮、スートの間。

 壁面に掲げられたスクリーンには、コロシアムの様子が映し出されている。

 カツリ、カツリと音を立てながら、上機嫌なドフラミンゴが部屋の中を歩いていた。深手を負わされたが、その能力によって殆どの傷が治療済みだ。消耗はあれど、今後大規模な戦闘は予想されない。特記すべき戦力は、既にこちらの手に落ちていた。

 

 

 鎖に縛られたかつての王、リク王。──コロシアムに出場し、敗退したところを捕えた。

 

 

 同じく縛られたメルリオール。──単身挑んできた上に、最後は自滅した。

 

 

 そして、コラソンの席に海楼石の鎖で縛り付けた、ロー。──深手を負った上、最後の力をあろう事かメルリオールに向けて力尽きた。

 

 

 今日この日に反乱分子として現れた連中の、殆どの捕縛が終わっている。残るはコロシアム出場中の麦わら、おもちゃの家を襲撃し、現在幹部と交戦中の鉄人フランキー。

 

 

「それが終われば残る麦わらのコマは『海賊狩りのゾロ』、『狐火の錦えもん』、『ニコ・ロビン』、『そげキング』の4人だ。おもちゃの家と王宮の玄関、この2ヶ所以外に工場へと続く入口はない。奴らは地下にすら辿り着けない……!」

 

 

 殆どの者が沈黙する部屋。彼の言葉は返答を求めてのものではなかった。

 

 

「……海軍が動いた。よく決断をしてくれたな、藤虎」

「何もあんたの味方をしようってんじゃありやせん……。麦わらの一味に加えさらに不審な者たちの動きがあるというのなら当然の筋」

 

 

 杖を打ち鳴らしながら入ってきたのは、正義のコートを羽織った海軍大将。

 

 

「軍隊は市民の被害を最小限に抑える為に戦うべきだ。麦わらの目的がお前さんの首だとするなら、大きな破壊も厭わねェでしょう。だったらそれを止めんのがあっしの正義。あんたはその後でいい」

「何だと?」

「あたくしァ、世界徴兵の新参者ですが、大将という立場を受けたからにゃ……やりてェ事がある」

 

 

 王下七武海制度の完全撤廃。

 平然と言ってのけた藤虎に、その恩恵を最も享受しているドフラミンゴは凶悪に顔を歪めた。

 

 

「某国で起きた海賊の王国乗っ取り事件も成就すればこんな足元の黒ェ国になってたんでしょう」

「三大勢力の均衡ってやつはどうなる?」

「さァ、崩してみなきゃわからねェ」

 

 

 ドフラミンゴが蹴り上げた脚が、藤虎の刀とぶつかって嫌な音を立てた。

 

 

「だからあんまり悪ィ事重ねると、首の値が上がりやすぜ? 天夜叉の旦那」

「フフフッ、消すならいまのうちにと、言われた気がしたよ!」

「慌てなさんな。今は仲良くやりやしょう。あんたの国を守ろうってんだ。これからこの国のどんな粗が曝け出されてもあっしァ盲目……見えやせんのでご安心を。今年は世界会議(レヴェリー)。否が応でも世界は動く」

 

 

 

 

 

 

 

 バタバタと騒がしい気配に、リオは薄っすらと意識を取り戻した。全身の感覚が鈍く、指先すら動かせないが、どうやら両手を縛り上げられ、上から吊るされているようだった。

 もやがかかったように、直前の記憶が思い出せない。何故、縛られているのだろうか。確か、ドレスローザに上陸して、闘技場に向かって……それで?

 

 

「なぜ麦わらたちとグリーンビットの小人たちが繋がってる!? どうやって地下へ侵入した!?」

 

 

 苛立たしげな声。聞き覚えがある。確か──。そう、ドフラミンゴ。

 

 

 ────声?

 

 

 肉声が聞こえたことに、リオはじわじわと現状を把握した。イヤーマフがない。加えて、サングラスも恐らく。

 奪われた? 壊れた? 何にせよ、目を開けてはならない事だけは分かる。魚人島の時と同じだ。このままでいれば、数分と保たずに良くて気絶する。猶予はあまりないだろう。

 

 

「なぜシュガーを狙う……?」

「答えなさい! 若が聞いてんでしょ!? ロー!」

「…………言ったハズだ。あいつらとおれとはもう関係ねェ……同盟は終わってる」

 

 

 ロー。細い声だ。同じように捕まったのか。怪我を、しているのか。それならば。

 

 

「お前の言ってる事はおれにはほぼ理解できねェ……」

「フン……! こんな尋問ヴァイオレットがいりゃあ瞬時に真実を見抜けるんだが。それともお前の差し金って事もねェよなァ、リク王! トンタッタはかつてお前にも仕えていたんだ……」

 

 

 カチャリ、とリオを縛っていた鎖が揺れた。何が起きたのかは分からない。自分の状況も分からない。けれど、ローがそこにいるのならば、動かなければ。

 

 

「あァ……それこそ、お前か。メルリオール」

「リオ……? そこにいるのか?」

 

 

 カツン、と足音がリオの方へ向いた。位置関係もよく分からない。正面にローとドフラミンゴがいて、他にも何人か。

 

 

「10年前、お前の艦隊があまりにも早く到着したせいで、骸が少しばかり足りなくなった…………。あの時、トンタッタと接触でもしたか? そうか、ローに取り入り、ヴェルゴを押さえ込み、おれの首がそんなに欲しかったのか」

「…………ッ、ゴホッ」

 

 

 声が出ない。

 

 

「リオ! おい、そいつは無関係だ……!」

「そんなハズねェだろう! だが…………。別に、ファミリーとしての恨みでこんな事をしているんじゃあない」

 

 

 グイ、と顎を掴んで持ち上げられる。固く目を閉ざしたまま、リオは努めて何も考えないようにしていた。

 

 

「お前はこの10年。小賢しくもおれのナワバリに一度も入って来なかった。お陰で『仕入れ』が出来ずに苦労させられたんだ」

「………………」

「新世界で名を売りすぎたな、メルリオール。お前を欲しがる人間はいくらでもいる。いくらの値がついているか、教えてやろうか…………? 世界政府の賞金が何故釣り上がっているのか、考えなかったか? 臓物一つでも欲しがる人間がいるもんだ……」

 

 

 ジワリ、ジワリとドフラミンゴの持つ悪意がリオに染み込んでくる。

 

 

 自恃、期待、侮蔑、愉悦。

 

 

 これらは他者のものだ。

 浅く息を吸い、自分自身に向き合おうとする。

 心とは、波のようでいて時に形あるものだ。

 溶けて揺れる、冷えて固まる。

 

 

「お前の本名も、奴らが探り当てたものだ……。流石に知った時はおれも驚いた。世紀の大罪人の身内が! 素知らぬ顔であの時、処刑台を守っていた……!」

 

 

 今のリオの感情はどうだ。ローを傷つけられて、怒っているのか?

 

 

 ──違う。

 

 

 では自分の現状に、戸惑っているのか?

 

 

 ──違う。

 

 

 ならば────。

 

 

 ゆっくりと息を吐いて、リオはまた意識の内側へと潜り込んでいった。この2年、何度もしてきた作業だ。

 

 

 とくん、と心が脈を打つ。

 焦燥。これは、他者のもの。

 猜疑。これも、他者のもの。

 安堵、逃避、思慕、心配、嫉妬、憤怒、諦念。

 次から次へと感情が降り積もる。

 

 

 見つからない。答えが、見当たらない。リオの心が今どんな形をしているのか、どうやっても掴めない。

 

 

「聞いているのか、メルリオール……!」

 

 

 グ、と無理な姿勢にまで顎を引っ張られ、リオの意識もまた浮上した。

 何かがおかしい。イヤーマフを外してすぐで、こうも平坦になるだろうか?

 

 

 いや────。別に、そうしろと言われたから感情を探していただけで、リオがそれに従う理由は無かったはずだ。そう結論付けて、薄っすらと目を開く。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。脱出ついでに同盟相手を救出──は、もう近くにいる船長に任せて。この男が倒れるのか否かを視て、それから──。

 

 

 算段を立てながら、悪趣味なサングラス越しの瞳を覗き込む。他者の心を例外なく暴くリオの瞳は、冷え切った鏡面のようにその心を映し出した。

 

 

「……………聞いて、それで何を……言わせたいでも、あるまいに。……ドフラミンゴ…………」

「ある意味、おれとお前は長い付き合いじゃないか、メルリオール。最後に言っておく事はあるか? お前はもうすぐ、売られるんだ……!」

「…………それが……?」

 

 

 分身か。これは、本体じゃない。

 

 

「…………フフフッ、良い覚悟だ」

 

 

 手を離したドフラミンゴは、その靴先でリオの腹を抉るように踏みつけた。圧迫感はあるが、何をしたいのか。

 

 

「っおい、ドフラミンゴ!」

「…………」

 

 

 途端につまらなそうに口角を下ろしたドフラミンゴは、くるりと振り返って離れていく。

 見下ろして、派手に血が滲んでいるのを見て溜息を吐いた。だから体が動かないのか。

 

 

「…………報告を! 1階で若を見たという…………」

「おれに似た奴がいるか!?」

 

 

 騒がしい。

 

 

バチン、と視界が切り替わる。

 

 

 地下の小人たちの作戦か。恐怖、動揺、奮起、焦燥。能力者を気絶させて、能力を解除させようと──。

 

 

バチンと視界が切り替わる。

 

 

 跳ね飛ばされるドフラミンゴの首。充足、歓喜、悲壮、侮蔑。精巧な分身体への入れ替わり。

 

 

バチンと視界が──。

 

 

『リオ、聞こえるか』

「………………?」

 

 

 名指しの声に、リオは僅かに視線を揺らした。これは、肉声ではない。

 

 

『聞こえてたらこっち見れるか。廊下の方だ』

 

 

 ルフィか。部屋の構造を思い出し、斜め後ろへ視線を向ける。今のリオの視界では、そこに壁も窓もなく、震えながら武器を構えた民衆たちが映っていた。

 

 

『まだ行くなって言うから助けに行けねェんだけどよ。お前、それでいいのか?』

「?」

『……おれは別に、未来が視えたっていいと思う。おれはごめんだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()し。ただそうやって自分に言い聞かせてるだけだ。お前が本当に嫌なのは、未来を視ちまうことじゃなくて、自分を疑っちまうことだろ』

「…………疑う……?」

 

 

 言葉の意味を考える時間はなかった。早くも一つ、未来が消える。地下で、ホビホビの能力者が気絶したのだ。

 

 

『すまねェ〜〜ドフィ〜〜〜〜!!』

「トレーボル!?」

『シュガーが気絶しちまったァ〜〜!』

 

 

 途端、ひっきりなしに電伝虫が鳴き出した。おもちゃにされていた人間たちが、元の姿に戻っていく。消された記憶が戻ってくる。

 

 

 混乱の中、一人の男が剣を手に飛び込んできた。おもちゃの兵隊だった、この国の英雄。

 

 

「キュロスか!?」

「はい! 10年間お待たせして申し訳ありません!」

 

 

 そうしてもう一つ、未来が消えた。

 

 

「今助けに来ました!」

 

 

 ドフラミンゴの首が飛ぶ。これは偽物だ、意味はない。

 

 

「リオ!」

 

 

 後ろから伸びた手が、リオを拘束していた鎖を引き千切り、小脇に抱えて突き進む。

 

 

「トラ男〜〜! 助けに来たァ〜!」

「麦わら屋!」

「彼の手錠の鍵よ!」

 

 

 もう片方にルフィが抱えている女性が、小さな鍵を差し出した。部屋に集まったドフラミンゴの部下たちはキュロスが怒涛の如く斬り伏せている。

 

 

「待…………ゴホッ、ゲホッ、それは……!」

「リオ、喋るな! おい、ともかく鍵があるならとっとと外せ!」

「そうだ、トラ男お前医者だろ!? リオの事診てくれよ!」

「だから鍵を外せと言ってる! そもそも腹に穴空いた奴を小脇に抱えるな!」

「あ、悪い! ここ置いときゃいいか!?」

 

 

 そっと横たえられた所に、ローはリオを見下ろして、「相変わらず、よくその出血で生きてるもんだ」と呟いた。

 

 

「でも最後、お前がリオにトドメさしてなかったか?」

「直前の記憶を飛ばしただけだ! この様子じゃ、さして意味は無かったようだが」

「あ、動くなよ! 海楼石に触れねェから鍵外すの難しいんだ」

「しっかり!」

「この……能力者どもが…………」

 

 

 呻いて、ルフィの手にある鍵を奪い取った。女性は誰かと思えば、ヴァイオレット王女か。確か、ギロギロの実を食べていた。

 

 

「リオ、動いて大丈夫なのか?」

「大丈夫なわけねェだろ! このバカ!」

「うるさ……」

 

 

 手早く錠を解き、海楼石の鎖を投げ捨てる。

 

 

「床ッ!」

 

 

 叫ぶと同時、リオを抱えたローがゴロゴロと波打った床を転がった。ローの括り付けられていた椅子はひっくり返っている。

 

 

「うわァ!」

「ッ……!」

 

 

 岩石を操作する能力。大幹部、ピーカだ。

 

 

「フッフッフ……想像以上にしてやられたな…….」

「うわァ! ミンゴが生きてる!」

「どういう体を!?」

 

 

 そして、首だけとなったドフラミンゴが言葉を発した。

 

 

「これはマズイ事態だ。鳥カゴを使わざるを得ない……! なァ……ロー……」

「鳥カゴを!?」

 

 

 ローの腕に力がこもった。咄嗟に声が出せないと判断して、その腕を指で叩く。差すのは落ちた人形の首、それから。

 

 

「後ろだ、片足の!」

「兵隊!」

「キュロス義兄様!」

 

 

 本物のドフラミンゴが、キュロスの背後からその首を狙った。割り込んだルフィがすんでのところで救出する。けれど、分身と本体を駆使したドフラミンゴに殴り飛ばされた。

 

 

「なんだあの分身は…….」

「糸でてきた操り人形(マリオネット)の様ね! あんな技初めて見た」

「ピーカ、邪魔者共を外へ!」

 

 

 こんなのは()()だ、どうでもいい。対応せずにいれば、石でできた王宮は巨大な手となって敵対者を外へと放り投げた。能力で跳ぼうとしたローの腕にしがみつき制止する。

 

 

 下は王宮外壁塔の庭。見上げれば、空へと伸びていく幾筋もの糸。13年前と同じだ。

 それは空中の一点で離散して、悪意を以って島を覆い始めていた。

 

 

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