MER-RIO-ALL
「始まった……鳥カゴだ」
いつか視た光景。北の海の冷たい島で、一人の海兵の命を奪うに至った事件の、序章。或いは、終幕。
「この国の真実が漏れる前に、今この島にいる奴らを皆殺しにするつもりだ」
ファミリーの幹部による石の操作はなおも続いていた。王宮だけがせり上がり、リオたちのいる場所が降下していく。加えて、人を操る糸が無差別に降った。意思と無関係に他者を傷つけ、街を破壊するよう仕向ける技。10年前のドレスローザで行使されたであろうもの。
そうして、鳥カゴは完成した。全てを切り裂き、人はおろか電波すらも通さない隔離空間。ジワジワとその範囲を狭めていき、最後には全てを鏖殺する殺戮機構。
「だけど…………君なら…………出られる、でしょ」
「お前ッ!」
寝転がったまま空を見上げる。リオの処置を始めていた手が、くしゃりと握りしめられた。その拳を指先で叩いて、続く言葉を飲み込ませる。
空を、と掠れた声で言った。同時に、国中の映像電伝虫が起動する。
『ドレスローザの国民達……及び客人達……』
ドフラミンゴからの通達だ。鳥カゴに囲われた、全ての人間に向けて。
『別に初めからお前らを恐怖で支配してもよかったんだ……! 真実を知り、おれを殺してェと思う奴もさぞ多かろう! だからゲームを用意した……。このおれを殺すゲームだ。おれは王宮にいる。逃げも隠れもしない! この命を取れれば当然そこでゲームセットだ』
「何を…………?」
『だがもう一つだけゲームを終わらせる方法がある! 今からおれが名前を挙げる奴ら全員の首を君らが取った場合だ。なお首一つ一つには多額の懸賞金を支払う!』
国民が武器をとっていたのはこれか、と嘆息する。いかにもドフラミンゴが好みそうなやり口だ。
星一つにつき1億ベリー。
一ツ星がロビン、フランキー、錦えもん、ヴァイオレット王女、それからリオの知らない女の子。リク王の孫だと言う。
二ツ星がゾロ、キュロス。
三ツ星がルフィ、ロー、リク王、革命軍の参謀総長。
最後に五ツ星、ウソップ。
「あれ……忘れられてら」
「お前は大事な商品だからだろ」
「なら……。ちょうど、いいや……」
麻酔もなしに腹が縫われていく。あまり、痛みを感じない。
麻痺しているのだろう。心の方も、また元に戻ったような感覚がある。
でも、大丈夫だ。リオはもう自分の心がどういう形をしているのかを知っていて。
必要とあらばそれっぽく似たような感情を出力出来るし、自分の心がそうやって動くものだと知った以上、僅かなそれを慈しむことだって出来るだろう。
ならば、リオにはやるべきことがまだ残っている。
「リオ、これお前の刀な! ゾロが拾ってくれた。ここに置いておく! トラ男のも」
「メルリオール准将、先程はすまない。まず初めに礼を述べるべきだった!」
ルフィ、続いてキュロスが顔を覗かせた。
「なんだ、兵隊。リオの知り合いか?」
「スカーレットの恩人だ! 10年前、准将がもう少し遅れていたら、スカーレットは撃ち殺されていた!」
「レベッカの母ちゃんか!?」
「ああ…………。でも、君…………泣いてただろ。結局、何も……」
「確かに、
10年前、殺気立った民衆を落ち着かせ、ドフラミンゴと使者越しにやり取りをしながら街を見回っていたリオは、女性を撃とうとしたディアマンテの前に割り込んだ記憶がある。その後海軍の領分と七武海の権限がどうのと揉めに揉めまくって後始末が長引いた。
幾年もしないうちに、息を引き取る女性を家の外から覗き込みながら慟哭する妙なおもちゃの未来を視たと思ったが、そうか、あの時の。
「そうだ、私の事は覚えてる!? 准将。ヴァイオレットよ、昔一度王宮に来たわよね」
「ああ……」
「おい、オペ中にあまり話しかけるな!」
言いながらも、リオの方の処置は終わったらしい。今度は自分の身体に手を当てて、銃弾を取り出している。
「もう大丈夫なのか?」
「応急処置だ。派手に動けば死ぬぞ」
「そうか。じゃあ派手に動くなよ、リオ!」
言われたそばから上体を起こして、リオは刀を手に取った。血が滲むほどキツく握り締めて、実際血を吐きながら膝を立てる。
「おいルフィ、ロビンに繋がったぞ!」
「そうか!」
ゾロからの声に、ルフィはすっ飛んで行った。同じく、まずはそちらへ向かわなければ。
ドフラミンゴを討つなら、ピーカによって要塞化した王宮の攻略をしないといけない。これも多分どうにかなるはず、と未来を視ようとして目を塞がれた。
いつかのように、掌がリオの目を覆う。
そんな事をされずとも、記憶が曖昧な間に覇気を使い果たしたようで視える未来は断片的すぎるものだった。
それでも未来は未来だ。リオが視て、対処しなければならないもの。この海で最も恐ろしく、最も正確で、最も無意味なもの。
除けようとして、手が動かなかった。血の気を失い、少し冷えたその掌が血塗れだったからか。
「カームギアはどうした?」
「何それ」
「サングラスとイヤーマフだ! 落としたのか!?」
「あれそんな名前だったの……」
呟きながら、多分マントの内ポケット、と指差す。仕舞い込んだ記憶は未だ不透明だが、何が起きたかは想像がつく。どうして今のリオがこうなっているのかも。
「よし。言いてェ事は山ほどあるが、後にしてやる。お前はここに残ってろ。おれは行く」
「待って」
爪を立てる勢いで、ローの腕にしがみつく。これと自分を天秤にかけて、リオは真っ先に彼を選んだ。
何故なら、リオは知っているからだ。自分以外のすべての人間たちが、どれほど眩しく、尊く、希少で、救われるべきものなのか。
「外に、逃げてくれ……ロー……」
「またか、お前……。いい加減にしろ!」
「お願い。もう、いいでしょう? 君は充分にやった。死にに行くような真似はもうやめて。どうしてもっていうなら、私が……。私が、なんとかする」
「それが、本当のお前の計画か」
冷めた声だった。それでも、掌はリオから離れなかった。
惨めだ。
「お前はッ! 初めっからコラさんの仇打ちをする気なんかこれっぽっちもなかったって事だ!」
「ッ……!」
惨めだ。恩人の死に目をただ見送った自分が、惨めだ。
復讐という言葉の意味すら理解していなかった自分が、惨めだ。
白ひげの能力が奪われたと聞いて、
「おれが持ちかけたから乗ったフリをしただけで! ずっと、お前は……! そうだ、そうだよな。おれが勝手に同じ想いだと思い込んでいただけだ。お前はただ言われた通りに、
他者に心をかけられない、自分が惨めだ。
誰しもが、白く輝く稲妻に塗り潰されない鮮烈な情動を持っていて。
リオのそれだけが、鈍く燻んでいた。
受けたものを返すことしかできない。視えたものに対してしか行動を起こせない。反逆でも、遵守でも。だから自由に動いたって失敗するし、いつまでも夢を語れないし、仇一人憎めない。
「…………それの、何が悪い!」
怒鳴り返す。両腕でローの手を引き剥がして、リオを思い切り睨んでいる顔を同じように睨み返した。
ああ、やはり怒りだ。怒りだけが持続する。これが最もリオの身体に馴染んだ感情で。リオの持つ、唯一純粋な心だ。
それは、自分に向けられているから。
縫われたばかりの傷から、血が滲んでいく。誰かがリオの肩を引いたが、止まる気にはならなかった。
「そうだよ、白ひげのナワバリだったから魚人島を守った、エースに頼まれたからルフィのことは特別気にかけてる。海兵やってたのも未来を視ていたのもロシナンテに言われたからで、あいつの遺言だったから君に会いに行った! 言われなきゃ動けないよ、私は!!」
全部、貰い物なのだ。
他者を理由にしなければ動けない意気地無し。
好も悪も、憎も愛も、何一つ他人に向けられない人でなし!
「だからここにいるんだ! ドフラミンゴがなんだ! 仇討ちがなんだ! 優先順位をつけることにしたんだ。君、を……。君を、選べたんだよ。私は、あいつが命を賭けた男の為にここに来た!」
「そんな事誰も頼んでねェ! 勝手に解釈して、勝手に守った気になるな! 遺言がどうした、あいつがお前に『死なないように守ってやれ』なんて頼んだか!? 言ってねェだろ、ハッキリ言って迷惑だ!」
最後の言葉を聞きながら、リオは額をローのそこに思い切り打ち付けた。頭突きだ。
大した威力にはならなくても、鈍痛が両者を蝕む。石頭だ、お互い。
「君だってそうだろ! ロシナンテは君に、『おれの代わりにドフラミンゴを倒してくれ』なんて、一言でも言ったか!? あいつはお前に、ただ、生きろとしか言わなかっただろうが!」
「ッ……!」
「自分が向かえるようになるまではドフラミンゴに敵対するなって言ったのも、今日島に入るなって言ったのも! 今、ここに置いていくって言ったのも! いつもいつも、君は……! それが、同じ想いだなんて、笑わせる!」
ローの胸板に叩きつけようとした拳は、後ろから伸びた手に引き止められた。
「おいやめろお前ら!」
「離してルフィ!」
「離さねェ! 殴りたい相手を間違えるんじゃねェ!」
ゼェハァと肩で息をして、ポロリと溢れた涙に驚いた。何の涙だ、これは。そんな情動は、もう、今のリオにはないはずだ。
「あァ、ったく!」
ガシガシと後頭部を掻きむしったローが、「先に行け、麦わら」と王宮を顎で示した。
「おれは、こいつと話す事がある」
「…………おう!」
抵抗しないリオの拳を、一本一本、ルフィの手が解していく。
「これでよし。拳握ってちゃ、掴めるもんも掴めねェからな!」
「…………うん」
「ミンゴをぶっ飛ばすんでいいんだよな!?」
「………………うん」
「よし!」
止め方が分からず、ポロポロと涙を溢しながら駆けていくルフィとゾロの背中を見送る。
周囲には、ヴァイオレット王女とリク王が残っていた。そういえば、電伝虫での会話の結果も聞いていない。
「泣くなよ」
「うん」
頷くだけ頷いて、流しっぱなしの涙を袖で拭う。
使う? と、ヴァイオレット王女が差し出したハンカチは、ローが受け取った。
「悪かったよ。…………先延ばしにしていたのは、おれの方だ」
言いながら、少し乱暴に頬が拭かれていく。
「まずはお前の『それ』からだな」
「なに?」
「カームギアを外した後始末だよ。外してる間の記憶は飛ばしたが、もうだいぶ分からなくなってるだろ。こっちを向け」
「見てるよ」
「じゃあ3つ。聞くから答えろ」
ルフィが走り去っていった方向を指差して、そっちに意識が向いたリオの顔を引いて戻す。
「麦わら屋はお前にとって何だ」
「……仲間?」
「じゃあ、この国には何がある」
「ドレスローザには……後悔。が、ある」
「じゃあ最後だ、リオ」
薄く笑みを刷いた口元が、「お互い、誤魔化すのはなしにしよう」と囁いた。
「おれへ向ける感情は、何だ」
「…………」
「おれのことは、どう思う?」
目線を逸らすのは、ローが許さなかった。
リオは──。
言葉に詰まったのは一瞬だった。
心は分からなくても、記憶はあるからだ。2年もかけて。いや、本当は12年もかけて、そうだと思い知った。知っていて、口にできなかった。
その感情は、嫌いだ。
「……好き」
何故って、この世の感情の殆どは、愛やら恋やらに起因するものだからだ。リオに雪崩れ込んでくるのは必然、そういったものが一番多い。リオの中で芽生える前に、そこには他人のものが居座ってしまった。
だから嫌い。いつまで経っても、自信を持って言えないから。
眩しくて、キラキラしていて。そんなふうには、リオの心は動かないから。
きっと今リオが口にした心だって、真実では無い。リオには、どうしても抱けなかった感情が一つあった。リオは所詮、受けたものをただ返すだけの鏡で。誰をも愛しているから、誰も愛していない。
だけど、そうありたいと願う姿がある。それが、夢というものだ。
リオに贈られた数多の美しい心の中で、目の前にあるものが一番輝かしいと思った。同じように返したいと思った。綺麗なものを見つける度にこの人の元に持ち帰り、それでどれだけ美しいのかを説明しようとした。
その理由を、客観的な事実だけで説明するならば。それは、ただリオが彼のことを大好きだったというだけだ。
呟けば、くしゃりと頭をかき混ぜられる。
「それだけ分かってりゃ、今は充分だろ。一から十まで自分の感情を説明できる必要はねェよ。お前じゃないんだ、みんな、自分の心一つ分かりやしねェ」
「ほんとう?」
「ああ。後はこれをつけて何とかしろ」
「え」
イヤーマフ、サングラス、と手際よく装着されていく。
なんとか、とは。
「…………は? お前ッ!」
「イッ!? おい暴れんな!」
とりあえず殴りかかっておいた。正当性はこちらにあると思う。
「おい、言わせただけかよ!」
「おれはもう答えたはずだが」
「ハァ〜〜!? いつ!?」
「2年前」
「は? ……あ、あれはお前キレただけだったろ!」
「お前がおれの立場でもキレてたはずだが」
「そりゃ……! まァ」
2年遡って。頂上戦争の直後、ローの船で。目覚めたばかりの時の会話。
『ローは私のこと好きだろ?』なんて、聞いた。別に恋愛的な意味合いを乗せたつもりはないが、前提を断ってもない。まァ言ったもん勝ちか。
「疑問形にした事に怒ってただけじゃん……」
「どっちでもさして変わらねェだろ。昔から、お前はおれの答えを知ってた筈だ」
「いいけどさァ……。散々口に出せって話をしてたんじゃん……」
気が抜けたら、痛みが本格的に襲ってきた。
「ア〜〜〜イッテェ〜〜! 麻酔もなしにオペするなよ、悪魔か!」
「戻ってきたな」
「指標にするな〜〜」
「お前に死なれるのは困る」
軽く言って、ローは「おれがそうなら、お前もそうだよな」と続けた。
ひっくり返ったリオはそのまま、暗闇の中で空を見上げる。トン、トンと一定のリズムでローの指先がリオの肩を叩いていく。だから、リオも大人しく暗闇を受け入れていた。
「…………随分と物分かりが良くなったねェ」
「殴るぞ」
「やれるもんならやってみなよ」
「だから、初めに謝っただろうが!」
一々突っかかるのをやめろ、と吠えて、ローは「お前には分からないと思ったんだよ」と言い訳のように言った。
「感情の起伏の激しかったお前からも、表に出てこねェもんがいくつかあった…………。腹が立ったよ。こっちからは丸わかりなのに、当の本人が微塵もそれに気付かねェ」
「……だから、気づいて欲しかった?」
ローは答えなかった。
だから代わりに、リオは薄く口角を持ち上げる。
世界には数えきれないほどの愛の形とやらがあって、リオの中にあるものは、そのどれとも同質でない。
だから、リオがこれを愛情だ、と示すには他人の感情の一切を遮断しないといけない。その為には、未来を視てはいけない。
だから、塞がせた。
だから、視てしまうのが怖かった。
彼の命を優先するなら、旧友の仇討ちを優先するなら、未来視はあった方がいいと知りながら。
いつまでも決定的な言葉を口にできないまま。ズルズルと続けてしまった。
「でも、君は海賊になっただろ?」
「先に軍艦に乗り込んだのはお前だろ」
「……そりゃ、確かにそうだ」
「その癖尻尾巻いて逃げ出しやがって」
「は?」
「いつまでたっても来ねェと思ったら、勝手に全部諦めて海賊船なんぞに乗り込みやがった」
言葉の割には柔らかな口調だった。
「だって……。海兵として、君に、会いたくなかった……。
億を超えたローの手配書を見て、どう思ったんだっけ。もう、見守ってる、なんて言い訳は使えなくて。いつか決めたように、立派な海兵となって待ち受けてやろうと思って。
一層仕事にのめり込んで、悲劇を見続けて、武装した心を解く場所もなくて。当たり前だけれど、リオから会いに行かなければ顔を見る機会なんてなくて。だんだんと心が鈍っていくことにも気が付かず、4年前、コロッと折れて振り切れてしまった。
一人になったリオなんて、そんなものだったのだ。海軍が腫れ物のように扱っていた理由が今はよく分かる。リオ一人じゃ、メルリオールは出来なかった。
「……ふふ。別に今も、ただの海賊と海賊だ」
「おれは嫌いじゃなかったぞ。お前の正義」
「そっか」
立ちあがろうとする背に添えられた手を借り、台地から街を見渡した。
「これ、もう大丈夫だと思う」
言って、イヤーマフだけは外しておく。ローは止めなかった。
動乱のドレスローザ。突き刺さる感情は、この国全体が上げる悲鳴だ。途端にリオの中を吹き飛ばして行く。けれど、容れ物自体が壊れてしまうわけじゃない。溶けて揺れる、冷えて固まる。心とは波のように揺れ動くもの。核となるものさえ残っていれば、どれもリオの心だ。
「あのクソフラミンゴ野郎、倒しに行こうか」
「……キッチリ恨みはあるじゃねェか!」
「嫌いな海賊筆頭だよ!」
殺したいとまでは、思えないが。
顔を見上げて笑う。リオの視界は相変わらず暗闇だけれど。彼の瞳にはちゃんとリオが映っているのなら、今はそれでいいか。
「倒すだけでいいのか?」
「ん? 君が死にそうになったら私かルフィを呼ぶなら、それでいいよ」
「おれはそれだけじゃ困るな、
片手が取られて、何かを握らされる。見えなくても、なんであるかはすぐに分かった。
ずっと握り締めて来たものだ。オペのために外されていた、リオの白いマント。彼から贈られたもの。
片時も離さなかった、強固な意志の象徴。
かつて『すべてを救う』と吠えた人間の、残り滓。
どうやったって『すべて』には届かない。自分一人救えないのに、誰かを救うことなんて出来やしない。リオが掲げた『メルリオール』の名は、実現不可能な絵空事だった。
だから、捨てて。せめて目の前にあるものだけでもと。これは違うと痛感しながら、一人を選ぶために捨ててきた。そうじゃないと選べない。
けれど今、その捨ててきたものが、選んだはずのものから差し出されていた。
「落とさないように、ちゃんと羽織っておけ。勝手に捨てるな。
手放すことは許されない。これはリオが旧友から受け取って、その後12年かけて積み上げてきたものだ。リオがまだこの意志を抱いて生きている限り、どんな回り道も失敗なんかじゃない。何も無意味じゃないし、何も失われやしない。きっとこの正義を焼いたあの日、メルリオールはそう言ってもらう為に北に行かなきゃならなかった。
「おれを救え、メルリオール」
その言葉で、何度でも立ち上がれたはずだから。
「こうなったらおれも、
「…………言ってくれる!」
パン、と拳を掌に放って、少し離れたところにいる王族たちを振り返った。
「リク王! 手始めに、貴方の力が必要だ」
国民たちに声を、と続けてマントをバサリと羽織った。
血に汚れ、穴が空いた、白マント。
Mの字が。
これを羽織っている限り、リオが足を止めることはない。
とはいえ、ローもリオも手酷くやられてボロボロだ。歩くだけでやっとで、後は気力が持つかどうかの勝負になる。
「放送をかけよう。貴方が励ますんだ。決して諦めないようにと。私たちがこの国に巣食う闇を晴らすまで、後ほんの少しの辛抱だと」
「准将……」
「……それはもうやめたんだ。私はもう、海兵じゃない」
「けれど。この国はメルリオール准将のことを忘れていないわ」
「ありがとう」
頷いて、トン、と胸を叩く。
例え今日この時のことが、ずっと昔から定められていたことだとしても。
例え今日この日、数え切れないほどの尊い命が失われるとしても。
歩き続ける理由を貰っていた。
「頼りないかもしれないけれど、この国に住まう一般市民たちは任せてほしい」
どんな宝石よりも美しいものたちがある。生きていく限り人が発するそれに、報い続けるのが己に定めた生き方だった。
未だ、何も見えやしないけど。
大きく息を吐いて、晴れやかな気持ちで。
「私は海賊メルリオール! 視える限り、すべてを救うのが私の正義だ!」
最初から手配書にはそう書いてある。
超絶ざっくり言うと、頂上戦争までの第一部はメルリオールを捨てるに至るまでの話で、第二部はそれを取り戻す話です。