未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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評価バーにちょびっと色がついてました。ありがとうございます!

小心者なので冷や汗をかいてます。すみません、そんなに奥が深い話でも緻密な話でもなくて……しかもまだたらたら導入やってるだけで……。

10話くらいから本題に入りますので、もうしばらくお付き合いください。





正義と神と見習い

 

 

 

 

 ビビとの別れを超え、一行は次なる島を目指して航海を続けていた。思わぬ拾い物、ニコ・ロビンを加えて、である。

 勝手に乗り込んでくるのはリオで慣れただろうが、一応はクロコダイルに従っていた敵組織の人間である。ルフィがあっさり許可を出したので表面上みんな受け入れているが、ゾロは警戒を解いていないようだった。

 

 

 とはいえ状況は待ったを許さない。空から降ってきたガレオン船に、天を示す記録指針(ログポース)の異常。サルベージ船との遭遇から謎の大怪物の出現。行き先をジャヤという街に切り替えた一行は、空島への手がかりを求めて動き出した。

 

 

「チョッパー、手当て用の道具を準備した方が良いよ」

「え、誰か怪我してるのか?」

「そう、もうすぐ帰ってくる」

 

 

 サルベージ品を並べたせいで汚れた甲板を掃除していたリオは、チョッパーに声をかけながら雑巾を絞った。

 

 

「大変だ、すぐ迎えにいかないと!」

「大丈夫、ほらもう来るよ」

 

 

 指差せば、血塗れのルフィとゾロがぷりぷり怒っているナミを引き連れて戻ってきている。ひと騒動あったらしい。

 

 

 帰ってきた彼らの情報を頼りに、モンブラン・クリケットという空島を信じているという人物を探し、その家があるというジャヤ島の裏手まで移動する。途中妙な船に出会いはしたがともかく、ハリボテの城のような家の前で、『うそつきノーランド』という絵本を見つけた。

 

 

「こりゃ懐かしい。ガキの頃に何度も読んだぜ」

 

 

 サンジには既知の物語らしい。絵本自体は北の海で有名なのだと言う。リオも北には詳しいつもりだったが、こういう子供向けの童話はよく知らなかった。

 

 

 話の概要はこうだ。

 かつて、モンブラン・ノーランドという男が、偉大なる航路(グランドライン)のとある島で山のような黄金を見たと言った。これはと思ったその国の王はノーランドの話を確かめに出航したが、そこにあったのはジャングルのみ。

 うそつきのノーランドは処刑されたが、最後まで黄金は海に沈んだのだとうそをついたのだった。

 

 

 おそらく、子供にうそをついてはいけませんと教えるための絵本だろう。

 

 

バチンと視界が切り替わる。

 

 

 メリー号は突き上げる海流に乗って空高く飛び上がっていた。

 そんなバカな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バカな、とは思ったが、リオの占いは絶対だ。サウスバードを捕獲し、ついでになんやかんやと舞い込んだトラブルに対処して翌朝、メリー号は南に向けて出航した。

 上昇海流と積帝雲の重なる時間、うまくいけば空島に到達できる。

 

 

「お」

「リオ?」

 

 

 積帝雲だ。まだ目視できる範囲内にないが、ナミの手にある記録指針(ログポース)はあの雲を指している。

 

 

「そろそろだね、気合いを入れよう」

「お、出たな占い」

「占いじゃないよ〜」

 

 

 次第に渦潮が発生し、どんどんと巨大な大渦になっていく。

 

 

「流れに乗れ! 逆らわずに中心まで行きゃなるようになる!」

 

 

 ここまで同行したサル──人間──サル寄りの人間たちが船から大きく手を振った。

 この大渦の!? と真っ青になるナミの背を叩く。

 

 

「大丈夫、海流に乗るまでは視えてるから、落ち着いて指示を出して!」

「リオ! でもその後は!?」

「う、うーん。まあ何とかなるでしょ!」

「イヤァ〜〜!」

 

 

 船首に立ったルフィだけが一人、空島での冒険を夢見て雄叫びをあげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 リオの視た通り、メリー号は垂直の海流を乗りこなし、雲を突き抜けて空島へと到達した。海はふかふかな雲で出来ていて、何故か船が浮かぶことができる。似たようなものは政府の研究所にあったような、なかったような。

 

 

 謎の仮面男に襲撃を受けるというアクシデントがあったが、これまた空の騎士と名乗る謎の男に助けられ、リオは「占いはどうした」と責め寄るウソップやナミにヒューヒューと口笛を鳴らしていた。

 

 

 占いは誰かの感情が大きく動かないと反応しないし、見聞色の方は制限中なのである。どうも、見聞色の使い手がこのあたり一帯に探知網を引いている。リオ並みの使い手ならこちらの見聞色に反応を寄越す可能性があるし、そうでなくても見られている感覚がある以上、手札は晒したくない。

 

 

 それを説明も出来ないしなァ、と手すりにもたれかかった。

 

 

 気にかかることもある。

 上昇前、見覚えのある男がイカダに乗って追いかけてきていた。リオは素早く身を隠したのでバレていないだろうが、エースが偉大なる航路(グランドライン)を逆走したのはあれが理由だ。リオも白ひげとの交戦時に何度もその姿を目撃している。

 

 

 黒ひげ、マーシャル・D・ティーチ。懸賞金は……いくらだったか。状況を見るに仲間殺しをしでかしたようである。リオがこの船にいることを知られると絶対にロクな事にならない。

 

 

「ところで、見習いさん」

「ん?」

 

 

 直視しないといけない現実がすぐそこまで迫ってきている。やだなー、と回顧していると、ロビンからお呼びがかかった。ルフィたちは大喜びで雲の世界を堪能しているので、その隙に、ということだろうか。

 

 

「どうしたの? ロビン」

「あなた、元海兵なんでしょう?」

「直球だね。別に隠してないけど」

 

 

 クロコダイルとの邂逅で彼女もいたしな、と頷いた。

 

 

「聞いてもいいかしら。あなたは海軍本部の元将校なのに、海賊になっても手配書が回っていない。私はこれでも、将官クラスの実力がどれほど飛び抜けているか知っているつもりよ」

「あら、疑われてる? 私」

 

 

 忠犬なのに。ワンワンと犬真似をするだけで誤魔化されてくれるタチではなさそうだ。弁明を求められている。

 

 

「うーん、ロビンはさあ、海賊の頂点はどこだと思う?」

「海賊の……? 海賊王かしら」

「そうだねえ。でも、もう20年以上海賊王は現れていない。居るのはただ、その手前で足踏みしてる四皇だけだ」

「何が言いたいのかしら」

 

 

 言葉を選んで、リオはそっと目を瞑った。

 

 

「私は昔、『()()()()()()()()』を自分の正義として掲げてた。それができるだけの力があると思ってたし、そのために力を尽くしてた」

「素敵ね」

「でも、夢物語だ。そうでしょ?」

 

 

 この世の地獄にほど近いものを見てきただろうロビンは、掴み所のない笑顔を浮かべてそっと首を傾けた。

 

 

「海軍の頂点は元帥じゃない。大将でも、ましてや一介の将校でもないんだ」

「だから海軍を辞めたの?」

 

 

 リオはロビンの真似をするように口角を上げ、同じ方向に首を傾けた。

 ワンワン、と両手で犬真似をする。こんなこと、昔のリオは一切やっていなかった。だってエースも言っていただろう。『お前本当にメルリオールか?』、と。

 

 

「ロビンを海軍に売って、私の欲しかったものは手に入ると思う?」

「どうかしら。少なくとも、手柄を持って海軍に戻ることはできるんじゃない?」

「悲観的だね。今の私はただの忠犬だよ。海軍に戻ろうとも思ってない。こればっかりはいくら言ってもロビンが信じるかどうかだね。で、懸賞金が出ない理由だっけ。まァ多分向こうも私の扱いを決め兼ねてるんだろうね」

 

 

 奴があっさり引き下がったのもそういう理由だ。海軍本部の誰もが、まさかこんな事態になるとは露ほども思っていなかった、とも言える。

 

 

「そのうち答えが出ると思うよ」

「他人事なのね」

「どっちでも、私のやる事は変わらないし」

「そう」

 

 

 納得したのか、ロビンは「疑ってごめんなさいね」と話を切り上げた。

 

 

バチンと視界が切り替わる。

リオにしか聞こえない、世界を裂く雷鳴と共に。

 

 

 一面の海。振り返って、リオは息を呑む。

 

 

 射抜かれた世界政府の旗は、今のリオを暗示しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数年前。リオがまだ純粋に正義を掲げていた頃。

 

 

「砲撃用意、急げッ!」

「は、し、しかしこの大波では狙いが定まらず……。それに相手は四皇です! 応戦許可は降りていませんが……」

「お前、新人か?」

 

 

 腰に刺した軍刀を、ワタワタとする部下の首に向ける。ギクリと固まった海兵は、大波で揺れる軍艦のせいで切っ先が喉に触れ、大量の脂汗を浮かべた。

 

 

「ハ、ハイィ! 2日前の配置転換でメルリオール准将麾下に配属されました!」

「そうか。では最初の命令だ。速やかに、砲撃を開始しろ」

 

 

 敬礼もそこそこに慌てて駆け出した部下を冷たい目で見ながら、メルリオールはこの大波を作り出した相手に舌打ちを漏らした

 

 

 大海賊、白ひげ。

 

 

 この男との邂逅も、もう両手の指では数え切れないほどになった。奴に沈められた軍艦の数は邂逅の数とほぼ同数だ。

 

 

「臆するな、撃てェ!」

 

 

 白ひげの船に当たらずに海に落ちていく砲弾を見ながら、メルリオールはギリリと軍刀を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず、野犬みてェな目をした餓鬼だ」

「おい、私のコートは何処だ。まさか捨てちゃいないだろうな」

「逆に聞くが、どうして海賊が海兵の荷物を回収しなきゃならない?」

 

 

 苛立ち混じりに舌を打つと、傍に控えた隊長たちから猛烈な殺気が飛んだ。一番隊隊長あたりはいつもの事、と受け流しているが、彼らはメルリオールが白ひげを軽んじるような言動をすると、ご丁寧に釘を刺すように威圧してくる。

 

 

 ここは白ひげ海賊団の本船、モビー・ディック号の甲板。思い切り敵地である。

 グラグラの実の力で軍艦を沈められ、それでも海を泳いで向かってくるメルリオールの何処をどう気に入ったのか、白ひげは死にかけの海兵を気まぐれに拾い上げるのだ。

 

 

「グララララ、相変わらずお前の保護者は過保護だな」

 

 

 もう向かって来やがった、と水平線の彼方に笑う。悔しいが、素の見聞色の探知範囲で言うと、白ひげのそれは当時のメルリオールを凌駕していた。

 

 

「帰る。拾った荷物があるなら返せ」

「返してください、だろうがよい」

 

 

 呆れ混じりのマルコからコートを投げ渡され、その背中にある『正義』の二文字を握りしめる。これがないと落ち着かない。メルリオールを支える支柱の一つが、正義という言葉だった。

 

 

 立ち上がり、その場で海軍のコートを纏ったメルリオールに呆れたような視線が突き刺さる。これもいつものことだ。

 

 

「元気でやれよ、メル」

「馴れ馴れしくするな。いいか、目的は達したから今日の所は帰るが、次は必ず落とす」

「当てる気のねェ弾撃っといてよく言う」

 

 

 呆けた事を宣う老人に背を向けて、メルリオールは船の手すりに足をかける。

 

 

「そうだメル、この間の『占い』は助かったぜ。危うく下っ端が吹き飛ばされる所だった」

()()()()()()って言ってんだろ!」

 

 

 今度の舌打ちに、殺気は飛んでこなかった。

 

 

「2回目がある、何処を航海するのか知らねェが、せいぜいロープの強度でも確認しとくんだなァ!」

「お、そうか。助かるよい」

「いいか、今回は民間人に手ェ出さないようだが、次略奪でも侵略でもやらかしてみろ、地の果てまで追い詰めて皆殺しにしてやるからな!」

「おーおー、気ィつけて帰れよ」

「またなァ」

 

 

 船員総出で手を振る海賊たちを尻目に、リオは見えてきた軍艦に向けて跳び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 キレ散らかしたナイフのようなやつだったと、今思い返せばそう思う。

 

 

 未来が視えれば相手が四皇だろうがその辺の雑魚だろうが出撃し、命令違反を繰り返した。相手に近付けば近付くほど精度のあがる未来視の力は、結果として無茶な出撃の頻度が増えるだけだ。

 狂犬という異名がついたのも納得だろう。撃沈しようが狙撃されようが、船員の顔を一目見ようと必死の形相で追いかけてくる海兵を不気味がる海賊は多かった。

 

 

 舐められないように男勝りな喋り方をして、小さい身体に似合わない正義のコートをはためかせ、メルリオールは死地を駆けていた。全ては、自分が視た悲劇を止める為。

 

 

 その為だけにメルリオールは准将という不相応な地位を与えられたのだと知っていた。

 

 

 死線を潜ると覇気に目覚める、というのは老兵たちの酒の肴だが、メルリオールも例に漏れない。元々素質のあった見聞色はグングンと上達していき、武装色も加減した白ひげの一撃で昏倒しない程度には鍛えられた。

 

 

 強くなったと思った。未来が視えるのだから、何でも救ってみせると意気込んだ。

 

 

 

 今、リオの背中に『正義』の二文字はない。

 結局、それが答えだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄金の鐘が鳴る。

 青海を目指し出航するメリー号の船室で、リオはくわりと欠伸を噛み殺していた。

 

 

 無駄に自然系の能力者へ戦いを挑み、見事黒焦げにされた体は療養中だ。一直線にエネルの元へ走り出し、ものの見事に返り討ちをくらったリオの事を、ルフィたちは「馬鹿だなァ」と笑って見てくれた。

 とはいえ、見た目ほど怪我は酷くない。さっさとリタイアする未来が視えたのでそうしただけで、主要な臓器はちゃんと覇気で防御している。

 

 

「大丈夫か、リオ。そろそろ青海への門が見えるってさ」

「チョッパー。元々何ともないんだって」

「ダメだぞ。確かに奇跡的にダメージは少ないみたいだけど、エネルの電撃をくらったんだ。リオはルフィみたいにゴムの体じゃないから、どんな影響が出るか分からねェんだぞ」

「他のみんなも条件は同じだよ」

「あいつらだってホントは安静にしてなきゃなんだぞ!」

 

 

 他の面々ほど包帯を解いて動き回りたい欲もないリオは、チョッパーの要請に従って日中は大人しくベッドの中にいる事にした。こうしているとチョッパーが定期的に様子を見にきてくれて話し相手になってくれるし。

 

 

「でも、リオの体って結構頑丈だよな」

 

 

 トテトテと歩いてきたチョッパーは、ベッドの横に丸椅子を置いてよじ登った。どうやらリオの暇つぶしに付き合ってくれるらしい。

 

 

「おれ、リオが怪我してるところ初めて見たぞ」

「そうだっけ?」

「ドラムの時も、アラバスタの時もそうだ」

「まァ、あんまり役立ってないしな」

「そんな事ないと思うけど」

 

 

 少しの沈黙の後、「リオはさ」と遠慮がちに言った。

 

 

「海兵だったんだよな?」

「そうだよ」

「海賊を捕まえたりしてたのか?」

「うーん。私はどっちかというと偵察部隊に近かったかな。そりゃ、実働部隊を兼ねることもあったけど」

「偵察? 潜入捜査とかするのか!?」

 

 

 目を輝かせたチョッパーに首を振る。

 

 

「海賊と小競り合いを起こして、そいつらが何をしでかそうとしてるのか占うのが私の仕事だった」

「リオの占いかァ〜おれのことも占えるのか?」

「おうとも。君がこの船に乗るのも視えてたんだぞ」

「そうなのか!」

「後はそうだなァ、この後青海に戻る時の方法も分かってる」

「方法? 坂道を下るんじゃねェのか?」

「それは見てのお楽しみだけど、びっくりすること請け合いだよ」

 

 

 腕に巻かれた包帯を弄びながら、リオは嫌な島だったなァと空島を回顧していた。

 

 

 海賊達にとってワクワクする冒険であることは認めよう。ただ、リオはまた特殊で、そういったワクワクを感じ取ることは出来ない。

 加えて青海と距離が離れすぎているせいか、リオの占いに入ってくる情報が極端に少なくなっていた。単純に落ち着かないし、やることがなくなってしまう。新聞も届かないし。

 

 

 それから、神を名乗る者の存在。

 神とは人が容易く名乗る肩書きじゃあない。リオは神と名乗る人間の事が嫌いだった。神とは思想だ。決して人間じゃない。

 

 

「でも、未来が視えるのにどうしてエネルに向かっていったんだ?」

 

 

 言い方悪いけど、負けるって分かったんじゃないのか、と問う。リオはチョッパーの帽子に手を置いて、うりうりと撫で回した。やめろよコノヤローなんて喜んでいる様子では、リオの表情は見えていないだろう。

 

 

「エネルが大きく動き始めた時、その辺で倒れてる私の姿が視えてたんだ。だからどうにかして私は負けちゃうんだなァと思ってね。でも、ルフィがエネルを倒すのも、この鐘が鳴るのも視えてたよ」

 

 

 だから大丈夫。そう続けたリオの真意は伝わっていないだろうけど、チョッパーはリオの真似をする様に、ニッコリと笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 ぷかりぷかりと巨大なタコ風船で青海へ帰還し、ロングリングロングランドへの上陸と、トンジットという老人との出会い。あれよあれよという間に仲間の所有権を奪い合うデービーバックファイトに臨む羽目になってしまった。

 まァそれはいい。手配書を見たことがあるような無いようなレベルの海賊だし、負けることはないだろう。

 

 

 無いよな?

 

 

 それはそれとして、リオは近くで惰眠を貪っている気配を気にしていた。

 近いうち会うのは知っていた。占いでも視て、この島だろうとは思っていた。

 

 

 ただ、うっかりリオが見聞色で引っ掛けてしまったので、逆にそれを辿って本気の殺気をピンポイントでお見舞いされていた。いくら相手が知り合いで、この場を無事に切り抜けるだろうと知っていても、海軍大将の本気の殺気は堪える。恐怖を覚えることはないが、文字通り体がビリビリと震えるのだ。

 幸い、顔を顰めたリオのことはデービーバックファイトを案じての事だろうと思われ、特に指摘はされなかった。

 

 

 と、他所に気を取られていたのが悪かったのだろうか。

 

 

「え?」

「え? じゃなァい! 指名はお前だ、白マントの女ァ!」

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きたのだろうか。リオの占いには何も引っ掛からなかった。それって、一味の誰もがリオを取られたことに感情が動かなかったということになるが……。

 

 

 こうなると次勝っても指名にリオを選んでくれない可能性がある。どうしよう。今からこの海賊団を全員叩きのめしたら良いだろうか。でもその場合、ルールに違反したことになるリオをルフィが受け入れてくれるかどうか。

 

 

「か、海軍に戻ろうカナァ〜〜」

「おいリオ、滅多なこと言うんじゃねェ!」

「そうだリオさん、すぐに取り返してあげるから待っててくれ!」

「ゾロ〜! サンジ〜! ちゃんと取り返して〜!」

 

 

 船長はどうだと見てみれば、快活に笑いながら「あいつが動揺してるとこ初めて見たぞ!」なんて楽しそうだ。

 これ、もしかしてリオの望みはすごくハードルが高いことだったのではないだろうか。

 

 

 試合は聞いたこともない球技──球技(?)に決まった。麦わらの一味から出場するのはゾロ、サンジ、チョッパーだ。

 

 

「この試合も外野からの妨害はありなんだよね?」

「ん? もちろんだ」

 

 

 船長の……誰だっけ? に確認を取っておく。ついでにリオを取った理由を聞けば、「あんたの事は見たことあるぜ」と返ってきた。

 

 

「海軍本部の将校だ! なんで海賊をやってるのかは知らねェが、海軍への手札を持っておくのも悪くねェ」

 

 

 こんな木っ端海賊団がリオの顔を見たことあるか……? とは思うが、知られているのは事実だ。確かに、これからマリンフォードに近付いていく以上、リオの顔が知られている可能性もグッと高まってくる。手配も時間の問題だろう。

 

 

 試合の方は、今まさに火蓋が切られたところ。

 

 

「時間は無制限! 一点勝負!」

 

 

 ボールマンに設定したメンバーを物理的にゴールに叩き込めれば勝ち、というルールだ。ゾロとサンジが息をするようにいがみあっているのが気にかかるが、チョッパーならなんとかしてくれるだろう。

 

 

 ホイッスルが鳴るに合わせてリオは地面から3つ、小石を拾い上げた。

 

 

「武装色、硬化ァ……」

 

 

 バキバキと小石とリオの右手が黒く染まっていく。ここまで覇気を使うのは久しぶりだ。ニコニコ笑顔のルフィに、リオはグッと更に力を込めた。

 大きく振りかぶって。

 

 

「ん? 待てメルリオール、何をしようとしている!?」

 

 

「吹き飛べオラッ!!」

 

 

 バゴン、と間抜けな音と共に、コートに土煙が舞う。

 

 

「あ?」

「お?」

「ヒィ」

 

 

 リオの投げた小石は、音速に迫る勢いで敵チームに激突し、巨体ごと吹き飛ばした。

 

 

「チョッパー、拾ってゴールに持っていって」

 

 

 出来るよね? と微笑んだリオに、チョッパーはガクガクと頷いている。

 

 

「で?」

 

 

 審判を促せば、流石のプロ根性、震えながらも麦わら一味の勝利宣言をした。続けて獲得するメンバーの指名だ。リオはズンズンと司会者に近寄って、マイクを引っ掴んだ。

 

 

「私!! 獲得する船員はわ・た・し!」

「で、でも待ってリオ。ここで相手の船長を指名すれば、ゲーム自体を無効に……」

「わたしィー!!」

 

 

 キィン、と劈いたハウリング音に笑いながらルフィは、「おう、いいぞ戻ってきて」と相変わらず腹を抱えていた。

 

 

「おかえりなさい」

「ま、まあリオのことは心配してなかったけどよ」

 

 

 言いながら、ウソップの目線は未だ伸びている敵チームに向いていた。

 チョッパーは未だプルプル震えてウソップの後ろに隠れている。

 

 

「リオ、余計な事してくれたな。助けがなくても勝ってた」

「おいクソマリモ! まずはありがとうございますだろうが! 土下座して咽び泣け! ああリオさん、君の手を煩わせてしまったおれをどうか許しておくれ」

「弱いやつ出してきた向こうが悪いよね。さーて、次の戦い、私が出ようかなァ」

 

 

 腕を捲ってアピールすると、ルフィは不満そうに唸った。

 

 

「おれも出たい!」

「最後の戦いで取られちゃうと戻ってこられないんだよ!?」

「なんだよリオ、おれが負けると思ってんのか」

「そうじゃないけど、万が一なの、万が一! だいたい、私の占いにこの結果が映らないってどう言う事よ! 私が取られて悲しくないの!? もっと泣き叫んで『行かないでくれリオ〜』って縋ってよ!」

「あんたも結構歪んでるわよね……」

 

 

 苦笑いのナミに構わず、リオはルフィに掴みかかった。

 

 

「なに、見習いだから!? それなら今すぐ私を誘って! ほら、今!」

「お前言ってることが変わってるぞ」

 

 

 おもしれェなァ、と呟いてルフィはリオの頭に麦わら帽子を被せた。

 

 

「な、これ……!」

「ちょっと預かっとけ。お前なら何したっておれの船に戻ってくると思ってたけどよ、そんなに不安ならちょっくらあいつボコして終わらせてくるな」

 

 

 リオはちょっと冷静になった。

 24になるいい大人が癇癪を起こして年下の男の子に突っかかっていたのだ。あやされてちゃ世話ない。

 

 

「こ、コホン。まあいいけどね! 勝ってくれるんでしょうし!」

 

 

 

 

 

 





元脳筋海兵です
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