未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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生きていくことに意味はあるか

 

 

 

 

 そうして。消えていく。

 ドレスローザの鳥カゴが。10年間、この国を閉じ込めてきたドフラミンゴによる支配が、消えていく。

 

 

「わ!」

 

 

 突然押すもののいなくなった人々が一斉にコケ、転がった。

 

 

「おっと、大丈夫ですかい?」

「藤虎……。ありがとう。まったく、せっかく感動の光景だってのに、見れないのはもったいないねェ」

「もったいない……そうですか」

 

 

 座り込んで、リオは大きく息を吐いた。大きな怪我を負った国民の気配は感じられない。この騒動で亡くなった人も。

 

 

「私が間に合ってりゃこんなもんよ!」

 

 

 とは言ったけれど、早急に中心部へ向かわなければ。敵を倒して終わりなんて、そんな単純には出来てない。鳥カゴによって削られた大地はどの程度だろうか。被害状況の把握、首謀者の捕縛に護送の手配。復興支援に──。

 

 

「その辺りまでやられちゃ、こっちの立つ瀬がありやせん」

「……そうだね。それに、もうそんな事できなかったわ」

 

 

 ふふ、と笑ってそのままひっくり返った。

 まだ、実感がない。

 

 

 本当に、本当に終わったんだろうか?

 リオの望みは果たされたんだろうか。

 

 

 どうなんだ、ルフィ。君を信じて良かったのか?

 

 

 上体を起こし、その辺の建物の残骸に凭れたところで力尽きた。覇気の使いすぎ、血の流しすぎ。そのくらいで足を止めるリオではないけれど。

 

 

 ザッと瓦礫を踏みしめて、リオの目の前に男が立った。

 

 

「ハァ、ハァ……。これで、満足か?」

 

 

 向こうから来てくれるなら、待っているくらいはできる。

 

 

「ロー」

 

 

 どかりと隣に倒れこんだ身体は、重く血の匂いがした。

 

 

「お前、容赦なくバカスカぶん殴りやがって……。お陰で全然倒した気がしねェ」

「ちょうど良かったでしょ。私にボコボコにされたドフラミンゴでその疲労なんだから」

「経験積ませて成長を見守るってのはどうしたんだよ」

「文句言うなら私に心配されないくらい強くなってよ。言ったでしょ、君が四皇クラスになったらって」

「言ってくれるな。無茶振りが過ぎるのはどう考えてもお前の方だ」

 

 

 大きく息を吐いてから、「なってやるよ、仕方ねェから」と呟かれる。

 初めて。彼と、未来の話をした気がした。

 

 

「それで?」

 

 

 促す言葉に、頬を緩める。まだ、最初の問いに答えていなかった。

 満足か?

 この結末は、リオが描いた最善か。命を賭けるに値したものか。

 答えは言うまでもない。だって今、リオは夢を叶えたのだから。

 

 

「完璧だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう国を出るの?」

 

 

 その夜、キュロスの家に匿われた一味たちは、サボの訪問を受け入れていた。とはいえルフィ、ウソップ、ロー、家主のキュロス、それからジャヤで会ったというハイエナのベラミーは戦闘直後から眠りこけている。怪我の度合いはそこまで酷くないから、覇気の消耗と疲労だろう。また航海中に修行をつけてあげなきゃいけないか。

 起きているのはフランキー、ロビン、ゾロ、そしてリオだ。

 

 

「CP0がここへ引き返して来てる。狙いはおれ達だ。一日二日でドレスローザは混雑するぞ。お前達も可能な限り早く出航しろ」

「にしても、エースの他に3人目の兄弟がいたとは……」

 

 

 あとお前、とゾロの視線がリオに向いた。

 

 

「どういう事?」

「この説明するの何回目かな……」

「ポートガスってのはエースの名字だろ?」

「そう」

「前に教えてくれたことって、その話よね」

「そう。とはいえルフィやサボとの関係はないよ。君のことも、聞いたことはなかった」

「おれはずっと……死んだことになっていたからな」

 

 

 サボは幼い頃の事故で、記憶を失っていたという。そして、エース死亡の記事をみて、記憶を取り戻した。なんとも最悪なタイミングだ。

 たらればの話をするのは好きじゃないけれど、もしリオがいた島にルフィが来なければ、同じように新聞でエースや白ひげの死を知る羽目になっていただろう。そうなっていたら、リオはどうしていただろうか。単身ドレスローザに乗り込んで、ドフラミンゴの首を獲って死ぬくらいはやってもおかしくない。

 

 

「リオ……メルリオールの事は革命軍やってりゃ噂話は聞いたよ。確か鉢合わせたこともあったよな」

「そうだね」

「なんかおれ達ガン無視でどっかに突っ込んでったが……」

「戦争止めようとしてんなら革命軍は敵じゃないし」

「だから珍道中なんて言われんだぞ」

「ウ」

 

 

 たしかに大目玉は食らったが。

 サボはルフィの周りに揃っている面々を見渡して、満足したように頷いた。

 

 

「さて、じゃ! 帰る」

「もう?」

「顔も見たし。これ一応ルフィのビブルカード。作っといた」

 

 

 ゾロに手渡して、欠片を持って去っていく。去り際に、「ルフィにゃ手ェ焼くだろうがよろしく頼むよ!」と言い残して。

 この潔さをリオも見習った方がいいのかもしれない。

 

 

「エースと似たような事言ってやがる……」

「兄弟だねェ」

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、日が沈む頃になればルフィ以外は目を覚ました。

 街の復興も少しずつ進んでいる。怪我人の治療の進みも、その数が少ないというのを抜きにしても思ったより早い。

 トンタッタのマンシェリー姫はチユチユの実の能力者で、単に傷の治療の他、健康な人から治癒力を抜き、怪我人に分け与えるということもできるらしい。献血ならぬ献ポポだそうだ。

 

 

「私も行ってこようかなァ」

「何か言ったか?」

「ロー……いやァなんでも」

 

 

 丘の上に座り国を見下ろしていたリオの後ろから、ローが歩み寄って来た。冷たい声だ。リオが何をしようとしていたのか悟ってのことだろう。

 

 

「大人しくしてまァす」

「当たり前だ。そろそろこの島も出なきゃならねェ。海軍だっていつまでもこっちを黙認はしてねェだろ」

「でも、少なくとも今日は仕掛けてこないよ」

「……視えたのか?」

「ううん。短期的な未来視の方は問題無いと思うけど、特異な方は全く。やっぱり目が占める割合が大きいんだろうなァ」

「そうか。ならいいが……待て、じゃあ何故知ってる?」

「聞いて来た」

「あ?」

 

 

 海軍時代の癖で、リオは睡眠時間がかなり短い。だいたい朝の四時頃には起きてるから、今朝方海軍テントの方へ寄ってみた。

 

 

「藤虎と見張りくらいしか起きてなかったから、その間に少し話を、ね。向こうさん、サイコロで行動を決めてるみたいで、一の目が出たらその日はこっちを襲わないんだと」

「で、今日は一の目が出たと」

「そう。昨日もね」

 

 

 目の前でサイコロを振られた時はギャンブル中毒極まれり、と思ったが武装もせず海軍テントに向かったリオのことも向こうは狂人だと思っただろう。

 

 

「聞いた? 藤虎、独断で周辺諸国に事実を公開して、世界政府の罪だって土下座したらしいよ。サカズキさんはカンカンだって」

「お前でもそうしてたか?」

「……そうかもね」

 

 

 今回、都合の悪いことは大抵メルリオールの所為という合言葉で片付けたらしく、またサカズキさんに顔を合わせられない理由が増えた。

 

 

「皮肉なことに、海賊に襲われた島の一時対応って、私以上に詳しい奴もなかなかいないからさ……困ってないかな、と思ったんだけど、優秀だね。記憶から消されたせいで照会し辛い海賊たちの経歴とか賞金額とか教えたくらいだったよ」

「なんで談笑してるんだ……」

「お互い見えてないからね。早起きした同士、道端の雑談さ。後は馬鹿どもに挨拶とかしておいた。このまま藤虎の部隊に加わるんだってさ」

 

 

 隣に立った呆れた気配に、リオは自然と笑みを浮かべた。

 

 

「ローは、さ。満足した?」

 

 

 この結末に。

 

 

 この半生をドフラミンゴ打倒を誓って生きてきたローにとって、目的を果たした後の世界はどう見えるのだろうか。

 

 

「……そうだな。最上だ」

 

 

 答えは簡潔だった。

 

 

 ロシナンテ。ローと、リオを結んだ男。この国に起きる悲劇を止めようとしていた男。この戦いは、彼の死がなければ起きなかった。

 

 

 13年前、彼との最後の電話を、リオはしかと覚えている。

 視えた未来に慌てて電伝虫に飛びついて。鳴らしても当然、潜入中の彼には繋がらなくて。

 海軍本部に忍び込んでやろうとしていた時に、ロシナンテからの通信が入った。

 

 

『リオか……? 良かった、繋がったな』

『ロシナンテ!? どこにいるの。はやくかえってきて! じゃないと、じゃないとロシナンテが死んじゃ……』

『リオ。おれたちは海兵だ。……時に己の信じる正義を、何よりも優先しなきゃならねェ。分かるだろ?』

『っ、でも!』

『それよりな、リオ。もしかしたらお前にも視えてるかもしれねェが、おれは今ローという子供と一緒にいる』

『うん』

『助かるよな』

『……うん』

『そうか! ありがとうリオ、お前が視てくれたおかげだ! ローはお前より小さいから……年下かもしれねェな。リオお前、おれみたいな年上ばかりで、年下の友達はいなかっただろ。今はちと病気をしてるが、ローもきっと良くなるから……そしたら、一度会いに行け。絶対、仲良くなれるさ』

 

 

 離別は悲しいけれど、リオたちは海兵だ。命の保証がないことは承知の上で任務を遂行する。正式な海兵になって、リオはロシナンテの言ったことが理解出来るようになった。正義とは、時に自分の命より優先できる。自分の正義を貫いた彼を、誇らしくも思う。

 

 

『なんだァ……泣いてんのか、リオ。良かったな。良かったなァ……!』

 

 

 ロシナンテは、海兵だった。

 

 

『それがお前だけの涙だ。ちゃんと悲しいって思えた証だ。良かった。本当に良かった。ただ……。一つ、心残りがあるんだ、リオ。ローに、海兵がどれだけスゲェのか、教えてやれなかった。だからリオ、お前の初仕事だ。これはすごく難しくて、お前にしか出来ないことだ』

 

 

 リオも、海兵だった。

 

 

「……ロシナンテに言われて、一度君を見てみようと思ったのは本当なんだ。君がドフラミンゴを恨んでいるのを見て、あァ、私がなんとかしなくちゃと思ったのも……。それまで、仇打ちだとか、憎いみたいな気持ちがなかったのも」

「ああ」

「でも、そっから先、君の元に通い続けたのは私の意思だった」

「それは知ってる」

 

 

 言いながら、ローはリオの隣に腰を下ろした。

 

 

「これからどうするの? 目標とか……野望とか?」

「何言ってる。もう喧嘩売ってるんだぞ。ゾウでうちの船員と合流して、次はカイドウだ」

「あァ……。そっか。そうだね。じゃあまだしばらくは一緒かァ……」

 

 

 それが終わったら、ローとリオはまた別々の船で、いつ再会するかもわからない旅だ。4年前はその事実に耐えられなくて潰れてしまったけれど、今のリオなら大丈夫だろう。仲間がいるし、本当にダメだと思ったら会いに行っていい。リオの心を正常に戻す鍵は、ずっとローが握ってる。

 

 

「……今度は、ローの方から迎えにきてもいいんだよ?」

「行ってやっただろ、昨日」

「……うん、そうだね」

 

 

 薄く笑えば、悪かったよ、と殊勝な態度だ。

 

 

「おれの方から会いに行きゃァ良かった。……怖かったんだよ。お前がおれの手元にいたことなんてねェだろ」

 

 

 頬を指が擽る。

 きっとこの指先だって、リオの目には他と同じく白く輝いて映るのだろう。どれだけ尊く思ったとして。これだけを特別だと言い切ることが、リオには出来なかった。

 今でさえ、そうだ。どうしようもなく特別なことは理解していて、それでもリオの言動は『唯一』に捧げるものとは少しズレているのだろう。

 

 

「今だって、あいつの船に乗って、またおれの元から離れてく。なら、初めから求めねェ。お前は好き勝手に飛んでいるのが似合う」

「わはは、ベポたちと離れて気が弱くなってるの?」

「最後まで聞け」

 

 

 むに、と頬が引っ張られた。

 

 

「だが、どうやらそれじゃあお前はダメだったらしい。また馬鹿な結論に突き進まれても困るからな。……形に残した方がいいだろ?」

「形?」

 

 

 問い返したリオに、ローは「今でも未来を視たいと、思うか」と問うた。

 

 

「お前が言った通り、視界を解放すればお前は十全に覇気を操れるようになり、副作用として時間軸を超えた感情の共鳴。つまり、未来視をするようになるだろう」

「うん」

「そして、未来視をしたお前はそれを無視できねェ。手の届く範囲ならともかく、どうしようもねェ範囲の未来視は、またお前の精神を蝕んでいくだけだ」

 

 

 そして、磨り減っていく。

 

 

 有限の泉から心という流体を汲み上げ、次から次へと舞い込んでくる宝石の対価に差し出し続ける。リオがしていたのは、そういうことだ。

 受け取ってもらえれば、ちゃんと返ってくる。返ってくれば、また返すことが出来る。けれども、その受け渡しに失敗すれば総量は目減りしていく。そうして泥濘んだ土は乾きひび割れ、やがて沈黙する。

 

 

「おれが常についててやれるわけじゃねェ。また同じように折れちまって、今度はもっと深刻になる可能性もある。最悪、勢い余って死なれでもしたら、おれはどうしたらいい」

「ないとは言い切れない……」

 

 

 苦笑いしたリオに、ローは「ただし」と続けた。

 

 

「お前がまた外の世界を目で見たいと思ってるのも分かる。お前にとって、他人から受け取る感情の一つ一つが……。心を苛む棘というだけでなく、最上の宝だってことも、分かってるつもりだ」

 

 

 だから、と呟いたローの目線がリオに向く。それを肌で知覚して、リオはゆっくりと息を吐いた。

 

 

 きっと。今であれば。リオは生まれてからずっとこの身を駆け巡っていた荷物を、下ろせるのだろう。

 

 

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