未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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愛に理由がないのなら

 

 

 

 翌朝。

 

 

「ん、目ェ覚ましたね、ルフィ」

 

 

 覗き込んでいた体を起こして、パチリと目を開けたルフィの横から退いた。

 鼻先を大きく振り上げたルフィの拳が通過する。

 

 

「メシ〜〜!」

「はい」

 

 

 とりあえず肉を手渡して、後ろの机に積み上がってる料理を指差した。リオは用意してもらったジェラートを一人でぱくついている。いつもなら戦いの後はサンジのご飯があるのだが、今回は既存のもので我慢するしかない。

 

 

 あれからまた一晩経って、港には応援の軍艦が到着したようだ。多分またサイコロが振られるのだろう。

 

 

「サボは?」

 

 

 辺りを見渡しての第一声に、「もう行ってしまったわ」とロビンが返す。

 

 

「えー! じゃあトラ男は?」

「ちょっと出てる。すぐ戻るんじゃない?」

 

 

 これはリオが返した。海軍の増援が来てる、と言ったリオの言葉を受けての見張りだろう。

 

 

「そうだ、それで妙な話が街に流れてて、ってとこまで聞いたよね?」

 

 

 同じく街に出ていたサムライたちが小耳に挟んだ話だ。錦えもんたちの仲間だというカン十郎は、変な男だった。格好がどうこうじゃなくて、多分性格が。それかお馬鹿なのかもしれない。口にしたセリフ以外のことを考えてない感じだ。

 

 

「ああ。レベッカ殿の父上はどこぞの王子だと……。そんな噂で持ちきりだったでござる」

 

 

 キュロスによれば、噂自体は本人が流したものだという。王女として生きていくレベッカに、前科もちの自分という父親は相応しくないと。リオからすれば彼に娘がいるというところから初耳で、いまいち話についていけてなかった。

 

 

「そりゃァ……ん、なんか来るな?」

「んえ?」

 

 

 ガツガツと食べ物を掻き込みながらレベッカの父親はキュロスだと怒り、サボに置いていかれたことに泣き、ついでに寝足りない分を寝て、サンジたちを追いかけなきゃ、と慌ただしいルフィを横目に立ち上がった。

 

 

「あ、そうだリオの耳のが無くなってる!」

「あー、それもね」

「あとエースの……」

「うん、それもね。なんだっけ、あの訛りがすごい子」

「ニワトリくんね?」

「そうそう、トサカくん」

 

 

 来てるよ、という言葉に前後してローが家の中に入ってきた。後ろにトサカくんがいる。

 

 

「え」

 

 

 顔を向けたルフィが気の抜けた声を漏らしたのは、ローの外見にひと目で分かる異変があったからだろう。チラリとリオに視線が向いたが、リオが特に反応をしなかったからか、食事を優先したからか、この場では問いただされることはなかった。

 

 

「ゾロ先輩〜〜わー、ルフィ先輩お目覚めになられてんべ! おはようございます!!」

「わ、うるさ」

「ぐおお〜6人も麦わらの一味が揃うと眩しすぎて見えねェべ〜!!」

 

 

 どうもルフィのファンらしい彼は、一味のことを尊敬しているらしい。リオも昨日顔を合わせたが、メルリオールではなくリオとして同行していた頃の話や頂上戦争前後の経緯など割と詳しくて引いた。

 穴抜けの部分は少し補足はしたが、一々騒いでテンションの高い子だ。あと海軍時代のメルリオールのことも詳しくて怖い。

 さっさと用件を言え、とキレたゾロに、海軍テントの動きが怪しい、とトサカくんが返す。

 

 

「大参謀おつる中将と前元帥センゴクが到着したんだべ!」

「おつるにセンゴク!?」

「そんな大物まで何しに来やがった! 帰れ!」

「そりゃ、相手がドフラミンゴだからでしょ。七武海入り前に奴をずっと追ってたのはおつるさんだし、その命令はセンゴクさんから出てた。というか、もっとスッキリ言うならセンゴクさんはドンキホーテ・ロシナンテ中佐の養父だ」

「それで……!」

 

 

 同時に、キュロスの方に海軍が本格的に動き出したとの報が入る。賭けは終わりか。

 

 

「ルフィ先輩たづ! 案内します! まっすぐ東の港へ走ってけろ! あんたたづがいづでも目覚めていづでもこの国から脱出できるように! すでに同志たづがずっと要所に待機してたんだべ! 東の港に船もある!」

「あっはっは。これ私、声が聞けるようになってなきゃ何て言ってんのか分かんなかったな……」

「ありがてェな! サニー号を先に行かせたんで困ってた!」

 

 

 そうと決まれば、出港だ。キュロスの家を飛び出して、トサカくんの先導のもと港へと走る。だが、最後尾のルフィが立ち止まった。

 

 

「え!? ルフィ先輩!?」

「やっぱちょっと用事あるから先行っててくれ!」

「ルフィ! 時間はねェぞ!? 用件なら急いで済ませて来い! 東の港で待つ!」

「わかった!」

 

 

 レベッカのことが気になるのだろう。叱咤したゾロが南に向かって走り出すのを掴んで止めて、追ってくる海兵を振り切るように走る。

 トサカくんを始め、コロシアムに出場していたという戦士たちが道を作ってくれていた。ルフィの人徳かな。

 

 

「気になる?」

 

 

 隣を走るローに話しかける。何が、というまでもなく通じていた。

 

 

「……お前もいくか?」

「行っちゃおうか。ゾロ! 私とローもちょっと用事済ませてくる!」

「急げよ!?」

 

 

 頷くが早いか否か、ローの能力で移動する。

 

 

 前線でもなく、司令部でもなく。おかきをボリボリと食べながら、瓦礫の山の上でセンゴクさんはリオたちを見下ろしていた。

 ちなみに、今日はゴリラを連れている。

 

 

 突然現れたリオたちに驚く様子がないのは、待っていたからだろう。

 

 

「お前が北に行くのを、私たちは黙認していた……。何故だかわかるな、リオ」

 

 

 幼子に言い聞かせるような口調だった。彼の目に写っているのは、海兵になったばかりの頃のリオなのかもしれない。そうした昔の話を、リオは誰ともしてこなかったから。

 

 

「息抜きしないとパンクするから?」

「そうだ……そして事実、そうなった。海兵になどなったからだ」

「うん。でも私は、ロシナンテに会わなきゃ……お父さんやセンゴクさんの望み通り、海兵にはならなかったと思うよ」

 

 

 そうして、いつしか感情の容れ物へと成り果てるか──。もしくは、未来視を手放す方向へと誘導されていたのだろう。

 センゴクさんの視線がローへ向いた。

 

 

「……北でリオと会っていたのは君か」

「そうだ」

「そして……」

 

 

 何かを思い出すような間が空いた。

 

 

「あの男は、特別だった。ガキの頃に出会って、息子のように想ってた……」

 

 

 リオも、よく知っている。

 

 

「正直で人一倍の正義感を持ち、信頼のおける部下でもあった。だが、生涯に一度だけ私にウソをついた」

 

 

 ロシナンテの、最期の言葉を覚えてる。

 

 

『なァリオ、誰にも言わないでくれよ。おれとお前の約束だ。おれたちで、ローを助けるんだ』

 

 

「私は……裏切られたんだ、しかし、理由があった筈。あの日の事件で消えたものは4つ……。バレルズ海賊団、私の部下の命、オペオペの実。そして当時ドンキホーテファミリーにいた……白鉛病の少年」

「……ああ。おれだ」

「……やはりか。そして、リオ。お前も、嘘を吐いたな?」

「うん。視えなかったと言ったのは嘘だ」

 

 

 そうでないと、ロシナンテが命を賭けてまで生かしたいと思った少年は、救われなかった。

 

 

「あの日、ロシナンテはオペオペの実を盗み出し、ローに食べさせてその命を救った。代わりに傷を負って……。私が死の瞬間を視たのも、電話がかかってきたのも、もうその後だった」

 

 

 何かの悪意でも孕んでいるかのように、リオの力は間に合わないタイミングで未来を見せてきた。

 どうにもならないと悟ったリオは、ロシナンテの望みを優先した。海軍にローのことを知らせず、あの島には何もないと思わせて、軍とローを接触させなかった。ほとぼりが冷めた頃、墓参りに行きたい、と駄々をこねるまで、養父ですらリオがロシナンテの死をどう考えているのか分からなかったはずだ。

 

 

「そうか」

 

 

 納得したように小さく呟いたローは、リオをチラリと見てからセンゴクさんに向き直った。

 

 

「おれは、命も、心も、あの人にもらった。大恩人なんだ。ドフラミンゴを倒すことが、恩返しになると思っていた。……リオに泣かれるまでは、本当にだ」

「む」

「なァ……一つ、教えてくれ。Dの生き方ってのはなんだ。おれたちは、これで良かったのか……?」

 

 

 隠し名D。知っている者は知っていて、誰もが口を閉ざす。何の意味があるのか、リオも、ローも知らない。なぜ隠されるのか。どんな宿命を背負っているのか。

 

 

「……あ、センゴクさんは私の名前は知らないはず……」

「いや、ボルサリーノから聞いたよ。お前が出て行ったすぐにな。……誰にも明かさなかったのはあいつの指示だな?」

「……うん」

「誰にも?」

 

 

 ローの言葉に、気不味くなって頬をかいた。その例外がローであるし、そこに当てはまらなかったのが、ロシナンテでもある事をずっと隠していたから。

 

 

「じゃあコラさんは……」

「知らない。小さかったし……。私もロシナンテの名字はセンゴクさんに聞いたし……」

「……はァ。お前、それを先に……いや……。そうか」

 

 

 かぶりを振ったローに、センゴクさんは「少なくとも、ロシナンテは何も知らなかった」と溢した。

 

 

「そう、多くない一族だ。自分が救われたことにも、同じ名を持つ者と巡り合ったことにも、理由を探したくなる気持ちは理解できる。けれど、その様子じゃあもう分かっているんだろう?」

 

 

 受けた愛に理由などつけるな。

 

 

 センゴクさんの言葉はローだけでなく、きっとリオにも向けられていた。

 

 

 リオとロシナンテは、友人だった。

 家にひとりぼっちで、しょっちゅう泣いて、怖がっていたリオを憐れんだ彼が、暇を見つけては構いにきた。リオの力を褒めて、才能だと言って、海兵に向いていると背中を押した。

 

 

 どうだろうか、と今になって思う。リオは、海兵に向いていただろうか。そう見えただろうか。海賊をやることは、あの日のロシナンテの言葉を裏切る行為だろうか。

 リオが海兵をする事で、助けられた命もあった。リオが未来ばかり視たことで、零れ落ちた命もあった。

 そのどれもが、リオの責任だ。選ぶということは、何かを選ばないということ。

 どこにも正解などはなくて。だとすれば、不正解だって何処にもないのだろう。

 

 

 ロシナンテはきっと、ただリオに自分の力と向き合えるきっかけをあげたかっただけなのだ。自分を嫌うのは、悲しいことだから。

 リオを海兵にしてやろうとか、リオの力で世界平和を実現しようだとか、そんな考えはこれっぽっちもなかった。受け取ったリオが理由付けをして、選択しただけ。

 彼はただ、小さな友人を精一杯気遣っただけ。

 

 

「私が現役なら、お前たち2人とも檻にぶち込んで話を聞いたんだがな」

「ふふ。父さんたちは……どう? 元気にしてる?」

「相変わらずさ。あれで奴らもお前のことを気にしている。サカズキなんかおくびにも出さないがな」

「父さんだって、海賊に情を向ける人じゃないでしょ」

「ははは。精々、出会った時のために覚悟しておくといい」

 

 

 肩を竦めて、リオは一歩後ろに下がった。ローの横に立って並ぶ。

 

 

「よりにもよって、お前らが2人とも海賊とはな……」

「こいつの方はおれも想定外だ」

「我々はそうでもないがな。……ロシナンテのために何かをしたいなら、あいつを忘れないようにするだけでいい。そこのそいつも、そうしているだろう……」

「……そうだな。自由に、生きてみるよ……。あの人も、きっとそう言うだろう」

 

 

 脇腹を軽く突けば頷いたので、リオはサングラスを少しずらした。

 ゆっくりと、センゴクさんの顔を見る。ずいぶんと老いた。髪はすっかりと白くなり、目元のシワも目立つ。

 けれど、元帥という大役を降りたからか、憑き物が落ちたように穏やかな顔だ。

 リオの目を見れば、言いたいことは伝わるだろう。ゆっくりと、俯くように、頷くように、彼は頭を下げた。

 

 

「……そうか。お前はそう生きるのか」

「うん。私はローに()()を貰ったから。だから、もう大丈夫だよ。持ってきて貰って悪いけど、その制帽はお父さんにでも渡しておいてよ」

 

 

 カッコイイやつがいい、なんてリオのわがままで特注された軍帽を片手に、センゴクさんは柔らかな表情をしていた。

 

 

「ああ。おかきは食うか」

「そっちは貰ってあげようかな。……もう年なんだから、体には気をつけなよ」

「お前もな」

 

 

 お互い頷いて、リオはすぐサングラスを戻す。

 

 

「そろそろ戻ろう、藤虎が向かってるっぽいし」

「ああ。いや、待て……?」

「わァ」

 

 

 あれま。頷きかけたローが空を見上げながら言葉に詰まった。

 瓦礫が空へ浮かんでいく。

 

 

「ハァ……。戻るぞ」

「うん」

 

 

 能力で飛び、集合場所の東の港へ。緊迫した空気が漂っているが、ルフィも帰ってきた。

 パリポリおかきをつまみながら沖の方まで連なった船の道を通り、一際大きな船へと誘導される。

 

 

 これにて、ドレスローザでの冒険も幕じまい。静かな旅立ちと程遠いのが麦わらの一味だ。一度振り返ってから、手を引かれるままに走っていく。ギュ、と繋がれた手を握り返して、リオは自然と笑みを溢した。

 

 

「愛に、理由がないならさ」

「ん」

「きっと、私たちが生まれてきたことにも、変な名前を背負ってることにも、困難を超えてきたことにも、こうして……。今、生きていくことにも。理由は、ないんだね」

「ああ。それでいいんだ」

 

 

 それは、振り返った時に生まれるものだ。理由はなくとも、無意味ではないから。歩けなくなった時に振り返るくらいで丁度いい。

 

 

 

 






前作に触れてくださった方がいれば、作者の趣味趣向がめちゃくちゃ透けて見えると思います。骨子を抜き出すとめちゃめちゃ似てるという。

実はこの作品2年前くらいに書いてたものなので、前作の方が最近の作品だったり。


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