未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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末路

 

 

 

 

 無事ルフィが勝利し、麦わら帽子もルフィの元へと戻った。一味のみんなからは生温かい目で見られていたが、それもこれまでだ。

 海賊旗を要求したルフィが下手くそな絵で相手の帆にジョリーロジャーを描いたのを以って、デービーバックファイトは終結した。

 そもそもなんでこの珍妙な競技に巻き込まれたのか、リオは例によってあまり把握していなかったが。

 

 

 ひとまず、残るは当初の目的、トンジットの引っ越しだ。とはいえ、この島と目的地の島自体は元々一つの島なので、ログを辿って移動することができない。船で送ってあげるのは難しいだろう。

 

 

 で。

 

 

「あ、アーー」

「せっかく来たんだ、ウチへ入れ、もてなそう」

「もてなすもんねェだろ! もうチーズはいいぞ!」

「ウーン」

「さっきからどうした、リオ。まだ恥ずかしいなら先に船戻ってるか?」

 

 

 こちらを振り返ったルフィに、そうじゃないと首を振る。

 

 

「じゃあ占いか?」

「まあ、そう。ウン。やばいことが起きるんだけど、無茶しないでね……」

「んん?」

 

 

 家に戻ろうと振り返ったトンジットが大男にぶつかった。

 

 

「うお! なんだこれは!」

「人!?」

 

 

 アイマスクをして、立ったまま寝こけている男。──じゃ、無いな。寝てはいないだろう。

 

 

「ん? なんだお前ら」

「お前が何だ!」

「ハァ……ハァ……え!?」

 

 

 後ろで驚愕の声を上げてロビンが倒れ込んだ。体がブルブルと震えている。

 きっと、寒いのだろう。リオだけがその怯えを理解している。その冷気は、リオもよく知っているから。

 

 

「ロビン!?」

「あららら、コリャいい女になったな……ニコ・ロビン」

 

 

 それから、と男は悪人面のままリオを振り向いた。

 

 

「そちらは変わりないようで、メルちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

「ロビン、どうしたんだ! リオも、こいつの事知ってんのか!?」

「ウ、ウーン」

 

 

 声も出ないロビンに代わって口を濁したリオに、少なくとも友好的な相手ではないとそれぞれが武器に手をかけた。

 

 

「あららら。まーまーそう殺気立つなよ兄ちゃん達。別に指令を受けてきたんじゃねえんだ。天気がいいんでちょっと散歩がてら…………」

 

 

 嘘つけ。

 

 

「指令だと!? 何の組織だ!」

 

 

 気色ばんだゾロに、リオは「海軍です……」とごく小さな声で囁いた。

 

 

「海軍本部大将、青キジ」

 

 

 所属はロビンが口にした。海軍内の三大将が一人、青雉クザン。まごう事なき世界政府最高戦力の一人である。ついでに、アラバスタでのリオの通話の相手だ。

 射殺しそうなゾロの視線が、海軍と聞いてリオを振り返った。

 

 

「じょ、上官かな〜直属じゃないけど……」

「どうも、メルちゃんが世話んなってるようで」

「イヤァー! とうとう海軍にバレちゃった!」

「もとからバレてはいるんだよなァ」

「何でそんな奴がここにいるんだよ! もっと何億とかいう大海賊を相手にすりゃいいだろ!」

 

 

 ゾロの後ろに隠れたウソップの言葉も尤もである。

 

 

「というかリオか、リオを取り返しにきたのか!」

「いやァそうじゃなくて、多分……」

 

 

 ルフィとロビンの方を向けば、クザンはやれやれと宥めるように手を振った。そのついでに流れるように「あららら、こっちにも悩殺ねーちゃんスーパーボイン! 今夜ヒマ?」とナミを口説いている。ふざけるな。

 

 

 サンジがキレるより前に、リオが「仕事しろオラァ!」と飛びかかった。

 

 

「あーメルちゃんも少し見習った方が良いんじゃないの。食べてるものとか聞いてさァ。いまいくつだっけ?」

「セクハラァ!」

「あららら、元気になったねェ。スローライフも案外悪くなかったようで」

 

 

 リオのパンチやキックをスイスイと躱して、クザンは「おれァ散歩に来ただけっつってんじゃないの」とダラけた声で溜息を吐いた。リオの方は、突然の暴挙にキャーキャー喚いたナミに押さえつけられている。

 

 

「お前らを取っ捕まえる気はねェよ。メルちゃんもどうどう。アラバスタ事後消えたニコ・ロビンの消息を確認しに来ただけだ。予想通りお前達と一緒にいた」

 

 

 立ってるのも疲れた、と座り込んだクザンは、ノータイムでゴロリと横になる。ルフィたちもフリーダムな青雉には困惑しっぱなしだ。

 ──いや、ルフィだけは腕を伸ばして戦おうとしていた。

 

 

「ル、ルフィそれはちょっと後にして! ね!」

 

 

 サンジとウソップと一緒に飛びついて止めて、クザンを睨み付ける。

 

 

「いいからおめェは仕事しろクザンッ!」

「おめェもさっきから何やっとんじゃリオ〜〜」

「ワ、ワイルドなリオさんも素敵だね……」

「はいはい、少し待ちなさいよ」

 

 

 噛み付くリオに寝そべったままのクザンは、「あんた、すぐに移住の準備をしなさい」とトンジットに告げた。強めにケツを叩かないと仕事を始めない所はクザンの悪癖だ。

 

 

「まァ、メルちゃんもこれしか方法がないと思って逃げずに待っててくれたんだろ?」

「逃げても追ってくるくせに……」

 

 

 トンジットの要望はこうだ。先に移住してしまった村を追いかけて3つ先の島まで行きたい。年に一度の引き潮の間に移動したいが、馬は怪我をしてしまった。

 こうなると引き潮の時間だけで移動するのは不可能、村が再びこの島に移住するのを待つしかないと思われた。

 

 

 要は、道がないなら作ってしまえばいいのだ。

 

 

「トンジットさん、大丈夫だから荷造りを始めて。私も手伝うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 まとめた荷を海岸まで運び、海を眺める。ルフィはいつのまにかクザンと打ち解けてしまっていた。大丈夫かなァ、あれ。

 

 

「そういやメルちゃん、スモーカーのバカがメルちゃんの資料寄越せって言うから渡しちゃったよ? あの堅物をいつの間にファンにしたんだか」

「ええ〜、私が会った時はブチブチにブチ切れてたけど」

「おれのとこ来た時もブチ切れてた」

「それはブチ切れてるんじゃん」

 

 

 次会ったら殺す気で来られそうだ。どうしよっかな。

 さっきまでケンカ腰だったのにのんびりと会話するリオとクザンが不思議だったのか、ルフィが首を傾げながら「お前ら仲良いのか?」と尋ねた。

 

 

「まァ、付き合いだけは長いかも」

「メルちゃんがこーんな豆粒だった時から知ってるからねェ」

「それはない」

「そうか。まァリオも海軍だもんな」

 

 

 それじゃあ、とクザンが海に近寄るのを横目に少し後ろに下がった。いくら下がっても下がり過ぎると言うことはないが、幸い今は敵対していない。

 

 

「チョッパー、もうちょっと下がりな」

「お、おう」

 

 

 クザンの食べた悪魔の実はヒエヒエの実。練度の高い自然系の能力者は、広範囲にわたっての能力行使を可能とする。

 見渡す限りの大海原が、一瞬で凍結した。普通に寒くて困る。リオは寒いのは苦手だ。瞬時に凍結した空気が雪のように舞うのは、悪くないけれど。

 なんとなく、深い雪を踏みしめて歩きたくなった。

 

 

「海が……氷の大地になった! なあシェリー、海を渡れる。村のみんなに会えるぞ! 10年振りだ……!」

 

 

 リオが視た通り、トンジットは氷の大地に荷を引いて、何度も感謝の言葉を告げながら歩いていった。これにて一件落着。

 

 

 

 

 

 

 

 で、だ。

 

 

 座り込んだクザンは、トンジットの姿が見えなくなった頃、船に戻ろうとするルフィに「何というか……」と声をかけた。

 

 

「じいさんにそっくりだな。モンキー・D・ルフィ」

 

 

 感傷に浸るクザンの声を聞きながら、リオはそっと息を吐いた。

 

 

「おれがここへ来たのはニコ・ロビンとお前を一目見るためだ。……やっぱお前ら、今死んどくか」

 

 

 クザンの視線がルフィから、ロビン、ゾロ、サンジと移っていく。

 

 

「初頭の手配に至る経緯、これまでにお前達のやってきた所業の数々。その成長の速度。長く無法者を相手にしてきたが、末恐ろしく思う」

 

 

 ナミ、ウソップ、チョッパーと見て、リオの事は見なかった。

 

 

 青雉は、少々ロビンの事を重要視しすぎるきらいがある。彼女は確かに齢8歳で賞金首になったかもしれないが、海軍大将が個人的にマークするほどじゃない。それなら懸賞金の桁が2つばかり足りてない。

 

 

「お前達にもその内わかる。厄介な女を抱え込んだと後悔する日もそう遠くはねェさ。それが証拠に、今日までニコ・ロビンの関わった組織は全て壊滅している。その女一人を除いてだ」

 

 

 煽るように「何故かねえ」と呟く青雉に、先にロビンの我慢が弾け飛んだ。

 

 

三十輪咲き(トレインタフルール)!! ……クラッチ!」

 

 

 クザンの体に咲いた手足がその体をへし折った。覇気の乗っていない攻撃だ、ダメージは全くない。

 ここまでだ。ここまでは、もう視た。氷の破片が独りでにくっついていく最中、リオは既に走り出していた。

 

 

「武装色硬化……八握剣(やつかのつるぎ)ッ!!」

 

 

「あららら、殺す気じゃないの」

 

 

 上段からの蹴り下ろしは下の地面を蹴り砕くに終わった。覇気を纏い震脚を織り交ぜた蹴りは当たれば自然系とてタダでは済まないが、見聞色で避けられてる。お返しに繰り出された薙ぎ払うような攻撃は、同じく未来視で避けた。リオじゃなかったら躱せてない。

 

 

「そっちも殺す気だろ」

「今度会ったら殺すって言ったよな、メルリオール」

 

 

 けれど、とクザンが目の前のリオにも聞こえないくらいの声で呟いた。

 

 

「そうか、お前さんにも視えていないのね」

 

 

 意味を問う前に大きく距離を取る。

 入れ代わりにゾロとサンジが飛び込んだ。

 

 

「待っ……!」

「ウッ」

「ん!?」

 

 

 リオが止める間も無く二人の腕と足が掴まれた。

 続いてルフィが。

 

 

「待て、ルフィ! 無策で飛び込まないで!」

「うるせェ、黙って見てろって言うのか!」

「このッ!」

 

 

 クザンに殴りかかろうとしたルフィを硬化したまま掴んで止める。その間にクザンに掴まれたゾロとサンジの手足が凍らされていった。そりゃそうだ、格が違い過ぎる。勝てるわけがない。

 

 

「ぐわああ〜!」

「ぎゃああ凍らされた〜!!」

「うそ、こんな簡単に!?」

「ゾロ! サンジ!」

「離せクザンッ!」

 

 

 飛びかかる前に、クザンは興味を失ったかのように二人を手放した。ダラけたままの目線が、億劫そうにリオを見る。

 

 

「じゃじゃ馬娘。お前は少し大人しくしてようか」

 

 

 咄嗟にルフィを投げ出して腕を前に出し、武装色の覇気で体を包んだ。でも、そう。この程度で防げる攻撃じゃない。

 

 

「おい、リオ! 危ねェ!」

沖津鏡(おきつのかが)……!」

「もう少し気楽に生きろって、おれァ言ったはずなんだがね。いつもいつも生きにくい道を選んでく」

 

 

 パキパキと身体中から普通はしない音が鳴り響く。ここまでか。

 こちらに手を伸ばすみんなの姿を最後に、リオの意識は闇へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちわァ、クザン大将」

 

 

 所属でもないクザンの執務室をメルリオールが訪れた時、彼はちょうど窓から脱走しようとしていた。

 

 

「あ、ああメルちゃん。もしかして視えてた?」

「そだね〜。それしか出来ないからね〜」

「…………何かあった? 話聞こうか?」

 

 

 開け放った窓を未練がましそうに見ながら、クザンは机の上に山積みになった書類たちを乱暴に押し退ける。

 期日の切れた書類も混ざっているようだが、普段なら声を荒らげているメルリオールは指摘しなかった。バサバサと落ちていくそれを拾い上げることもしない。そんなことをすればしわくちゃな書類がさらに汚れてしまうし。

 メルリオールにとってはもう、どうでもいいことだったからだ。

 

 

 何もかも。

 

 

「おやつとかあるよ、出そうか。確かこの辺にお茶も……えー、んー、どこだっけな。水でいい?」

「手伝うよ」

「ああ、ありがとう。湯呑みの場所くらいはおれにも……」

「じゃなくて、脱走。手伝うよ」

 

 

 ハタ、と止まったクザンは、少し迷うような素振りを見せてからメルリオールの煤けた手を引いた。

 

 

「じゃあ、一緒に行こうか」

「……うん、そうだね」

「コリャ、重傷だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 クザンは海軍本部マリンフォードに昼寝スポットを数多く抱えている。倉庫がわりになっている部屋とか、屋根裏だとか、いっそ屋根の上ということもある。

 

 

 今回は、海の上が選ばれた。

 

 

 メルリオールを後ろに乗せ、キコキコと大海原を一台の自転車が進んでいく。

 

 

「で、何があったの、メルちゃん」

「何も」

「嘘言いなさんな、昔みたいに可愛い喋り方しちゃって。おじさんはそっちの方がいいと思うけどね」

「何も、ないよ」

 

 

 ふう、と息が吐かれた。

 見渡す限り、青い海が広がっている。ずっとこの海で生きてきたのに、久しぶりに海の青を目にした気がした。

 

 

「ねえ、私間違ってたかな」

「……何でもかんでも正しい人なんか、この世におらんでしょ」

 

 

 クザンはずっと、メルリオールがコートを羽織っていない理由を聞かなかった。煤けた手が、答えだったからだろうか。

 

 

「『正義』って、なんだろうね」

「…………メルちゃん、やっぱりおれの部隊に来ない? 書類仕事の得意な子、募集中なんだよね」

 

 

 ふふ、とメルリオールは乾いた笑いを返した。メルリオールは書類仕事なんぞしたこともない。

 

 

「今頃、その書類仕事が得意な部下が執務室で悲鳴をあげてるよ」

 

 

 帰ろうか、予定が詰まってる。呟いてメルリオールは、そっと目を閉じた。

 

 

 2年前。

 自らの手で正義のコートを焼き払い。

 

 

 狂犬メルリオールが、忠犬メルリオールになった日の記憶だ。

 

 

 





登場からずっと、リオの目にハイライトはありません。

なぜなら作者がそういうの好きなので。対戦よろしくお願いします。
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