未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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君が望んだ力

 

 

 

 

「んー、いけるかな」

 

 

 スコープから視線を外して、リオは息を吐いた。場所はサニー号のメインマスト、見張り台。つまりはとんぼ返りした形になる。最初は見事に引っかかったらしいが、迷いの森なぞローの能力でスキップ出来る。

 

 

 そんなわけで、ベッジから狙撃銃を借りたリオは地上から結婚式が執り行われるホールケーキ城の屋上を狙っていた。

 

 

 勿論角度的に会場の様子は全く見えないが、その辺りは問題ない。標的はマムの向かいの席という情報は得たし、そもそも写真立てが壊れる未来は既に視ている。どんな形であれ、リオが視たならそれは確定事項だ。

 

 

 因みにサニー号に位置取る一番の理由は、ホーミーズを避けているから、というのが主だ。

 ベッジのアジトにも無かったが、当然サニー号にビッグ・マムの魂は紛れ込んでいない。お陰で体調もだいぶ回復した。

 

 

 後の理由は、撤退路の確保。それから、ローを人目に触れさせたくない、という二点。

 後者は、マムの標的にローを巻き込むのは忍びないからだ。あくまで麦わらの一味の問題なので、盛大に喧嘩を売るこちらはともかくまだ狙われていないならそのままがいい。

 

 

 カタクリには顔を見られているが、リオが逃げていること含めて報告はしていないはず。となれば後は他全員から身を隠せばいい。幸い、リオがそばにいれば他人の目を掻い潜るくらい簡単だ。

 

 

「ねー、後どれくらい?」

「10分もない!」

 

 

 甲板に向かって問いかければ、作業を終えたローから返事があった。そのまま梯子に足をかけて登ってくる。今後を見据え、サニー号の潜水艇、シャークサブマージ号を回収してもらっていたのだ。

 

 

「だいたい準備も終わってるみたいだから、そろそろかな」

「本当にここから撃てるのか?」

「あー、ローは見たことないか。私もあんまりやらないしね」

 

 

 言いながら、また狙撃銃を構えた。最新モデルかつ、一番飛距離の長いものだ。その分威力が減衰するらしいが。

 

 

「本当なら、照準を合わせるのはウソップにやってもらいたいんだけどね。私の腕じゃ、そこまで正確には狙えないし。いないものは仕方ないけどさ」

 

 

 リオは銃を使うが、基本的には拳銃の射程でしか戦わない。2年前はゾンビオーズ相手に狙撃したこともあったが、その前となると結構遡る。

 狙撃手を自称出来るほど上手くは無いし、巨大な標的を狙い撃つのでもなければ狙撃は性に合わない。相手に認識されない距離から攻撃するのは、何だか卑怯な気もするし。

 

 

 とはいえ、見聞色を使えばどれだけ腕が平凡でも高精度の狙撃が出来たりする。加えてリオのとっておきを乗せれば、滅茶苦茶卑怯なことができる。これも本当はやりたくないから、殆どやったことがないけれど。

 

 

「ローはさっき、私の心を覗いたでしょ? 未来視も受け取れる。それって、私が許可しているからだよね」

「そうだな」

「でも、私が視ている感情そのものは感じ取れない」

「……まさか」

「さーてと」

 

 

 そろそろかな、とスコープを覗き込んだ。直線距離、標的はマムの大事な大事な写真立て。の前に立ちはだかる城壁たち。大凡の方向さえ合っていれば、後は壁と床を貫通する威力さえあればいい。

 

 

 バチバチと音を立てる白鳴を、丁寧に銃弾に塗り込めていく。

 

 

 ──そもそも、大元が見聞色の覇気である筈の白鳴自体が、何故攻撃性を持つのか、という話だ。

 

 

「当たればよし、当たらなくても……」

 

 

 見つめ合った新郎新婦の前で、神父が高らかに口上を述べる。会場からは遠く離れていても、それが手に取るように分かる。

 これから起きる惨劇に胸を高鳴らせているもの。純粋に結婚式を楽しんでいるもの。姿を見せないリオを訝しんでいるもの。腹に叛意を抱くもの。

 

 

十種神宝(とくさのかんだから)、道返玉」

 

 

 誓いのキスにベールを持ち上げた新婦を視て、リオは引鉄に指をかけた。

 

 

「おまけに特大スペシャルだ」

 

 

 

「ぶちかませ、白鳴(リオ)(グランデ)!」

 

 

 

 その先を視て、弾を放つ。

 

 

 新婦、プリンは手を止めた。

 神父は代わりに発砲しようと銃を取り出した。

 その銃弾はサンジが避ける。

 それを視たカタクリが狙撃を試みる。これも当たらない。

 

 

 同時、リオの放った銃弾は、込めた覇気の分だけ鋭く、城壁を貫いて屋上を目指した。少し外れて椅子を貫く。

 

 

 そこまでを視て、リオは銃口を下ろした。

 

 

「バーン」

 

 

 刹那、軽い声とは裏腹に結婚式場は突如白い閃光に包まれる。白鳴だ。銃弾から覇気を噴出させる、それだけの技。

 

 

 けれども、その光に包まれた人間は一様に手を止め、足を止め、目を見開いた。

 

 

 何故なら。

 

 

 目の前で、誰よりも大事で、大好きなマザーの写真が、()()()()()()()()からだ。

 

 

 マザー。マザー、マザー。大好きなマザー。あの時居なくなってしまったマザー。どこに行ったの、マザー。どこに行ってしまったの!!?

 

 

 傷一つ付いていない写真立てに向けて、リオはまた狙撃銃を構えた。

 

 

「さーて、五発くらい撃てば当たるかなァ」

「他人の感情を武器にしたのか。確かにどんな防御も意味が無いが……。エゲツないな……」

「子供の癇癪とはいえ、マムの感情は重たいからね。これでも結構マシな部類の感情だけど、普通の人間はいきなり他人の感情ぶつけられりゃあキツイよな」

 

 

 白鳴は込めずに撃った弾は、三発目でようやく標的を射抜いた。

 

 

 感情までは共有しないのは、リオが許可していないから。つまり、許可をすれば見せることができる。

 

 

 自分が視た感情を、強制的に他人に視せること。これが、リオのとっておきだ。物理的な衝撃すら伴う、『心』への精神的な攻撃。

 見聞色の覇気は『見て』、『聞く』力だが、リオの白鳴はそこに『見せる』、『伝える』が乗る。

 

 

 善良な市民の皆さんを巻き込むと大変なことになるし、そもそもリオは誰かに同じ思いをして欲しいとは思わないから、無闇には使わない。これはリオにとっての宝物だから、攻撃転用するというのもスッキリしないし、『見せる』んであれば、もっと幸せな未来であるべきだ。

 攻撃に使うとしても、自分の目が届く範囲で、刀か拳銃に乗せて。長距離からの狙撃で無差別に、判別できるほど強い感情を乗せるようなことはしてこなかった。

 

 

 恐らく、効果的に使えば洗脳に近いことも出来るんじゃないかと思う。廃人にする方が簡単というのが難点だけど。

 

 

 今はと言えば、写真立てが壊れる時のマムの感情を手当たり次第にぶつけたから、その全員が撃ち壊されたそれに目を奪われているだろう。

 

 

 そしてぶわりと。生まれながらの王の覇気が膨れ上がった。マムの癇癪が、現在にも起きる。奇声をあげ、覇王色の覇気を撒き散らし、頑丈な体が脆くなる。ようは子供返りだ。

 

 

「……ジェルマ救出はうまく行きそうかな」

「動けてる奴は?」

「かなり加減したから式場以外はそんなに巻き込んでない筈。城は倒してもらわなきゃだし」

「後学のために聞いておくが……有効射程は?」

「覇気が伸ばせる範囲だから……うーん、私が未来視を受け取れる範囲くらいじゃない? 普通にやっても島一つ分は覆えると思うけど、そこより広げるメリットがあんま思いつかないね」

 

 

 敵地に放り出されて全員気絶させてこい、みたいなミッションだったら有り得るけど、そういうのって覇王色でやった方が早いし。だから昔のメルリオールもわざわざこんな技を使う必要性を見出していなかったわけで。

 優位性があるとすれば、()()()()()()()()()()()という点だろう。共感を引き出すだけのものだから、どれだけ見聞色や危機察知に優れていても、迫る白鳴には気付けない。

 

 

「さーてこの後は……あ、やっぱり毒ガスランチャーはダメだねェ、マムの体ってインチキだもん」

「失敗か。なら撤退だな」

「うん」

 

 

 影響を絞ったせいで、リオの足止めもそこまで持続しない。回復した子供たちが精彩を欠きながらも次々と乱入者へ襲いかかっている。

 

 

「降ろすぞ」

「頼んだ。さーてーと」

 

 

 銃を放り投げたリオを抱えて、ローが船から飛び降りる。少し離れた海岸に着地して、鬼哭を抜いた。

 

 

 盛大に白鳴をぶちかましたため、メルリオールがこの島にいること、此度の狙撃手であることは白日の下に晒された。であれば、この男は全速力でリオを取りに来る。

 

 

「来たな、カタクリ!」

「やってくれたな、メルリオール!」

 

 

 再びの邂逅。シャーロット・カタクリ。

 懸賞金、1()5()()6()4()7()0()()ベリー。リオの最大懸賞金額5億6470万から、きっちり10億上。リオが初めて会った時は10億5700万で、ここ10年、メルリオールとやり合いながら5億以上上がっていった。

 覇気、戦闘技術、これらは険しい戦闘経験によって向上するものであり、メルリオールを殺せた海賊がいない以上、そしてメルリオールが狂ったように再戦を挑みまくっていた以上。当然ながら、相手にも『どうやっても殺しきれない未曾有の見聞色使い』との戦闘経験を与え続けていたことになる。

 つまり、当初のあの賞金額は、リオが交戦歴によって相手に上乗せさせた懸賞金額を示唆するものであり、代表的なものであり。そうした海賊が新世界に蔓延っているという忠告。そして、正しくメルリオールの価値を表したものだ。

 

 

 どんな切り取り方をしたとしてもカタクリはメルリオールの宿敵であり、一方で字面通りの宿敵(ライバル)ではない。拮抗している点がないからだ。

 見聞色や未来視はリオが上。それ以外の色や戦闘技術など、あらゆる点において、カタクリが上。

 リオでは彼に勝てない。ローでも、難しい。未来視を突破して、その武装色を貫き、覇王の器を下して初めて、この男を打倒できる。

 

 

 武装色を纏った巨体が高速で突っ込んでくる。

 これは、どういう感情だろうか。怒りの中に、仄かに歓喜が見える。

 

 

 そして鬼哭と腕がぶつかった直後。城の方で爆発音が鳴った。宝箱に仕掛けられた爆弾がリオが予言した通り炸裂したのだ。

 

 

「ざーんねん。ここまでは、視えなかったみたいだね?」

 

 

 その衝撃で、ホールケーキ城が根元から傾いていく。

 

 

「ッ!」

 

 

 本当に城が崩れるのであれば、メルリオールが現場に居ないなんて有り得ない。少なくない数の死者が出るはずだ。メルリオールが、例え敵地であろうとそれを無視するはずがない。

 目を見開いて振り返ったカタクリを前に、地面に降り立ったリオは白い銃──凪を構えた。

 

 

「城は崩れるけど誰も死なない。これが未来で先を取るということだ。さあ、勝負になるのは初撃だけ。行くよ、ロー!」

 

 

 言うと共に発砲し、ローの能力が周囲を包んでいく。白鳴を撒き散らした銃弾は躱されたが、その場に適当な人間の恨み辛みを落とした。掠りでもすれば、そこから毒のように心に染み込んでいく。

 

 

「ッ、その技、とうとうやりやがったな……!」

「……どうしても、君に捕まるわけにはいかなくなったからね」

 

 

 そして、もう一手。

 素早くリオを抱えたローが、鬼哭を構える。

 

 

「なるほど、先が視えれば視えるほど、強度が高い」

 

 

 バチバチと、リオの体と、そしてローの右目から白鳴が迸る。首筋に抱きつくように腕を絡めて、リオは大きく息を吸った。

 

 

 作戦を話し合いはしなかった。

 けれど、未来を視ていれば自ずと取る行動は固定されていく。これが、メルリオールという生き方であった。今は、リオとローだ。それなら、そう悪いものじゃない。

 

 

 昨日と同じように、小石と入れ替わったローがカタクリの背後を取る。そこまで視ていた彼も振り返って腕を伸ばしてくるが。

 

 

「……ラジオナイフ」

「──(グランデ)!!」

 

 

 バチン、と甲高い音が耳鳴りを起こし、白鳴が天を衝く。そして。

 

 

「……あ?」

 

 

 振り抜いた刃の先で。カタクリの体は腹から二つに斬られていた。リオが注ぎ込んだ白鳴の残り香が、鬼哭の刀身で小さく弾ける。

 

 

 リオだけでは、ローだけでは勝てない。けれど、二人なら。リオとローの間に、もう互いを隔てる壁はない。

 リオの未来視が、そして、二人分の覇気が、カタクリの防御を貫いた。それだけだ。

 

 

「そんなこと、とっくに覚悟の上だ」

 

 

 ローのその言葉は、口を開きかけていた覇王の言葉を奪うに十分だった。

 それで、決着はあっけなく着いた。

 

 

 リオも少し瞬いて、頭をローの顎下に擦り付けるように動かしてから、カタクリを見下ろす。

 

 

 ラジオナイフで切り裂かれた物体は、しばらくの間くっつかない。とはいえ上半身だけでも、カタクリはそれなりに戦える。現にローが口を開くまで、戦闘態勢は解かれていなかった。

 

 

 ──それに。カタクリは、避けようと思えばこの一撃も避けられたはずだ。

 

 

 色の違う両目を見開いた二人を順に見据えて、崩れ落ちたままのカタクリは地面についた片腕を握り込む。

 

 

「……それが、お前の答えか。メルリオール」

 

 

 腰を屈めたローが、一歩カタクリに近付いてから、リオを地面に下ろした。膝をつく形で覗き込んだリオは、右手をローに支えられたまま鋭い眼光に向かい合う。

 

 

「既に言ったはずだよ、カタクリ」

 

 

 視線を合わせれば何時もの通り、緩やかに腹の奥底が視えてくる。そこには変わらず薄い敵意だけがあって、残りは今リオが彼に向けているもので満ちている。

 

 

「変わるのは、悪いことじゃない。それに、変わったとしても、それは枝葉の部分だ。私の根は変わらないよ」

 

 

 カタクリは、「一味が潰される前に保護する」と言って、リオを攫いに来たらしい。サンジの一味にリオが居ることを知って、対立を予期して、その上で麦わらの一味壊滅を当然と思ってリオを拾いに来た。

 

 

 何故か?

 

 

 それはやっぱり、カタクリにリオを殺す気がないからだ。生かそうと、思っているからだ。

 

 

「目を背けないで。私はいつか必ず、『すべてを救う』。その『すべて』に、ただ自分を入れただけだ。お前にも、分かるだろ。……カタクリ。視えるだろ」

 

 

 リオの力の正解が『見せる』ことであるのなら、誰かを救うためにはまず自分が救われていないといけない。幸せを誰かに語れるほどに熟知して、体現して、そうしてそんな自分を見てもらうのだ。

 誰よりリオのことが良く見えるカタクリであれば、何を言わずとも伝わるだろう。

 

 

 リオだって、この男がどういう理屈で動いているかをよく知っている。

 

 

 自分が隙を見せれば、弟妹が傷つく。であれば、完璧であるしかない。敵対者へは苛烈に、超然とし、そうであるための努力を惜しまない。そんな生き方を、選ぶしかなかった。

 

 

 完璧な男。完璧であろうとする男。

 それが、この男だ。

 

 

 そう、生きれてしまうだけの力があった。

 

 

「お前もそうだ。強者だった」

「だから、殺さなかったの?」

「お前が生き残っただけだ」

「そっか。……じゃあ、その感謝だ、カタクリ。私を視ろ。自分を押さえつけるな。嫌な事は嫌だと言え。そうやって生きる方が、私は幸せだった。お前も、そうだろう?」

 

 

 リオは、確かに変わった。

 振り返らないこと、顧みないことが強さだと思っていた。走り続けて、倒れ込んで、ふとした瞬間に消えていく。

 でも、違うのだ。例え()()()()()()()()()()何かが喪われることはない。

 何故なら、そんなものはただの過程に過ぎないからだ。

 どう、生きるか。考えるのはそれだけで良くて、この海に刻まれる成果もそれだけだ。

 

 

「己の価値観ばかりを信じる傲慢な所は、変わらないな。それをおれに伝えて、何の意味がある」

「あはは! 君も変わらないねェ。さっき言っただろ。私はすべてを救うんだ、カタクリ。だから、救いが必要な奴は、放っておかない事にした」

 

 

 心が見えるということは、リオの未来視がどうやって行われているのか知っているということ。カタクリはこれまで会うたびに脈絡なく、言動とは別に、強い感情が目まぐるしく変わっていくリオを見ていた。

 

 

 どう生きるか。その生に、どのような結論を下すか。

 何のために未来を求めたのか。

 

 

 その答えを、ずっと待たれていたのだろう。

 

 

 だって、初めて会った時から、リオと彼は似たようなものを背負っていた。

 『こう生きなければならない』という、強迫観念にも似た思いを。

 

 

 だから、カタクリは未来視に至った。リオもきっと、そうなのだ。

 視なきゃいいのに、それが出来なかった。この力は、リオが求めた力だから。

 

 

 因果は逆だろう。けれど、この世界はそんな風に出来ている。強く望めば、力が手に入る。それが本当に欲しいと願った時かどうかは、分からないけれど。

 

 

 ──この力を持って生まれなかったとしても。リオはいつかこれを熱望していた。どんなに苦しくても。苦しいという感情すら分からなくなるのだとしても。

 

 

 手を伸ばして、カタクリの額に触れる。

 

 

 リオたちのようなものにとって、言葉よりも雄弁なのは心だ。触れれば、より一層。

 パチリと、小さく白鳴が弾けた。

 

 

 自由に生きること。夢を持つこと。やりたい事を口に出すこと。美しいものに心を動かすこと。誰かを頼ること。恋をすること。

 

 

 生まれたことにも、生きていくことにも。

 終わりもしないうちに、その理由を求めないこと。

 

 

 簡単な話だ。けれどそれだけで、人生は何倍も楽しくなる。最近になってようやく知った。

 

 

 今からだって、遅くはない。そう思ったから、ただ伝えるだけ。リオは手を差し伸べられると思ったならそうする。求められるものがあるなら、返しもする。

 

 

 それは、彼が初めにメルリオールに『尊重』を贈ったからだ。

 リオの生き方を認めて、価値があると判断した。自滅するか駆け抜けて消えるまで、その命を肯定した。

 

 

 リオは、受けた情はきちんと返す。

 

 

 諦めたように、大きな溜息が落とされた。

 

 

「いっそ、外道に落ちれば楽と思っていたんだがな」

「……この世界は。半分より少しだけ少ない悪意と、半分より少し多い善意で出来ている。逆だったら、君の言う通りだったかもね。でも、私は善意こそが人間の本質だと思う。だから私は、ちゃんと最後まで私の正義(『メルリオール』)を全うする」

「良いのか?」

「うん」

「……そうか」

 

 

 これ以上の問答は不要だろう。

 

 

「……苦労するな、死の外科医」

 

 

 そう言って、カタクリは後ろで見守っていたローに視線を向ける。

 

 

「だから。初めに言っただろ」

 

 

 不機嫌そうなローの一言に、リオとカタクリ、双方の気が緩んだ。

 

 

 強者への階段を駆け上がる姿に魅せられるのは、少しばかり視えすぎる人間の共通項だろうか。なんて、ちょっとだけ年寄り臭いことを思った。

 

 

 かつてメルリオールを可愛がった海賊たち、蛇蝎の如く嫌った海賊たち。彼らの気持ちが少し分かる。今、もうリオは『そちら側』だ。旧時代の残り滓。次世代を見送る、役割を終えた者。

 

 

 何でもできると思っていた。何だって超えてやると思っていた。

 海に出たすべての人間は、最初はそんな全能感を持っている。

 

 

 そしてその殆どが次第に現実に折れ、しがらみが増え、年を経るごとに頑丈な鎖にガチガチにされていく。

 隣を身軽に駆け抜けていく人間を羨むか、導こうと思うか、憎むか。その違いなだけで、皆等しく次の世代を注視する。

 

 

 どちらにせよ、新しい時代を作るのは、今まさに階段を駆け上がっている人間たちだ。

 

 

 鎖を生み出しているのは自分自身だと指摘できるのは、彼らだけ。解き放ってもらって、リオはまた歩き出した。であれば、同じように鎖に囚われた人間を解放して歩こう。

 

 

「ロー」

 

 

 名前を呼んで、目を伏せる。

 ここまでの会話は、全て最初から時点で確定した未来で。それを理解して尚、リオたちは時間を割いて口に出していた。

 

 

 それは、同じように全てを視た上で口を挟んだローに対する、賛辞だ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 二度目の台詞を繰り返して、ローはリオの隣に立った。

 

 

「お前とこいつの間にどれだけの時間があったかは知らねェし興味も無いが、こっちは生憎と心底惚れ込んだ身だ。余計なモンまで背負いこむ悪癖も、あちこちに情が沸いちまうところも、ムカつきはするがそうじゃねェとこいつじゃない」

「……それ、貶してない?」

「胸に手ェ当てて反省しろ。ともかく。全部最後におれのもとに落ちてくるまでの過程だろ。その為の苦労なら苦労じゃねェよ」

 

 

 何か反論してやろうと思ったが、言わせておくかと口を噤む。その代わりローの手を引いて立ち上がり、騒がしくなってきた森の向こうに視線を向けた。

 リオの視た通り。未来は恙無く進行している。

 

 

「はい」

 

 

 懐から取り出した手鏡をカタクリの側に置く。今、この近辺にある鏡はこれだけだ。サニー号のものはリオとローで全て外して、海中に沈めた。

 そのうち、彼の妹が気付いて回収に来るだろう。

 

 

「さて。これで見事にマムの怒りも私に向いて、利用するだの何だのって話はチャラかな」

「…………」

「じゃあな、カタクリ。兄弟姉妹たちによろしく」

「二度と来るな」

「お前が連れてきたんだろうが」

 

 

 呆れて首を振ってから、島の空気を吸い込んだ。

 

 

「ここがお前のお里、ねェ。思ったよりは、良い島だった。……この島が、本来の思想を取り戻す日が来たら。また来るよ」

 

 

 全ての種族が手を取り合い、分け隔てなく暮らす島。お題目は立派で、きっとリオの目指すものとも合致するだろう。今はマムという圧力で歪んでしまっている理想が、いつか子供達の手によって現実となる。そんな日が来ることを願って。

 

 

「そうだ。ねーねーカタクリ、私の白い覇気も綺麗だったでしょ? パチパチ弾けてて」

「……昔のお前には及ばないな」

「強情〜。あれ、そういえば今度会ったら万国のドーナツ食べさせてくれるって言ってなかった? 私がぶら下がって食べられるくらい大きいやつ。気のせいかな……」

「言ってねェ、帰れ」

「もー、まあいいけどさ、昔の話だ。……君の言う通り、私は弱くなったんだろうね。でもこっちの方が、『私は君たちと同じだよ』って言ってるみたいで好きだなァ。黒いバチバチはあんま綺麗じゃないよ」

 

 

 返事がなかったので、「あ、カタクリをハブにしてるわけじゃなくて、君もちゃんと心は白いんだよ」と補足しておいたけれど、あんまり興味はないようだった。

 教わっといて使えなくなったリオが悪いんだろうけど。

 

 

「行くぞ、リオ。あいつらが戻ってき次第、すぐに船を出さなきゃならねェ」

「うん」

 

 

 頷いて、最後に一度島を見渡した。無惨に崩れた城に、むせ返るような甘ったるい匂い。遠く悲鳴が聞こえて、無数の魂が蔓延る、夢とお菓子の甘い島。

 

 

 森を抜けて姿が見え始めた仲間たちに手を振って、リオは最後に一度カタクリを振り返った。

 

 

「せっかくなら私が選んだ船長、見ていきなよ。あの子はきっと、世界をひっくり返すよ」

 

 

 訝しげな気配に笑って、「私があの子に見た夢を、きっとお前も同じように抱く」と囁いた。リオがそうだったなら、こいつもそうなるだろう。

 

 

 なんせ、ルフィは自由の体現者。自由と正反対な所に齧り付いていたリオやカタクリにとって、彼は殊更眩しく映るのだから。

 

 

 






ちゃんと運用した白鳴は範囲無制限の防御無視貫通攻撃&全体スタンという感じ。
弾数制限はないけど、身体・精神が不調になると撃てなくなる。




因みにメルリオールは客観的に見ればちょっと優しくされる(悪意が100%でなかったの意)と簡単にしっぽ振って全力で尽くそうとする馬鹿犬なので、カタクリにもボコボコにされながら懐いてました。それはそれとして全力で襲いかかるのでまたボコボコにされる。
リオ視点だと良好そうに見えますが、対白ひげでも普通にグラグラくらって何度も死にかけてますからね。頭おかしいんじゃねーのこいつ。
もう体に『無警戒に海賊に近付いたら死ぬ』を叩き込むしかないけど学習機能が搭載されていない……!

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