未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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光に向うだけでいい

 

 

 

 

「良いのか、それは?」

「良かないけど、仕方ないからなァ」

 

 

 それからしばらく。きっかり5分で後方の船を潰して戻ってきたペドロは、リオが海水に浸けながら掴んでるペロスペローを指差した。

 殺してはいない。能力者なので、海に落とせば無力化できるのは楽な所だ。

 

 

「心配したのが馬鹿らしくなるくらいとんでもない活躍だったけど、体は大丈夫? これからサニーを追うから、横で休んでても良いよ」

「そうさせてもらえると助かる」

「うん。因みに聞くけども。……故郷に帰りたいか?」

 

 

 合流はかなり遅れるだろうなァ、と思案しながらミニメリーを発進させる。顔以外海に浸ったペロスペローも、どこか陸地に返したい所だ。

 

 

「さて、どうだろうな」

 

 

 目を伏せたペドロにチラリと視線を向ける。

 

 

「言うだけタダだ、言ってみなよ。どうせ先は決まってる」

「そう、だな。この後はワノ国に向かうのだろう?」

「そうだよ」

「その想像はしていなかった。この島を、生きて出ることになるとは、思っていなかった……」

「……」

「これでも一度は故郷を飛び出た身だ。死の間際になって故郷に帰りたいなど言わん。外にこそ、この命を賭けてでも果たすべき役割がある。……どうやら、その考えは正しかったようだ」

 

 

 彼が命を投げうつ未来を視た。視たのは直前だったし、既に過ぎ去った話ではあるが。

 

 

「今日のは、厳密には未来視じゃなかった。けど、遠からず君は死ぬよ。原因はまだ視えないけれど。いつだって、不意に死ぬ可能性はある」

「ああ。至極当たり前の話だ。普通の人間に、未来は視えない」

「……そうだね」

 

 

 瞬いて、リオは首肯した。左手にずっと掴んでいるペロスペローの意識が戻ってくるのを視て、会話を断ち切る。近くの島へ連れて行ってしまおう。

 

 

「メルリオール……」

「おはよう、ペロスペロー。と言うほど時間は経ってないけどね。溺れない程度に島に近付いて落としてあげる。そっから先は自分でなんとかして」

「……何?」

「先に命を救われた。弟に感謝するんだな」

 

 

 そうでなくても、リオが命まで奪うことはないが。

 ペドロは、リオのすることに口を挟まなかった。

 

 

「カタクリめ、メルリオールなんぞに……」

「やられやがって、って? いやァ、ピンピンしてただろ」

「お前なんぞに倒れるか、あいつが! お前を逃すためにわざと倒れてやったんだ。昔から、趣味が悪い……」

「アレ、海につけてんのに随分元気だな。この辺アメの海か? ……まァいいか、ちゃんとボコしてやったもんな」

「ふん、殺せない癖によく言う」

「あ? もう一戦するか?」

「言ってろ。銃も剣も、大して強くないだろうが、貴様は!」

「なんてこと言うんだ、お前。状況分かってる?」

 

 

 ザプンと顔まで海に突っ込んで引き上げる。リオが手を離せば溺れるだけの能力者の癖に。

 

 

「ップ! 図星だろうが!」

「そうだけども! だいたい、私は覇気ありき、未来視……は最近塞いだりするけど、それありきで戦ってんだからいいだろ、負け惜しみか?」

「ふん。さっきの技を昔から使っていれば、ママも一族に招き入れるなんて言いださなかったと思っただけだ」

 

 

 そりゃあ、まあ。リオはホーミーズでグロッキーになるが、その気になれば破壊して回れる。ビッグ・マムの能力ありきで運営されているこの島に招き入れようとは思わないだろう。

 昔から使っていれば、か。

 

 

「弱いってのは辛ェよなァ……」

 

 

 呟く。力が弱い。心が弱い。意思が弱い。

 

 

 唐突に罵倒されたと思ったのか、噛み付こうとするペロスペローを揺らして宥める。

 

 

 弱いとどうなるか。簡単な話だ。人が、死ぬ。

 

 

 リオは、ずっと自分の弱さを噛み締めて生きてきた。未来を変えるための力が、只々自分になかった。ただ自分が死ぬだけならまだ良かった。背負ったものが多ければ多いほど、弱さは身に染みる。

 

 

 その重責は、大家族の長男であるこいつも感じたことがある筈だ。

 そうして、自分より強い弟を、余計なものまで背負ってしまったあいつを、長く見てきた筈だ。

 

 

 弱いのは、辛い。下だって随分と超えてきたのに、上を見ればきりがない。

 

 

 海兵として、白鳴の力を使いこなせていれば、変えられた未来はあっただろうか。今でも変えられた試しがないのに?

 

 

 首を振って、リオは無いなと笑った。

 

 

「一般市民を恐慌状態に陥れるだけの力を、どう振るえって言うんだ。これでも海兵だったんだぞ?」

 

 

 心の強い人間には、ノイズ程度にしかならない技だ。その癖無差別に撒き散らす事しかできず、心の弱い人間が巻き込まれれば人格に悪影響を及ぼす可能性すらある。

 

 

 それこそ、使いようによっては廃人を作り上げることすら出来る。2年前のリオに近いような形で。

 ただ強すぎる感情をぶつけ続ければいいのだから、倫理を置いておけば出来てしまう。

 

 

「今は違うのか?」

「はァ?」

 

 

 妙な事を口走った奴を一旦無視してこの辺りでいいだろう、と島影を前に速度を緩めていく。海岸に武装した軍団の気配があるので、溺れ死ぬことはないだろう。

 

 

「使っただろう、その技。何故手配書に『白鳴』がついたと思ってる」

 

 

 手を離そうとした直前の言葉に、眉を跳ねあげたリオは片手でサングラスをずり上げた。

 

 

「なに、なんの話?」

「1年と少し前。貴様がフリーで前半の海を荒らしていた頃の話だ」

「詳しいの気持ち悪いな。荒らしてもないし」

「海軍を扇動し、好き勝手に海賊を狩ってただろうが」

「在軍時よりお淑やかだろ……」

「この狂犬が」

 

 

 懐かしくも感じる通称を吐き捨てたペロスペローは、「海兵相手に妙な技を持ち出して随分暴れたと聞いている」と続けた。

 

 

「一般兵相手に使ったんだろう?」

 

 

 2年間の修行期間の話だ。確かに、白鳴を攻撃に転じるようになったのは、頂上決戦を超えてからだ。

 どれがどんな感情であるかを理解していないと使いようもないし、カタクリが「弱くなった」と度々指摘する通り4年前の件でリオは力を一部失っており、その代替として攻撃性のある覇気がどうしても必要だった。

 

 

 練習ついでに、そして『メルリオール』として、リオの思う正義を遂行するために、各地の海軍を思うように動かそうと、白鳴を、使った。

 だからこそ、メルリオールは『白鳴のメルリオール』とされ、手配書が出た。

 

 

「何言ってんだ、お前」

 

 

 意図を読みかねて、首を振る。

 

 

「海兵ってのは定められた正義に『()()()』人間の事だ。現在進行形ではなく、過去形。門戸を叩いた時点で一般市民としては死んでんの。だから任務を遂行するために命を捧げる、なんてコトが出来るんだ。元々、自分のもんじゃないんだろ。自分の為には生きちゃいないんだ」

 

 

 そう思ってないと、死んでいった人間を受け入れられない。

 

 

「他人事のような言い草だな」

「理解は出来る。かつては同じく、その体現者だった。けど、結局私はそうは生きれなかった。ロシナンテが……。私を海兵にした男が、私をあの場所から追い出したんだろうなァ」

 

 

 あの時ロシナンテが逃げて、生きていてくれたら。やっぱりリオは海兵になっただろう。でもきっと、今みたいに『死なないように』なんて行動指針が生まれることは無かった。

 

 

 ローが生かされて、引き合わされて、これでもかと回り道をして。まだその途中だけれど、リオはこうして生きている。

 あの人が心底嫌いだった海賊なんかをやって。

 

 

 いつか死後の世界とやらで会った時、怒るだろうか。なんて疑問を心の奥に伏せながら、世界を変える夢を見ている。

 

 

 溜息を吐いたペロスペローは、最後に「本当に海兵を辞めたのか」と呟いた。

 珍しく、その言葉にはなんの悪意も乗っていない。

 

 

「まだ信じてなかったのかよ」

「……フン」

 

 

 何かを言いかけて飲み込んだようだった。頭を覗いてもいいが、辞めておくかとサングラスを戻す。

 

 

「メルリオール。ママに、ケーキを」

「ったく……。いつも言ってるだろ、海賊共め。欲しいなら暴力を振るう前に欲しいと言え。嫌なことも、して欲しいことも、まずは最初に私に向けろ。そうしたら、メルリオール(すべてを救う正義)が、必ず助けてやるから」

 

 

 甘いものが食べたい、なんて可愛らしい夢を誰が妨げるだろうか?

 リオだって、甘ったるい夢に溺れていた人間の一人だ。

 

 

「そうか。ならいい」

「あれ、毒とか気にしないの?」

「メルリオールが毒を? ハ、もう少し考えてものを言え」

 

 

 開きかけた口を閉じて、代わりに息を吐く。

 こういう時に、思うのだ。メルリオールが、確かにこの海に息づいていたことを。

 

 

 そのままリリースして、船首を回転させた。

 もういいのか、なんて視線で問うてくるペドロに頷いて、海岸めがけて銃弾を一発。後は知らない。

 

 

 俄かに騒がしくなった島内を背後に、リオはサニー号の向かった方角から少しズレた方に船を進ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「不味」

「あ?」

 

 

 吐き捨てて、リオは船の上で優雅に脚を組んだ。

 

 

 サニー号ではない。ここは、ジェルマの国土──と呼べばいいのか、連結可能な船団だ。

 あれからサニー号救援に向かうジェルマに押しかけ、リオとペドロは労せず全速力でルフィたちを追っていた。ミニメリーの馬力で今からサニー号に追いつくのは難しいので、これも織り込み済みだ。

 

 

 足にされているのは承知の上で、一応茶は出してみせたあたりこいつらも何と言うか。

 まァ不味いんだが。

 

 

 加えて、出すのがめちゃくちゃに遅い。もう随分と夜も更けて、目的のカカオ島まであと少しだ。

 

 

 カップをテーブルに置いて、飲もうと持ち上げたまま固まっている正面のペドロに片手を振る。

 

 

「サニーに戻ったらサンジに美味しいの淹れてもらお」

「そんなに不味かったか……?」

「場所が悪い」

 

 

 聞き咎めたヴィンスモークの倅が苛立たしげにテーブルを蹴飛ばした。

 リオの方のカップは吹っ飛んでいったが、ペドロはソーサーを失って所在なさげにコーヒーを見下ろしている。

 

 

 実際不味いのかどうかはなんとも言えない。リオは機嫌がダイレクトに味覚に来るタイプなので、気分が乗らなきゃなんでも泥のように感じるからだ。

 

 

「このイカれ女になんで5億なんだよ、おかしいだろ」

「3億だってば」

「そっちの方がおかしいだろ! 世界政府は何考えてんだ」

「ギャンギャン五月蝿ェな」

 

 

 確か一番弟の方だ。食ってかかってきた男にリオは舌打ちを返した。長兄と次男、それから国王はこの場にいない。一人一度ずつリオにガンくれて去っていったので血筋を感じた。

 

 

「5億……?」

 

 

 代わりにペドロが首を傾げる。

 

 

「ゆガラにそこまで高額が付いていたとは知らなかった」

「言うほどじゃ無いだろ。まァ、前半の海でちょっとやらかした程度にしちゃ、高いかなとは思うが。結局、下がったし」

 

 

 額面は前に言った通り、警告の意味合いを含んでる。

 カタクリの賞金額と端数──億単位を端数と呼んで良いかはともかく──を合わせて手配した。

 麦わらの一味に合流したこと、ドレスローザでドフラミンゴの手を逃れ、国民を救う側で動いたことで一味の中にいておかしくないくらいの額まで下げた。

 少なくとも、ソロでフラフラ動いていたリオが四皇に自分から組することはなくなったので。実際、リオはカタクリが普通に一人で尋ねてきて「手伝え」と宣ったらまあだいたい助力しちゃう。今はルフィたちを優先しているからしないけど、その辺を海軍が把握しきれていたかは疑問だ。この件に関してリオに近しい人の発言権は無かっただろうし。

 

 

「今回の件が公になれば、また上がるだろうな」

「さァね。額にはあんま興味ないけど、元に戻るくらいであんま変わらないんじゃない?」

「自己認識どうなってんだ手前!」

「だから、強さと賞金額は関係ないって言ってるじゃん。つーか、じゃあ君は私が何億だと思ってるわけ?」

 

 

 む、と固まった青年が指を折り始め、その数が片手の指を超えた辺りでため息混じりに首を振る。

 

 

「私くらい政府や一般市民に対して無害な海賊ってあんまいないと思うけど」

 

 

 手配額はあくまで危険度に対するもので、賞金額ゼロの強者だってこの海には普通にいる。戦闘力はないけど立場や環境のせいで高額がつくことだってある。

 リオは持ち前の見聞色で戦闘力を見誤るということが有り得ないから、賞金額はあんま信用していないのだ。リオの賞金額が見合ってないとかはマジモンの化け物を見てから言って欲しい。

 

 

「そもそも私は今3億で、元は5億。これは結構妥当な金額だと思ってるけど、10億以下の海賊とサシだったらまーまー安定して勝てるとは思うよ。でもだからといって私が10億になる訳じゃない。ボーダーになるのは3億を超えるかどうか、次に10億を超えるかどうかだ」

 

 

 リオから見ると億以下がピヨピヨ、3億以下がそこそこ、10億以下が常識的な範疇、そこを超えると化け物という感じ。四皇メンツだけ見たって白ひげ、カイドウ、マム、赤髪、こんなんもう笑うしかないでしょ。今の黒ひげがどんなものかは知らないけど、やってることだけ見れば似たようなもんなんだろう。

 これが大まかなランク付けで、その中での額の大小は行動によるという感じ。30億の奴が10億のやつのちょうど3倍の強さなのかって言われるとそんなことはないし、30億と50億が戦ったら50億が勝つのかって言われるとこれまたそうとも言えないのだ。

 その点リオは全然常識的な範疇だし、いち船員の立場だし、やってることは現地救助の無害な海賊だ。

 

 

「何が無害だ、仮にも世界政府加盟国に向けて爆弾投げまくってたイカれ女め。海軍はさっさと身内の恥にちゃんとした懸賞金をつけるべきだな。そんで目ェ付けられてさっさと死ね」

「なにそれ、そんなことしてないけど。どっかのゲリラの間違いじゃない?」

「お前しかあり得ないだろうが、クソ女!」

 

 

 これがあるので、リオはジェルマに嫌われているのだ。なにぶん、爆弾投げつけたのはリオの所業の中でもわりとマシな方の話なので。

 

 

「はいはい吠えてなさい。あァ、もうすぐか。……全く。私が海賊に転身したことを有り難く思えよ」

「あら、本当に海賊みたいな物言いをするようになったのね」

 

 

 背後から聞こえた声に振り返る。仮眠でも取っていたのか、見かけなかったこの一族最後の一人だ。

 

 

「お前、確かレイジュだったか」

「ええ。お久しぶり、と言えばいいのかしら? 元海兵、メルリオールさん? それとも、海賊リオ?」

「メルリオールでいい。お前たちにリオと呼ばれるのは気分が悪い」

「相変わらず、剥き出しの剣みたいな人。……貴方達の船まで送ってあげるわ。その体じゃ、自分で行くのは難しいでしょう」

「迎えに来てもらうから結構だ」

「他人の親切は素直に受け取りなさいな」

「言うべき言葉と相手はそれで合ってる?」

 

 

 返事が来るとも思えず、リオは視線を前に戻した。

 弟の方は興味を失ったように去っていく。姿の消えた城内にシーザーが隠れている事には目を瞑ろう。

 

 

 レイジュは肩を竦めたきり言葉を発さず、牽引してもらっていたミニメリーを引き上げて、前方のサニー号に向けて飛んで行った。見送って、ペドロの手を借りてリオも立ち上がる。

 

 

「ロー」

 

 

 バチリと軽く白鳴を弾けば、ブオン、と立っていた場所がROOMに包まれる。

 

 

「ケーキの受け渡しは済んだぞ。ビッグ・マムはベッジのところが引きつけて別の島だ。想定通りだな」

「そう」

 

 

 頷いて返せば、立っているのはもうサニー号だった。再会を喜ぶ前にミニメリーを格納して、肉眼で船や船員たちの状況を確認する。まァ、想像通りボロボロだ。

 

 

「四皇のスケール、少しは身に染みた?」

「もう沢山よ!」

「はは、それだけ返せるなら充分元気だね」

 

 

 一番消耗が激しそうなのは、ずっとマムの攻撃に耐えていたであろうルフィか。何も言わずとも大の字になっている横に下ろされて、リオは手慰みにペチペチとその額を叩いた。

 本当に、よくやってくれた。

 

 

「リオさん、お分かりかと思いますが、この船今とっても狙われてまして!」

 

 

 飛んできた砲弾相手に剣を振るったブルックに頑張れと片手を振る。

 

 

 目と鼻の先のカカオ島にかなりの戦力が集まっていた。ペロスペローを引き剥がしたお陰でマムとサニー号の行方が一切分からなくなり、追手は手当たり次第に海域を洗う羽目になったはずだ。

 けれども恐らく、リオが逃したペロスペローから指示があったのだろう。

 

 

『メルリオールはママを真っ直ぐカカオ島に誘導する』と。

 

 

 実際はカカオ島の手前でベッジがケーキを船に乗せたまま誘導したようだが、付近を通ったことに変わりはない。

 

 

 まだサニーに残っていたレイジュがサンジに声をかけると同時、ジェルマの船から呼びかけがあった。こちらを逃すように、ヴィンスモーク兄弟たちがカカオ島へ飛び込んでいく。

 

 

 そして、海原から最後の増援が姿を現した。領海に緻密に張り巡らされたナワバリウミウシによる監視網を排除した、魚人たちによる海賊団。タイヨウの海賊団副船長以下全員。

 

 

「ブルック! 悪いが砲撃は全部防いでくれ!」

「え!? 無茶を仰る!」

「手伝おう!」

「ジンベエ、部下達を一旦海底に引かせろ、オーブンのやつがいる!」

「海を熱水にするつもりか!」

 

 

 心得たとばかりにジンベエが海に飛び込んだ。

 頭痛がする。と言うことはあの船が近くにいるのか。奴らの母船、『クイーン・ママ・シャンテ』。あの砲撃は強烈だ。

 

 

「それから、ええと……」

 

 

 頭がぼうっとして、言い淀む。隣で同じようにしゃがみ込んでいるローが軽くリオを診たが、状況は大して変わってない。

 

 

「……リオお前。もう覇気が使えねェのか?」

 

 

 荒い息を吐きながらルフィが体を起こした。

 チョッパーの手当ては粗方終わったらしい。

 

 

「食べれてねェからな」

 

 

 代わりにローが答えた。一週間でスープ一杯。流石のリオでも限界だ。

 サニー号にローと二人でいた時に点滴は受けたけれど、消耗した覇気がいつものようには回復しない。昔はもう少し駆け回れていたような気もするが。

 

 

「年かなァ」

「嫌なことを言うな」

 

 

 ドカン、と船が大きく揺れた。

 魚人たちが壁になるようにサニーを守っている。彼らを、殿として置いていくしかないのだろうか。

 

 

「逃げろジンベエ! 麦わらの一味!」

 

 

 彼らを見捨てられないジンベエを、ここに残して行くしか。

 心底、弱くて嫌になる。

 

 

「まだまだ。……貪欲に、いかないとね」

 

 

 ふう、と息を吐いて刀を杖代わりに立ち上がる。『メルリオール』がここに立っているだけで、牽制くらいにはなるだろう。

 

 

 ゾワリと背筋がざわめいた。

 

 

 ああ、牽制じゃなくて戦意を掻き立てる方だったか。カタクリが、近くに来ている。一時でも彼に土をつけたリオを、兄弟たちが恨んでいる。

 

 

 けれども同時に、叱咤されているような気分だった。こんなところで躓いていいのかと。

 

 

「逃すわけ、ねェだろうが!」

 

 

 母船から、骨が軋むような殺意が届いた。兄をコケにされたとでも思ったのか、怪我を負った体で。

 

 

「クラッカー! このブラコン野郎が……!」

 

 

 吐き捨てたリオを背後に隠すようにローが一歩前に出た。

 ガムシャラに向かってくるクラッカーに対して、覇気を練り上げたローが相対する。後ろで、リオもなけなしの白鳴を呼び出した。

 

 

「……あ?」

 

 

 瞬間。その場に、奇妙な動揺が走った。

 

 

 ポカンと見上げた先で、今にも殴りかかろうとしていたクラッカーの体が海面に落ちていく。

 

 

 音もなく、プツリと消えたその()()を、リオはサングラス越しでもハッキリと知覚した。

 ずっと、何度も、見てきたものだ。

 

 

「今のって……」

 

 

 誰かの声に、バッと振り返る。殆ど意味を成していないサングラスを外して、水平線の先に目を凝らした。

 見えない。肉眼じゃ見えないけれど。

 

 

『大将、今何かされましたか?』

『さあ、見間違いじゃないのォ』

 

 

 なんてすッとぼけた会話を幻視した。

 

 

「は、は。ははは! 怒られても知らねェぞ、私は!」

 

 

 そうか、と笑う。リオが見えていないのをいい事に、似たような一幕はこの2年で何度かあったのだろう。

 

 

 そりゃそうだ、『メルリオールは本当に海兵を辞めたのか』、奴らが疑問視するのも頷ける。

 ペロスペローは、これが言いたかったのか。

 

 

 バチリと上がった白鳴に、手を出そうとしていた全員が武器を下げた。

 

 

天璽(あまつしるし)の指すところ。(つるぎ)比礼(ひれ)に、これすなわち────」

 

 

 ゆっくりと抜いた刀に、薄く覇気を這わせていく。リオの覇気を通すための刀。リオに授けられた情の一つ。

 何故リオが刀を手にしたのか、自覚のある身内からの嘆願。

 

 

十種神宝(とくさのかんだから)

 

 

 弾けるのは、リオが手にした、宝石よりもずっと美しい宝物。

 すべての人間が胸の内に秘めた輝き。

 この為にリオは海に出て、この為に進み続ける。

 

 

 この辛く厳しい海を歩くなら、ただその光に向かうだけでいい。リオは誰よりもそれを知っているから、今度はその光になればいい。

 ピカピカ光る男に目を灼かれ、憧れ、真似をして、目指して生きてきた。リオの力は『見せる』ことが正解で、ならばリオの『救い方』も、一番好きなやり方で正解だ。

 

 

 私が一番先に行く。

 初めに、一番美しいものを見せてもらったのだから。

 

 

 だからどうか、この光の後が道になりますように。

 

 

三種()天叢雲剣(あまのむらくも)!!」

 

 

 目を灼く白い光が、極光となって周囲を照らした。

 どんなに不恰好でも、光れば光るほど良い。前にも後ろにも、この海の向こうまで、届くくらいに。

 

 

 振り下ろした剣は、母船も、その後ろの艦隊も、全てを白く塗り潰していった。

 

 

 





光の子ですので。


リオが始まった一番最初、光を見て救われた。であれば彼女の至る結論は、今度は自分が光を見せる側になることかなあと。


リオは勾玉リスペクトで拳銃を使い、(適性的には狙撃銃ですが連射したかった)、今話の通り天叢雲剣リスペクトで刀を使い、(剣術の才能はあんまない)、パンチはせず蹴り技だけ持ってて、八咫鏡はどうしようもなくて構えを同じにしてたら赤犬に「それで何が起きるんじゃバカもん」とぶん殴られて仕方なく腕クロスに変更したくらいには養父のことが大好きです。絶対口にしませんが近しい間柄にはバレてるしバレてることは知ってる。


なので餞別に刀を貰ったんですね。忘れちゃ嫌だよと。
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