未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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前回あとがきでチラッと告知しましたが、本章はWCI編後、少し時間が飛んだ曖昧な時系列での話になります。

原作がどの辺まで進んでいるのかの明言はしませんが、多分ワノ国後ではあるんだろうな、くらい。映画時空と考えていただいた方が分かりやすいかもです。

リオ/メルリオールのイメージカラーは白になるのですが、本作で登場していた白要素が目白押し!という感じです。




ダイヤモンドと正義
WHITE = ?


 

 

 

 

 正義の対義語は、なんだろうか。

 その答えを、かつての自分は良く知っていた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 サニー号の甲板で日向ぼっこをしていたリオは、サンジが用意してくれたドリンクに入っていた最後の氷を行儀悪く噛み砕きながら、見えもしないのに空を見上げていた。

 ミャーミャーと、ウミネコが鳴いている。近くに餌場でもあるんだろう。

 

 

「ホワイ島?」

「そこが次の目的地なのか?」

 

 

 すぐ近くでは航海士のナミを中心に何人かのクルーがのんびりと会話をしていた。

 

 

「そうじゃないわ。どうも、指針が示さない無人島らしいのよね。だけどその島に辿り着いたっていう話は結構あって、道中大した苦労もしないらしいの。新世界なのに島の中も安全で、夏島の安定した気候と植生が広がっているそうよ。ビーチもあって、ちょっとしたリゾート地みたいなんですって」

「本当かァ? 今更そんな何の変哲も無い島なんか逆に怪しすぎるぜ。なあ、チョッパー?」

「おれは偶にそういう島があってもいいと思うけどな」

 

 

 でも、と言葉に詰まったナミが珍しかったので、思い思いに寛いでいた一味が皆ナミの方に注目した。かくいうリオもそうで、甲板に大の字になっていたところから顔だけをそちらに向ける。

 

 

「なんだか最近戦闘続きだったし、こういう島でのんびりするのもいいかなって」

「まァ確かに魅力的だけどよ、ナミお前ェ本音は?」

「後はその、飲むと若返る水が湧く泉があるんですって」

「それが目当てか!」

 

 

 叫んだウソップに「失礼ね!」と叫び返したナミは、「あたしは今が一番綺麗なんだから、若返りなんか求めてないわよ!」と怒鳴りつけた後に目をベリーのマークにした。

 目を塞いでいるリオには見えないけれど、これまでの付き合いから声の感じで何となくわかる。

 

 

「サニーに積めるだけ積んで売り捌くのよ! 小瓶一つが一体何億ベリーになるのかしら、考えるだけで楽しくなっちゃう」

「あーはいはい」

「ちょっと、話はまだ終わってないわよ! とにかく、効果が本当かどうかは興味ないの。本題はこの辺りの海域に指針が示さない島の噂があるってことと、今朝からこの船は何処かの夏島の海域に入ったってこと」

 

 

 一味全員の視線を集めていることを承知の上で、ナミは「どお?」とリオに話を振ってきた。

 

 

「幻のリゾート島、リオなら何か知らない?」

「私?」

「だってリオって新世界には詳しいでしょう?」

「そりゃあ10年いたから、それなりには……」

 

 

 本格的に体を起こして、リオは寝惚けた頭を回転させた。『幻』だとか『秘境』だとかは偉大なる航路(グランドライン)ではありふれた枕詞で、その正体も実は大したことがなかったりする。

 

 

「えーっと、ホワイ島、か。まァ聞いたことはある気がするね。行ったことはないけど。どっちかっていうと若返りの方が気になるかなァ……。ね?」

 

 

 首を傾げれば、片耳だけのイヤリングが揺れる。

 適当に話を振られた相手はどうやら思い切り顔を顰めたようだ。すぐ隣で武器を抱え込んだ男は、面倒臭そうに身を縮めた。

 

 

「おれに聞くな。若返りの真相は知らねぇが、少なくともオペオペの不老とは関係ない筈だ」

「分かんないよ、先代のオペオペの能力者がなんかやったとかさァ」

「あったとして、お前らの針路はおれには関係ないだろう」

「あんま離れると行き来大変でしょうが」

 

 

 あろうことか溜息を返して、トラファルガー・ローはリオの額を指先で弾いた。

 彼は一応他船の、それも船長であり、本来この船にいるのが不自然な間柄だ。最近長らく同乗していたので感覚が麻痺しているのは確かだが、あの時は海賊同盟を結んでいたという建前がある。

 

 

 今はその関係の延長戦と言うべきか。

 定期的に、ローの方からリオに会いに来ることになっている。何年もリオの方から会いに行っていたのだから、せめて釣り合うくらいにはローの方から会いに来い、ということ。

 今日は船の方は置いてきたらしいが、彼らも近くの海域にはいるのだろう。そんな感じで付かず離れずの航海をしている。同盟というか──。まァ、姻戚関係のある海賊団同士は一般的に同勢力にカウントされるのだ。

 

 

「あんたたちも、雰囲気の良い島だったらついでに式でも挙げなさいよ。いつまでも先延ばしにしてないで」

「おっと、予想外の攻撃が来たな」

 

 

 ヒラヒラと手を振って話を流して、リオは話を変えることにした。

 

 

「そうだ、海賊の間の噂話ならジンベエの方が詳しかったりしないの?」

「ワシか?」

 

 

 急にボールを渡されたジンベエも煮え切らない態度で「聞いたことがある気はするんじゃが」と濁した。

 

 

「曖昧だな。その島本当にあるのか?」

「ナミさんの話を聞いてなかったのか? 少なくともこの近くに夏島は()()んだ。おれは探してみてもいいと思う。新鮮な食材が手に入るんならそれに越したことはねェし、ナミさんの言う通りここ最近ゆっくり出来てねェのも事実だ。レディたちには休息が必要だろう」

「お前はビーチに釣られただけだろうが!」

「今おれには心の休息が必要だ! 健全なビーチ! 野郎共も悪夢共もいねェ夏島のビーチ!」

 

 

 騒いでいるゾロとサンジは置いておいて、ここまでずっと沈黙していたルフィに視線を向ける。ローの手土産の肉に噛り付いていたから静かだったわけだけど。

 

 

WHY(ホワイ)島って、なぞなぞの島ってことか?」

「多分違うと思うけど」

「えー、じゃあ何があるんだ?」

「穏やかな島っていうくらいだから、大したものはないんじゃないの」

 

 

 ああでも、とリオはふと思い出したことがあって手を叩いた。同時にジンベエが「そういえば」と声を上げる。

 

 

「この話、エースから聞いたんだった」

「右に同じだわい」

「エース!?」

 

 

 途端に目を輝かせたルフィが立ち上がり、ナミの方へ走っていく。なんとも単純だけれど、それがこの船長であり、この船だ。

 

 

「その島見つけるぞ!」

 

 

 次なる冒険は、楽しいバカンスになるらしい。そしてどうやら、逃げ時を見失ったローも巻き込まれることになるようだった。

 

 

 

 

 

 

「この島ですか?」

「随分アッサリ見つかったわね」

「まだ半日も経ってねェぞ」

 

 

 島自体はナミが海流を読んで示した方向に向かえばすぐに見つかった。沖合から見た感じ噂通りの夏島で、植生は南国のジャングルのような感じらしい。人の気配はしなかった。見える範囲にビーチは見当たらないようなので、もしかしたら島の反対側にあるのかもしれない。

 

 

「誰が船番する?」

「おれは残る」

「なら私も残りましょうかね」

「じゃあ任せた、ゾロ、ブルック!」

「おいロー、私の眼帯って何処だっけ?」

「知るか! おい、おれは明日の朝には自分の船に戻るからな!?」

「はいはい、さっさと行くわよ!」

 

 

 そんなやり取りをして、残りのメンバーでいざ上陸。リオはこの島について一切の未来視をしておらず、安全確認をすべきかどうか迷いながらサングラスのツルに手をかけていた。

 一先ずの目標としては島の概要の調査、あわよくば噂の元となる泉の発見、後はバカンス目的なのでビーチの捜索だ。ローやサンジ、リオ辺りがパパッと探して仕舞えば早いのだけど、そこまで急ぎでもないのと浪漫が薄れるという理由で徒歩調査だ。

 

 

「人の気配どころか強そうな動物の気配もねェぞ。肉はないのかァ?」

「感じ取れないレベルのイレギュラーでもない限り、本当に何もない島に思えるね」

「リオの見聞色で察知出来ないなら、敵性生物はいないと決め打っても良さそうだのう」

 

 

 ジンベエも危険はないとの考えなのか、のんびりとした口調だった。

 ナミが言っていた若返りの泉などという眉唾ものの噂話はともかく、こうも平和だと逆に疑念が湧いてくる。

 

 

「なんで人が定住してないんだろうね」

 

 

 この島より住みにくい島に形成された集落なんて山ほどある。噂話になるほど知られているのなら、定住する海賊崩れがいたっておかしくない。

 

 

「実はこの植物たちが全部毒だったとか?」

「そんなことはねェぞ! 確かに毒性のある植物も見かけるけど、知っていれば大したことないレベルだ。特別この島がおかしいってところは今のところ見当たらねェな」

「おれも同感だ。食材に出来そうなモンもゴロゴロしてる。ウソップ、フランキー、後で収穫手伝ってくれ」

「おうよ!」

「未知の病原菌の巣窟だった、なんて話もあるが」

「怖ェこと言うなよトラ男!」

「本当だったら流石に私の未来視に映ると思うよ」

 

 

 その他色々と考えられることはあるけど、これだけキチンとした森が形成されている以上、生命を阻むような自然災害は頻発しないと考えて良さそうだ。

 

 

「こうも考えられるわよ」

 

 

 考え混んでいたロビンが、楽しそうにみんなを見渡した。

 

 

「ナミの言う通りこの島には飲むと若返る水が湧く泉があって、島の水は全てそれで構成されている。一口飲むと1年、二口飲むと2年、そうして自分の年齢を超えてその水を摂取すると…………」

 

 

 ゴクリ、とチョッパーやウソップ辺りのビビリ組が唾を飲んだ。

 

 

「消える、のか……?」

「さあ、どうなるのかしらね」

 

 

 ニッコリと微笑んでいるロビンは怖がらせて楽しんでいるだけだろう。語り口が真に迫っているあたりタチが悪い。

 

 

「でもよ、本当に若返るかどうかは飲んでみないと分からないんだろ?」

「そうねルフィ。でも試しに飲むのはリスクが大きいわ」

「おれァフランキーにも効果があるのかどうかの方が気になるな」

「おいウソップ、おれもれっきとした人間だぜ?」

「おれはもし本当だったら研究してみてェけど、まずは効果が一時的なものなのかどうかが気になるかな!」

「昔の私も可愛いのよね……。一時的なんだったらちょっと迷っちゃうわ」

「おいさっきと言ってることが違ェぞ」

「っ」

「どのナミさんも素敵なんだろうなァ♡ あ、勿論ロビンちゅわんとリオさんも……。おい、待てお前ら」

 

 

 サンジの鋭い声に一行は足を止めた。いや、その前に一人先んじて足を止めている者がいた。

 

 

「リオさんの姿がない」

「なんだって!?」

「あら、何かに気を取られたのかしら」

「そんなハズはねェ」

 

 

 言いながら、サンジは数歩分駆け戻ってからその場にしゃがみ込んだ。足跡は確かに続いていて、途中で途切れている。

 

 

「一言、二言前には笑っているリオさんが確かに居た! ナミさんに話しかけようと前を向いた、その一瞬前までは確かにだ。おいトラ男、隣歩いてたよな?」

「近くにはいる、少し待て」

 

 

 責める口調ではなかった。この中で誰よりリオを気にかけているのは彼であるし、万が一のことがあったとして一番取り乱すのも彼であるからだ。

 咄嗟に声が出なかったのは、突然襲った、()()()()()()()()()()()()に足を止めたため。己のものではないはずの右目が、チリリと疼く。

 素早く眼帯に手をかけたローは、外すかどうかに逡巡を挟んだ。何かの異常だ。しかし、リオが側にいるような感覚はある。

 

 

「チョッパー、リオの匂いはするか?」

「あれ、しないぞ。確かについさっきまでは側にいたはずなんだけどな」

「トラ男とチョッパーで矛盾してるぞ?」

「あの子は何も告げずにいなくなるような子じゃないわ。でもこの中の誰も、危険は感じていない……」

 

 

 スッと息を吸ったルフィが大声でリオを呼ぼうとしているのを察知して、ジンベエが慌ててその口を塞ぎにかかった。

 

 

「落ち着けルフィ! もし何者かに狙われているなら、下手に刺激せんほうが良い」

「そうよ! それに、リオは大きい未来は視えないって言ってたわ。ってことはこれはちょっとしたトラブルなのよ、きっと」

「それか、リオにすら視えていないイレギュラーか、ね」

 

 

 ロビンの言葉を裏付けるように、その場の皆に緊張が走った。先程までは人の気配を一切感じていなかったのに、今は──いる。

 

 

 サクリ、サクリと下草を踏みしめて、身を隠す気の無い気配がこちらに向かっていた。

 

 

「え、ちょっと待ってくれ……」

「チョッパー?」

 

 

 驚愕に思わず声をあげたチョッパーが何に驚いたのかは、すぐに知れることになる。

 

 

「その場を動くな。両手を挙げろ。問いには遅滞無く、正確に答えろ。少なくともその間だけは、お前たちの命を保証してやる」

 

 

 不遜な物言いと、裏打ちするような確かな自信。

 編み上げブーツも革手袋も使い込まれたものなのに、それ以外の服は新品そのものだった。白いスーツに、同色で支給品のそれよりマチの浅い制帽。マリンブルーのネクタイと、背中にはためくこれまた白いコート。

 その背中に正義の文字が踊っていることを、誰もが知っていた。知りながらも、知らなかった。

 

 

「問う。どうやってこの島に上陸した?」

 

 

 ジャキリとピストルを構える仕草一つにすら、見覚えがある。

 

 

「リオ……?」

 

 

 真っ黄色の短髪と、ブラウンの瞳。その両目の輝きが淀みきりながらも敵意を持ってこちらを見据えていることを除けば、そこにいるのは確かにリオだった。

 思わず漏れた誰かの言葉に、そのこめかみがヒクリと揺れる。

 

 

「…………。人違いだ。前言を撤回する。加えてお前たちを敵対者と定義する。α、β、作戦開始」

「はっ!」

 

 

 両脇に控えていた海兵が銃を構え、躊躇なく発砲した。狙われたサンジとジンベエは難なく対処できたが、彼らは周囲に気配を隠したまま展開している伏兵にも気付いていた。いつの間にか逃げ場がないよう理想的な布陣に展開しており、下手に動けば弾幕が降り注ぐ。

 

 

「おいリオ、いきなりなにすんだ! というか、なんか雰囲気変わったか?」

「変わったどころじゃないわ、どういうことなの!?」

「一つ、無駄な忠告をしてやる。人の名は正確に呼ぶことだな」

「危ねェ!」

 

 

 叫んだウソップが武器を構える隙もなく、フランキーの体から甲高い衝突音が鳴り、急接近していたリオが銃底を晒したまま舌打ちを漏らした。

 

 

「改造か、面倒だな」

「おいおいどうなってんだ? 操られているとかか!?」

()()()3()()()()()()

 

 

 その口が現在を見ずに未来を語り出す。何分、何秒後の現実であるのか。考える前に、ふとその気配が消えた。他人の知覚を掌握し、目の前にいながらもその意識をすり抜ける。そんな馬鹿げたことが、彼女には出来る。

 

 

「うお!」

「ッ!?」

「力が……」

 

 

 ルフィ、ロビン、チョッパー。そのどれもが次の瞬間能力を行使しようとしていた能力者であり、リオの宣言通り海楼石の手錠にて捕縛が完了していた。全員の間をすり抜け、背後から銃口が突きつけられる。同時に、周囲に伏せられていた海兵たちがまるで彼女の手足のように、一斉に銃を構えた。

 

 

「再度命令する。動くな

 

 

 重苦しい威圧感がある。逆らう気を削いでいくような、絶対者の気配。ビリビリと震える空気の中で、リオは全員の注目を集めながら気負うことなく口を開いた。

 

 

「15:37、状況終────。あ!?」

 

 

 銃弾のカーテンが形成される寸前、素っ頓狂な声をあげた上官のせいで部下たちの引鉄は引かれなかった。

 

 

「准将? どうかなさいましたか?」

「いや……。え?」

 

 

 ポカンと口を開けたその顔は酷く幼く見えて、麦わらの一味は瞬時に一つの結論に至った。少なくともこれは、彼らの知るリオでは、ない。

 

 

 そうなると、と先ほどから動きを見せなかった男に自然と視線が向く。その当人は、リオと同じように困惑した表情を晒していた。

 

 

「リオ、お前……なんつー顔してんだ」

「ロー? なんでここに……?」

 

 

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