「何度も何度も、同じ一日が繰り返されているんだって」
結論としてはそうで、そうとしか分かっていない。
「他は知らない。よく分かんないし」
「クソ、役に立たねェ……!」
「うるさいなァ! 私だって色々頑張ってんだよ! こんなの未来が視れたら一発なのになんか、なんか視れなくてェ……!」
「あー分かった落ち着け。ちゃんと治るって言っただろう。外に出れたらな」
「出れないって話してんの!」
不貞腐れたメルリオールにローは溜息を吐いて隣に座った。あやすような態度なのが気に食わない。
「お前の頭が足りないのは事実だろうが」
「あのねェ、今はどうか知らないけど、ローだって私とずっと口論してんだからな。喧嘩は同レベルじゃないと起きないんだって私知ってるんだから」
「そうだな。お前があと3年くらい同じ論理で開き直り続けることも知ってる」
「そういえばリオって説明下手だし作戦立てるのも苦手だって言うけど、あれでも成長してたのね……」
ローのやる気のなさそうな言葉よりもナミのさりげない言葉の方に傷付いた。
「取り敢えず、知ってることを教えてくれ」
「う、うん。えーっと、この島には3つの顔がある。1つは上陸前に見えていた姿。一般的な夏島で、中央に高い山はない」
膝を抱えたまま島の西部のビーチでメルリオールは話を続けた。エースは自船に戻っており、ここにいるのはローと麦わらの一味だけだ。アイツがいても説明は出来ないから、やっぱり現状を伝える役はメルリオール、ということになるらしい。
「2つ目は今も見えている、中央に緑の山があって時間軸が交錯しているこの島ね」
ロビンが話を引き取り、そして、とローが続けた。
「3つ目がさっきまでの、火山の島だな」
「そーいうこと。日が落ちれば火山が噴火し、あの巨人、私たちはホワイトと呼称するアレが姿を現す。そうして島が一定以上破壊された後」
「朝が来て、全てがリセットされる、か」
コクリと頷いて、メルリオールは「正確な日にちが分かるわけじゃないけどね。記憶も消されないし」と呟いた。
「ならどうして同じ1日だと判断しているのかしら?」
「島の状態が正確にリセットされている、というのが一つ。船の食料も含めてだ。だから腐ることはないし、食料不足に陥ることもない。昨日船の盗難や損壊は気にする必要ないと言っただろ?」
「どうせ元に戻るからか」
「そう。それから、1日の中で負った怪我や疲労なんかも全て元通りだ。感じなかったか?」
「そういや確かに、寝てない割に疲れた感じはしないな」
「そのせいで白ひげなんかは体が悪い癖に好きなだけ酒を飲んでる」
「おれ、後で診察に行こうかな……! 誰か付いてきてくれ!」
「君医者なの?」
トナカイを見下ろせば、得意気に首を振られた。そりゃ、海賊船に船医くらいはいるか。
「そう、あまり良くない考えだ。だが医者ってのはそういうもんだな」
息子たちならいざ知らず、白ひげが己の体を他船の船医に預けはしないだろう。例えメルリオールの口利きがあったとしてもだ。そもそも、メルリオールと白ひげはただの海賊と海兵だし、この島に入り込んでから白ひげはメルリオールの相手をエースに任せるばかりで距離を取っているフシがあるし。まァ歓待されても気色悪いからいいんだけど。
「他に理由は無いのか」
鬼哭を抱えたローのことを振り仰いで、メルリオールはゆっくりと首を振った。
「ある。最後、この島のリセットは……」
少し、言い淀んだ。
「死人も生き返る」
そればかりは何人たりとも侵せないルールであり、時が巻き戻っていると結論付けざるを得なかった要因でもある。
何人かがひっそりと息を飲んだ。これを証拠としてメルリオールが出してくること。
それは前例があった証左に他ならない。
「…………。誰が死んだ?」
「黙秘する」
「成る程、理解した。愚問だったな。お前がいて部下が死ぬわけねェ。お前、ここに20日以上居ると言ったが、同時に最後におれに会ったのは1週間前だとも言ったな」
「この島に上陸した時から1週間前、かな」
「合わせて1月か、そりゃあ限界だな」
「何が?」
さてな、と肩を竦めるロー。頭を覗いてやろうと思ったがあまり上手くいかない。相当上手く隠しているらしい。見聞色がメルリオールを上回ったとは思わないけれど、メルリオールの知る新世界の海賊の中でも割と上澄みの方に当たるだろう。よく成長したものだ。
戦力だけで言えばこちらも中々、とめいめい砂浜に腰掛けている連中を見渡した。
麦わらの一味は全部で10人、ローを入れると11人になる。全員が懸賞金を引っさげた一端の海賊であり、一部は覇気を操るかなり手練れの戦闘員だ。
ホワイト討伐、という観点で言えば良い戦力を手に入れたと考えられるだろう。
「メルリオールはそのリセットが島から出られない原因だと思っているのね?」
「どちらかというと、この島の異常がそこにしか見出せないというのが正しいな。巻き戻りすぎて外とずれてんじゃねェの? 詳しいことは分かんないけど」
「でも、その巻き戻しはホワイトってやつが起こしてんだろ? じゃあ其奴をぶっ倒せば解決だ」
麦わら帽子の船長の言葉に首を振る。
「お前たち本当に白ひげや私を知ってんのか? 倒して仕舞いじゃねェからこんなに時間かけてんだよ」
「あ、それもそうか、白ひげのおっさん強ェもんなァ」
「確かに昨日メルリオールも片足ぶち抜いてたもんな。総攻撃しかけりゃ倒れそうに見えたぜ」
「ありゃ見掛け倒しだろう」
容貌からして剣士であろう男が、顎をさすりながら呟いた。
「ダメージが入ってるようには見えなかった。そもそもありゃ、生き物なのか?」
「少なくともフランキーよりは人の形に近いと思ったわ」
「おれはどう見ても人の形してんだろ」
「……それでも、私は人と定義した」
「定義?」
口を挟んで、メルリオールは役に立たない瞳を閉じた。
こんなもの、メルリオールが正常にチカラを使うことが出来れば即解決なのに、半月以上も足止めされている。経過時間だけで言えば夜がほぼスキップされる以上まだ半分くらい。巻き戻しが現実にも適応されていればいいが、そうでないなら随分と救えなかった人々が生まれてしまうのだ。
メルリオールはローにも指摘されるくらいには焦っていて、なんとかホワイトを攻略しようと動いてきた。
「まな板の鯉ではあるんだ。だが何もかもが決定打にならない。どれだけ切り裂いても、爆破しても、形や状態が変わるだけ。白ひげのグラグラでも無理だった。むしろ逆にさっさと島が沈んじまってリセットだ」
蝿を叩き落とす程度の反応はすれども、敵意を抱いているわけではない。
こちらに明確な敵対行動を取ることはなく、そこにいるだけ。いるだけで島は崩壊していき、朝を迎える。鍵がホワイトにあることは明白で、メルリオールは毎夜毎晩あの化け物に挑んでいる。
「だがあれは人だ。人なんだ。
「意味……?」
「うん、意味。上手い言い方が分かんないけど、意味を問われると私はこう返すしかない。
「どういうこと……?」
「今も偶にこんなんだけど、この話が全く通じない感じ、これぞメルリオールよね」
言われているのは承知でメルリオールは無視をした。
実の所、今の未来視のないメルリオールにはその意味はなく、価値もなく、理由もない。ただ、『狂犬』と揶揄される通り、些か狂っただけの海兵だ。
「リオ、これまでのお前の話は殆ど全て伝聞に聞こえる。それに、あのホワイトは……。まァ、それはいいとして。ここまでの推理を組み立てた奴は別にいるんだな?」
「うん。まだ紹介してないけど、元々私と戦ってた奴」
「げ! この流れだとそっちも大海賊ね?」
「まァ……」
メルリオールの曖昧な反応に疑念を向けられるが、ハッキリそうとは言いたくなくて首を振った。
「知りたいのであれば北へ行け。この島に囚われた最後の一人は、北の湖畔にいるからな」
「お前も一緒に、だ」
「……。ま、ローが言うなら従うけれど」
深い海に呑まれて溺れているような気分だ。ずっと。
メルリオールは今、極短期の未来視しか出来ない。この狭まった視界でどう行動すればいいのかなんて、全く分からなかった。
同行者はローとルフィ、それからジンベエの三人。それ以外を島の探索に残した一行は山の裾野を北に回り、緩やかな上り坂を越えて湖畔へ向かった。目的の人物は、そこでずっと野営をしている。可哀想に、船がないのだ。
「おい、正午だぞ。歓待の準備くらいしておけ」
「お前は来るなと言わなかったか」
「言っては無いよな」
「読めなかったとは言わせねェ。例え手前が己の力を何処かに落としてきた間抜けだったとしてもな」
言葉と共に強烈な拳が降ってきて、メルリオールは有りっ丈の銃弾とともに軍刀を振りかぶった。
覇王色混じりの黒い覇気とこちらのくすんだ覇気とがぶつかり、メルリオールは死ぬ気で更に覇気を捻り出す。向こうは本気じゃないのにこっちは瀕死、なんて冗談じゃない。
「どひゃー、相変わらずどえらい覇気だな」
なんて緊張感のない声と共に、横から乱入者が手を出した。正確には足が飛んできた。三つ巴がぶつかる寸前で三者が手を止めて、メルリオールは相手の男にネクタイを引っ張り上げられて「ぐえー」と潰れたカエルのような声をあげながら宙に釣り上げられた。メルリオールをぶらさげんの、流行ってんのか?
赤銅色の短髪に口元を隠す襟巻き。五メートルを超える長身と鍛え上げられた肉体。
「お前、カタクリだろ? ビッグ・マムのところの」
「メルリオール、事情を吐け。吐いたらお前に用はねェ」
四皇が一角、ビッグ・マム海賊団の二番手にして次男。完璧な男。
カタクリ相手にマイペースなルフィを無視して、メルリオールの宿敵である男は煩わしそうに片手を揺すった。
「ああ……。メルリオールと単身で戦闘中だった海賊となると矢張りおぬしじゃったか」
「おい今ちゃんと脳内で見せただろ、見聞色鈍ってんのか永遠の二番手がよう」
「死にてェようだな」
カタクリの長身から地面に叩きつけられたメルリオールは、意図的なのかどうか、ローの腕に受け止められた。どうせ生き返るしと軽く殺されなくて良かった。まァこいつはそういうやつではないけれど。
「
「っ!?」
そのままカタクリがローの名前を呼ぶ。鋭い視線は相変わらず射殺すように此方を睨んでいた。目付きが悪すぎる。
「おいなんでローの名前を知ってんだ」
「おれとそいつは会ったことがある。そうだな?」
「は? いつだ、北の海だぞ。お前らの動向を私が見逃すはず……」
「
メルリオールの言葉を遮って、ローが固い声で肯定した。そんな馬鹿な、と言い連ねようとしたメルリオールをローが抱え直して、黙っていろと言わんばかりに眼帯を解く。
「…………」
その下には何故か未来のメルリオールの右目が嵌っていて、その視界はどういうことか過去のメルリオールにも届く。ただし両目が揃うことで行われるはずの未来視については全く反応しない。だからメルリオールに起きた変化といえば明らかに角度の違う光景が見えるくらいのものなんだけど。ちょっとその状況に理解が及んでなくて一瞬フリーズする。
「
そんなこちらをよそに吐息交じりに呟いて、ローはメルリオールを抱き抱えた腕に力を込めた。
「え?」
「暴れんなよ」
説明せずに膝を曲げて、ローはその場から駆け出してしまう。
「待って待って今の視えなかった。ワンモアワンモア! 次は絶対視るから」
「視えねーように気ィ使いまくってんだよ、視んな!」
「余計なお世話ァ!!」
ジタバタするメルリオールを必死に抱え込みながら、ローはひたすらにその場から引き剥がそうと移動する。
その意思に逆らいたいわけではないけれど、メルリオールには制御出来ない見聞色の一部がバチンと爆ぜた。
「ここは、メルの為の島なんだな」
麦わら帽子の青年は、ニコリと笑ってそう言った。
「カタクリとはどこで会ったの? どんな話した?」
ぷらん、と足を揺らしながらリオは欠伸を零した。
場所は中央の山の頂上。無人島が故に名前は付いていない。ローはここまで能力を使ってリオを連れてきており、途中で抵抗を辞めた彼女は鼻歌混じりで楽しそうにしていた。
「大した話はしてねェよ」
「ほんと?」
「どうせお前もそのうち知る話だ」
「ふーん、ならいいか」
「弁当食うか」
「え、どしたの」
胡乱気な目線に首を振って「おれじゃねぇよ」とサンジから預かった海賊弁当を取り出す。この一味と居ると食に困らないのはメリットだ。
「えー何これめっちゃ美味い」
「未来のお前もそう言ってた」
「まさか食につられたんじゃないよな?」
「ンなわけねェだろ」
リオの肩の正義のコートに手を伸ばし、文句が飛んでこないことを確認してからそっとその文字に触れる。ローの恩人である海兵が正義のコートを羽織っているところを、見たことはない。彼は潜入調査中だったのだから当たり前だ。
リオはローのところに来る時、頑なにコートを羽織らなかった。腕に引っ掛けたり、畳んでバッグに詰めていたりと様々だったが、決して手放さず、けれど掲げはしないことで明確な一線を引いていた。
ここより6年後、リオは自分から正義の看板を降ろす。あれだけ大事にして、ともすれば依存していた正義の二文字を自分で焼き払ったという。
今後二度と口にしないだろう世迷言を噛み締めて、ローはアイロンのかかったコートを片手で握り締めた。当然ながらぐしゃりと皺が寄る。
こんなことが許されているのは自分だけだという優越感がある。同時に、最後の一線に招かれなかったという敗北感があった。
漠然と、彼女がその荷を下ろすのは自分の為であるはずだと思い込んでいた。そんなことはなかったのだ。
リオは、メルリオールは、そこまで完璧な海兵ではなかった。完璧な人間など、きっと何処にも存在しないのだろう。
例えばあの、大家族の次男のように。見栄を張って、自分を騙して、誰にも秘密の憩いの時間を設けることで走り続ける。
そうしていつか、被った仮面と素顔の見分けがつかなくなっていく。
ぱちり、ぱちりと緩慢な瞬きを眺めながら、ローは少し言葉に迷った。
「お前が海賊になったのは、メルリオールが『すべてを救う』からだ」
箸を持った手が一瞬止まって、食べかけの弁当に視線が落ちた。残りをパパッと口に入れて、ローの手渡した水筒を傾け、弁当箱を仕舞うまでは無言だった。
「そっかァ」
気の抜けたような返事だ。相変わらずゆったりとした瞬きのまま。眠いのだろう、疲労がリセットされるとはいえロクに寝れていないはずだ。いくら体力馬鹿でも限度はある。
後ろ手をついて空を見上げて、リオは陽光に目を眇めた。
10年、とその口元が呟くのを見て、ローは咄嗟にその頭に手を伸ばす。
「まだ救えてないの?」
か細い少女の声は、ローの胸板が飲み込んだ。
これは彼女の信じる『メルリオール』には相応しくないものだ。正義のコートを羽織ったまま、口にしてはいけなかった言葉だ。
「……弱音だ、聞かなかったことにして」
「おれが聞かねェでどうするんだ」
「どうって、別に。北に行く」
「今行けねぇだろ」
「仕方ないから老けたローで手を打ってあげるね」
「おい、お前も同い年だからな、このクソガキが」
「君も同い年だよ」
可愛くない口だ。少し可愛げのあることを言ったと思えば、自覚がないのですぐかなぐり捨てる。
けれど。けれどこの可愛げがなくて、こっちの助けなど必要なさそうな強がりの少女を、ローは選んだのだった。
ゆっくりと体を離して、溜息を吐きたいのをグッと堪えて正面を向く。
「夜まで時間あるだろ。どうしたい」
「どうしたい……?」
「あるだろ色々。まァこの島に大したもんはねェが、それでも出来ることは沢山ある」
青々とした島を見下ろす。昼間の間であれば、この島はバカンスに丁度良い夏島でしかない。
「したいことなんてないよ。ホワイトを、壊さないと」
「夜にならねェと出てこないんだろ」
「うん。でも、壊さないと」
昨日マグマが噴き出していた山頂部分に、何か怪しいものでもないかと期待したのは事実だ。当然ながら目で見て分かるようなものはなく、収穫は期待できそうになかった。
それに、メルリオールであれば、納得がいくまで調査した筈だ。そうしなければならないから。
しなければならない。そうでなければならない。メルリオールはそうやって生きている。行動の全てが己に課した義務で、したい、やりたいでは動かない。
壊さなければならない。或いは、救わねばならない。
でないと。
違えた時どうなるのかに薄っすらと自覚があり、そこから必死に目を逸らし続けているのだ。
リオだって、自分の精神状態が危ういことに気付いている。強迫観念に支配され、思い込みで死地を駆け、他人の感情ばかりを見て本質はいつまでも掴めない。
騙し騙し走るためにはローが必要で、それだけは理解して北の海へ向かった。どうしてローなのか。そこを理解するには、それこそ10年の月日と重すぎる挫折が必要だ。
「なら昼寝でもしてろ。寝てねェだろ」
「ひと月くらい、不眠不休で動けるよ。実績もある」
「医者の前でよく言ったな、いつのことだ」
「つい最近」
「…………」
黙り込んだ。原因に心当たりがあり過ぎる。ローの船出だ。
今の彼女に悪かったと謝るのも違う気がして、ローは何も返さなかった。
「寝ろ」
「そう言われるとなァ」
「いいから寝ろって言ってんだろ。目が覚めたら、良いもん見せてやるよ」
「なに、良いもんって。今見せてよ」
「二度は言わねェ」
「ちぇ」
口を尖らせたものの、リオは大人しく目を閉じる。
「ローは10年経ってもかっこいいねェ」
「あ?」
そのままこくりこくりと船を漕いで、かと思えば一瞬で眠りに落ちた。小さな寝息が等間隔で響いている。信頼されてる、と傲りたいがそういう特技なだけだ。
「ったく」
なんて口では言うものの、振り回されるのを選んだのはこちらの方だった。
距離が近いのをいいことに起こさないよう持ち上げて、足の間に降ろしてもたれかからせる。後ろから抱えれば、染み付いた海の匂いがした。ローの知らない、南の海の匂いだ。いつもいつも、それは南から訪れる。
完全に深い眠りに入ったことを確認して、憎たらしいほど青い空を前に目を瞑った。
「ここを」
囁いて、服の上からその最も重要な器官を撫でる。己が掲げた海賊の旗。恩人の名。
その心臓を。
果たして自分は、貫けるだろうか。
「あのポンツクは置いておいてだ」
「今メルちゃんを馬鹿にしたか? なあ、もういっぺん言ってみろマリモ野郎」
空を切る鋭い音の後に木片の散らばる軽い音が続く。綺麗な断面を晒した木切れを二足歩行のトナカイが回収していった。
ビーチに残った一味は班を二手に分け、島内の探索と拠点設営を担当することになっている。探索はともかく、拠点の方は毎日リセットされるため炊事と情報整理が任務だ。
薪割りに刀を持ち出した剣士の男は、チラリとも声の主に視線を向けずにもう一刀を振り下ろした。
「事実だろ。目の前のもんが何も見えてねェ」
「ゾロ、薪はもう大丈夫だ。休んでていいぞ」
「もう終わりか」
「明日の分は要らねェからな」
「あ、あんたはそこから動いちゃダメよ。迷子になったら見つけるの大変なんだから」
「そこまで広い島じゃねェだろ」
「駄目ったら駄目。迷子センターのリオは居ないのよ」
「いつからあいつは迷子センターになったんだ」
4人が肩を竦めて、くるりと鍋が混ぜられたところでゾロがまた口を開いた。
「お前らだって分かるだろ。リオとメルリオールは違う。ならあいつは恐らく最初の島に取り残されたままだ」
「そうだな、早く迎えに行ってやらねェと」
「でも、一日が巻き戻ってるんだから、リオからしたらまだ一日も経ってないんじゃねェのか?」
「そこだ」
チョッパーを見下ろしたゾロは、溜息混じりに切り株に腰を下ろした。
「そもそも、この島で起きてるのは単純な巻き戻りじゃねェだろう」
「え、そうなのか?」
「癪だが同感だな。メルちゃんは矛盾に気付いてないみてェだが、これを巻き戻しだとメルちゃんに説明した奴らもそうなのか、或いは意図的に隠されてんのか」
サンジに続いてナミもこくりと頷いた。
「考えてもみて、チョッパー。本当に同じ一日を繰り返しているのなら、途中で外からの人間が紛れ込むはずがないの。昨日の午後あたしたちが入り込んで、次のリセットは朝から。サニーは泊めた場所にそのまま、あたしたちは怪我とかが治った状態で森の中から」
けれどもそれ以外は元通り。
「朝にはいなかったはずのおれたちを巻き込んで、ありもしない初期地点までリセットしてる。それも白ひげとおれら、二回もだ」
「きっとまだ気付いていないルールがあるのよ。多分、エースや白ひげ、それからもう一人の海賊はそれを知ってる。もしかすると、メルリオールの部下たちも」
「おれたちもまずはその土俵に立たなきゃ始まらねェ」
キン、と音を立てて刀が鞘に納められた。
「それにこりゃァ、どうも