未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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= SNOW

 

 

 

 

 25日目。 

 朝の始まりは決まって山の中腹からだ。

 

 

 元々はカタクリと海上で戦闘しており、ぶっ飛ばされて山に突っ込む形でこの島に上陸した。アバラボキボキでのたうち回っていたところでカタクリが「何か妙だ」と手を止めたのだ。

 

 

 その時にはメルリオールのチカラは使えなくなっており、一人でプチパニックを起こしていたところ『使えない』と判断されて追ってきた軍艦に叩き込まれた。当然艦は大破、部下は大混乱。あわや全滅もあり得たがカタクリが自分の感じた違和感の方を優先したのか死人はなかったらしい。

 らしい、と伝聞なのは当時メルリオールが完全に伸びていたからだ。

 そうこうしているうちに島から出られないことが判明した。電伝虫が通じない、メルリオールは気絶、カタクリの迎えは来ない、で硬直状態。

 メルリオールはホワイト出現時にカタクリが発した闘気で飛び起きた。逆に言えばそれまでカタクリはメルリオールに殺気や敵意を向けなかったとも言えるか。

 

 

 そこから先、白ひげたちが迷い込むまでは島のルールを調べたりホワイトに対処したりと共闘することもあったが、本人は対ホワイトを遊び程度に考えていたらしい。しかもメルリオールに真実を伝えなかった。

 

 

 まァ、それも今日までの話だ。

 

 

 放出しまくっていた覇気を収めたメルリオールは普段通りに一足で軍艦に戻り、副官を引き連れて島の対岸のビーチに向った。

 白ひげ、麦わらが拠点にしているところだ。

 

 

 予想通り、白ひげの船の周りにはこの島内の三勢力が揃っていた。白ひげは少し迷惑そうな顔をしているが、北のぼっち男が軍艦や麦わらの船に赴く筈がないので仕方あるまい。

 因みにこの男、白ひげとの間に停戦協定は結んだが、メルリオールとは結んでいない。仮に言い出したとしてもこちらから願い下げだが。

 

 

「ようやくか、メルリオール。一体何日無駄にしたと思ってる」

「お前のせいだろカタクリ、適当なこと言いやがって。糖分足りてないのか?」

 

 

 流れで刀の柄に手をかけて、あちらは硬化した腕で拳を握った。

 途端にまず始まるのは見聞色による先の読み合いだ。どう出る、どう返す。その繰り返しが十五を重ねた時点で明白に決着が着いた。読み合いはメルリオールの勝ち。

 次に来るのはその実践。読めない分は力で押してくる。そうなるとカタクリに分があった。

 ただ今回はその前に制止が入る。

 

 

「ガキども、その辺にしておけ」

 

 

 その部分だけが現実に出力された。メルリオールとカタクリは目も合わせずに覇気で殴り合ったに過ぎず、こう言ったやり取りはこの島で幾度となく繰り広げられている。

 

 

 舌打ちをしてメルリオールは手前に一辺開けられているスペースに歩み寄った。右手にカタクリ、左手に麦わら、正面に白ひげ。ローは麦わらとの間に立っている。

 

 

「准将、荷が重いです」

「我慢しろ。毎度大砲向けてんだろ」

「こちらのせいにしないでいただきたい」

 

 

 小声で副官と言い合って、朝になってすぐ連れてきたから情報を共有していなかったと思い返す。

 

 

「なんかさァ、ホワイト倒しても意味ないんだって」

「ああ、そうでしょうね」

「………………。ん?」

 

 

 あ、今日も温めてますよ、と懐から菱餅を取り出した副官は何故かローたちの方を見ながらぺこりと会釈をした。そのまま取り出した菱餅をカタクリに差し出して「故郷の名産でして」とかほざいている。見上げた根性だ、どこら辺の荷が重いんだか。カタクリもちょっと迷うなよ本当にお菓子不足か。

 

 

「今度寄港したらお前うちの艦クビな。餞別に一つ階級上げてやる」

「お、ありがとな、メル」

「おいクビ決まったからっていきなり砕けんなよ」

 

 

 溜息を吐いて見せてから、メルリオールは切り替えて正面を見据えた。

 

 

「メル、話を進めろ。こっちは朝っぱらから押しかけられて迷惑してんだ」

「分かってるよ。さっきの夜でちゃんと島の隅々まで見直したし」

「それしか出来ん癖に何故今までそうしなかった」

「うるさいお前は黙ってろ」

 

 

 早くも一部の麦わらの一味の集中が切れかけているのを察知しながら、メルリオールは端的に「山が一番おかしい」とまとめた。

 

 

「だってあれ、生きてるもん」

「生きてる? 山がか?」

 

 

 ルフィがコテンと傾げた首から麦わら帽子が滑り落ちる。ビヨンと伸びた腕が慣れたようにそれを頭に戻して、「それって山も飯食ったりするってことか?」とさらに首を傾げた。

 

 

「知らなーい。山と人間は違うもん。私あくまで人間の専門家だし」

「でも生きてるんだろ?」

「そうだよ」

「石と同化して操る能力者がいたんだ、山を動かすやつがいたって不思議じゃねェが……」

「いやいや、能力者じゃないのは見て分かるだろ」

「准将准将、またいつもの説明が足りてないやつです」

「説明って?」

 

 

 レクターがちょんちょんと肩を突いてくるが、右側に立たせているせいで表情が見えない。

 

 

「リオ」

 

 

 こういう時、ちゃんと疑問を解きほぐして通訳してくれる人が居るのは有難いかもしれない。

 これまたどういう意図かは分からないけれど、ローが右目の眼帯を外した。自分の顔を自分の目で見るという不思議な状態のまま、三本の指を振るローをもう片方の目で見る。

 

 

「山が生きていて、だが能力者ではないというのは分かった。なら何が近い」

「え。うーん、ヤドカリ?」

「……分かった。次だ」

 

 

 言いながら指が一つ折られた。

 

 

「何故山が『生きている』と考えた」

「私に()()()()から」

「……噛み砕け」

「私に視えないものがあるわけないでしょ?」

 

 

 何故かローが顔を片手で覆って空を見上げた。突き出された腕にはそのまま一つの指が残される。

 

 

「まァいい。なら最後だ。お前にホワイトはどう見えてる」

 

 

 さっきまで山の話をしていたのに、ホワイトは、と問われることでメルリオールだけが認識していなかった事実が際立つ。山とホワイトは切り分けて考える必要のない話だ。あれらは同じもの。山が宿で、ホワイトが宿主。もしくは逆。どちらであっても、この際どうでもいい。

 

 

「なんかめちゃくちゃムカつく奴。多分私のこと馬鹿にしてる」

「そうだとしたら自虐だな」

「たしかにー」

「自覚あんのかよ」

 

 

 溜息を吐かれた。

 この場に集った各々から、程度の差はあれ同じような視線がメルリオールに向けられる。

 誰とも視線を合わせずに、メルリオールはそっと右目を覆う眼帯に手を当てた。

 

 

「私にも視えないものが一つだけある。ホワイトは、私だね」

 

 

 メルリオールの目は自分を映さない。いまのメルリオールの認識はそうだ。自分のことは視れないから、自分の未来だけは分からない。だから確定してない。だから、メルリオールだけが『すべてを救える』。その『すべて』の中に、メルリオールは含まれないから。

 

 

 であれば、将来の自分がローに片目を託した意図というのも、少しは分かる気がした。一体どのような道筋を辿ればそうなるのかは分からないけれど。

 

 

「シシシ。あれメルそっくりだもんなァ!」

「白くてビカビカ光って理不尽な奴がそう何人もいてたまるか」

「え、見た目の話なの!?」

「見た目っていうか……」

 

 

 麦わらの女性陣が顔を見合わせてから、「敵として見るリオ……つまり、メルリオールってあんな感じよね」「ええ、シャボンディの時にそっくり」と笑っている。どうやら、それを確信するための昨晩だったらしい。だから何やら大声で謝罪を叫んでいたのか。

 

 

「私ってあんなに意味わかんない感じ?」

「なんで自分に『狂犬』とついたか自覚ねェのか、メル」

「どこまで叩きのめしても何故か生きている辺りは本人そのものだろう」

「言ってくれるじゃん、ジジイ共」

 

 

 主にメルリオールが死にかけている原因の二大巨頭が何か言ってる。

 

 

「まァ……積極的に殴りに行ってるのがカタクリのおっさんだけな時点で気付いて欲しかったけどなァ」

「うそ、エースも気付いてたの? じゃあ早く言えよ」

「……」

「なに」

 

 

 膨れっ面のまま黙り込んだエースをもう少し糾弾しても良かったが、急務じゃなかったので放っておく。

 

 

「ま、そんなわけで意味はよくわかんないけどあの山もホワイトも私だったんだね。ドッペルゲンガーって奴かな!」

「違うと思うぞ……」

「カタクリ、私が島を視るの待ってたってことは、私ならあれを止められるってこと?」

「知るか」

「あ?」

 

 

 バッサリ切り捨てたカタクリが帰るそぶりを見せながら山を見上げた。

 

 

 ホワイトは山から出てくる。

 山はこの島の全てだ。

 この島は特殊なルールに基づいて運行している。

 そして、ホワイトはメルリオールだ。

 

 

 その最後の一文だけがまだ他と繋がっていない。

 

 

 どうしてそうなったのか、どういう意味なのか。例えあれがメルリオールだとして、今ここにいるメルリオールはなんなのか。何故あれは人間とは呼べない生態をしているのか。それなのに何故、あれはメルリオールなのか。

 

 

 カタクリはメルリオールを一度強く睨みつけてから、「失望させるな」と吐き捨てた。

 

 

「あれがお前の()であるか、お前以外はもう認識している。周囲の人間を視ようとはするな。それはお前が知ってはならないものだ」

「どういうこと?」

「知る必要はない。そもそもおれは初めに告げた。お前に出来ることは、あれと戦い続けることだけだ」

 

 

 それだけ言い残して、カタクリの姿が消えた。正確には高速でぶっ飛んでいっただけだが。

 

 

「はあ? ……話し合いってここからじゃん。あいつなんで今日集まりに来たの?」

「そういう奴なだけだろ」

 

 

 実際、とローが首を振る。

 

 

「この先、島についての話し合いは行われない。全てはお前が解決すべきであり、これはお前にしかできないことだ。この島を終わらせるため、必要なのはお前の『答え』一つ」

「んー?」

「ま、バカンスだとでも思ってじっくり目の前のモンを見てろ。どうやら幸い、どれだけ時間をかけても構わねェらしい」

 

 

 遠回しな言い方に、癖のように心を覗こうとして寸前で止まる。それはしてはならない、らしい。遠くの未来を視る方はともかく、一般的な見聞色の方は意志がないと行使されない。視ない、と言う選択は身が裂かれるようだけど、身が裂かれるくらいなら些細な話だった。

 

 

「良いじゃねェかバカンス。メルが休暇取るなんて滅多にねェもんな」

「こいつはある意味年がら年中休暇だろうが。好き勝手やりやがって」

 

 

 白ひげ陣営の野次は右から左に流すが、隣で副官が「良いですねェ、バカンス」とのんびり微笑んでいる。緊張感ってものがない。

 

 

「……。あのさァ。今の私でも確実に言えることがあって。あのホワイトが白いのも、あくまで人間の形をしているのも……。私が、それに異常な程拘ってるからだ。そういう自覚はあるんだよ」

 

 

 つまり、メルリオールは人間に異常な程執着していて、その理由が白い輝きにある。メルリオールは己を人間の枠に入れることに固執するし、メルリオールが救おうとするのも人間だけだ。

 

 

「だからさ、もしお前たちが私のせいでここに囚われてるんなら、私はそれを許さない。死んで解決しないのはもう分かってるけど、悠長にしていられる人間でもない」

「ああ、知ってる」

 

 

 こくりと頷いたローは、どこか楽しそうな表情をしていた。

 

 

「心配しなくても、時間経過を気にする必要はねェ。恐らく、巻き戻ってるわけではなく、おれたちは常に()()()()()()()()()()だけで、実際は一切の時間経過をしてねェんだろう。つまり何の迷惑にもなってねェよ。だから、お前のやり方でやってみれば良い。答えを他人に求める以外なら何をしても良いし、お前が望む限りの協力はする。やりたいようにすれば良い」

 

 

 ここは、と言い淀んだローはメルリオールをしっかりと見据えながら、何かしらの感情に身を委ねて口元を緩ませた。メルリオールの知らない顔だ。

 

 

 けれど、知っている感情だ。温かくて、居心地が良くて、呼吸がしやすくて。

 いつかこれに抱かれ、溶けて消えると思っていたものだ。メルリオールが理解する日が来るとは思えないけれど、これに名前をつける日が来るとは思えないけれど。

 

 

「お前の為の島だ、メルリオール」

 

 

 開きかけた口ですぅと息を吸えば、夜の暗闇が同じ速度で広がった。足元が切り替わり、辺りが闇に落ち、赤い光が背後の火山から届く。ホワイトが夜闇の中にポッカリと浮かんでいるのを、そちらを見なくても感じられた。

 

 

 動揺はなかった。あれはメルリオールで、ここに居るメルリオールももちろんメルリオールで。

 その二つは違うものだけど、共通する部分がある。それこそが、『メルリオール』という名に込められたものなのだ。きっとそれが、メルリオールが探すべき答えだ。

 

 

 息を吐き出せば、潮が引くように暗闇が光に飲まれていく。

 

 

 島が巻き戻る。或いは、作り変わる。

 

 

 闇に沈む前と何一つ変わっていないように見える砂浜で、メルリオールは片手を空に差し出した。

 

 

「雪、が……」

 

 

 雪が、降っている。白い雪片が夏島にゆらゆらと揺れて、掌に吸い込まれた。繊細な雪の結晶が、ジワリと体温で溶けて消える。残った水滴だって、いずれは消えていくものだ。

 

 

 メルリオールは、こうやっていつか自分もこの海の一滴になるのだと悟っていた。溶けて、消えて。

 

 

 はあ、と息を吐いて拳を握る。息は白く濁らなかった。雲ひとつない青空から、次から次へと白い雪が降る。時折キラリと輝いて、風に散らされ消えていく。

 

 

「こりゃあ、雪じゃねェよ」

 

 

 いつか聞いたような物言いだった。

 

 

「そういえばロー、目が覚めたらいいモン見せてやるって言ってたよね」

「見れただろ」

「この細氷のこと?」

「好きだろ?」

 

 

 おや、と瞬いてからメルリオールはローの顔を見上げた。次に己の心の中に意識を向ける。

 

 

 好意、愛情、恋情。それらに類する感情を、メルリオールは理解出来ない。誰よりもそれを知る故に、己の中に同じものがあると確信できない。

 もしかすると何もかもを無くし、メルリオールですらなくなった抜け殻であれば理解するのだろうか。だとしたら。今の、なんの価値もないメルリオールであれば。

 

 

「…………。うん、好き」

 

 

 かどうか、はっきりとは言えないけれど。

 

 

 にへら、と笑んでから「寒くないならね」と付け足しておく。

 

 

「っ…………」

「なに?」

「いや……」

 

 

 息を呑んだローが、同じように無邪気に笑った。

 

 

「知ってる」

 

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