未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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= STARCH

 

 

 

 

「待ってたわ、メルリオール准将」

 

 

 柔らかく微笑む女性に、メルリオールは気配に気づいていた癖に面食らった。別に悪意を抱かれると思っていたわけじゃないけれど、謎の好奇を見せ付けられれば困惑もする。

 考古学者だというロビンは、未来のメルリオールとは女性同士仲が良かったらしかった。

 

 

「着いて来るつもりか?」

「ええ、北に行くんでしょう? 私もすごく興味があるの、この島のこと」

 

 

 ホワイトの眠る山を右手に海岸線を進んだ先でロビンと出くわしたメルリオールは、両手に抱えたバスケットを無意味に揺らした。行き先が読まれている。

 

 

「朝は一人で調査しろって雰囲気だったじゃん」

「白ひげはそう考えていそうね。ルフィも手を出すつもりはないみたいだし、うちの一味も半分くらいはそう。トラ男くんについては……貴女の方がよくわかってるかしら?」

「知らないけど、なんか挙動不審だったから放っといた。北を出て雪アレルギーにでもなったんじゃねェの」

「あら、これは雪じゃないんでしょう?」

 

 

 なんて言いながら、綺麗ね、と上空を見上げる。ダイヤモンドダストは朝からずっと降り続いていた。そういうふうに、島が作り変わったのだ。やったのはメルリオールで間違いないだろう。どういう理屈で実現したのかは分かっていないので、その調査をしてやろうと単身島を練り歩いていたのだ。

 

 

「私も昨日……と言っていいのかしら。島の南側は大体調査したのよ。見れていないのはあの山と北側なの。一緒に行きましょう?」

「悪いけど、北をそんなに歩き回るつもりはない」

「ええ。彼に会いに行くんでしょう?」

 

 

 ちょうど私も用があるの、と有無を言わせない笑顔を向けられて、メルリオールは肩を竦めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「武装硬化……」

 

 

 足の先が黒く染まっていく。気付いているだろうに無反応なその男の首元めがけて、メルリオールは勢いよく蹴りを放った。

 

 

「八握剣!!」

「お邪魔するわ、シャーロット・カタクリさん」

「あで」

 

 

 メルリオールが叩き落されると同時に、ロビンが手渡されたバスケットを差し出す。片手でメルリオールの片足をぶら下げ、もう片手でバスケットを受け取ったカタクリはロビンを見下ろして片眉を釣り上げた。

 

 

「お前だけか?」

「ええ、不満かしら。この湖を調べてみたくって」

「……勝手にしろ」

 

 

 ひょい、と放り投げられた空中で態勢を整え、着地したところで「湖?」と首を傾げる。

 

 

「ここなんかあるの?」

「この島の噂話よ。飲むと若返る水の湧く泉があるらしいわ。調べた限り、南側にそのような場所はなかったの。ここは泉と呼ぶには少し大きすぎる気もするのだけど、水に関連している」

「へェ」

 

 

 メルリオールが頷く間にロビンは取り出したコップに湖の水を汲み入れた。流石にそのまま飲まないだろうから、好きにさせておこう。

 

 

 甘い匂いにつられてかバスケットに被せられた布をめくっているカタクリを見上げて、「今日のは特別製だぞ」と付け加えておく。

 

 

「なんか迷惑かけてたみたいだからそのお詫び」

「あのコックのか」

「ん? よく分かったな。そう」

「ふん」

「ふん、じゃねェよ。ちょっと貰ったけど、多分お前ならこのドーナツが好きだよ」

 

 

 バスケットの中身はおやつだ。メルリオールがサンジに打診して、快諾した彼があっという間に用意してくれたもの。

 毎日15時のおやつを楽しみにしているこの男にとって、無人島での漂流生活はそれはもう地獄のようなものだ。流石に可哀想なのでこれまでは定期的にメルリオールが自船の甘そうなものをデリバリーしていた。副官の趣味とメルリオールの好みもあって、軍艦にはだいたい甘いものが常備されているのだ。

 そんなわけで北には何度も足を運んでいるが、いつも喧嘩になるばかりで調査はしていない。そもそも北に陣取った時点でカタクリの担当だろうし。

 

 

「ねー、カタクリ。さっきはああ言ってたけど、北でなんか見つかったりした?」

「あれば伝える」

「だよなァ。やっぱもう一度ホワイトに出てきてもらうしかないか……?」

 

 

 呟きながら、メルリオールは湖畔から湖を覗き込んだ。見慣れた自分の顔の中に、見慣れない眼帯が映る。片目が塞がって半分のパワー、と言いたいところだが実際は9割減がいいところ。メルリオールの特異性はやっぱり遠い未来を知覚するチカラにあるから、それがなければ凄すぎる見聞色を持ってるだけの小娘だ。ま、見聞色が凄すぎてお釣りが来るんだが。

 

 

「頭ん中がうるせェ。大体、今も力を失ったことに打ちのめされてんだろうが」

「失くしてねーし。見せてやってんだから有り難く読んでろよ。それともこの程度の読心でも覇気を消耗すんの?」

「低レベルの武装色しか使えねェ身でよく吠えるな」

「死んでないんだからいいだろ!」

 

 

 これに関しては殺されてない、と言った方が良いかもしれない。向こうにその気がないのだからこれはメルリオールの負け。それが分かってるからかカタクリは言い返さなかった。

 口を出さずにいれば、しばらくしてカタクリが面倒くさそうに溜息を吐く。

 

 

「相変わらず、未来視がなければ愚鈍だな。おれの所へ来ても収穫はないぞ」

「別に、そういうつもりじゃねェよ」

「口だけだな」

「……お前、そんな感じだったっけ」

 

 

 想定以上に口を挟んでくる。もう少しちょっかいをかける必要があるかと思っていたが、要らなかったようだ。

 

 

「弱い癖に他者を切り離す。お前の数ある欠点の一つだ。他人はもう少し上手く使え」

 

 

 本当に助言をするつもりらしい。さっさとこの島を出たいのが本音だろうが、メルリオールが真っ先に北を目指したのはこのためだった。

 

 

「弱さ自体は罪ではない。それはあくまで罰であり、罪は己に背くことだ。おれの知るメルリオールであれば、そう言うだろう」

「そう。君の思うメルリオールは、そういうやつなんだ」

 

 

 不思議な感覚だ。自分が信じて作り上げたメルリオールという虚像が、他人の中にも根を張っている。何かしらのヒントを期待して訪れたが、思っていたよりはカタクリがメルリオールに心を割いていたことも分かった。まだ出会って1年かそこらだし、普段はここまで親切ではないが。という違和感は、今は棚上げしておこうか。

 

 

「聞いていた以上ね、あなたたち」

「あ?」

 

 

 一方で未来のメルリオールを知る女性は、ずっと好奇に目を輝かせていた。メルリオールとカタクリがそんなに物珍しいのだろうか。

 

 

「この目で見られて良かったわ。そうでないと、もっと単純なものだと誤解してしまうもの。リオが知ったら恥ずかしがるかしら」

 

 

 どこら辺が恥ずかしいのか。カタクリは黙ったまま、なんなら目も伏せているのでアテにならない。

 なんとなく、メルリオールも口を開かなかった。

 

 

 そのままずっと沈黙が続いて、せっせと作業を進めるロビンを眺めるだけの時間が過ぎていく。

 

 

「やっぱり」

 

 

 沈黙を破ったのは矢張りロビンだ。

 

 

「海水が混じってる。この湖、汽水湖ね。陸で海と繋がっているようには見えないから、地下かしら」

「へー、匂いはそんな感じしないけど」

「今私たちが感じているものがどこまで本物か、誰にも確かめる術はないものよ」

 

 

 ロビンは至極楽しそうにそう言った。

 現に、何の脈絡もなく夏島に細氷が降り注いでいる。

 

 

「この島に貴女の意志が反映されるのであれば、貴女が興味を示さなかった部分に真実が埋まっている可能性は高いわ。メルリオール准将は湖が汽水湖だと考えてはいなかったでしょう? かといって淡水湖だとも認識していなかった。精々、北に湖がある、くらいかしら」

「逆に海水が混じってるとは思ってなかったから、そういう匂いもしないってことか」

「ええ」

 

 

 チラリとカタクリの方を確認するも、異論はないようだった。湖の水質くらいは側にいたんだから認識してるだろう。とはいえ海水が混じってるからなんだというのか。

 

 

「もしかすると水の下にはもっと面白いものが隠されているかもしれないわね」

「面白いもの? あ、そうかお前たち能力者だから入れないのか」

 

 

 手がかりが見つかるなら潜ってみてもいいが、その必要があるならカタクリがさっさとメルリオールをぶち込んでいる気がする。そういう信頼を、メルリオールはカタクリに抱いていた。

 

 

「入るなよ」

「お。へェ……?」

 

 

 迷っている間に背後から釘を刺された。振り返れば、珍しく「やっちまった」というバツの悪そうな表情をしている。メルリオールが湖に入るところなんか視えてないだろうに、それでも口を挟む程警戒しているらしい。カタクリはそのままメルリオールを鷲掴んで、少し離れたところにぺいっと置いた。

 やっぱり、カタクリが普段より過保護な気がする。ホワイト相手に一回死んだ時も、「アレ相手に手前が不覚を取るはずがねェだろ、わざとやったな」なんて延々と説教していた。まァホワイトが本当にメルリオールなんであれば、なに自分相手に死んでんだ、ってところだろうが。

 

 

 改めて湖を見渡しながら腕を組む。

 湖と言っても対岸が視認できる程度の大きさだ。水質も別段悪くなさそうで、北東側には海に繋がる滝がある。上流にはなにもないから、水が地下で湧いているのは確かだろう。

 若返りの水、という眉唾な噂の発生源はここだろうが、そもそもどうやってそんな噂が囁かれるに至ったのか。メルリオールたち以前にこの島に足を踏み入れ、生還したものがいるんだろうか。もしくは、朧げながら記憶を保持する可能性があるという、エースや白ひげなどか。

 

 

「これはあくまで予想なのだけど、この湖は夜の間とても小さくなるんじゃないかしら?」

「そうだ。ついでに言うならば、ホワイトの動きを最後まで放っておくと、最後はこの湖に辿り着く」

「そういうこと」

「謎は解けたか。優秀だな」

「当てつけみたいに言うんじゃねェよ」

 

 

 どういうこと、とロビンの顔を見上げれば、彼女は殊更に柔らかく微笑んだ。

 

 

「誰もが皆、光を望んでいるの。私が思っていたよりずっと丁寧で、いじらしいのね」

「は? なにが?」

 

 

 意味の分からない返答に、メルリオールはモヤモヤとしたまま口を尖らせた。覗くな、と隣からカタクリがとてつもない圧をかけて来る。されなくてもローの言いつけだからしないけど。

 

 

「私はもう少し北を回ってみるわ。貴女はどうする?」

「用が済んだなら帰れ、メルリオール」

「言われなくても」

 

 

 一旦ローのところにでも戻ろうか。

 首を振って、軍帽の鍔を下げる。相変わらず、メルリオールにはなにもわからない。分からないまま、溺れていっているような状態が続いていた。それでもどん底までは落ちてない。

 

 

 何故なら、メルリオールは自分に向けて手が差し伸べられていることは自覚しているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局何にも解決してないけど」

 

 

 一旦ビーチに戻り、腕を組んで仁王立ちしているメルリオールは、マフラーをグルグル巻きにされて手袋までしていた。気候は夏島のままだというのに、いきなり降り出した雪に慌てた部下がメルリオールの防寒具を持って総出で押し寄せたのだ。当のメルリオールはとっくに北へ向かった後だったけど。馬鹿共が本当に馬鹿で泣けてくる。

 戻ったメルリオールに持ってきた防寒具を巻きつけた後は、彼らの大半がビーチに残って休暇を満喫していた。麦わらの一味も加わって浜辺にはヴァイオリンの音色が響いている。

 

 

 ホワイトがメルリオールなのだ、という話は意味はわからないが納得するとして、解決を全部こっちに投げて自分たちは遊び呆けるというのは如何なものか。

 

 

「あたしたちだって、必要ならホワイトとの戦闘はするわよ?」

「そうなの?」

「だって抵抗しないとこっちが死んじゃうし。いくらリセットするって言われたって、気分は良く無いもの。仲間に攻撃するのは気が引けるけどね」

 

 

 そういうものか。

 

 

 デッキチェアにパラソルというバカンス装備で寝そべっているナミは、ダイヤモンドダストが舞う中上半身は水着のままで、見た目には寒々しい。実際この細氷は見掛け倒しで、気温はむしろ暑いくらいだ。氷も地面に着く前に溶けているし、その水滴もどこかに消えてしまうしで積もることはない。そういうふうに見えるだけだ。

 

 

「メルリオールもせっかくのビーチなんだから遊ばない?」

「遊ぶ? 海なんか見慣れてるだろ」

「あらメルちゃん知らないの? 海上とビーチとじゃあまた違う楽しみ方があんのよ」

「氷降ってんのに?」

「寒くないわよ?」

 

 

 まァ確かに、と頷いて手袋を脱ぎ、滅多に見られない光景にはしゃいでる部下の後頭部に投げつけた。マフラーは昼寝している副官の上に落として「気絶したら終わりにする?」と声をかける。

 

 

「なにが!?!?」

 

 

 飛び起きたナミに「手合わせだけど」と首を傾げるも、そういうことじゃないらしい。

 

 

「砂浜って足場悪いし訓練に丁度良いと思ったんだけど」

「あんた昔はそんな感じだったの?」

「未来の私は違うの?」

「修行したって話は聞いたことあるけど、あたしたちといる時のリオってそういう感じじゃなかったかも」

「ふーん」

 

 

 修行したいならゾロとかオススメよ、と剣士の方を指差してナミは当人を呼び寄せた。

 

 

 呼ばれたゾロ含め麦わらの一味の何人かは今日も懲りずに新しい拠点を作っていた。どうせ一日でリセットだからと持ち回りでデザインを担当しているらしく、見た感じ今日は謎の植物の生えたウッドデッキのようなものが出来上がりそうだ。

 

 

「どうした」

「メルリオールが修行したいんだって。あんた暇なら付き合ってあげたらどう?」

「お前が?」

 

 

 やる気のなさそうな眼差しがメルリオールを上から下まで見回して、「トラ男に付き合ってもらったら良いんじゃねェか?」と白ひげの船で釣り糸を垂らしているローを振り仰いだ。

 

 

「それかエースとか」

「呼んだかー?」

「呼んでない」

 

 

 ローの隣でルフィと共に釣りをしていたエースに首を振る。そもそもこんな浅瀬で何を釣るつもりなんだか。

 

 

「そういやさァ、メルー?」

「なんだ」

 

 

 変わらず船の上から声をかけてくるエースは、「結局メルの本名ってリオでいいのか?」なんて言いながら身を乗り出していた。

 

 

「それとも愛称みてェな?」

 

 

 メルリオールがすぐ答えなかったからか、ゾロとナミは船上を見上げた。エースの両隣はこちらを見下ろしている。

 

 

「リオはリオだろ?」

「そういえば、あたしたちもその辺は詳しく聞いてないわ。リオの方に聞いた方がいいのかしら? それかトラ男くん?」

「……。いや、おれもそこまで詳しくはねェ」

「え、そうなのか?」

 

 

 最後にこちらを向いて、揃って言いたくないならいいけど、と言葉を濁す。別にそういうことではないのだが。

 

 

「……今の私からすると、本名はメルリオール、ってことになる。リオの名前は捨てたというか……。それだけで名乗ることはない。メル()()ールには入ってるけど、リオって略させることはないし」

「まァ、大体メルって呼ぶよな」

「フルで呼ばれるようになったのは割と最近。それまではメルちゃんって呼ぶやつしかいなかったよ。その為の名前だしね」

「トラ男はリオって呼ぶがな」

「ローは、さァ! ほら、違うじゃん」

「ほー?」

「ちょっと、面倒なこと言い出さないでよ!」

「おれらにはずっとメルだったけどなー?」

 

 

 エースの声に、メルリオールは溜息とともにそちらに視線を向けた。完全に不貞腐れている。

 

 

「だから、今の私はメルリオールが本名なんだってば」

「聞いたよ。別に拗ねてねーし」

「そう見えないから言ってんだろ。ったく、未来の私のことは知らないけど、こっちだって大事な名前なんだよ。お前がメルリオールと名乗られたってことを大事にして、不用意に旧名を呼ぶな」

「いや、呼ばねーけど」

 

 

 ならいいじゃないか、と首を振って見上げていた視線を戻した。

 

 

「まあ、いいわ。考えても無駄だし。さてメルちゃん、ゾロも来たし何かして遊びましょ」

「遊ぶ、ねェ……。じゃああの馬鹿共からスイカ取り上げてスイカ割りでもするか? 何歩離れたところから割れたか競おうよ」

 

 

 何故か白ひげの目の前でスイカ割りに興じている部下たちを指差す。いくらなんでも弛みすぎだから、遊び道具を取り上げたっていいだろう。

 

 

「どっちも一歩も動かねェんじゃ勝負になんねェだろ」

「スイカ割りか!?」

 

 

 弟の方が釣竿を放り投げて飛び降りてきた。タン、と着地しながらニッコリとこちらに向けられる視線が、どうも居心地が悪い。邪気はないが、かといって無色透明なものでもない。

 

 

「っと」

 

 

 数秒後にスイカ割りが成功する未来が視えて、咄嗟に刀を抜く。力任せに振り抜いて、経路上のスイカを切り裂いた。

 

 

「まァ……こんな感じで」

 

 

 剣圧を飛ばすなんて絶技はメルリオールには出来ないので、覇気で誤魔化し誤魔化し。横から掻っ攫われた部下が揃って黄色い悲鳴をあげていた。

 

 

「あっ」

「なんだ?」

 

 

 刀を鞘に戻そうとしたところで頬を引き攣らせる。

 ぼとぼとと刀身が裂けたように砂浜に落下していった。

 

 

「折れちゃった」

「あァ!?」

 

 

 刀が壊れるのはよくあることではあるが、夜が来る前に予備を取りにいくのは面倒だ。

 

 

「おいメルリオール、お前相手に刀は魂とまでは言わねェが、自分の得物くらい丁寧に扱え」

「壊そうと思ってはやってないよ。ちょっと力籠めると壊れちゃうんだもん」

「下手な奴の言い訳だな。確かにお前、剣は無茶苦茶だったか」

「うるさいぞ」

 

 

 貸してみろ、とゾロがメルリオールの折れた方の刀に手を伸ばす。大人しく中ほどからバラバラになったそれを手渡せば、一度軽く素振りした後にスッと息を吸い込んだ。

 ぶおん、と空気を裂いて、目にも止まらぬ速度で折れた剣が何度か振られる。おおーと歓声が少し離れたところから届き、そちらを向けばスイカが綺麗に六等分されていた。

 

 

「ま、こんなところだな」

「す、すごーい! サムライだ!」

 

 

 突き返された刀はヒビの部分はそのまま、けれどそれ以上欠けてはいない。綺麗に覇気が込められていたのは理解した。どんな鈍であろうと、彼にとってはよく研がれた刀と同じなんだ。これは相当高みにいる剣士の芸当だ、そう何度も拝めるものじゃない。

 

 

「もう一回やって!」

「あ? 今度はお前がやってみろ」

「待てメル、あれはもう切っちゃダメだ。おれが食べるから」

 

 

 言うなりルフィが部下たちの中に飛び込んでいく。

 

 

「ルフィ、あたしとメルのも取ってきて!」

「切ったのおれだぞ」

 

 

 ぴゅんと飛んでったルフィは全く話を聞いておらず、海兵を押し退けてスイカにかぶりついていた。どうせまだいくつか持ち込んでいるだろうから放っておくか。

 

 

「メルちゃん准将、食糧庫から追加で持ってきていいですか?」

「勝手にしろ。そんなに元気なんだったらカタクリのお菓子当番代わるか?」

「遠慮しまァす」

「お裾分けはここに置いておきやすね。いつもメルちゃんがお世話になっております」

「いつもってなんだよ。セリフそれであってんのか馬鹿共が」

「あら美味しそう。海軍も良い食材仕入れてんのね」

「……普段はこうじゃない。今回はたまたま」

 

 

 部下の何人かが果物を置いて去っていく。寄港した港で押しつけられたもので、そもそもカタクリとやり合ってたのも献上品が相当良い品だと見抜かれたことに起因している。因みにこれはばっちり収賄にあたるので、基地に戻る前に食べてしまわないとまずい。馬鹿が涎垂らしてなければ断って仕舞いだったので、この島に囚われた遠因はあいつらということになる。

 

 

「っておい、だからメロンは食べちゃダメだって言ってるだろ! 持って帰れ!」

「えー、一個くらい良いじゃないっすか!」

「ダメって言ったらダメ! こっから出れたらあげるんだから」

「へーい……」

 

 

 メロンを抱えてえっさほいさと森の中に戻っていく部下に溜息一つ。これまでの巻き戻しの中で命知らずの馬鹿どもが何回か手を付けてるのは知っているけど、そろそろ厳しくした方がいいかもしれない

 

 

「あげるって、あんな上等なメロン、誰にあげるの?」

 

 

 ナミの言葉に顔を上げて、見ればわかるだろうと顔を顰める。

 

 

「カタクリだけど。これ有名なやつで美味しいんだって」

「えっ……。メ、メルちゃん? それ大丈夫なの?」

「何が? 欲しいって言うからあげるだけだよ。他にも欲しいのがあったら選んでもらうけど」

「うそ、この子どうやって生きてきたのかしら……」

「なに、なんか変なとこある?」

 

 

 産地の方を襲ってないのだから、たまたま持っていたメルリオールがあげるだけだ。根こそぎ奪おうというわけでもないし、戦いが終われば差し出しもする。勿論、メルリオールが勝ったらあげないけど。

 こういう平和的なやり方で狙ってくるなら、メルリオールだって生産者との仲介をしてあげるのに。

 

 

「……はあ。ホールケーキアイランドであんたが妙に余裕そうだった理由が分かったわ。あんたカタクリ相手に相当なことをやらかしてきたのね」

「あっちが襲ってくるだけだけど」

「はいはい」

 

 

 山盛りの果物は確かに上等だが流石にもう食べ飽きた。注意深く覇気を纏わせて刀を振り下ろせば、離れたところにあるリンゴの一つがパックリと割れる。

 

 

「あら、メルリオールも出来てるじゃない」

「出来てねェだろ」

 

 

 ゾロが素気なく言い捨てた。確かに、出来てはない。戦闘中に剣をせっせと覇気でコーティングしている時間なんて無駄でしかない。剣士であれば手足のように熟すであろうそれが、メルリオールはいまいち得意じゃなかった。

 

 

「やっぱ剣は苦手だー」

「そんなこと言ってっと、いつか大事な刀を貰った時に苦労するぞ」

「大事な刀ァ? そんなの贈って来る奴がいたとしたら、そいつはメルリオールのことを分かってないね!」

 

 

 ぷい、と顔を背けてみせるも、ゾロとナミは何故か大口を開けて笑い始めた。

 

 

「なんだよ」

「ふ、いや。そうだな、お前なんで得意でもねェ刀をぶら下げてる? 銃以上に思い入れねェだろ」

「む。それは……。優秀な海兵は武器を選ばないって師匠が言うし」

「他は?」

「別にー。それだけ」

 

 

 そういや、と声が上から降って来る。相変わらず釣竿を構えたままの男二人からだ。

 

 

「メルっておれが会った頃には結構ちゃんと刀使ってたけど、昨日は投げ捨ててたよな」

「付け焼き刃だからな。ちゃんと使い始めたのは海兵になる直前だ」

「メルっていつから海兵だった?」

「14」

 

 

 2年か、というような視線が向けられて居心地が悪い。ローもなんで言っちゃうかな。

 

 

「トラ男はメルといつから知り合いなんだ?」

「同じだな。14の頃からだ」

「ホー。お前も刀使ってたよな?」

「違ェよ、そういうんじゃない」

 

 

 邪推を溜息交じりに否定して、メルリオールは折れた刀を鞘にしまった。

 

 

「拳より遠くに届くものが必要だっただけ。その点銃の方がまだ機能的だ」

「リーチの問題なら尚更ポキポキ折るんじゃねェよ」

「私は世界一の見聞色使いなんだからちょっとくらい武器が使えなくてもいいの! これから強くなるし!」

「世界一たァ大きく出たな……」

 

 

 呆れたような物言いだったが、否定のニュアンスは含まれていなかった。ともすれば教示しようという気概すら見える。未来でメルリオールが仲間になるからだろうか。それとも、さっさとホワイトをどうにかして欲しいからか。

 

 

「お前の白鳴……覇気そのものは刀に流すにはコツが要る。一旦武装色の覇気だけに絞ればやりやすくなるだろ」

「それって弱くない?」

「刀折るよりマシだろ。どうせトドメには使ってねェんだ、今はな」

「そういうもんか」

 

 

 呟いて、メルリオールは一瞬自分の腰元に視線を落とした。

 ああは言ったものの、メルリオールが刀を使うのはとある海兵の真似だ。かっこいいから、とか憧れたから、とかそういった類の理由。その辺の話を仲間だという彼らが知らないのは、未来のメルリオールの意思によるものだろう。捨ててきてしまった大切なものを覆い隠して、曝け出せないのだ。

 

 

 そうであるなら。そんな未来には進みたくないなと内心呟いた。

 

 

 チクリと胸が痛む。

 

 

 ──どうせ元々、なにも大事にできない癖に。

 

 

「リオ」

「ん?」

 

 

 俯いたその時にローが上から降りてきて、釣竿をゾロに押し付ける。「借りてくぞ」と一言告げてメルリオールの腕を取った。

 

 

「なに?」

「悪い傾向だと思ったんでな。お前らのせいじゃねェが」

 

 

 言いながら目を丸くしてる二人に首を振る。

 

 

「そ。ならトラ男くんに任せるわ」

「行くぞ、リオ」

「どこに?」

「夕飯までには戻ってきなさいね。サンジくんのご飯を逃しちゃうのは勿体無いわ」

「ああ」

 

 

 行き先には返事がなくて、戻りの時間だけを指定された。手を振って別れて、そのまま森の中に突っ込んでいくローを追って行った。

 

 

 







実は
・幼少期かなりの長髪だったリオの髪を顎下くらいまで切り落とした人がいる
・『メルリオール』の名は『リオ』と『すべてを救う』の『オール』からなっているんですが、ここに「おれにとってお前は海だ」と言って海(MER)を付け足した人がいる
・リオ/メルを神として扱って信者(意訳)を自称していた人がいる
ついでにこれがすべて同一人物だ、というおまけを書こうとして「これホラーじゃないか?」となってやめたヤツがあります。

多分どれだけ勘が鋭くてもこの人がこんな爆弾過去持ちながら本編中リオに平然と接していたとは思わないと思うので……。

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