未来が視える元海兵が麦わらの一味について行く話   作:テロン

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 24日目。『昨日』と称すべき時間軸。北の湖畔。

 

 

「面と向かって話すのは初めて……という話でもないらしい」

 

 

 口火を切ったのはジンベエだった。メルリオールを連れて離脱したトラファルガー・ローの気配が完全に消えてから、秒針が回りきるだけの時間が開いている。

 麦わらのルフィ、海侠のジンベエ。共にカタクリにとってはつい最近見かけた面だった。

 

 

「出来れば二度と見たくなかったがな」

「リオが呼んじまったんだろ? じゃあ仕方ねェよな」

 

 

 詳細不明なこの島に閉じ込められてから、既に1月近い日数が経過している。その間決して手をこまねいていたわけてはないが、停滞していたのは事実だ。

 

 

 知らないはずの記録がある。体験したというにはどこか薄い膜を通したように遠い話で、話に聞いたとするには実感が強い。

 

 

 未来には決して無視することのできない光景が待っていた。どれほど強靭な精神力の持ち主であろうと、現実よりもそちらに気を取られる。どんな結果であろうと、静観は許されない。

 

 

 視えた以上、行動しなければならない。その強制力を思えば、メルリオールの未来視が同じように行われることは想像に難くない。

 

 

 であれば、この現象には必ずメルリオールが関わっている。

 

 

「どこまで把握している。白ひげから話は聞いたか」

「久しぶりだなァって話は最初に会った時したぞ?」

「エースくんと先に行った時か」

「そう!」

 

 

 呑気な声に首を振って、カタクリは「愚かにも程がある」と呟いた。

 

 

「貴様らも、あれも。このおれも」

 

 

 この島に足を踏み入れて、事態を把握して。まず初めに沈黙を選んだ。

 途中で老強者の参入を検知した時も、あの少女を先に叩き潰し、接触を遅らせた。

 

 

 そこにあるのは情ではない。

 一度送った賞賛が当人に台無しにされることへの怒りだ。

 

 

 『メルリオール』が一度でも翳ることを、カタクリは望まない。どれだけ傷付き泥に塗れ、絶望を味わったとしても、一度掲げた理想を取り下げることは許さない。

 その器を鮮烈に見せつけた以上、あれは、最後に辿り着いた地点をカタクリに見せなければならない。

 

 

 その為に、生かされている。

 

 

「なら」

 

 

 麦わら帽子の青年はニコリと笑いながらカタクリを見上げた。

 

 

「ここは、メルの為の島なんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方。

 

 

「お久しぶりです、とこうして言うのは少し不思議な感覚ですね」

 

 

 島内の探索をしようと森に踏み込んだ先で、一行は突然駆け寄ってきた海兵数名を前に困惑していた。メンバーはウソップ、ロビン、フランキー、ブルックの4人。お互い顔を見合わせて、首を振る。

 

 

「どこかでお会いしましたか? 私、ちょっと覚えがないんですが!」

「そっちのはこの島で最初にメルリオールと会ったときに隣で銃構えてたやつだろ?」

 

 首を傾げたフランキーが、「にしてはもっと前に何処かで見かけたような……」と呟く。

 中央の一人、サーベルを腰にぶら下げただけの簡素な格好をした海兵は、「レクター中佐です」と敬礼をしてみせた。左右の面々も、「タガタ曹長です」「同じく、ジェットです」とそれぞれ敬礼をする。

 

 

「ブルック殿とは初対面ですが、お三方にはドレスローザの折にて少しだけ」

「ん!?」

「ドレスローザ? ……ドレスローザですって!?」

 

 

 愛と情熱の国、ドレスローザ。麦わらの一味がドフラミンゴファミリーの圧政からその国を救ったのは事実である。が、それはつい最近の話だ。

 10年前の人間が口にすることではない。

 

 

「おいちょっと待て、まさかとは思うがな……」

「いえ。薄々、何かあるとは思ったわ。エース、彼はルフィの胸の傷について何も言わなかった。あんなに大怪我なのに。それに……。彼も白ひげも、不自然なくらい未来のことについて言及していない。私たちに対する態度も、いくらメルリオールの紹介だからって緩すぎるわ。貴方たち、もしかして……」

「流石、鋭いですね。大凡はご認識の通りかと思います」

 

 

 それから伝えられたのは、メルリオールを除いて共有されていたこの島の真実。

 

 

「上陸とほぼ同時にメルさんが気絶した後、海賊カタクリが本船を襲撃しました。しかし、我々は半ばパニック状態でした。なにぶん10年分の記憶が襲ってきたわけですからね」

「そりゃあ、そうもなるわな。けど、それはカタクリって奴も同じだったわけだろ?」

「そうです。自分だけではないと認識したカタクリは『メルリオールの仕業だ』と言いました。当時気絶していたメルさんに対してです。本人も半信半疑のようでしたがね」

 

 

 外部と連絡が取れないこと、どれだけ進んでも島から離れられないこと。これらをレクターたち海兵を使って確かめたカタクリは、早々に仮説を立てていた。

 

 

「この島の何かがメルさんの力を触発して、結果として我々を閉じ込めたのでは、ということでした」

「メルリオールの力っていうと……」

 

 

 未来視の力だ。詳細に未来の状況を現実に描き、それを知覚する力。

 

 

「一応我々、知らないことになってますので、言及はご遠慮願います」

「その言い方は知ってる奴の言い方だけどな」

「なんのことでしょうか」

 

 

 太々しくとぼけてみせたあたりに、新世界の海を渡ってきた古参の海兵の胆力が垣間見えた。

 

 

「話を戻します。当初の仮説はメルさんがシュミレートした未来の中に閉じ込められたのでは、というものだったわけですが、それは違うということがすぐに分かりました。理由はご存知の通りかと」

「ホワイトの存在ですね」

 

 

 レクターの言葉はブルックが後を引き継いだ。

 ホワイトはどう見てもメルリオールだ。メルリオールが分身している、ないし分裂したのでは、と考えられる。あれが出現した時点で、メルリオール個人に責がある可能性はグッと低くなった。彼女も被害者の一人ということだ。

 

 

「けど、ホワイトって夜にならねェと出てこないんだろ? 言っちゃなんだが、その前にメルリオールを起こして脱出しようとはならなかったのか?」

「メルさん、気絶すると中々起きないのですよ。普段眠りが浅いので、一度倒れるとその分寝てらっしゃるんでしょうな」

「カタクリも諦めたのか、それ……」

「起きる未来が視えなかったらしく、早々に諦めましたよ。彼、案外寝かしつけが上手いんですよね。大家族の兄となると経験豊富なんでしょうな」

「ヨホホホ、それは良かったです。仲間が傷付いた、なんて話は聞きたくありませんからね」

 

 

 ブルックの言葉に、レクターは誇らしげに頷いた。どうやらそこに至るまでにメルリオールの部下とカタクリの間でそれなりの騒動があったらしい。

 

 

「それで、貴方たちはメルリオールが10年分の記憶を受け取っていなかったことを知ったのね」

「巻き戻しのおかげで壊れた軍艦が直った時は、大喜びの前に困惑でしたね。そんなわけで、メルさんは関係してるにしても、事態はもう少し複雑であろうと思い直しました」

 

 

 そうこうしているうちに、島に異分子が現れた。白ひげと、火拳。状況は彼らと非常に似通っており、前と同じく気絶させられてメルリオールが不参加の中、短い情報交換の場が設けられたという。

 

 

「白ひげが言うには、やはりメルさんにしか解決できない事案だろうとのことです。ただし、メルさんに真実は伝えてはならないと」

「一応理由を聞いてもいいかしら」

「はい」

 

 

 首肯して、けれどレクターは「皆さんならご存知なのでは」と口を噤んだ。

 

 

「メルリオールが。あの子が、傷付く結果になるから、かしら」

 

 

 そうだとしたら、どれだけメルリオールという存在が尊重されていたのか。一度目を伏せたレクターは、上官を思わせる仕草で軍帽の鍔を引いた。

 

 

「カタクリは『直す方法がない中で壊れると脱出の手段がなくなる』としておりましたが、似た意味合いでしょう。メルさんがどのような方か、気付いてしまうとどうなってしまうのか。知りたくはなかったですが、私もドレスローザで折れた後のメルさんに会いました」

 

 

 ドレスローザで、という言葉にフランキーがあっと声をあげた。

 

 

「そうか、どっかで見たと思ったら、あの時リオが連れてた海兵か! 元おもちゃの!」

「そうです、フランキー殿。メルさんの指示で貴方の鳥カゴ押しに参加していました」

「本当に知り合いだったのか! おいおい、じゃあ昨日出会い頭に銃ぶっ放す必要無かっただろ」

「そこは任務ですので」

 

 

 実直そうな顔をしながらも、レクターはあっけらかんと言い放った。

 

 

「それで、皆さんは探索ですか? 必要であれば小官が島を案内いたします。南側であれば自由に探索していただいて構いませんよ」

「北は何故ダメなんですか?」

「ダメ、ということはありませんがメルさんは嫌がるでしょう。あの方は手の届かないところで見知った人間が傷付くことを恐れますからね」

「まあ、そう言うメルちゃんはちょくちょくおやつ持って北に遊びに行ってるんだけどな」

「白ひげがあんま構ってくれてないからなァ……」

 

 

 よくメルリオールのことを知っている人間の語り口だった。レクターはどこか浮き足立った様子で返事を待っている。

 

 

「では、今日は南側だけの探索にしましょうか。そもそも、我々が脱出方法を探る必要もなさそうですしね」

「メルリオールにしか解決できねェなら、おれたちは待つしかないってことか。けど、あいつが梃子摺ってんのは新鮮だな」

「あの子なら心配は要らないわ。きっと最後にはどうにかしてくれる。過程の迷走は置いておいて、ね」

 

 

 ロビンの言葉に仲間内で笑っていれば、レクターが楽しげに目を細めた。

 

 

「どうです、昔のメルさんも立派でしょう。幼いながらに大役をこなしてますが、あれで案外抜けてるところもあって、そこを突くとぷんぷん怒るのですよ」

「そうやって揶揄われるのも怒るけどな、メルちゃん」

「おや、では我々に言ってしまっていいのですか? メルリオール准将に叱られるのでは」

「ははは、良いのですよ。准将からは事あるごとにクビにしてやると言われておりますがね。メルリオール准将の副官は私にしか勤められないと自負しております」

 

 

 それからレクターは、メルリオールの奇行の数々をいくつか挙げ列ねた。

 嵐が襲ってくると言いながら逆走し、結果大嵐に突っ込んでいったとか、一月無補給で航行し続けたら案の定漂流し、血眼で拿捕する海賊船を探していただとか、常に四皇に喧嘩を売るので勤続2年で既に軍艦を4隻も沈められているとか。

 

 

「皆さんからして4年前にドレスローザ偵察の任を請け負うまでは、なんだかんだと言われながらも勤め上げましたので。その間何度死にかけたか分かりませんが、可愛いものですよ」

 

 

 4年の間世界から忘れられ、おもちゃとして異国の地に捕らわれた海兵は、「いつも助けに来てくれますしね」と快活に笑い飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「メル」

 

 

 不安気に視線を揺らす子供が、白ひげの声に顔を上げる。

 この無人島に囚われてまだ三日と経っていない頃。末の息子に席を外させて、白ひげはメルリオールと向かい合っていた。

 

 

「お前、おれが死んだら何をする?」

「は、あ? いきなり何?」

「腑抜けた返事すんじゃねェ。聞いてんだろ、おれが死んだらどうする?」

 

 

 乾いた唇をただ開くだけのメルリオールは、怪我も無いのに身体中に包帯を巻き付けられている。やったのは彼女の部下で、足りなくなった救急物資を提供したのは白ひげで、巻かれている間逃げ出さないよう押さえつけていたのがマムの倅だ。

 

 

 ──これだけ巻き戻るのであれば、恐らく死人も生き返る。但し死んだ後リセットまでの空白に手がかりがある可能性は高い。死のうと思ったわけじゃないけど、無駄じゃなかったと思う。

 

 

 そういう理屈で、メルリオールはホワイトとの戦闘中覇気での防御が乱れたことと、結果として特に成果もなかった致命傷の言い訳をした。

 死に際の義弟のトラウマを抉ったことを本人は知らないが、リセット後も続いた無意味な救護と説教の後、唯一何も発言をしなかった白ひげの元に逃げ込んでくるくらいには罰の悪さを感じているのだろう。

 

 

「……昨日の話をしてるんなら、生き返る確信はあったって言っただろ。そもそも死ぬなんて思ってなかったし。焦ってて……マグマの方に気付かなかった。未来視がないんだし、自然相手の警戒は自分でしなきゃ行けなかった。反省してるよ」

「カタクリの坊主から離れたこともだ」

「あっちが着いてこれなかったのがいけないんじゃん!」

「メル」

「……はい。ごめんなさい」

 

 

 年相応に不貞腐れた子供を前に、白ひげは再度「それで、どうするんだ」と促した。自分が死んだらなにをするのか。

 

 

「その話まだ続くの?」

「こっちは最初からこの話しかしてねェ。昨日の話だのなんだと持ち出したのはお前だ」

「意味わからん。そんな先の話してどうすんの」

「先かどうかは分かんねェだろ。どっちにしろ、おれはお前より先に死ぬんだ」

 

 

 年齢的にも、と付け加えたのは優しさだろうか。

 その言葉でようやく思考を回し始めたメルリオールは、戸惑いながらも口を開いた。

 

 

「どうも、しないよ。私は変わらず海にいるだろうし、お前の抜けた後の混乱を収めようと駆け回ってるんじゃないの」

 

 

 果たしてそうだろうか。白ひげはその答えを知らないが、そうはならなかっただろうという確信があった。

 その答えを知りたかったのかもしれない。「変わらず元気にやってるよ」なんて言葉がホワイトから零れてきやしないかと、白ひげは毎夜火山を見上げている。

 

 

「恩知らずな奴だ。墓に酒を供えるくらい言えねェのか」

「死んだ奴に酒を渡してどうすんだよ。まあ生きててもお前にはやらないけどな。ちょっとは禁酒しろ」

「ふん。そうだ、それでいい。死人の墓前で泣くなよ。それよりお前は夢を語れ。10年後、20年後、この海はどうなってる?」

 

 

 時代というものは、個人が作っていくものだ。この世代が語って夢見る時代が、今後作られていく世界になる。

 

 

「四皇制度はそのままなんじゃないの。今その方向で動いてるし……。マムのとこはカタクリがいるし、赤髪の世代交代は流石にまだ先だろ? カイドウのとこは……。まともな奴がトップに殉じそうな気もするから他に政治が出来る海賊が成り上がるようなら交代して欲しいな。お前んとこは順当に行くならマルコでしょ。それかもっと調子がいいやつ。……それこそ、あの新入りとか、後10年もすれば立派な次代になるんじゃない?」

「海軍は?」

「ええー? うーん、センゴクさんが引退するなら次の元帥はサカズキさんでしょ。それ以外の体制大きく変わるかなァ」

「それで、お前は?」

 

 

 お前は何をする?

 繰り返し告げられる問いに、今度こそメルリオールは心の底から笑顔を見せた。

 一度失われたものだ。

 

 

「そりゃあ……もう。連日連夜ニュースを騒がす、『すべてを救った』スーパーヒーローだよ。楽しみにしててね」

 

 

 これを。もう一度取り戻す人間が現れることを、知っていた。

 

 

 






時系列としては、

①ローが「そろそろグランドラインに入るから対ドフラミンゴの準備をしておけ」と話す(話:『狂犬』メルリオール)

②ローの賞金が1億突破、メルリオールが訪問取りやめ
 副官らにドレスローザ調査任務を命じる

〜2ヶ月ほど〜

③正義お焚き上げ


という感じ

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