唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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101 船上は乙女の戦場 >> LOVE TACTICS ①

「おーい、久しぶりだね! 何でこんな面白そうなことしてんのさ!」

 

 

 神織達が警戒を深めていたのと同時期──船内に詰めていた薫織達に、気さくに声をかける少女が一人。

 

 そこにいたのは、小学生くらいの年齢の少女だった。

 

 濃紫の髪をポニーテールにしてまとめた、可愛らしい少女──だが、不思議とその所作には年季が感じられた。

 転生者にはよくある年齢と所作の齟齬だが──彼女に関しては、それが明らかに顕著だった。

 

 

(……薫織が言ってたっけ。前世の年齢がどうであれ、その世界で子どもとして生きていたなら精神的には子ども同然って)

 

 

 言った張本人である薫織や実年齢と外見が食い違っているピースヘイヴンや嵐殿といった例外があまりにも周りに転がっているが、実際に流知自身もそこは自覚がある部分ではある。

 

 その前提でいくと、小学生にも拘らず明らかに小学生離れしている態度をとっているのはなかなかに──少なくとも薫織と同レベル程度には──変わっているといえるだろう。

 

 

「おォ、妥暮(だくらす)の婆さんじゃねェか」

 

「婆さん言うんじゃないよ! アンタだって爺さんだろうが!!」

 

 

 小等部四年生

 不老長寿部所属 転生者

 妥暮(だくらす)瑠奈(るな)

 霊能名──『無名の詩(ユビキタス)

 

 

 突然現れた薫織と親し気に話す少女の登場に、流知は目を丸くしながら薫織と妥暮の二人を見比べる。

 

 

「薫織……お知り合いですの? というか婆さんって、このお方も実年齢と外見が食い違っているお方?」

 

「違わい! あたしゃピッチピチの一〇歳児だよ! 前世でババアまで生きたってだけさね」

 

「享年一八一の大往生ババアだ。(オレ)前世(むかし)からの顔馴染みでもある」

 

「薫織の……」

 

 

 言われてみれば、薫織との間に気安い関係性を感じさせる言動だった。

 

 この無法メイドが、本当の意味で無法のメイドだった時代。

 転生してから薫織と出会った流知としては、テレビの中で見たことがある程度の距離だ。

 その時代に、確かに『生きた人間』として交流していたのが、彼女ということか。

 

 

「ほーん? おやおや。まぁ心配しなさんな。あたしもあたしでやることいっぱい夢いっぱいだからねぇ。アンタのお気に入りのメイドを横から搔っ攫ったりなんてしないよ」

 

「なっ!?!?!?」

 

 

 唐突にからかうような笑みを浮かべた妥暮の一言に、流知は思わず面食らって言葉に詰まってしまう。

 

 

「何掻っ攫える気でいやがる。(オレ)が流知をご主人様と見定めたんだ。コイツが(オレ)を手放さねェ限り、隣から離れることはねェよ」

 

 

 そう言って、薫織は絶句している流知の頭に手を置いた。

 流知はそんな薫織の手を払って、不服そうに口を尖らせる。

 

 

「それもそれで心外ですわ。わたくし達は対等な友人関係ですもの」

 

 

 ご主人様とメイドという関係性ではあるが、それはあくまで表層的な関係性に他ならない。

 具体的に金銭を軸とした雇用関係を築いている訳ではないし、関係の決定権がどちらかに委ねられているといったこともない。

 それにそういった雇用関係では、相手のことを人間的に尊敬しているという一番大事な構成要素が抜け落ちている、と流知は思う。

 

 

「…………ま、そうだな。今のは失言だったか」

 

 

 対する薫織は少しだけ間が空いたが、そう言って苦笑するだけだった。

 

 流知は釈然としないながらも矛を収めて、それから改めて妥暮の方へ視線を向け直す。

 

 

「改めまして、ライ研の部長、遠歩院流知ですわ」

 

「あたしは不老長寿部部長の妥暮瑠奈だ。夢は不老不死。よろしくねぇ」

 

「ふろっ……よ、よろしくお願いしますわ」

 

 

 当たり前の様に断言する妥暮に、流知は思わず面食らった。

 

 流知が動揺したのを見て取ったのか、妥暮は心外そうな調子で続ける。

 

 

「不老不死って聞いてちょっとヒいたね? 不老不死アンチのエンタメの見過ぎじゃないかい? 人間の人生は限りあるから素晴らしいものとか、自然の流れに身を任せるとか。

 そんなもん実際にババアのまま一〇〇年近く生きたことがないヤツの戯言だよ」

 

 

 ──流知が生きた前世の世界では、人生一五〇年時代と言われていることが多かった。

 

 健康寿命は一〇〇歳を超え、一二〇歳で死んだ人間が『まだ若かったのに』なんて言われるような時代である。

 しかし医療技術の発達によって内臓寿命が飛躍的に伸びたとしても、美容技術の発達によって外見年齢が若々しくなったとしても、根本的な肉体の『老い』を遠ざけることができる訳ではない。

 

 真の意味で若い時期は早々に終わり、技術によって成り立った『老い』の中で悠久の時を過ごす人生。

 それが、流知の時代における長寿というものだった。

 もっとも流知は、『老い』を体感する前に命を落としてしまったのだが。

 

 

「あたしは、不老不死を手に入れる。お誂え向きに、この世界じゃ不老長寿の実例に事欠かないからね!

 そして永遠に若々しい肉体を手に入れてこの世界を思うさまエンジョイし尽くすのさ!」

 

 

 ──そう語る妥暮の横顔は、夢を見る童女のような若い活力に満ち溢れていた。

 

 

 しかし、流知の反応の歯切れが悪かった理由はそこではなく。

 

 

「……いえあの、不老不死の夢は素敵だと思うんですけれど、不老不死と聞いて咄嗟に会長の顏が頭をよぎってしまって……」

 

「…………………………」

 

 

 人間のまま不老不死を成し遂げた前例が、あまりにもアレすぎたためであった。

 不老不死という概念に対するとんでもない風評被害である。

 

 力強く語っていた妥暮だったが、そう言われてしまうとなんとも言えない。

 世にも微妙そうな表情を浮かべた幼女という気まずすぎる情景を前にして、流知は慌てて話を変えようとして──そこで気付いた。

 

 

「あれ? そういえば佐遁さんはどちらにいらっしゃいますの?」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「…………何の用?」

 

 

 甲板に上がった載原は、柵に身体を預けて海を眺めながら、不意にそう問いかける。

 一瞥すらしていなかったにも拘らず、自分の背後に誰かがやってきたことを確信しているかのような迷いのなさだった。

 

 しかし、声をかけられた相手もそれに対して別に動じることはない。

 

 

「何の用って、白々しすぎないかしら?」

 

 

 佐遁佳代。

 

 恋に生きる女転生者は、載原の後ろに佇んでいた。

 

 

「用件なんか、とっくのとうに分かっているでしょ。抜け駆け女」

 

 

 ──一人の少年を巡る恋の鍔迫り合いは、新たな局面を迎えようとしていたのだったっ!!

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