唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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103 船上は乙女の戦場 >> LOVE TACTICS ③

「……佐遁さん、まだ戻ってきませんわねぇ」

 

「そうだな……。載原を追ったんじゃねェか? アイツの性格上、そろそろ我慢が利かなくなる頃だ。転生して短気が治ったんなら別だがな」

 

 

 佐遁と載原が甲板で対峙していた、ちょうどその頃。

 

 船室内では、薫織と流知がのんびりと会話していた。

 

 

 

 現状、船室内にいるツアーメンバーには三つの集団(グループ)が存在している。

 

 

 一つは『正史』組。

 

 神織悟志と剣菱綾乃(とこの場にいないが載原凛音)だ。

 彼らは船室内のソファに座って談笑している──が、浄蓮から何かを吹き込まれているのか、薫織達に対して一定の警戒をしているらしい。

 

 それでいい、と薫織は思う。

 客観的に見れば、薫織達は得体の知れない生徒会長に協力している得体の知れない組織である。

 むしろ警戒していなかったら能天気すぎると喝を入れるところだ。

 

 

(それに、その程度のすれ違いを神織悟志が自力で乗り越えられねェはずもねェ)

 

 

 ゆえに、泰然自若。

 

 ある意味『正史』を妄信している転生者と変わらない強度の信頼を、しかし薫織は確かな経験から来る観察眼によって実現していた。

 

 

「にしても、暇ですわねぇ~。ツアーと銘打っているならもっとこう、移動中も何かしらのアナウンスを入れたりするものではなくって?」

 

「この状況でツアー内容に文句をつけられるような参加者、テメェだけだよ……」

 

 

 能天気の極みでしかない流知の感想に、伽退が呆れながら返す。

 

 

 もう一つは、『主催』組。

 

 此処に属するのは、園縁薫織、遠歩院流知、トレイシー=ピースヘイヴン、嵐殿柚香、冷的静夏、伽退悠里。

 先程までは此処に佐遁佳代もいたが、彼女は根本的に別グループである。

 

 

 そして最後の集団(グループ)というのが──

 

 

「ねねね、お嬢ちゃん! アンタそのナリ天然!? それとも霊能でなんとかしてんの!?」

 

 高等部二年生

 体内木行研究部所属 転生者

 春桁(はろげた)淘汰(とうた)

 霊能名──『無敵管弦楽団(ノイジーサイレンス)

 

「鬱陶しいねぇ! あたしのナリは()()天然ものだよ! デリカシーとかないのかいこのガキは!」

 

「あー……うるせぇ……」

 

 高等部二年生

 帰宅部所属 転生者

 灰咬(はいかむ)(れん)

 霊能名──『小さな熱的死(コズミックエンド)

 

 

 先程薫織と接触していた幼女──妥暮に絡む陽気な少年と、彼と行動を共にしているダウナー気味な雰囲気の少年。

 

 

「いやごめんごめん。俺の夢の為に必要なことでさ……」

 

「夢ねぇ……」

 

「淘汰、その辺にしとけ。こんなとこで大声で話すようなことじゃないだろ、()()……」

 

「は? 俺は己の夢に何一つ恥じねえけど?」

 

「そういうことじゃ……あー……面倒くせぇ」

 

 

 どうやら、二人の少年は既にある程度交友があるらしかった。

 あの分では、なりゆきで妥暮も彼らと行動を共にすることになるだろう。

 

 そして残る面々は、集団に混じらず単体で行動している参加者だ。たとえば──

 

 

「………………」

 

 高等部三年生

 着ぐるみ研究部所属

 折草(おりくさ)エリ

 霊能名──『右手に金を、左手に嘘を(ハンドメイドアルケミスト)

 

 

 首から上がファンシーなクマのぬいぐるみになっている、高等部と思しき年頃の女生徒。

 

 ツアー参加者確認の際の生徒証では素顔を見せていたが、その時は取り立てて言うことのない平凡な顔立ちだった。

 それが何故か、着ぐるみ装備に進化している。

 ──生徒証の写真は入学時に撮影したっきりだから、入学後の心境の変化で幾らでも外見が変わるのは『この学園ではよくあること』なのだが。

 

 

「…………本人照会とかいいんですか? アレが素通りなら、なりすまし放題だと思いますが」

 

「それなら心配要らないよ。私は彼女が着ぐるみを被る様になったきっかけも知っているし……本人照会なら霊気で済ませてある」

 

「……霊気で??? どういう原理で???」

 

 

 当然だが、普通の陰陽師は霊気で他者を識別することはできない。

 世界でも上から数えた方が早い薫織ですら、霊気での個人照会なんてことは『やろうとすら思わない』領域である。

 

 もちろん『神様』のような霊気を直接扱うことのできる生態を持つ存在であれば別だが──逆説的に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とも言える。

 

 

「はっはっは、企業秘密。どのみち私くらいしか使えないよ」

 

「なんだかんだ適当コいてるだけじゃねぇかな、この黒幕野郎……」

 

 

 いかんせん前科があるので何とも言えないのが悲しいところだった。

 

 ともあれ、流知が確認した生徒証の人物と着ぐるみ少女の本人確認は(ピースヘイヴンによって)取れているということで良いらしい。

 

 

(あの生徒証の写真だと、割と普通というか……どちらかというと快活な印象を感じたんだけどなぁ……)

 

 

 流知はぼんやりとそんなことを想いながら、着ぐるみ少女を見る。

 

 着ぐるみで顔を隠し、特に会話もしないという態度からは、かなり内気な印象がある。

 しかし、生徒証の写真はそんなに内気な印象を与えなかった。

 その印象の落差が、流知には何か引っかかりを感じさせていた。

 

 

(まぁ、多分入学してから何かあったんだと思うけど……)

 

 

 如何せん、この学園には──というかこの世界には、悲劇がありふれすぎている。

 何かしらのきっかけがあって快活な少女が着ぐるみ少女に転身してしまっても何らおかしくはなかった。

 

 

 残る生徒は二人。隅の方にいる燻市ともう一人──

 

 

「やぁやぁ、メイドさん! 久しぶりですね~! 私が入学する前ぶりですかね!?」

 

 高等部二年生

 実践的霊木機戦研究部所属

 能北(のうほく)巳鶴(みつる)

 霊能名──『透き通った地雷原(ハザードスフィア)

 

 

 ──やってきたのは、中性的な印象を持った美少年。

 

 またしても薫織に対し親し気に接してくる少年の存在に、流知が俄かに警戒の姿勢を見せる。

 

 

「あーお前か……」

 

 

 しかし、薫織の対応はというと、先ほどの友好的なそれとは似ても似つかない態度だった。

 

 誰に対しても一定のラインを崩さないこのメイドが明確に『嫌な顔』をするというのが意外で、流知は思わず薫織の横顔を食い入るように見つめてしまう。

 

 

「コイツは能北巳鶴。……平たく言えば、変態だ。関わり合いになるなよ、お嬢様。色々面倒だからな」

 

「失敬ですね~。彼女には可能性を感じているけど、現時点で遊ぼうって気はないですよ」

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 へらりと笑う能北に、薫織は溜息をついて言った。

 

 流知はいよいよ我慢できなくなって、

 

 

「どういうことですの? もう少し詳しく説明してくれませんこと?」

 

「……園縁さんと同じ、『民間』の陰陽師ですよ」

 

 

 流知の疑問に答えたのは、伽退だった。

 

 外での活動歴がある伽退は、流石に外で活動している陰陽師についても多少の知識があるらしい。

 

 

「といっても、怪異災害から陰陽犯罪までマルチに請け負っていた園縁さんとは違い、能北さんは()()()()()()()ですが」

 

「あはは、人型なら『怪異』も討伐しますけどね~」

 

 

 にこにこ笑顔のまま、能北はあっさりと答える。

 

 

「人と鎬を削るのが好きなんですよ~。同じ前提条件から、個々の積み重ねをぶつけ合う! その迸りに快感を覚えるんです~!」

 

 

 即ち、バトルジャンキー。

 

 流知の脳裏に、『内弁慶どもの社交界(ゲームチェンジャー:タイプ2)』のスレッドにいたバトルジャンキーと思しき書き込みが過ぎっていく。

 転生者の中にそういうタイプがいることは、流知も分かっていたが……。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()、だろ?」

 

 

 能北は、その地点に留まらなかった。

 

 

「この変態は、プライドが高い上に捻くれたマゾヒストでな。自分が最善を尽くして本気で戦った上で、ちゃんと負けることに快感を覚えるんだよ」

 

「……………………ん~???」

 

 

 情報が、流知の情報処理能力の限界を超える。

 

 

「変なところで面倒見がいいから、自分を負かせそうな見どころのあるヤツの世話をしたりすることもある。

 ……それだけなら強者以外は無害なんだが、見どころがなさそうなヤツを甚振ってギリギリのところで覚醒しないか試したりもするから始末が悪い」

 

「うわー………………」

 

 

 流知は、先ほど剣菱が問題児の一例として能北の名前を挙げていたことを思い出す。

 

 そんな調子で誰かれ構わず喧嘩を売っていたら、そりゃあ問題児として記憶もされるだろう。

 はた迷惑にも程がある。

 

 

「その点で言うと、メイドさんは理想なんですよ~! 火力が低い代わりに敏捷性と戦略で詰めていくタイプでしょう? メイドさん。

 そういう相手はじりじりと削られながら敗北を噛み締めることができるから、最高ですね~!」

 

「…………ってな感じで、お嬢様と会う前につき纏われてた時期があってな。入学してからは避けてた」

 

「お、おほほ……」

 

 

 最早笑うしかなかった。

 

 冷的なんかは既に小動物みたいにぷるぷる震えて流知の後ろに隠れているほどだ。

 流知を盾に使うくらいだから、よっぽど怖いのだろう。

 

 

「正直、犯罪者(こちら)側でないのが信じられないレベルの危険人物ですね」

 

「いやぁ、『笛吹組』の構成員に比べたら私なんて善良な一般市民にすぎませんよ~」

 

 

 『笛吹組』。

 その名前を引き合いに出された瞬間、伽退の醸し出す雰囲気が一瞬だけひやりと温度を落とした。

 

 流知は意識的に手を叩いて、ピースヘイヴンに提案する。

 

 

「そ、そうですわ! せっかくのツアーイベント、既知のメンバーと固まって交流がなくては勿体ないのではなくて? 皆で集まってアイスブレイクをしてみては?」

 

 

 提案を受けたピースヘイヴンははたと意外そうな表情を浮かべ、

 

 

「ん……そうだな、言われてみれば。そのへん全く何も考えてなかった」

 

「オイ、ぐっだぐだじゃねぇか……」

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