唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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104 船上は乙女の戦場 >> LOVE TACTICS ④

「そういうわけなので、自己紹介がてらレクリエーションでもしようか!」

 

「無軌道にも程があんだろ……」

 

 

 船室にて。

 

 ピースヘイヴンは、そんな思いつきとしか思えないテンションで(そして事実多分思い付きで)楽し気な宣言を始めた。

 

 その言葉を受けて、それまでバラバラに活動していた全ての集団(グループ)の視線がピースヘイヴンに集中する。

 

 その横で苦言を呈する役割を担っている伽退は、自分の立ち位置が脇の甘いリーダーを補正する相談役(メンター)そのものになっていることに気付いているだろうか。

 

 

「おー、何かやってる?」

 

「………………」

 

「お、佳代。戻って来たか」

 

「あー、凛音。ちょうどよかった」

 

 

 そのタイミングで、甲板から佐遁と載原が戻ってきた。

 

 戻って来た佐遁を薫織が、載原を神織が出迎える。

 役者が揃ったのを確認したピースヘイヴンは満足げに頷くが──

 

 

「でもレクっつったって、具体的に何をするんだい? あたしらは船の上だし、見たところ特に設備があるって訳でもなさそうだが……」

 

 

 辺りを見渡しながら、妥暮が問いかける。

 

 実際、思い付きで言っているのだからレク用の設備がないのは当たり前である。

 あまりにも酷すぎる話だった。

 

 しかし、ピースヘイヴンは得意げに笑い、

 

 

「おや。随分常識的な発想じゃないか、妥暮君。霊能によって己の身体すら捻じ曲げて不老不死の実現を目指している君らしくもない」

 

「…………霊能の情報(ヒント)を勝手にバラすんじゃないよこのボケ」

 

 

 陰陽師にとって、己の霊能とはプライバシーに等しい。

 薫織のような手合いはまた話が別だが、みだりに他人の霊能については語らないのが『マナー』である。

 もっとも、このリテラシー皆無系黒幕にそんなものを期待する方が間違っているのかもしれないが……。

 

 

「ともあれ。設備がないなら作ればいい。その為の技術くらいは、君達も既に知っているだろう?」

 

 

 そう言って、ピースヘイヴンは座っているイスの下から切株のようなものを取り出す。

 

 ──シキガミクスを作成する為の材木を生成するシキガミクス。

 

 汎用五行のうち『発育』に特化したシキガミクスで、このシキガミクスを稼働させることで枝や葉から琥珀といったシキガミクスに必要なパーツを生み出し、シキガミクスを構築できるという代物である。

 

 陰陽師たちからは、『種株』と呼ばれるシキガミクスであった。

 

 

「……今からシキガミクスを組み立てるっていうのか? 流石に時間が足りなくないか?」

 

 

 ピースヘイヴンの動きを見ていた神織が、訝し気に呟く。

 

 応じて、佐遁の目が輝いた。

 多分、『状況を冷静に見極めている神織さんカッコイイ!』みたいなことを考えているのだろう。

 

 

「シキガミクスを作るという点では正解だな。だが、組み立てるという言葉は少し不適切だ」

 

 

 ピースヘイヴンの言葉と同時。

 

 ()()()、と。

 

 『種株』から、一匹の猫の形をしたシキガミクスが『伸びた』。

 

 

「…………は?」

 

「『種株』は『発育』に特化したシキガミクスだ。任意の素材を好きなように生やせる。……なら、最初から完成系の形で作ってしまった方が手っ取り早いだろう?」

 

 

 要するに、木材限定で自由に素材を選択できる3Dプリンタということである。

 

 もちろん内部血路についてはカバーできていないが──そこについては、そもそも完成品のシキガミクスを生成できる=設計図を脳内にインプットしている陰陽師であれば、さしたる問題ではないだろう。

 

 

「いや、いやいやいや待ってくれ」

 

 

 目の前で行われた光景に対して待ったをかけたのは、春桁──妥暮に絡んでいた陽気な少年だった。

 

 彼は、先ほどまでの調子からは想像できないくらい真剣に狼狽しながら、

 

 

「『種株』の『発育』なんて、部品単位で生成するのが精々だろ。それも、よっぽどの熟練者でも成形までやれたらいいほう。

 陰陽師なんて大抵は部品を生成したらそれを自力で成形しなくちゃいけないってのに……一体どうなってんだ」

 

 

 ──春桁の言う通り、『種株』によるシキガミクスの部品生成というのは、そこまで万能ではない。

 

 精々板材を生成したり大きな葉を生成したり琥珀を必要量生成したり、そういう部品レベルで発現するのが限度。

 極端な形状の素材を生成するには、それなりのシキガミクス操作技術が必要となるのだ。

 

 たとえば薫織ですら、シキガミクスの素材にする為の木材部分は自分で用意したものではなく、ツテのある業者から繊維素材を仕入れているほどである。

 

 その前提で言えば──最初からシキガミクスの『完成品』を出力するなど、常軌を逸していると言わざるを得ない。

 

 

「はっはっは。企業秘密さ」

 

 

 またしても鷹揚な秘密主義を掲げるピースヘイヴンだったが、そこで彼女はすっと真顔に戻る。

 

 いつもは憎たらしく細められていたその眼が、怜悧さすら感じさせる真面目さでその場の全員を見据え、

 

 

「……と言いたいところなんだがね。()()()()()()()()()()()

 

 

 そんなことを、言い始めた。

 

 

「どういうつもりですか」

 

 

 瞬時に、伽退がピースヘイヴンに食って掛かる。

 

 

 考えなくても分かる。これは、技術革命であった。

 

 

 現状、専用シキガミクスが破壊された陰陽師は、最低でも一日は専用シキガミクスを再作成できない──つまり戦闘不能となる(シキガミクスなしで霊能行使が可能な場合など例外はある)。

 

 しかし、この技術が齎されれば、数分でシキガミクスの再建が可能となる。

 内部血路を刻む手間を考えても、精々一時間以内──最適化すれば十数分程度で戦線復帰が可能となるのだ。

 それはつまり、敵機の破壊が勝利条件となっていた元来のシキガミクス戦のルールが変わるということでもある。

 

 正しく、技術の『世代』が変わる。

 

 

「私の持つ技術力はな、現行の陰陽技術よりも数世代先を行っている」

 

 

 伽退の問いに対し、ピースヘイヴンはあくまでも冷静に答えた。

 

 

「おそらくその技術力を野放図に撒き散らせば、世界の陰陽技術は今より格段に向上するだろう。

 私が提示した技術を種火にして、私すらも想定していなかった運用が生まれる形で」

 

「………………」

 

 

 伽退は、何も言えない。

 

 そしてそれは、その場にいた全員も同じだった。

 ……ピースヘイヴンの技術が無制限に世界に広まる未来。

 それが必ずしも世界をよりよい方向に導くとは限らないことを、この場にいる大半が理解していたからだ。

 

 

「ご存知の通り、私はこれでも秩序を司っている組織の長だ。

 これまでは、無制限な技術の開陳による社会の混乱を危惧してこの手の技術提供は避けるようにしていたんだがね……」

 

 

 ピースヘイヴンはそこで自嘲するような笑みを浮かべ、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 力強く、その真っ当な危惧に対して反駁する。

 

 

「世は怪異と対峙する時代に差し掛かっている。人間同士での反目があるにせよ、人類全体の技術力を向上させることには意味がある。

 そして──そうして向上した技術力による共食いが人類の破滅を齎す前に、良心がそれを食い止めてくれると『信じる』。私は、そういう道を選ぶことにしたわけだ」

 

「…………随分変わったねえ、アンタ」

 

「ご奉仕、してもらったからな」

 

 

 妥暮に向かってニヒルに笑うピースヘイヴンは、満を持してその場の面々にこう語りかけた。

 

 

「ではまず、『種株』にばーっと霊力を注いでだな」

 

「待て待て待て待て」

 

 

 突然の感覚派進行に、その場のほぼ全員が待ったをかける。ピースヘイヴンは楽し気に笑いながら、

 

 

「冗談だ、冗談。はっはっはっは」

 

「性質悪いわねぇコイツ!?」

 

「何を今さら。相手はピースヘイヴンですよ」

 

 

 ピースヘイヴンのお茶目なジョークはさておき、全員が手持ちの『種株』を取り出して、ピースヘイヴンのレクチャーに備える。

 

 そこで。

 

 

「待ってもらおうか」

 

 

 一人の少年が、声を上げた。

 

 

「あまり無秩序な技術の拡散はやめてくれ、生徒会長。お前の言っているそれは、善意の信頼という名の思考の放棄、無責任な被害の拡散でしかない」

 

 

 乱入者の名は、燻市大智。

 

 

 少年が掲げるのは、『正史の遵守』。

 この流れの先にある技術革新の結果、『正史』がどれほど歪むかなど想像もできない。

 即座に戦闘復帰ができたら情勢が変わるような展開など、『正史』には山ほどあった。

 そうした戦闘の勝敗がすべて切り替わっていったら、物語の展開は真逆になることすらあっただろう。

 そんな事態、到底容認できるはずもない。

 

 だからこそ──

 

 

「別にいいんじゃないか?」

 

 

 許さない。

 そう踏み込もうとした瞬間に、けろりとした調子で制止したのは──神織悟志だった。

 

 

「まぁ、技術革新が起きるってのは分かるけどさ、みんながプラスになることだろ? これ。ならそんな風に責めなくてもいいんじゃないか」

 

「そんっ……」

 

 

 ほかならぬ、『世界の当事者』。

 

 その彼自身に指摘されてしまったことで、燻市は言葉に詰まる。

 

 彼に限った話ではないが──『正史遵守派』の多くは、『正史を遵守できない場合の次善』として、神織をはじめとした『世界の当事者』の選択を尊重する傾向が強い。

 それは、彼らのことをどこかで『正史の一部』と捉えているからだ。

 

 その『正史の一部』と、意見が衝突してしまえば?

 反論して対立することは、『正史からの乖離』を招かないか?

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「それは……だが、この技術が犯罪者に渡れば……。……怪異がシキガミクスを活用する流れに繋がるかも……それに良心を信じるとか、そんな無責任な……」

 

「んー……。俺にはアンタが何を気にしているのか、良く分からないが」

 

 

 歯切れの悪くなった燻市の反論に、神織はあくまでも気軽な調子で言う。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 そんな、当たり前の指摘を。

 

 

「…………は?」

 

「だって、そうだろ。アンタは会長の責任についてどうこう言ってるけど、その理屈なら『広めない』判断を推してるアンタは、広めなかったことで犠牲になった人に対する責任を負うことにならないか?」

 

 

 世界を変えること。それに伴う責任。

 

 

「……意地が悪いから先に言うが、俺は選択した結果世界が変わったとして、そこに責任なんて生まれないと思っているよ。

 世界が誰かの行動によって変わった? そりゃあきっかけはあるんだろうが、だからといってきっかけに全ての責任も功績も背負わせるのは、それこそ『無責任』だろ」

 

 

 そんなものは、最初からありはしないのだと。

 『世界の当事者』なんてものは、誰かが勝手に規定した幻想でしかないのだと。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「結局、会長が望む方向に進むにも、アンタの危惧する方向に進むにも、誰かが働きかけ続けなくちゃいけないんだ。

 だから世界の良心を信じて働きかけていくっていう考えは、間違ってないと思う」

 

「…………………………………………………………勝手にしろ」

 

 

 燻市は、そう言って俯き、静かになった。

 

 

「……議論は済んだかね? では、まずは概説から始めようか。まずこの運用は、イメージを形にするところから始まり…………」

 

 

 そうして、ピースヘイヴンは講釈を再開する。

 

 まさしく世界を変えるに足る鍵となりうる情報を。

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