唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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105 船上は乙女の戦場 >> LOVE TACTICS ⑤

「そもそもの問題として──この世界の人間は、脳に記憶を保管しているとは限らない」

 

 

 ピースヘイヴンはまず最初に、そんなことを言った。

 

 この世界。

 その言葉に、少なくない転生者がピリつく。

 ──この場には神織悟志や剣菱綾乃といった『正史の当事者』達がいるからだ。

 彼らに転生にまつわる知識を伝えることは、全転生者がタブーとしていることである。

 

 しかしピースヘイヴンはそうした全員のピリつきをいともたやすく受け流し、

 

 

「たとえば、怪異の中にも獣ではなく人間相応の思考能力を持っている者がいる。

 考えたことはないか? 彼らの多くは霊気の塊であるにも拘らず、何故『記憶』ができるのかと」

 

 

 人間が情報を記憶しているのは、脳という臓器があるからだ。

 現代科学の延長線上にある教育制度を経て来た彼らにとってはそれが常識だった。

 そして少なくとも、現代医学の範疇ではそれは正しい。

 

 

「ある種の陰陽師は、戦闘の最中に相手と『対話』したという経験をしたことがあるという。

 戦闘中のやりとりではない。明らかに別空間で、断絶した時系列での対話だ。これは戦闘中、戦っている者同士で霊気がリンクしたことが原因で起こる現象だな」

 

 

 そして、これらの事象から導き出される世界の基本法則を、ピースヘイヴンは提示する。

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 とはいえ、ピースヘイヴンはこの情報自体は大したことがないものとして扱っていた。

 

 

「これ自体は、不思議な話ではない。たとえば電流にも同じことが言える。音を電気信号に変換している関係上、他の家庭の音がスピーカーを介してノイズとして聞こえてくることもあるからな。

 これはつまり、電気が情報を保存しているとも言えるだろう」

 

 

 『厳密に科学的なことを言うとちょっと違うのだが、そこは今は置いておく』とピースヘイヴンは断りを入れながら、そんなことを言う。

 

 そもそも、霊気が情報を保存しているからこそ、霊気を用いたインターネット回線が成立しているのだ。

 そういう意味で、この情報自体はピースヘイヴンの考えている通り『普段は意識されないが当たり前の情報』ではあるのだろう。

 

 

「問題は、この際に保存される情報の『質』だ。電気は、あくまで変換された情報。ただし霊気の場合、霊気自身に情報の保存領域が存在している。怪異が情報を記憶していられるのは、それが理由だな。

 そしてこれは、人間にも同じことが言える。霊気に情報を()()()()()()()()()()()()、人間が死後『幽霊』として怪異になれるのだから」

 

 

 怪異の種別には、『妖怪』、『幽霊』、『化生』、『精霊』、そして『神様』がいる。

 

 『幽霊』はそのうち『人間が死後に「怪異」に転じたもの』だが──その際、大部分は記憶や自我の連続性がみられるのが通常だ。

 そのからくりは霊気が情報を保存する性質にあったのである。

 

 これはピースヘイヴンがあえて語らなかった部分だが──転生者が前世の記憶を参照できるのも、この性質が大きく関わっている。

 本来、脳が保存している記憶には前世の記憶が入り込む余地はない。

 この世界において転生者が前世の記憶を保持できているのは、前世の記憶が霊気の方に保存され、それを参照する形で脳の記憶に書き込まれているからである。

 

 

「ただし、多くの人間はそのことを意識していない。というか、霊気の情報など意識するタイミングがないからな。

 要は記憶のバックアップみたいなもので、基本的に脳と霊気で保持している情報量はイコールだし」

 

 

 だが、この情報を意識するのとしないのとでは明確な違いが生まれる。

 

 

「霊気を介して情報を『開示』する。『種株』の新たな活用法には、この技術が必須となる」

 

 

 戦闘中に霊気を介して『対話』する現象。

 これを意図的に発生させることができれば、霊気を介して対象に具体的なイメージを伝えることができるようになる訳だが──この際、その()()()()()()()()を『種株』に宿すことができるとしたら?

 

 

「まぁ、言ってしまえば自分の脳内で生成した具体的なイメージ情報を霊気ごと『種株』に送り付けてやるわけだ。

 具体的なイメージの生成だが、これも霊気を外付けの情報媒体と捉えれば意外と簡単に実行することができて……、」

 

 

 ピースヘイヴンの講釈は、意外なほどにスムーズに進んでいった。

 

 霊気操作など一部技術でもたつく人員がいたりもしたが(主に流知)、蓋を開けてみれば簡単な話の連続。

 むしろ何故今まで気付けなかったのかと、大半のメンバーは拍子抜けした様子だった。

 

 いや、そもそも霊気を情報媒体として活用するなど誰も考えたことがなかったので、気付けなくて当然だが。

 

 

「いやー、その発想はなかったというか、コロンブスの卵というか……。……やっぱすげえな、生徒会長」

 

 

 春桁は軽い調子で、感嘆の声を上げた。

 

 その横で、灰咬も静かに頷く。

 

 

「霊気を情報媒体として扱うっていう発想は確かになかったな。……腕のある陰陽師ほど、霊気っていうのはパワーソースとして認識するものだ。

 どうにかして増やして霊能の出力を上げるってことは考えても、()()()()()()()()()()()って思考には至りづらい」

 

 

 だからこそ、コロンブスの卵だったのだろう。

 

 二人の少年は、純粋に技術者としてピースヘイヴンの提言に感心していた。

 

 

 その横で、流知はちょっとだけ居心地が悪そうに座っていた。

 

 

 レクリエーションの題材は、この新たな技術を使って新しい汎用シキガミクスを作ってみよう! ということになった。

 

 そしてレクリエーションにおいては、各自で自然にできたグループ分けではなく、交友関係を広げる為に三人~四人で一組のグループを作って共同で作業をすることに。

 

 ちなみに、グループ分けはピースヘイヴンがくじ引きで決めたため、絶賛工作疑惑が浮上中である。

 

 

 肝心のメンバーはこんな感じだった。

 

 

 ■第一班

 ・遠歩院流知

 ・春桁淘汰

 ・灰咬蓮

 

 

 ■第二班

 ・園縁薫織

 ・佐遁佳代

 ・妥暮瑠奈

 

 

 ■第三班

 ・冷的静夏

 ・神織悟志

 ・燻市大智

 ・折草エリ

 

 

 ■第四班

 ・伽退悠里

 ・載原凛音

 ・能北巳鶴

 ・剣菱綾乃

 

 

 第三班に配属になった冷的がプレッシャーで半泣きになるという一幕があったものの、概ね班内の空気は良好である。

 

 制限時間は三〇分。

 この中で最低限動かせるシキガミクスを構築することができれば、ミッションクリアだ。

 

 

(薫織と別れちゃった……)

 

 

 内心でだけ、流知は憂鬱な言葉を漏らす。

 

 なんだかんだ内向的なオタクの一人である流知は、初対面の異性と賑やかに会話なんてできない。

 しかも流知の予測によれば、同じ班の春桁はなかなかの『ウェイ』である。

 どこか気後れする部分があるのは否めなかった。

 

 ただし。

 

 

(……でも、私も主催陣の一人なんだ! 気合を入れなきゃ部長として示しがつかない! 良し、頑張るぞ。頑張りますわよ!)

 

 

 そこで、流知は止まらない。

 消極的に場を乗り切るのではなく、責任を背負って奮起する。

 ……世界を救う覚悟とかとは全然違うベクトルだが、これはこれで得難い覚悟である。

 

 

「ええと、お二人とも、まずははじめまして! わたくしは遠歩院流知とお申します。よろしくお願いいたしますわ!」

 

「うっす! よろしくお嬢!」

 

 

 勢いよく挨拶をすると、いきなり春桁はお嬢呼びであった。

 

 

「俺は春桁淘汰。こっちは……」

 

「灰咬蓮。ただの帰宅部だ。よろしく」

 

 

 幸いにも、コミュニケーションは当たり前に取れる人種のようであった。

 

 挨拶に対して普通の挨拶が返って来たからか、流知の中の警戒心ゲージもかなり下がっていく。

 

 

「……つか、マジのお嬢様とかいるのな。陰陽師の名家とか、『正史』の方で出て来たか全然記憶にねぇや。介入による変化とか?」

 

 

 挨拶を終えた春桁は、軽い調子で流知に問いかけてくる。

 

 流知はそれに対してゆるゆると首を振って、

 

 

「いいえ? わたくしの家は普通の一般家庭ですわよ? この口調はわたくしの趣味です」

 

「まともかと思ってたけどアンタもアンタでだいぶおかしいな!?」

 

 

 当然のように言った流知に、春桁は目を丸くして返した。

 

 それに対して、横の灰咬は溜息をつきながら、

 

 

必殺女中(リーサルメイド)の隣で平然としているヤツがまともな訳がないだろ……」

 

「失礼ですわねぇ!?」

 

 

 心外そうに言う流知だが、残念ながら周りから見たらそれが当然のリアクションなのであった。

 

 食って掛かった流知に、灰咬は少しだけ気まずそうにしながら返す。

 

 

「……いや悪い、口が滑った。ま、それだけアンタが隣にいるヤツが有名人ってことだと思ってくれ」

 

「まぁそれは分かりますけど……」

 

 

 あっさりと引き下がられてしまったため、流知はどこか釈然としない気持ちになった。

 気を取り直して、

 

 

「わたくし、お嬢様を目指していますの。瀟洒で、優雅で、誇り高いお嬢様を。まずは形から入ってみているのですわ」

 

「それで横に必殺女中(リーサルメイド)がいるの、殺人的なシナジーだな……」

 

 

 出会うべくして出会った変人どもということなのかもしれない。

 

 どこか呆れている夢のない帰宅部少年灰咬とは対照的に、春桁は楽しそうに頷き、流知の『目標』を認める。

 

 

「良い夢じゃねぇか! 俺は応援してるぜ、お嬢!」

 

「あ、ありがとうございます……?」

 

「俺にも夢があるんだよ! 俺の夢はだなぁ──」

 

「誰も聞いてねえよ、お前の変態的欲望なんか」

 

 

 ノリノリで己の夢も語ろうとした春桁を制止するように、灰咬が割って入る。

 本当にげんなりしているあたり、灰咬は何度も春桁の『夢』を聞かされてきたのだろう。

 そういう意味でも、普段の交友関係を感じさせるやりとりだ。

 

 春桁は遮られてもめげずに、

 

 

「いいだろ別によぉ! 変態だろうが夢は夢!!」

 

 

 あくまでも自身に満ち溢れた調子で、

 

 

「俺は…………『美少女』になりたい!!!!」

 

 

 どん!! と。

 

 

 そんな、迫力が音と化したような錯覚さえ覚えるほどの気迫で、春桁はそう宣言した。

 

 さぁー……と、流知の中で、春桁に対する対人能力的な意味での気後れが崩れ去っていった。

 代わりに、ヤバめの変態に対する若干の警戒が発生したが。

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