唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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107 船上は乙女の戦場 >> LOVE TACTICS ⑦

「わたくし達の作ったシキガミクスで、薫織達の度肝を抜く……?」

 

 

 春桁の提案に、流知は思わずオウム返しをしてしまう。

 

 考えたこともない発想ではあった。

 流知にとって、薫織は友人でありメイドである。

 己を支え並び立つことはあっても、互いに向かい合って相対するような性質の相手ではない。

 それでなくても薫織は流知よりも遥か高みにいる人間なのだ。

 縁があって一緒にいるしこういう関係になっているが、それは彼女の能力とは全く関係ない次元での話である。

 彼女が技術面において薫織に優る部分など、それこそ本当に一ミリたりとも存在していない。

 完全なる上位互換。

 それが流知にとっての薫織である。

 

 だが、春桁はチッチッと指を鳴らし、

 

 

「駄目だぜ流知ちゃん。陰陽師たるもの霊能(じぶん)はしっかり見据えて、調整できなくちゃあな」

 

「なんかムカつきますわね」

 

「だろ? アイツ基本的にちゃらんぽんのくせに、たまに自分芯を食った発言しますって顏するのが鼻につくんだよ」

 

「なんか酷くないか!? 俺今かなり流知ちゃんの為になることを言ってるぞ!?」

 

 

 憤慨しつつ、春桁は気を取り直して続ける。

 

 

「俺も覚えがあるから分かる。友達との間に差があったら、なんか寂しくなるだろ? 友達とは対等でいてぇもんなんだよ」

 

「対等……」

 

 

 言われて、流知は我が身を振り返る。

 

 言うまでもなく、薫織と流知の間には大きな落差が存在する。

 戦闘力にしろ知識にしろ、人間的な魅力にしろ──薫織は流知よりもずっと優れている。

 少なくとも、流知はそう思う。

 あまりにもそれが自明すぎて、流知自身は薫織に対して劣等感など覚えていないつもりだったが。

 

 しかし……。

 

 

(……本当は、私は薫織よりも劣っていることを引け目に思ってたのかな)

 

 

 実際にそうだったとして、その事実をすんなり受け入れられる者は稀有だ。

 しかし流知は、割合あっさりとその事実を呑み込んだ。

 

 だってそれは、薫織と対等でいたいと願っている証拠だ。

 春桁の言葉に則れば──友達()()()()()対等でいたいと思っているのだ。

 

 劣等感や嫉妬。

 当然、一般常識でいえばそれは歓迎すべき感情ではないかもしれない。

 だが、流知は()()()が自分の中にあることが、少しだけ嬉しかった。

 

 

「だから、流知ちゃんは必殺女中(リーサルメイド)に勝たなくちゃいけねぇ」

 

 

 ピッ、と。

 

 人差し指を立てて流知に向けながら、春桁は改めて課題を提示する。

 

 

「察するに流知ちゃん、アンタ今まで、()()()()()()()()()()必殺女中(リーサルメイド)に勝ったことねぇだろ? ゲームとか勉強とかかけっことか、何でもいいけど」

 

「ええ、まぁ……?」

 

 

 そもそも競ったことがないのだが……。

 流知はウラノツカサに受験で合格したが、薫織は何やらいつの間にか推薦で入学していたりなど、細かいところで薫織は自分とは違うと再確認させられることは多い。

 

 そこはそんなに気にしたことはなかったが、そういう部分も含めれば流知は薫織に日常的に『負け続けている』。

 

 

「……そこでピンときてねぇから上手く行ってんのかもしれねぇけどよ……。だが、アンタの中に一個でも『此処ではアイツに勝った』ってトロフィーができれば、考え方変わると思うぜ。

 人間関係に無責任なこと言うのはよくねえけど、これについては自信をもって言えるよ。必殺女中(リーサルメイド)に勝てば、流知ちゃんのもやもやもきっと晴れるさ」

 

「…………そう、ですわね」

 

 

 握り拳に視線を落として、流知は春桁の言葉を反芻していた。

 

 春桁の言葉に論理的な根拠は一切存在していないが、何故だか真に迫った説得力があった。

 それはきっと、彼自身がいつかの時点で同じ道を通って来たからなのだろう。

 なら、その言葉に乗ってみようと思う。

 

 それに。

 

 

(…………主催の一人なのにあんな風にベタベタしながら喋って。部長として、喝を入れてやらないといけないもんね!!)

 

 

 ──そんな風に照れ隠しも含みつつの決意を拳の中に握り込んでいる流知を見て、春桁は満足そうにうなずいていた。

 

 その横に立つ灰咬は、そんな友人の横顔を見る。

 

 『友人相手には対等でありたいと願うもの』。

 春桁はそう言った。

 それはつまり……、

 

 

「……お前、俺と対等でいたいって思っていたのか?」

 

「あん? 思ってるし、対等だと思ってるけど?」

 

「……………………自惚れんな」

 

 

 べしっ、と。

 

 弱めに放たれた灰咬のローキックが、春桁の脹脛(ふくらはぎ)を襲った。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「で、何を作るかだが」

 

 

 ──時間は、数分前に巻き戻る。

 

 

 薫織は、妥暮と佐遁と同じ班分けになってからすぐに、シキガミクス作りについてのミーティングを始めていた。

 

 

「もう作り始めるの? もうちょっとダラダラおしゃべりしてからでよくない?」

 

「まだ島に着くまで時間はあるだろ? せっかちはよくないねえ」

 

 

 ただし、同じ班の佐遁と妥暮のやる気は薫織ほどではないようだった。

 

 二人ともそれなり以上の実力者であるがゆえに、それほど力を入れずともそれなり以上のものができることが分かっているのだ。

 

 ピースヘイヴンは『それぞれの班で一つの制作物を作る』という流れに乗せることでメンバー同士に共通の目的を与え、ついでに他の班に対する対抗意識も芽生えさせたいようだが……わざわざそのラインに乗ってやる義理もない。

 

 

 しかし薫織はそんなどこかドライな二人の心情を見抜きつつ、

 

 

「なァに腑抜けてやがんだ。せっかくの祭だぞ。本気で乗っからねェでどうする」

 

 

 あえて、二人のことを喝破してみせた。

 

 

 ピースヘイヴンの思惑が見え透いているのは分かり切っている。

 あの黒幕野郎の考えているラインに乗っかるのが癪という気持ちも、良く分かる。

 

 だが、それでみすみす面白い流れを逃すというのは、それはそれでつまらない。

 どうせなら思い切り乗っかり尽くして、テッペンを取る。

 そうすれば結果はどうあれ十分にこの流れを楽しみ尽くせるだろう。

 

 それが、薫織の思考だった。

 

 

 佐遁と妥暮はゆっくりと顔を見合わせて、

 

 

「……まぁそうね。やるなら全力でやりますか」

 

「いいのかい? あたしらが本気を出したら、此処でシキガミクスの歴史が変わっちまうよ」

 

 

 そう、互いに不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

「まず、どうせ作るならこの後の一宵島での活動で便利遣いできるモンがいいだろう」

 

 

 どこからともなく取り出したホワイトボードにマジックペンを使って、『一宵島での活動で便利遣いできるもの』と書く薫織。

 

 それに対し、佐遁は手を挙げて発言する。

 

 

「はいはい、メイド長! なんでそれで確定なんですか? 可愛い汎用シキガミクスとか作りたいわよ私は。せっかくデザインの自由度が上がってるんだもん」

 

「そりゃデザインの時に決めればいいだろ。大事なのはコンセプトだ。で、見た感じ二人ともコンセプトにこだわりはねェ。

 だったらコンセプトを煮詰めるのに時間を使うのはもったいねェからな。(オレ)達に直近利益が発生するようなコンセプトなら揉める心配もねェだろ」

 

「はえ~考えられてる……」

 

「このメイド、破天荒っぽい割に細かいとこちゃんと考えてるんだよねえ」

 

 

 二人の感想は無視して、薫織はこつこつとマジックでホワイトボードを叩きながら問いかける。

 

 

「何かいい案あるか?」

 

「ん~……無人島での活動に便利ってのなら、活動範囲を広げられる、戦略的意義がある機能がいいねえ」

 

「具体的には?」

 

「飛行、遊泳、掘削あたり。要は、活動のフィールドを広げることができる機能ってことかね。つまり必然、着用型か装備型ってことになる」

 

 

 しれっと答える妥暮の発言内容を、薫織は忠実にホワイトボードに書き留めていく。

 

 当たり前のように環境に求められる機能を提示していくあたり、妥暮もまた並の術者ではないが──この場にいる全員にとっては『当然』のこととして、話が進められていく。

 

 

「あと、種株をそのまま使って『発育』し続けることによって疑似的な操作ツールとして扱うとかは? 思考操作のマニピュレータとか、実現できたら超便利だし。

 明らかに今回のレクの趣旨を無視してるけど、こういう横紙破りの思考は何かのヒントになると思うんだけど」

 

「発想としてはアリだが、種株は『減衰』ができねェ。一度伸ばしたものはそのままってのは操作としちゃあネックだな。あと、種株自体の攻撃力は低い。全力で伸ばしても流知の右ストレートと同等だよ」

 

「私流知ちゃんの格闘能力知らないんだけど」

 

「蚊も殺せねェのと同義だと思っとけ」

 

 

 薫織はそう言いながら、ホワイトボードに『発育』の操作を記載していく。

 

 それを見ながらぼうっとしていた妥暮は、不意にはっとした表情になって、

 

 

「そうだ。『放冷』を使って海面歩行とかできないかね? 遊泳よりも利便性は上がると思うよ」

 

「汎用五行の性能じゃあ液体の即時凍結は厳しいんじゃねェか? (オレ)達が本気出して設計しても、出力の上限は精々業務用の冷凍庫が限界だろ。水上歩行ならそれ以上が望ましいしな……」

 

 

 言いながら、薫織はホワイトボードに『放冷』と書き込み、その下に『汎用五行の限界』と書き連ねていく。

 

 汎用五行を使って即時に物を燃やしたり冷やしたりできるのであれば、今頃専用シキガミクスの在り方も大きく変わっていたことだろう。

 実際にはそれができないから、汎用五行は専用シキガミクスのサブ的立ち位置にあるのである。

 

 

 妥暮の案も否定されたのを見て、佐遁は口を尖らせて言う。

 

 

「ぶー。メイド長却下してばっか。そんなに言うならいい案ないの?」

 

「あァ? ……そうさな、家霊レベルの出力で、無人島で便利な代物っつったら……」

 

 

 薫織は言いながら、ホワイトボードをひっくり返す。

 

 裏面の真っ新な白い盤面に、簡単な図を作成しながら──

 

 

「こんな風に、下から『放熱』して中に入れた海水を蒸発させて、上で『放冷』して水蒸気を真水に戻す真水製造機とかかね。水辺で遊ぶ導線にもなるから、人数分用意すれば楽しく使えんだろ」

 

「……………………さらっと普通に面白そうな案出すのやめてくれない?」

 

「これだから完璧メイドは嫌だねえ」

 

「単なる叩き台だろ、こんなもん」

 

 

 薫織は居心地悪そうに頬を掻き、むすっとしながら黙る。

 

 軽く拗ねて見せたメイドのことをひとしきり笑うと、妥暮は薫織を押しのけてホワイトボードの前に立つ。

 

 

「まぁでも、お陰で目指していく『便利さ』のラインは分かって来たよ。こういうのはどうだい」

 

 

 そう言って、妥暮はクリーナーを手に取ってホワイトボードの記述を消すと、

 

 

「海上にスクリューを幾つか展開して、渦を起こすんだ。一つじゃあ潮の流れは変わらないが、複数展開すれば小規模な海流操作くらいならできるんじゃないかい?」

 

「海流なんて操ってどうするのよ。サーフィンでもするの?」

 

「馬鹿、海難事故の防止だよ。離岸流を打ち消せば海水浴の安全性が跳ね上がる。ビーチの安全性がプール並に引き上げられるなんて画期的じゃないかい」

 

「それいいな、流石年の功」

 

「あんま嘗めてると今世で手に入れた亀の甲を食らわせてやるよ……?」

 

 

 ギャグみたいなノリで新技術の案を出しながら揉めている二人を見ながら、佐遁は真実思いついたような調子で呟く。

 

 

「っていうかこれ、内部のデザインも自由に変えられるんなら、機体内部に細かい溝を掘った状態で出力すれば、いちいち内部血路を刻まなくても溝に血を流すだけで毛細血管現象で内部血路を刻めるんじゃない?」

 

「…………マジじゃねェか」

 

「ライフハックみたいなノリで本気の画期的発明をするんじゃないよ!」

 

 

 和気藹々と、雑談のノリの中で。

 

 朗らかに、世界を変える技術が世に生み落とされていく。

 

 そうしながら、薫織はこの技術──種株の思考出力の神髄を把握しつつあった。

 

 

(……この技術の神髄は、陰陽師の継戦能力にはねェ。そこじゃあなく──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にあるな。

 低コストだから、汎用専用関係なくとにかく意欲作がぽんぽん生み出すことができる。トライアンドエラーの速度が加速するから、技術進化のスピードが跳ね上がるんだ)

 

 

 ただのレクリエーションでありながら、ただのレクリエーションではない。

 

 実力者達は、当たり前の様に目の前の現実を吸収し、勝手に次のステージへと進んで行ってしまう。

 

 

 ──流知が超えるべき壁は、果てしなく高かった。

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