唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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112 引き金はいつも >> ONE'S DEAREST ③

「おーっほっほ!! アナタが神織悟志でして!?」

 

「お嬢様、全力で気張りすぎだろ。いくらなんでも空回りの仕方が古典的すぎるぞ」

 

 

 ──神織は、目の前の情景についていけなくなっていた。

 

 

 剣菱や載原の水着姿を新鮮に思っていたら一心同体の浄蓮にからかわれるという一幕もあったが、これは別にいい。

 浄蓮のからかいに対しては『そもそも「滝壺」の件の方が優先だろ』で一蹴したし、浄蓮もそれ以上からかってきたりはしなかった。

 

 

 現在、神織達はウラノツカサの治安維持部を中心とした複数の秩序側部活動に連合指名手配を受けている。

 そのせいで学内に安全な地帯はなくなってしまい、当初の目的でもある『滝壺』──浄蓮の君を用いた封印型シキガミクス──の破壊ができない状態となってしまっていた。

 

 このイベントに参加したのは、生徒会執行部主催のイベントツアーという隔離地帯に参加することで秩序側部活動の追跡を躱すためだ。

 

 ただし、突如開催されたイベントツアーに集った一癖も二癖もある猛者たちの登場によって、神織達は猛者たちの衝突によって発生するであろう『揉め事』にも気を配らなくてはならなくなってしまっていた。

 

 

 なので各々水着スタイルになりつつも、神織達は警戒姿勢を解いていなかった──のだが。

 

 なんか突然、主催側の一人と目されていたお嬢様がお嬢様全開で突っ込んで来たのだった。

 しかも、浄蓮が『特に警戒すべき』と言った最強メイドを引き連れて。

 

 

「あ、ああ。確かに俺が神織悟志だけど……?」

 

「おほほ……良いお名前ですわね」

 

「本当になに?」

 

「勘弁してくれ。コイツは緊張しいなんだ」

 

 

 めちゃくちゃメイド(ビキニ)にフォローされているお嬢様(ビキニ)に首を傾げる神織。

 メイドに頭をぺちぺちされながら、お嬢様の方はようやく冷静になれたらしかった。

 

 

「すみません……。名乗りが遅れましたわね。わたくしは遠歩院流知。ライトノベルイラストレーション研究部──ライ研の部長ですわ。こちらはおつきのメイドの薫織」

 

「園縁薫織だ。その調子じゃあ、とっくにご存知のようだがな」

 

 

 くい、と顎を引いて薫織は言う。

 

 その眼差しに己──正確にはその奥にいる浄蓮の存在すら射抜かれたような気がして、神織は思わず身を強張らせた。

 

 

「あ、剣菱さんいつもお世話になってます……」

 

「遠歩院さんがイベントの主催側って知った時は驚いたです」

 

「おほほ……なんというか、成り行きで」

 

 

 そんな神織を置いて、流知は剣菱と挨拶を交わしていた。

 その様子を見て、神織は意外そうな声をあげる。

 

 

「あれ、お前ら知り合いだったんだ?」

 

「…………ま、まぁ」

 

「遠歩院さんはよく襲われるんです。最近は特に……大変でしたです。燻市君や能北先輩とは別の意味で要警戒ですね」

 

「け、剣菱さんっ!」

 

 

 しれっと言った剣菱に、流知は慌てて詰め寄る。

 

 流知と剣菱は互いに小声で、

 

 

「(そういうのはオフレコでお願いしますと言ったでしょう……! 頻繁に襲われる不憫属性とかお嬢様っぽくないではありませんの……!)」

 

「(……むしろ囚われのお姫様っぽさがないです?)」

 

「(確かに…………)」

 

 

 なんか話がまとまったようだった。

 

 神織は『そもそも襲われてるっていう実害が発生してる状況でお嬢様らしさとか気にしてる場合じゃなくない?』と常識的な疑問を抱いたが、当人たちはなんか満足そうなので気にしないことにした。

 

 

「……はっ! 本題はそれではありませんわ! 主催側として、挨拶をと思いまして……あと大丈夫ですか? 的なことを……」

 

「大丈夫ですかって、どういうことだよ?」

 

「いやほら、なんか連合指名手配とかされてるではありませんの」

 

 

 しれっと言い放った流知の台詞に、その場の空気が凍り付く。

 

 ──連合指名手配は、学園全体の治安に悪影響を及ぼすであろう生徒にのみかけられる重い対応だ。

 かなりギリギリのタイミングだったし、船の中ではなんともなかったのでツアー参加者には共有されていないと踏んでいた神織だったが──島の中で対処するためだとしたら辻褄は合う。

 

 腰を落とし、一気に厳戒態勢に入る神織と剣菱、そして載原。しかし当の流知はポカンとしていて──

 

 

「馬鹿、お嬢様」

 

 

 ぺしり、と。

 

 その背後から、薫織が流知の頭にチョップした。

 

 

()りィな、三人とも。圧をかけるつもりはねェが……主催陣はテメェらが連合指名手配を受けてることは知ってるよ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ゆらり、と力を抜いた立ち姿のメイドは、軽い感じで言い添える。

 

 それを聞いても、三人が警戒を解くことはできなかった。

 連合指名手配を受けて同調しない理由がないというのが第一の理由だが──それ以上に、力を抜いた状態の目の前のメイドが、それでもなお無視できない存在感を放っていたことが大きい。

 

 ──薫織にしてみれば、三人の警戒を前に流知を守る必要があるから、最低限の警戒をしているような状態だ。

 しかしその『最低限の警戒』だけでも、三人には立派な脅威となっていた。

 少なくとも、現時点の三人にとっては。

 

 

「こっちの目的はあくまでレクだ。この時期に学園に残って、生徒会主催のイベントに首を突っ込もうとするような問題児共を掻き集めて、そいつらの手綱を握ろうって魂胆だからな。

 その意味じゃ、連合指名手配に呼応してせっかくのレクの場をぶち壊しにするのは悪手なんだよ。……理由はこれで分かったか?」

 

「…………」

 

 

 神織には、その発言が真実か判断することができなかった。

 

 場馴れしていない神織の判断能力は、根本的にどこにでもいる普通の高校生程度でしかない。

 目の前のプロの言葉の裏の意図を読むようなことはできない。

 彼にできるのは、ただ一つ。

 

 

「そっか。分かった」

 

 

 『己の感覚に素直になること』であった。

 

 

「…………神織さん、それは」

 

「俺は信じるよ。会長が信じた人間ってヤツを」

 

 

 警戒から食い下がろうとする載原を、神織は静かに窘める。

 

 先程のレクリエーションの前、ピースヘイヴンはこの場の面々に技術革命をもたらした。

 その判断には当然『技術を得た人間同士による争い』を危惧する声もあったが──ピースヘイヴンはそれに対し、『そうした争いによって致命的な被害が出る前に踏みとどまれる人類の「良心」を信じる』と言った。

 そして、そうした思想は『ご奉仕』によって得たとも。

 

 ……生徒会執行部主催のイベント、そしてメイド擁するライ研が主催補助に回っている状況。

 この構造を見て、ピースヘイヴンの言う『ご奉仕』にメイドが無関係であるということはないだろう。

 

 何より、神織は単なる同級生としてだが、流知や薫織の普段の在り方を見ている。

 彼女達が神織達のことを陥れるような悪意を持っているとは思えなかった。

 

 

「……神織さん! 助かりますわ! 皆さんが無用な警戒を抱かないようにと黙っていたんですけれど、うっかり口が滑ってしまい……」

 

「まぁ遠歩院さんは腹芸とかできない人ですね」

 

「お嬢様はホント反省しとけな」

 

 

 しょんぼりする流知。

 神織は却っていたたまれない気持ちになりながら、

 

 

「大丈夫かって言われたら、結構大丈夫じゃないかもしれない。このツアーにも、ギリギリで載原がエントリーしたからは入れたんだ。ツアーが終わった後どうなるかは何も決まってない。このツアーのうちに、打開策を見つけたいが……」

 

「それについては、会長にお願いしたら何とかなるんじゃありませんの?」

 

「……会長に?」

 

「ええ。ピースヘイヴン会長にお願いすれば、連合指名手配くらいはどうにかできるでしょう。その後については、何があるのか分からないですけど」

 

 

 ──もちろん、流知は『その後』に『滝壺』に関する問題の決着があることを知っている。

 が、それはあくまで『正史』の知識を持っているから知っていること。

 先程うっかり大声をあげてしまった件もあり、流知はあえてしらばっくれることにした。

 

 神織は訝しむように、

 

 

「本当に大丈夫か……? 生徒会長って言っても、一度は捕まって今は牢屋の中なんだろ? そこまで頼っちゃって、キャパオーバーしないか?」

 

「全然平気ですわよ! あっでもたまに失敗するので全幅の信頼はやめておいた方がいいかもしれませんわ」

 

 

 頼りにしている割に酷い評価なのであった。

 

 頼れるのに全幅の信頼を置くのはやめた方がいい相手とはこれいかに……と内心で疑問に思うと同時、神織には別の疑問が生まれた。

 

 

《なんか話が違くないか? ピースヘイヴン会長って『外』にも名前が伝わってるくらいにはスゴイ人なんだよな?》

 

 

 それは、浄蓮からの評価である。

 

 最初に浄蓮がピースヘイヴンに言及した時は、悪感情こそ滲ませていたものの、たまに失敗する──みたいな侮るような評価はなかった気がする。

 少なくとも、流知が言うような『頼りにしてるけど頼れない』みたいな情けない評価ではなかったはずだ。

 その乖離について疑問に思っていると、

 

 

《何も矛盾はしない。御前も見ていただろう? ピースヘイヴンがその場の思いつきで世界を変えうる技術を拡散したあの様を。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかしピースヘイヴンは強者だが成功続きだった訳ではない。むしろ、ヤツの覇道は失敗と敗北に満ち溢れていたと言ってもいいだろうよ》

 

《詳しいのか?》

 

《……少し、ね》

 

 

 浄蓮は含みを持たせて、神織に応えた。

 そしてそれは同時に、これ以上話すつもりはないという意思表示でもあるようだった。

 

 何にせよ技術的には凄まじいが、それはそれとして挫折も多い人物であるというのは間違いないだろう。

 そう考えれば、流知の評価にも頷ける。

 

 

「でも、そもそも協力してくれるのか? 別にピースヘイヴン会長にメリットなんかないと思うけどさ」

 

「お助け料五〇〇〇円とかで良いのではなくて?」

 

「それでいいの、逆にみみっちくて嫌なんだが……」

 

 

 適当に言う流知に、流石の神織も真顔であった。

 

 流知は気を取り直して、

 

 

「でも、実際のところ今の会長はきっとそういうことに見返りを求めたりはしませんわ。それに、一応会長もウチの部員ですので、何なら部活動としてやってしまえばなし崩し的に協力は確約できますわよ! もちろんわたくしも協力しますし!」

 

「ホントか? それならすごく助かる。ありがとな、遠歩院」

 

「いえいえ。困ったときは助け合いですわ。おほほほ」

 

 

 上機嫌そうに笑う流知。

 

 話がまとまったのもあり、神織達は流知について行って、ピースヘイヴンに協力を要請することになった。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 そして、ビーチ横に設営された休憩所。

 

 『種株』によって建築された小屋の中にすっぽり嵌まった牢屋の中で、そいつは寛いでいた。

 

 おそらく、牢屋が入るデザインの休憩所を用意する為に、わざわざ作り出したのだろう。

 

 流知から一通りの事情を聞いたピースヘイヴンは、その場にいる面々──神織、剣菱、載原、流知、薫織──をじいっと見渡し、たっぷりと間を置いてから、シンプルに答えた。

 

 

「え……嫌だが?」

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