唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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116 それはいつも通りの >> USUAL ORDER ③

 咄嗟に『篭手』を構えると同時、足元や岩場の影から無数の小石や木の葉が浮かび上がり、載原に向かって来る。

 

 明確な攻撃性を伴った現象に、しかし載原がそれ以上動揺を見せることはなかった。

 

 

「シキガミクスによる攻撃……。…………つまり、予想はビンゴということ……。

 『浮遊する窒息(フロートダイバー)』」

 

 

 載原が『篭手』を振るうと、その『篭手』の表面に存在する漆黒の鱗がまるで散弾のように放たれ、載原に向かってきた小石や木の葉に直撃していく。

 その威力によって破壊された小石や木の葉が載原の身体に降り注ぐが──先ほどのように、載原の『篭手』に張り付くことはなかった。

 

 

(…………引き寄せてくる攻撃……。……『浄蓮の君』の霊能を考えれば……おそらく、引力)

 

 

 『正史』の主人公、神織悟志のシキガミクスの霊能は、引力操作であった。

 

 これは、『浄蓮の君』をその身に宿すことの副作用である。

 『浄蓮の君』は、かつて『浄蓮の滝の絡新婦』と呼ばれた大妖怪だ。

 滝壺に住まう『浄蓮の君』は、人を糸で引っ張り滝壺に呑み込んでしまう。

 糸を切り株などに括りつけることで回避することは可能だが、あくまでもそれは回避するだけ。

 打倒する手段はない──それが、『浄蓮の滝の絡新婦』である。

 

 『浄蓮の君』のこの逸話は、『糸』と呼ばれる見えない引力の力場を操ることによって実現している──というのが、『正史』で成された説明だった。

 ゆえに、『浄蓮の君』は引力操作の霊能を持ち、自身が『封印型』のシキガミクスと同様の状態になっている神織もまた引力操作の霊能を扱うことができるのだ。

 

 そして、波浪が『滝壺』を用いて『浄蓮の君』を利用しているのであれば──当然、その霊能は引力にまつわるものである可能性が高い。

 もっとも、『正史』において波浪が『滝壺』をそこまで便利遣いしたことはなかったが──

 

 

(……『正史』通りの力量なら、そもそも私が見つかって巻き込まれることもない。波浪は、明らかに『正史』よりも強くなっている……。

 第三者の関与があるのか、それともこの狂い切った世界に適応した結果自然とそうなったのか……。…………どちらもあり得るのが厄介だな…………)

 

 

 一旦危機を振り払った載原だったが、しかし敵の攻撃はそれだけでは終わらない。

 またしても、岩場から小石が浮かび上がって載原の『篭手』に向かって来る。

 

 今度は『篭手』から鱗を飛ばさずに、載原は生身の足で岩場の上を跳躍して回避する──が、小石たちはその動きすらも追尾する。

 載原は舌打ちを一つして、

 

 

(……やはり自動で追尾してくる……! 他の部位を狙わないところを見ると、おそらく何らかのマーキングがされている……? 岩場を移動するのに右手で岩を触ったりしていたから……そのどこかで発動条件を満たしたと考えるのが妥当)

 

 

 ガツ! ガツ! と、躱しきれなかった小石が『篭手』に張り付いていく。

 

 一つ一つは大した重さではないものの、このまま際限なく小石がまとわりついてきたら身動きをとるのも難しくなってくるだろう。

 載原は一旦海の方へと移動していく。

 すると、

 

 

「…………落ちた」

 

 

 手に張り付いていた小石や木の葉が、吸着力を失ったみたいにその場に転げ落ちて行った。

 この事実からも、載原は瞬時に現象の法則を割り出す。

 

 

(……射程距離だ。何らかのマーキング条件を満たした対象に『引力』を働かせる霊能なんだ。おそらく、『引力』を作用させられる物質には上限と下限が存在する……。

 だからさっき破壊した物質は『引力』の対象にならなかったし、小石が引き寄せられても大きな岩自体は動かなかった。

 霊能の性質を考えると……おそらく近づけばさらに『引力』は強くなる)

 

 

 最初は木の葉が張り付いた程度だったのに、進んだ途端に木の葉だけでなく無数の小石も吸い寄せられるようになったのは、そのためだ。

 

 つまり──

 

 

(…………攻撃に敵の思考が存在せず、完全に法則性のある自動的な現象。

 ……引力操作の霊能を、特定の空間を対象にして発動する『展開型』のシキガミクスに調整している……?)

 

 

 ──『展開型』。

 

 流知の『飛躍する絵筆(ピクトゥラ)』に代表される『装備型』や伽退の『押し売りの契約印(デモンズカヴァナント)』に代表される『使役型』、薫織の『女中の心得(ホーミーアーミー)』に代表される『着用型』に並ぶ、シキガミクスの形態例の一つである。

 

 その特徴は一定の空間全体に霊能が及ぶことであり、発動にシキガミクス自体の能動的関与が必要でない点にある。

 その性質上拠点防衛には滅法強い。

 一方で、発動の為には何らかの条件──もっぱら攻撃対象をマーキングするもの──を満たす必要があり、その条件を回避されてしまうと途端に脆くなってしまう。

 そうしたピーキーな性能を持つのが、『展開型』のシキガミクスである。

 

 『正史』では、シキガミクス領域内で相手にゲームを強制し、その勝敗によって相手に不利益を押し付けるというトリッキーなタイプのシキガミクスも登場していたほどだ。

 

 

(……今回の法則は、おそらく『距離』。近づけば近づくほど引力は強化されて私の右手にものが吸い寄せられる。逆に離れれば引力は小さくなっていく……。

 …………こちらを倒すことを目的としていない。遠ざけ、時間を稼ぐことを目的としたシキガミクスだ)

 

 

 既にマーキングされてしまっている以上、近づけば脅威が増すシキガミクスを相手に真っ向勝負を挑むのは危険だ。

 

 この地に波浪が侵入してきていると分かっただけでも十分な収穫。

 これ以上深入りせず、一旦合流するのが得策──載原はまずそう考え、すぐにその考えを否定する。

 

 

(……状況の『肝』を外してはいけない。『正史』から外れた状況といっても、『滝壺』を用意している以上波浪の策略自体は『正史』と変わっていないはず。

 神織悟志を始末し、『浄蓮の君』を入手して『滝壺』を完成させる。……『滝壺』の機能の一部を足止めに回してまで此処から人払いをしたいということは、裏を返せば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 であれば、このまま引き返すのは相手にとって思う壺だ。

 

 近づけば近づくほどに強まる引力に対し、ではどう対処するか──。

 

 

「……対処は、()()()

 

 

 そこで、載原は短く言い切った。

 

 

「……引力が強まるなら……逆にもっと強めてやればいい……。……『浮遊する窒息(フロートダイバー)』ッ!」

 

 

 短く叫びながら、載原は『篭手』を思い切り振り下ろした。

 

 ボココ……と、まるで気泡が浮かび上がるようなイメージと共にその『篭手』が振り下ろされ──そして、その動きに合わせて載原の身体が勢いよく()()()()()()()()()

 まるで、クロールで水をかいた水泳選手のように。

 

 当然、島に近づいた載原の『篭手』の引力は強まっていく。

 先程よりも大きな──激突すれば『篭手』越しでも手が無事では済まないような──石が、載原に反応して引き寄せられていくが、載原の表情に動揺はない。

 

 

「……近づくほどに引力が強くなる霊能…………確かに強力だけど……その近づいていく『基準点』はどこ? 島全体が対象?

 ……いや、それでは『展開型』としてあまりに巨大すぎる……。……これほどの引力なら、おそらくシキガミクスの『核』がありそれが接近の『基準点』として機能しているはず」

 

 

 それが波浪の操る『滝壺』本体である可能性は極めて低いが、しかし『滝壺』から力を引き出す中継地点であることは間違いない。

 

 波浪はそれを此処において、自分の足取りを追う者への足止めとしているのだ。

 

 

「……さっき移動していたとき既に……引力の強まり方から、『基準点』の位置は特定している……。そして……」

 

 

 空中を舞う載原は、再度『篭手』を振るう。

 するとその動きに合わせて今度は載原の身体が急降下し、茂みのすぐ隣に着地した。

 

 ちょうど、島の奥と茂みの間に入った形だ。

 そして──引力はまだ生きている。

 

 

「……強化された引力。大岩はこちらに向かってくるけど……()()()()()()()大岩は、私に向かうよりも前にあるものを破壊してくれる。……たとえば、私の目の前にある引力の『基準点』となるシキガミクスとか」

 

 

 呟き、載原は『篭手』を纏った右手を広げ、水平に構える。

 

 直後。

 

 ズガガガガガガガ!!!! と、数個の大岩が地面を削りながら殺到し、載原との間にあった茂みを破壊──広げられた載原の『篭手』によって、問題なく受け止められた。

 

 脅威を難なく退けた載原は、しかし油断なく島の方へと視線を向ける。

 

 

「…………さて、第一関門は突破したけど…………どうしたものか…………」

 

 

 この時点で、既に戦力は『正史』からかけ離れている。

 

 この先に待つ敵の強大さを思い、載原は気を引き締めた。

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