唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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121 真実は偏在する >> UBIQUITOUS DECEIT ③

「な……なな、なんですの!?」

 

 

 ──神になる資格を持った少女と水着メイドの戦いの余波は、砂浜にも届いていた。

 

 山肌が派手に崩れるような規模の戦闘である。

 地滑りの音や粉塵は、砂浜からでも確認できるような大きさになっていた。

 当然、呑気していた流知は無駄に慌てふためいてわたわたするほかなかった。

 

 砂浜には、流知、神織、剣菱の他に、少し離れて冷的と伽退が水遊びをしていた。

 彼女達も危険を感じたからか、シキガミクスを発現して山の方を注視しているようだ。

 

 

「まさか……波浪が来たとかか!?」

 

「落ち着いてくださいです、神織さん。……波浪の可能性はありますけど、ツアー参加メンバーにも火種はあったですよ。燻市さんなんかは複数の生徒と一触即発でしたし、そうなれば能北さんだって黙っていないはずです」

 

「えっ、能北さんもですの?」

 

「あの人は暴れてもよさそうな雰囲気の場があったら嬉々として首を突っ込む方なので……」

 

 

 要するに、手も出るタイプの野次馬ということだった。

 治安維持組織の人間からしたら迷惑この上ない人材である。

 

 が、

 

 

「失礼ですねぇ~! 私だって状況は弁えていますよ」

 

「わひゃあっ!?」

 

 

 ぼやいた剣菱の真後ろから、心外そうな声が上がる。

 

 思わず飛び上がった剣菱の背後には、水着姿の能北が佇んでいた。

 海パンの上にパーカーを羽織り、前を閉じたスタイルだ。

 

 神織は一歩前に出て、

 

 

「あー、悪い。陰口をするつもりじゃなかったんだが……」

 

「んーいやいや。気にしなくてもいいですよ。剣菱さんに迷惑をかけたことがあるのは事実ですし。それに、正当すぎる評価ですからね!」

 

 

 本人のいない場で悪し様に言っていたのは事実なので、神織は謝罪するが……当の能北は欠片も気にした様子がなかった。

 むしろ、それはそれで気にするべきではないかと思う神織である。

 

 

「確かに、()()()()()については気になりますが……人の戦いに横槍を入れるのはあまり趣味じゃありませんからねぇ。やるとしたら、園縁さんが敗北した場合の二の矢……かな」

 

 

 そこまで言って、能北はぱっと両手を挙げる。

 

 神織が何事かと能北の視線の先へ向くと──流知が険しい表情を浮かべていた。

 

 

「おっと、仮定の話ですよぉ。私も、園縁さんが敗北する可能性は低いと見ています。たとえ相手が山を崩せるほどの規格外だとしてもね」

 

「そんなことは分かっています。それより…………この戦闘に、薫織が絡んでいると?」

 

「おや、そっちでしたか」

 

 

 そう言って、能北は口元に手を当てる。

 

 ──確かに、ついさっき崩落が発生したばかりなこの状況で、その原因が戦闘であることや、そこに薫織が関与していることなど、余人には分かりようもないはずである。

 

 しかしそんな部分には触れず、能北は薄ら笑いを表情に張り付けながら続ける。

 

 

「私の霊能でしてね。園縁さんと妥暮さんがやり合っているのは確認済みです。いやぁ、獅子身中の虫まみれですねぇこのツアー! まぁピースヘイヴン会長の企画ですし当然といえば当然ですが」

 

「なんだかちょっと面目ありませんわ……」

 

「と、遠歩院さんが悪い訳じゃないです」

 

 

 けらけらと笑う能北に、剣菱が冷や汗をかきながらフォローを入れる。

 

 それはともかくとばかりに能北は話題を切り替えて、

 

 

「で。どうも妥暮さんと燻市さんは色々と企んでいる側のようです。少なくとも、園縁さんとは対立しているのかも? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、シンプルに悪人側と言っていいでしょうねぇ」

 

「あんまりそういうざっくりとした善悪の切り分けはよくないと思いますけど……」

 

 

 しれっと対立軸を決めようとする能北に、流知はおずおずと言いつつ、

 

 

「それに、会長も多分もう大丈夫ですわ。薫織が『ご奉仕』しましたので」

 

「…………………………なら信頼はできそうですねぇ」

 

 

 能北は意味ありげな笑みを浮かべて、

 

 

「動きが分からなかったのは灰咬さん、春桁さんの両名。おそらくあの二人は諜報要員ですから、身を隠して状況を観察しているのでしょう」

 

「ちょ、諜報?」

 

「おや? ご存知ない?」

 

 

 能北は意外そうに声を上げてから、流知の方へと近寄って声を殺し、

 

 

「(灰咬さんは学園暗部の『立秋』、春桁さんは『神宮勢力』の所属です。特に隠しているタイプでもなかったのでとっくにご存知かと)」

 

「し、知りませんでしたわ……」

 

 

 いずれも、『正史』で主要人物たちが所属していた大組織である。

 

 学園暗部というのはウラノツカサどころかウラノツカサの存在する常世島全域を管理する巨大組織『運営委員会』傘下の組織達の総称で、組織名は暦関連の用語から取られることが多い。

 『立秋』という組織は『正史』には登場しなかったが、『清明』や『立冬』といった組織の活躍は読者の記憶に残っている。

 

 『神宮勢力』に至っては、作中でも重要人物である『神様』アマテラスが長を務める大組織であり、剣菱も未来に所属することになる集団であった。

 

 二人ともそんなことはおくびにも出していなかったが、しっかり『正史』においても重要なポジションに位置していたというわけだ。

 今更ながら、そんなポジションの人間と無警戒に会話していたことに冷や汗をかく流知であった。

 

 

「…………俺達には言えない話か?」

 

「ええ。教える人間は選ばないといけないもので。でないと私が二人に恨まれますのでねぇ」

 

「なら仕方ないか……」

 

「ご理解感謝します。……二人の目的もピースヘイヴン会長の監視でしょうね。状況に積極的に干渉する気はないと見て良いでしょう。問題はもう一個の方でして……」

 

 

 能北はそこで言葉を切り、

 

 

「折草エリ。着ぐるみ頭の少女ですが…………彼女、ピースヘイヴン会長を狙ってるみたいなんですよ」

 

 

 いわゆる一つの王手(チェック)

 

 そのことについての状況を語り始めた。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「──というわけで、私は襲われていただけなんだ。コミカルにじゃないぞ? マジ攻撃だぞ? だから正当防衛で無実だと言っているんだ」

 

 

 同時刻。

 

 牢屋の中のピースヘイヴンは、そんな風に檻の外の何者かに弁解していた。

 彼女の右手は着ぐるみの頭を掴んでおり、同じ牢屋の中にはだらりと力なく倒れ伏した少女が転がっている。

 

 そんな自称被害者の弁解を聞いた相手は──

 

 

「いやまぁ、メイド長が味方についてるわけだしそこは疑ってないけどさ……」

 

 

 そう言って、困惑の表情を露わにする。

 

 ──佐遁佳代。

 水着姿の彼女もまた、この騒ぎに対応しようと奔走している生徒の一人だった。

 

 

「っつか、その子……折草先輩だっけ? 一応この島で騒ぎを起こしてる連中の一人なのよね? 何でそんなあっさり潰してんの?」

 

「急に飛び掛かって来たものだからな」

 

「前章で負けたラスボスは噛ませになるって、シキレボあるあるだったと思うんだけど……」

 

「はっはっは。此処は現実だぞ。物語のお約束など通用するわけがないだろう」

 

「…………その通りなんだけどなんだかものすっごいダブスタに感じる!!」

 

 

 物語の力を信じるとかなんとか言った口で言うとなんだかちょっと複雑な感じなのだった。

 

 ──ともかく。

 

 

「そもそも、この盤面自体は私の想定の範囲内だ。ツアー開催自体が、少々誘導された感もあったからな。園縁(姉)君が囮の方に行った時点で、手薄になった私を狩りに来ると思っていた。こちらが誘導し返した形だな」

 

「よくもまぁ……」

 

 

 黒幕のくせにそんなあっさりと自分を場に出すよなぁという思いと、向こうもそれなりに陰謀を張り巡らせてるだろうに簡単に解決してくれるよなぁという思いを滲ませる佐遁。

 

 しかしピースヘイヴンは少し不満そうにして、

 

 

「だが、お陰で私は孤立してしまった。柚香には砂浜にいる生徒達の安全確保を任せたからね。君が来てくれて正直助かったよ。一人で動かすのは大変なんだ、この出張学生牢」

 

「っていうか何で一人で動けてんの?」

 

「はっはっは。企業秘密だ」

 

 

 仮にも禁錮の真っ最中だというのにとことんナメくさった野郎である。

 

 佐遁は溜息を吐きながら傍らにシキガミクスを発現させる。

 馬頭を持った筋骨隆々の人型シキガミクスだ。

 少女が操るにはあまりにも無骨すぎるが──

 

 

「『恋慕のすゝめ(レイジングホース)』。引っ張ってあげて。…………砂浜まで連れて行けばいい?」

 

「ああ、そうしてくれ。それと、気を抜くのはまだ早いぞ。園縁(姉)君の方の戦いはまだ終わっていないし…………それに、()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………へ?」

 

 

 ピースヘイヴンの入る牢屋を押してやりながら、佐遁は聞き捨てならない不穏な響きに怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 彼女の状況理解が追いつくよりも先に、ピースヘイヴンは何でもないような調子でこう続けた。

 

 

「そういえば、ライ研以外には言っていなかったか? この島には劇場版の没ネタ──『ラガルド』と呼ばれる大妖怪が封印されていてね。その封印が緩められたから、この事態に対処する為の人員を集めたくてツアーを企画したんだ」

 

「初耳すぎ!! 何でこのタイミングになるまで言わないの!? 島に到着した時点で言えばよかったじゃない!!」

 

「まさかこんなに早く彼らが動き出すとは思っていなくてね…………まぁ、出し抜かれた形になる」

 

 

 またしてもいつもの想定外なのであった。

 

 燻市だけならともかく、妥暮や折草まで敵サイドとあっては流石に想定しておけというのも難しい話かもしれないが──さておき、ピースヘイヴンは悪びれた様子も見せずに、

 

 

「重要なのはそこじゃない。先程の山の崩落……。……実は、ラガルドの封印の核は山中の祠でね」

 

「……………………それって」

 

 

 思わず顔が青くなる佐遁に対し、ピースヘイヴンは平常心そのものの面持ちでこくりと頷く。

 

 そして、こんなことを言ったのだった。

 

 

「ああ。ラガルドの封印は解き放たれた。だからまずいと言っているんだ。早くしないと、大妖怪ラガルドが復活するぞ」

 

 

 ──直後、少女のわりとガチな怒声が喧騒にまみれた島の空に響き渡った。

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