唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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22 陰謀は重層する >> DEEP-LAID PLOT ③

 光の出所は、なんて事のない携帯端末だった。

 

 薫織(かおり)が取り出したスマートフォンタイプの霊話端末のカメラ機能によるフラッシュが、焚かれていただけだ。

 さらに薫織(かおり)はあたりを縦横無尽に跳ね回りながら、パシャシャシャシャ!! と位置と方向を変えてシャッターを連続していく。

 シャッターのライトに照らされて、壁や床が無差別に明滅し──

 

 

(…………?)

 

 

 突然の奇行に、打鳥(だどり)はタブレット端末を見下ろしながら首を傾げた。

 

 当然だが、シキガミクスのカメラ機能はカメラのフラッシュ程度で破壊されない。

 場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)の『透明化』のカラクリにしても、別に強い光を浴びたら解除されるような性質のものではない。

 だから、大した意味はないはずなのだが──

 

 

「なるほど、そこか」

 

 

 ()()()、と。

 

 橙黒のメイドの視線が、場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)のカメラを通して打鳥(だどり)を射抜いた。

 

 

『『『ひっ……!?』』』

 

 

 まるで、猛獣が獲物に狙いを定めたような──野性的な眼光。

 カメラの放つ無機質な光とは異なる脅威の光を浴びて、カメラ越しにも拘らず打鳥(だどり)は短く悲鳴をあげてしまう。

 

 理屈は分からない。

 だが、明確に『バレた』。

 その事実が、まるで草食動物が本能的に危機を察知するかのように打鳥(だどり)にも分かった。

 

 ──そう。

 この場における彼我の捕食関係は、この時点で確定していた。

 

 恐怖した打鳥(だどり)がシキガミクスを退避させるよりも早く。

 

 

 ガッシャアアアアアアアアア!!!!! と。

 薫織(かおり)は大量のフォークやスプーン、ナイフといった食器を場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)の周囲へとにバラ撒いた。

 

 

「……考えてみりゃあ、単純な仕組みだったんだ」

 

 

 謎の奇行を働いた薫織(かおり)は、それですべての処置が完了したとばかりに囁いた。

 先ほどまでのような高速機動をすることもなくゆったりと歩く薫織(かおり)は、そのまま話を続ける。

 

 

「シキガミクスの機体自体を透明化させる方式は、術者自身が操作不能に陥るリスクが高すぎるから使えない。なら、いったいどういう方式を使ったのか?

 そこで思い出したんだ。『透明』って言うと色合いが透き通っているイメージだが……現実に研究されていた『透明化』ってのがどういう代物だったか」

 

 

 ──だが、打鳥(だどり)はまだ別に追い詰められているわけではない。

 確かに足元には『鳴子』代わりの銀食器たちが散らばっているが、足の踏み場もないというわけではなかった。幸い薫織(かおり)は腹部へのダメージが効いているのかゆっくり歩いているし、今なら距離を取って逃げることも可能である。

 

 スッ……と薫織(かおり)は人差し指と中指を静かに立てる。

 

 

「光学系で再現可能な方式は、ざっと二つってとこか? 屈折方式と、投影方式だが……」

 

 

光の屈折を利用し、疑似的に透明になる方式──これ自体は二〇一〇年代には『量子ステルス』という技術で既に実用化されている代物だが、周囲に物質がある状態では有用性が下がる。

 この状況でも有効な光学迷彩ができているという時点で、場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)の原理は──

 

 

「原理としては、プロジェクションマッピングが近いんだろうな」

 

 

 薫織(かおり)は、端的に指摘した。

 

 

「テメェの霊能は、周辺の映像をリアルタイムで投影することにより、周囲の景色に溶け込む『カメレオン』。

 ……おそらく、影のような周辺物への影響にも、リアルタイムで映像を投影することで違和感を消していたんだろうよ」

 

 

 機体以外の物品に『透明化』──光学迷彩を施したのはピースヘイヴンの発想だが、原理としては陰を消す投影の用途と変わらない。

 もっとも、霊能の射程範囲である一〇メートルを超えてしまえば投影は解除されてしまうし、あくまでも機体を中心とした『投影』なので、遮蔽物が挟まってしまえば遮られた部分については通常の見え方に戻ってしまうが。

 

 

(…………待てよ? ()()()()?)

 

 

 そこで、打鳥(だどり)はようやく気付いた。

 『投影』の射程距離は機体から半径一〇メートル──ということは、機体の影が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「そろそろ気付いたかよ。さっきのカメラのライトは、テメェの機体から影を伸ばす為のものだ。

 デフォルトじゃ『投影』で影を塗り潰すよう設定しているんだろうが……射程外にまで影が伸びちまえば、隠しきれねェテメェの尻尾は(オレ)にも見えるようになる」

 

『『『………………!!!!』』』

 

 

 確かにそれならば、薫織(かおり)打鳥(だどり)の位置を見抜いた理由も分かる。

 

 本来は考慮する必要もないくらいのレアケースかもしれない。

 そんな状況が自然に発生することがほぼあり得ないし、仮にその状況が偶発的に成立したとしても、普通に戦闘していれば見落とす可能性の方が高い。

 

 ただし、意図的に脆弱性を突こうと思えば話は別だ。

 霊能の──シキガミクスの戦闘とは、とどのつまりそういうこと。

 その想定の広さと深さが、霊能の盤石さに繋がるのだから。

 

 

 だが、最早打鳥(だどり)の関心はそこにはなかった。

 看破された霊能の弱点など今は良い。そんなものは後からいくらでも調整できる。

 それよりも、今はこの場から退避しなければならない。

 

 今このタイミングでシキガミクスを失えば、来るべき百鬼夜行(カタストロフ)を丸腰で迎えなければならなくなる。

 そんな最悪の事態に陥ってしまえば、せっかく『原作者』という勝ち馬に乗った意味も無に帰してしまうからだ。

 

 まだ、逃げて仕切り直せばどうとでもなる。この戦闘メイドから逃避さえすれば。

 

 

 なのに。

 

 

『『『……ど……どういうことだ!? 場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)が……動かない!? ……何をした!? お前の霊能は物品の取り寄せのはず……こんな霊能は……!?』』』

 

 

 まるで旧式のコンピュータか何かのように、場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)の動きは緩慢になっていた。

 

 

「さァな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 適当そうに言って、薫織(かおり)は足を止める。

 彼我の距離は、いつの間にか二メートル弱にまで縮まっていた。

 

 

「テメェの霊能、よく手が込んでんな。単に機体だけや陰に対してのみ投影をするだけだと、反射物から機体情報が漏れてしまう可能性がある。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 『メガセンチピード』からの逃走で薫織(かおり)が利用していたことからも分かる通り、反射物というのは意外と屋内では多く存在している。

 

 そこから情報を受け取ることができるかどうかはさておき、『透明化』という自分の居場所を隠すことが重要な霊能ならば、それらに対しても欺瞞情報を投影することで自分の居場所を隠すよう設定しておくのはある意味では当然だ。

 もちろん、それだけの作業を人力で実施するのは不可能なので、場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)は全自動で周辺の情報を読み取り、そして欺瞞情報を投影するよう設定されていた。

 

 だからこそ、『場当たり主義の迷彩』というわけだ。

 

 

 ただし──全自動とはいえ、その処理能力には限界が存在する。

 

 打鳥(だどり)自身は意識もしていなかったが、最初に薫織(かおり)によって『鳴子』としてばら撒かれていた無数の食器類に欺瞞情報を投影したことで、場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)の処理能力には確かなダメージが入っていた。

 

 そこに来て、自分の周囲に大量の食器類である。

 顔が映るくらいに綺麗な銀食器は当然景色を余すことなく反射する為に場当たり主義の迷彩(ハプハザードアサシン)はご丁寧にそのすべてに対して全自動で欺瞞情報を投影し──

 

 ──結果として、()()()()()()()を迎えた。

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