唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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26 ある陰謀の頓挫 >> OR START OF COMEBACK ②

「トラっ!?」

 

 

 狼狽えた声とは裏腹に、嵐殿(らしでん)は腰を低く落としそれまでの前のめりな姿勢から一転して冷静さを取り戻していた。

 

 同時に、薫織(かおり)もまた長物のデッキブラシを手元に取り寄せて改めて周囲の警戒を始める。

 

 

「随分と……」

 

 

 と。

 周囲の警戒を再開した薫織は、すぐに一人の少女の姿を発見する。

 入口から見て、左奥。

 コの字に並べられた会議机から少し離れた部屋の隅の壁に、()()()は背を預けて腕を組んでいた。

 

 

「取り乱してくれるじゃあないか、()()

 

 

 まるで、最初からそこにいたかのような自然さだった。

 

 超スピードだとか、認識阻害だとか、そんなトリックによるものではない。

 メイドの状況判断力が言っていた。

 『ピースヘイヴンは数秒前には既にその場所にいた』、と。

 

 

「そんなにも、私の絶命は受け入れがたかったかね?」

 

 

 その胸に、貫かれたような痕はない。

 

 それどころかケロリとした調子で、悪戯っぽい笑みすら浮かべる余裕もある。

 

 確かに数瞬前まで致命傷を負っていたはずだったにも拘らず。

 腹心となる部下に裏切られたにも拘らず。

 

 ──トレイシー=ピースヘイヴンは、当たり前の様に平然とその場に君臨していた。

 

 

「いや、嬉しいよ。友情を感じるな!」

 

 

 タン、と。

 笑うピースヘイヴンの言葉を認識した瞬間、嵐殿(らしでん)の思考回路が再始動する。

 警戒態勢をとる薫織(かおり)のすぐ傍まで、飛び退くようにしてピースヘイヴンから距離を取った。

 

 ひとまず危険地帯から逃れた嵐殿(らしでん)は、声を落として薫織(かおり)へ呼びかける。

 

 

「……悪い。先走った」

 

「貸し一つだぜ、痴女」

 

 

 二人は言葉少なに意思を交わすと、改めて全域への警戒を張り巡らせ始めた。

 

 ──今この部屋では、複数の異常事態が並行して発生している。

 

 一つは、ピースヘイヴンの腹心を自称している男の裏切り。

 

 一つは、確かに致命傷を負わされたはずのピースヘイヴンの復活。

 

 一つは、ピースヘイヴンの瞬間移動。

 

 原因が別かどうかは分からない。

 全て同一の根源から始まった事象なのかもしれないし、そうでないかもしれない。

 何も分からない以上、これ以上この場に留まるのは得策ではないのだが──

 

 

「……あ、あれ……? 勝ち馬……『契約』……」

 

 

 この場で唯一つの『浮いた駒』。

 まさかの裏切りを果たしたまま、呆然としている少年──打鳥(だどり)へ向けて、ピースヘイヴンは思い出したように声をかける。

 

 

「……ああ、すまないが打鳥君。君への対処は()()()()()()()

 

 

 そして、その直後。

 事態は、二人がピースヘイヴンの言葉に応じるよりも先に進展した。

 

 

「『崩れ去る定説(リヴィジョン)』」

 

 

 ズゥン、と。

 言葉と共に、人影が在った。

 

 紳士然とした風貌の人型シキガミクスは、しかし生物的にも見えるほどに筋骨隆々なシルエットを持っている。

 遠めに見れば大男のようにも見える外観だったが、その顔つきはカメラの眼球にスピーカーの口と、一目見れば分かる程度に機械的なパーツで占められていた。

 

 ──ちらりとだが、あのシルエットは薫織(かおり)も見たことがある。

 アレは、『メガセンチピード』を破壊したときに一瞬だけ現れたシキガミクスだ。

 

 

(…………? 何か妙な……)

 

 

 そこに一抹の違和感をおぼえた薫織(かおり)だったが、崩れ去る定説(リヴィジョン)は止まらない。

 次の瞬間には、その巨躯は打鳥(だどり)の傍らに移動していた。

 

 

(……!? 瞬間移動(オレとおなじ)、……いや違う! ()()()()()()()()()()()()()!! おそらくは(オレ)以上の速度で……! アレがヤツのシキガミクス!!)

 

 

 剛腕、一閃。

 

 打鳥(だどり)の至近に移動したと薫織(かおり)が認識した時には既に身を低くして攻撃姿勢に入っていたピースヘイヴンのシキガミクスは、そこからオーバースロー投球のような軌道で打鳥(だどり)の首元へとラリアットをしかける。

 

 暴風が、吹き荒れた。

 

 茫然と佇んでいた打鳥は叩き伏せられ、全身の半分が床にめり込んでいた。

 破壊的なパワー。

 刹那的なスピード。

 ──いや、『メガセンチピード』を大破させていたことを考えると、打鳥(だどり)を血煙に変えずにただ叩き伏せただけに留めたその精密性が際立つか。

 

 すぐさま撤退しようと、警戒を嵐殿(らしでん)に任せて彼女を抱え腰を低く落としていた薫織(かおり)だったが──。

 ──それにすら先回りするように、ピースヘイヴンの声がかかる。

 

 

「ああ、待ってくれないか?」

 

 

 落ち着いた口調とは裏腹にその表情はかなり強張っていた。

 

 これだけの大立ち回りを成立させた、黒幕。

 全ての陰謀の、中心点。

 

 その大物が放つであろう一言の重要性を危惧して、薫織(かおり)は一瞬だけ行動を保留し。

 

 

「すまないが私も連れて行ってくれ。…………少々、マズイことになったらしい」

 

 

 ──危うく、ずっこけるかと思った。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 紳士然とした風貌の筋骨隆々とした人型シキガミクス。

 体長は二メートル前後。紳士服のような意匠で、遠目に見たら人間と見紛うような見た目。ただし、カメラの瞳にスピーカーの口と、顔は一目見れば分かる程度に機械的。

 

 能力は、一切が不明。

 

 ただし──『無敵』であることは確か。

 

崩れ去る定説(リヴィジョン)

攻撃性:100 防護性:100 俊敏性:80

持久性:70   精密性:80   発展性:70

※100点満点で評価

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 それからしばらくして。

 

 生徒会準備室から撤退した薫織(かおり)嵐殿(らしでん)、そしてピースヘイヴンは──適当な廊下の支柱の陰で、一旦立ち止まっていた。

 

 別の空き教室に隠れている流知(ルシル)達と合流するわけには、まだいかない。

 なりゆきでピースヘイヴンと共に逃げてきたが、一応コイツは学園を巻き込む陰謀の黒幕で、本人の自白もあるのだから。

 

 

「んで」

 

 

 薫織(かおり)は片目を瞑りながら腕を組んで、

 

 

「説明の準備はできているか? 助けを求められた以上、流知(ルシル)お嬢様のメイドとして一応掬い上げておいてやったが……」

 

 

 プロの民間陰陽師・『必殺女中(リーサルメイド)』は本来、この局面でピースヘイヴンを助けるようなことはしない。

 

 彼女が全ての黒幕を一応でも引っ張り上げたのは、彼女が『必殺女中(リーサルメイド)』ではなく『遠歩院(とおほいん)流知(ルシル)のメイド』として行動したからに他ならなかった。

 

 それも──此処での彼女の弁明如何によっては、いくらでも変わる判断だ。

 

 

「それについては、俺から説明しよう」

 

 

 詰問する姿勢の薫織(かおり)を遮るように、嵐殿(らしでん)が口を開く。

 

 

「まず、コイツの状況だが……端的に言うと」

 

 

 大真面目な顔をしていた嵐殿(らしでん)だったが、そこまで言うと不意に表情を崩した。

 まるで、どう説明したらいいものか思案するような──そんな間の悪さを含む表情で、嵐殿(らしでん)は続ける。

 

 

「…………()()()()()、ってことになるかな」

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