唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

27 / 121
27 ある陰謀の頓挫 >> OR START OF COMEBACK ③

 裏切り。

 

 それ自体は、何の不思議もない。

 というか、そうでもなければ黒幕であるはずのピースヘイヴンが刺されるという異常事態はあり得ないだろう。

 

 つまり、次なる興味は『誰が』裏切ったのかという話になるが──当然、そこで『打鳥(だどり)保親(やすちか)』という分かりやすい回答にはならない。

 嵐殿(らしでん)の口から出て来た下手人の名は、

 

 

伽退(きゃのく)悠里(ゆうり)

 

 

 聞き慣れない、中性的な響の名前だった。

 ──打鳥(だどり)が思考の中で零していた、ピースヘイヴンの部下の一人である。

 

 

「コイツの部下、生徒会の書記長に伽退(きゃのく)って女子生徒がいるんだが、ソイツが中心になって生徒会役員の半分が反旗を翻した形だ」

 

「はァ? 何でまた。生徒会の連中にとってはコイツは『勝ち馬』なんじゃなかったのか?」

 

 

 それに対し、薫織(かおり)は信じられないとばかりに言い返す。

 

 ピースヘイヴン──虎刺(ありどおし)看酔(みよう)、即ち原作者。

 

 そのネームバリューを信じて、もうどうしようもない『原作(このせかい)』の先で再建されるであろう未来の要職に就く為に配下に入る。

 それが、生徒会におけるピースヘイヴンの求心力の正体のはずだ。

 

 それなのに生徒会役員の半旗が翻るのでは、そもそもの前提が崩れてしまう。

 怪訝そうな表情を浮かべる薫織(かおり)に対し、嵐殿(らしでん)は端的に答える。

 

 

「学園の『外』の利権だよ」

 

 

 そんな、どうしようもない『大人の世界』の理論を。

 

 

「このバカは百鬼夜行(カタストロフ)を利用する『計画』を立てていたが──そこには破壊が伴う。百鬼夜行(カタストロフ)によって大規模な破壊が発生すれば、組織としてのセキュリティも弱まるだろう。

 その機に介入すれば、唯一の陰陽師育成機関を牛耳ることができる。是非とも牛耳りたい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 …………『ウラノツカサ』は唯一の陰陽師育成機関だ。牛耳って自分の利益の為に動かしたいと考える組織だって、少なくはない」

 

「だからピースヘイヴンが進めている百鬼夜行(カタストロフ)の前倒し自体は許容する。

 その上でピースヘイヴンを暗殺することで、あえて完全にアンコントローラブルな百鬼夜行(カタストロフ)を発生させて……『ウラノツカサ』自体をブッ壊そうとしてるってことか?」

 

「ということらしい。俺はその情報を別の生徒会書記の生徒から知って、慌てて薫織(かおり)と合流した……って訳ね」

 

 

 とんでもない話だった。

 

 何より、外部組織が凶行に踏み切った理由が百鬼夜行(カタストロフ)の前倒しに学園の独裁と、どこまでもピースヘイヴンの身から出た錆なところが救えない。

 

 

「……ちなみに、テメェが復活した理由は?」

 

「それは企業秘密だ。教えることはできないな」

 

「チッ……」

 

 

 舌打ちするが、薫織(かおり)はそれ以上追及しようとはしなかった。

 本能的に、此処についてはどう掘り下げようと有益な情報が得られるとは思えなかったのだ。

 むしろ此処で下手に拘泥すれば、ピースヘイヴンとの敵対関係がより強固になってしまうリスクもある。

 

 

「……な? マズイことになっただろう?」

 

 

 そう言って、ピースヘイヴンは苦笑しながら肩を竦めた。

 

 この状況でコミカルな動作をしてきやがる黒幕野郎に腹を立てた薫織(かおり)は、無言でバカの頭を殴打する。

 

 

「いたぁ! 酷いな……。まぁ、そこの柚香が盗み見た通り、私の計画は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに意味があったわけだが……。

 ……その為の手足となる生徒会メンバーの半数が敵対したとなると……どうなるか分かるかね」

 

 

 ピースヘイヴンは一呼吸おいて、

 

 

「つまり」

 

 

 神妙な面持ちで、こう告げた。

 

 

「『霊威簒奪』のデマ拡散から始まり、君達が抵抗していた私の計画は────早くも失敗が確定したことになる」

 

 

 もう一発ブン殴った。

 

 

「痛いなぁ!? 私のこの世界の至宝たる頭脳がバカになったらどうしてくれる!?」

 

「うるせェボケ!! 今まで散々こっちを振り回してくれやがった黒幕野郎が今更ラスボス降りますっつったら、それはもう殴るのが正解だろうが!!!!」

 

 

 憤慨するピースヘイヴンだったが、悪態を吐く暴力メイドにハァと溜息を吐く。

 

 気を取り直して調子を取り戻すと、ピースヘイヴンは咳ばらいを一つして話を前に進めた。

 

 

「とにかく。破壊と混沌しか生まない百鬼夜行(カタストロフ)など百害あって一利なしだ。

 現時刻から私は誰が敵だか分からない生徒会を離れてひとまず百鬼夜行(カタストロフ)を阻止する為に動くつもりだが……。

 …………君達も似たような感じだろ? 一緒に協力しないかね?」

 

 

 悪びれた様子もなく協力を申し出てくる元黒幕バカに、『コイツもう五発くらいブン殴ってもいいんじゃねェかな……』とわりと真剣に考える鉄拳メイド。

 

 だが、これ以上話の腰を折ってもしょうがない。

 薫織(かおり)は仕方なく真面目なテンションに戻りながら、

 

 

「協力の意志が偽装でない確証は? つい数分前まで敵対してたんだ。裏切らない確証がねェ限り(オレ)は納得できねェぞ」

 

「確証は出せない。それは悪魔の証明だからな。だが、『()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!!」

 

 

 その言葉に、薫織(かおり)嵐殿(らしでん)の息が詰まる。

 

 

「君達の『策』は分かっている。何らかの方法で私の頭の中を覗き『草薙剣』の内部血路の図面を確保して、()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 確かに、その解決策は的を射ている。その為の設計図を私から提供しようと言っているんだ」

 

 

 急転直下の提案。

 ピースヘイヴンからの提示に、まず口を開いたのは嵐殿(らしでん)だった。

 

 

「…………その解法があると分かっていたなら、何故『シキガミクス・レヴォリューション』を……捨てた?」

 

「……、……『草薙剣』の紛失はきっかけでしかなかった。言っただろう。私が見据えている問題の根は、もっと深いところにあるんだよ。シロウ」

 

 

 互いに、少女とは思えないくらいにくたびれた声色。

 

 そこには見た目からは想像もつかない重い歴史があるのだろう。

 薫織(かおり)には二人の文脈を伺い知ることはできないので、ただ黙って二人の話の成り行きを見守る。

 

 ピースヘイヴンはそこで、パンと手を叩いて空気を切り替える。

 嵐殿(らしでん)の方も納得はしていないが、それ以上この話題について拘泥するつもりはないようだった。

 

 

「ともあれ、だ! 私のことは信頼できないだろうし、今すぐ信頼できるだけの材料を提示することも私には不可能。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これでどうかね?」

 

「…………有能なカスほど扱いに困るモンもねェな」

 

 

 つまり、薫織(かおり)にも彼女の加入を拒否するだけの材料はないということだった。

 それに最低限、流知(ルシル)に対する危険がないことくらいは此処までの事情から確証を得ることもできた。

 

 

「さて、懸念事項は解決したな! では晴れてラスボスは廃業だ。これからは先達として、君達に協力させてもらうよ」

 

「なんでコイツこの流れでこんなイキイキできるんだ?」

 

「……気にしないでやってくれ。コイツは前世(むかし)からこういうヤツなんだ……」

 

 

 何故か二人を先導して歩き始めるピースヘイヴンの背を眺めながら。

 薫織(かおり)は、『流知(ルシル)にどう説明したもんかな……』などと益体のないことを考えていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。