唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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31 神に愛された少女 >> UNTOUCHABLE GIRL ④

 『本題に入る』────久遠を退散させた薫織は、そう言ってその場の全員を見渡す。

 どことなく、先ほどよりも緊張感に満ちた面持ちだった。

 

 口火を切ったのは流知だ。

 

 彼女は遠慮がちに手を挙げて、

 

 

「思ったのですけれど、暗殺の危険があるのでしたら、明日は休めばよろしいのではなくて?」

 

 

 と、当たり前の提案をした。

 

 敵が一〇〇%全校集会に焦点を当てて暗殺しに来るのであれば、対象であるピースヘイヴンがそこに行かなければ暗殺は成立しないだろう。

 少なくとも、戦闘の場所を全校集会の場から変更させる効果くらいは見込めるかもしれない。

 

 しかしピースヘイヴンは首を振り、

 

 

「いや、()()()()()()。相手が絶対に暗殺しに来るということが分かっているんだ。つまり私は、一〇〇%囮として機能することが分かっている優良素材なのだよ」

 

「もう少しご自分を大事になさって!?」

 

「……そこ自体は大丈夫だろ。原理は分からねェが、コイツ一回刺されてんのに無傷で復活してるし。たぶん残機制なんじゃねェかな」

 

「あっはっは! だったら私ももうちょっと気楽でいられたんだがねぇ」

 

 

 楽しそうに笑うピースヘイヴンは流知の目から見れば十分気楽そうなのだが、きっと当人にしか分からない悩みでもあるのだろう。

 

 いまいち深刻度が分からない流知を置き去りにするように、ピースヘイヴンは続ける。

 

 

「絶対に囮として機能するということは、相手の行動を誘導できるということだ。これを利用しない手はないだろう?」

 

「……ピースヘイヴン暗殺に全力を出す生徒会反乱分子どもを(オレ)達が叩け、と?」

 

「その通り。話が早くて助かるよ」

 

 

 パチン、とピースヘイヴンは指を弾く。

 

 実際、これが一番実現性が高いのは間違いない。

 反乱分子にとってはピースヘイヴンの暗殺が絶対条件だし、この機会を逃せばピースヘイヴンは百鬼夜行(カタストロフ)まで雲隠れしかねない。

 

 そう考えれば、確実に姿を現す生徒集会での暗殺は反乱分子にとっては避けようがないイベントになる。

 ──そして、それが分かっていればこちらも幾らでも対策することができるだろう。

 

 

「生徒集会には、通常通り参加する。君達はその間に伽退君を打破してくれ。

 流石に生徒会の反乱分子全員は難しいだろうが、明確に『外』の手の者である伽退君が潰れれば、残った反乱分子は烏合の衆。どうにでも処理できるはずだ。

 どうだい、シンプルな構図になっただろう?」

 

 

 この方針であれば、反乱分子によるピースヘイヴン襲撃の動きはこちら側で誘導することができるようになる。

 伽退を撃退すれば反乱分子の勢いも弱まり、生徒集会で騒ぎが起きても不特定多数うの生徒達に甚大な被害が発生するという最悪の事態は回避できるだろう。

 

 しかし。

 

 

「…………いや……無理だな」

 

 

 弱音を吐いたのは、意外にも普段は強気なメイドだった。

 

 

「そーなのか? わたしは聞いてて上手くいきそーな気がしてたけど……」

 

「そうじゃねェ。確かに最悪の状況は回避できるだろう。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 一般生徒への被害の危惧。

 

 それは、何だかんだで善性に属する選択を好む流知に付き従う薫織らしい理由ではあった。

 つまるところ、一般生徒に被害が及ぶ危険を許容するなと言いたいのだろうか──と推察したところで、ピースヘイヴンは違和感に気付いた。

 

 

「…………()()()?」

 

 

 薫織は今、マズイという言葉を使った。

 

 気に食わない、許せない、受け入れられない──そうした感情からくる拘りが絡んでいるならば、そういう言い回しはしないだろう。

 マズイということは、薫織から見て利害が絡んだ不都合が見えているということに他ならない。

 

 つまり──。

 

 

 

『────()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 直後。

 冗談抜きで、その場にいた全員の呼吸が止まった。

 

 

「…………君の妹()、怪異を宿しているのかい?」

 

 

 ピースヘイヴンの声からは、一切の余裕が失われていた。

 

 

 ()()()は、化粧机に備え付けられた小さな椅子に楚々と腰かけていた。

 

 漆黒の髪に、鶯色の瞳。

 肉抜きされた巫女服のような装束は、他の者が身に纏えばコスプレ衣装のようにも見えたかもしれない。

 だが──()()()の場合、まるでそれ自体が肉体の一部のように、自然と馴染んでいた。

 

 

「あ、カガミサマ。ごきげんようですわ」

 

「ご無沙汰してるわね~」

 

 

 それに対し、流知と嵐殿はあまりにもさらりと挨拶を交わす。

 そして、挨拶を交わされた()()()の方も──

 

 

『遠歩院に、嵐殿ですね。息災そうで何よりです』

 

 

 意外と、フレンドリーであった。

 

 

 ──『怪異』。

 

 百鬼夜行(カタストロフ)の副作用によって発生するものが一般的だが、実際のところは全部が全部百鬼夜行(カタストロフ)産とも限らない。

 そしてこの怪異は、発生理由や成長経緯によって幾つかの種類に分けられる。

 

 

 一つ目は、妖怪。

 純粋に怪異として生を受けた存在で、これは百鬼夜行(カタストロフ)からしか生まれない。

 

 二つ目は、幽霊。

 人から発生した怪異で、本来は死と共に拡散する霊気が何らかの形で離散せず留まることによって誕生する。

 

 三つめは、化生。

 動物やモノなどが成る怪異で、年月を経るか何らかの理由で大量の霊気を浴びるか、いずれにせよ霊気の蓄積によって誕生する。

 

 四つ目は、精霊。

 自然物から発生する怪異で、何らかの事情で土地や事物に霊気が蓄積することによって誕生する。

 

 

 そして最後が──『神様』。

 

 最初から神様として怪異が誕生することは原則的になく、上記の『怪異』が力を得ることで到達する領域がこう呼ばれている。

 

 その脅威は凄まじく、単体で百鬼夜行(カタストロフ)と同じだけの被害を齎すことができるとも言われている。

 実際に、『原作』でも概念として初登場してから、物語の最後までパワーバランスではトップを保っていた。

 

 

『そして──アナタの問いに答えます。私は、怪異ではありません。──「神様」と呼んだ方が脅威把握としては適切でしょう』

 

 

 ──つまるところ。

 園縁久遠は『神様』に愛された少女だった。

 

 遠くから加護を与えるのではなく、直接自分自身が久遠に憑くという形で。

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