唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
『初めまして。園縁家に祀られている「神様」──花蓮です。家の者からは、「華神様」と呼ばれていますが』
そう言って、突如現れた『神様』──花蓮はその場にいる面々を一瞥する。
丁寧な物腰ではあったが、やはりその所作の節々からは超越者らしい不遜さがにじみ出ている。
冷的なんかは思わず身を引きそうになっていた。
ただ、薫織はじめこの場にいる面子はもう慣れたものなのか、さしたる反応もない。
薫織なんかは気にした様子もなく花蓮のことを手で指し示しながら、
「
「待て、待て待て。理解が追い付かないぞ」
薫織の説明に、冷的は待ったをかける。
というよりも──理解に行き着くまでに、一つの大きな疑問点があった。
「『神様』ってのは、『原作』でもそー大盤振る舞いされるよーな設定じゃーなかった。『神様』を擁する組織ってのはそれだけで一目置かれる程度には。その『神様』を、祀っている名門の家系!?」
そんな特殊な家系があるならば、『シキガミクス・レヴォリューション』で明言されないはずはない。
『シキガミクス・レヴォリューション』というコンテンツには本編以外にも複数のスピンオフ作品があり、それぞれが様々な軸で『シキガミクス・レヴォリューション』の世界を描き出しているのだ。
流石に、独自の『神様』を祀る家系なんてものがあれば『原作』で影も形もないのはおかしい。
それが、影も形もないということは。
つまり。
「あァ、そうだよ。コイツも転生者だ。三〇〇〇年前のな」
「『神様』がっっ!?!?」
そもそも『神様』を祀る家系の最初の最初──祀られる『神様』自体が、『原作』に存在しない
そこで、あまりの事態に固まっていた冷的の脳が再起動を果たした。
前世が猫の次は、今世が神である。
なんというか、何でもありな有様だった。
確かに転生する対象が人間だけだなんて誰も決めていないのだから、有り得る話ではあるのだが。
流知と嵐殿は驚愕していないあたり、おそらく二人に関しては既知の情報なのだろうが──冷的にしてみれば、驚天動地もいいところである。
「……園縁家の祭事については『書いた覚えがない』から注視はしていたが……まさか、独自の『神様』を祀っていて、その『神様』が転生者だったとはね……」
ついでに言えば、態度に表していないだけでピースヘイヴンからしても驚天動地であった。
「おそらく、原理としては封印型シキガミクスのそれだろう? 園縁君(妹)の肉体そのものをシキガミクスに見立て、その中に花蓮君そのものもしくは分霊が封印されているわけだ」
『────明察です。流石は原作者ですね』
興味深そうに言うピースヘイヴンに、花蓮は静かに肯定を返した。
「……随分と、あの少女に入れ込んでいるようだな」
当然だが、封印型シキガミクスに入れられた怪異というのはそれなり以上に不利益を被る。
何せシキガミクスとして使役される形となるのだから当然だが──そこから人体をシキガミクス代わりとして封印されているとなれば、その横紙破りを実現する為にさらなる不利益を被っているのは想像に難くない。
封印されている久遠本人に自覚はないだろうが──その不利益を良しとするほど花蓮が久遠を重視していない限り、そもそもこの状況はあり得ない。
花蓮は平然と頷いて、
『ええ。──あの子には、我が身を懸ける価値がありますので』
と、言ってのけた。
それほどの、極大の愛だった。
ともあれ、これで盤面は明確化された。
園縁久遠に憑く形で、『ウラノツカサ』には『神様』がいる。
そして、『神様』は園縁久遠のことをこれ以上ないほどに愛している。
その園縁久遠が、危害を加えられるということは。
「
この『神様』が、学園内で猛威を振るうということ。
たった一人で、
『ピースヘイヴンさん、いえ、
そう言って、花蓮はじっとピースヘイヴンを見据える。
『神様』が初対面の一個人に恩を語るのは、どこか奇妙ではあったが──きっと、長くこの世界を生きた彼女にだけ分かる『何か』があるのだろう。
その場の誰もが、そこに秘められた文脈に対してあえて問いただすようなことはしなかった。
『──それは、この世界を組み上げたアナタに帰属する恩です。──だからこそ、私はアナタが為そうとしていた「決着」については──目を瞑ります。最悪、私が久遠を護ればいいだけの話でしたし』
過去形で語っているのは、ピースヘイヴンが推し進めていたという
やはり『神様』らしく、その思惑についてはある程度知っていたのかもしれない。
ただ、花蓮はそこで言葉を区切り、
『しかし──アナタ以外が引き起こした事態については別です。
もしも何者かが久遠に危害を加えた場合、
「…………そ、それなら、オマエが伽退とかを倒せばいーんじゃないか?」
震えつつ、冷的が当然と言えば当然の疑問を問いかける。
とはいえ、街一つを容易に消し飛ばせる『神様』に意見するのだ。
どれだけのプレッシャーがかかっているかは、想像すらもできないが。
それを察したのか、花蓮が直接答える前に薫織が代わって答える。
「そうもいかねェようになってんだ。花蓮は久遠に憑くときの契約で、久遠に危険が迫らない限り暴れられねェよう行動を縛られてるからな。『憑く』ってのも、そう便利なモンじゃねェらしい」
「な、なるほど…………」
『原作』においても、『神様』は物語序盤から登場していた。
それでも『神様』達が物語の中心にならず主人公達によって事件が解決されていたのも、こうした事情が関係している。
理由は一様ではないが、土地やモノに縛られているなどの理由で『神様』の多くは現世に干渉するのに一定の制約が存在しているのだ。
この花蓮の場合──久遠の肉体に己を『封印』することで土地の制約を回避する代わりに、久遠に身の危険が迫らない限り具体的な干渉をすることができない、という制約が。
つまるところ、『爆弾』が一つ増えたということだ。
それも、一度起爆すれば学園全体が跡形もなく消し飛ぶレベルの。
薫織は状況を総括して、
「被害の黙認は論外。できれば、集会当日にぶっつけで阻止することになるのも避けたい。……今日中に連中を倒すのがベストだな」
「厳しいが…………なるほど、確かにそうせざるを得ないな」
渋い顔をしながら、ピースヘイヴンは頷く。
実際に、今日中にことを収めるのは難しいだろう。
伽退は周到に準備していたであろう暗殺を失敗したばかりなのだ。
まずは一旦水面下に潜ることで追撃を回避しようと考える。
それを暴くのは至難の技だし、下手に動けばさらなる暗殺を狙われかねない。
ピースヘイヴンの能力は未知数ではあるものの──
(なんだかんだでこの調子だからな……)
ピースヘイヴンを横目に見て、薫織は内心で嘆息する。
とてもではないが、絶対に殺されないから安心! とは言えなかった。
「じゃ、何手かに分かれて行動したらどうかしら~? 私とトラ、流知ちゃんと薫織ちゃん、冷的ちゃんと久遠ちゃんは此処で待機って感じで~」
「ちょっと待て!? それだとわたしがこの神様と一緒にいるってことにならないか!?」
『──あら、冷的は私と一緒に過ごすのは嫌でしょうか? こう見えて私はゲームもいけるクチなのですが。一緒に久遠とプレイしましょう?』
「…………えへ、わたしもゲーム大好きだぞ、えへへへ……」
世界一辛い接待ゲーム大会が確定し、世にも悲しい笑みを浮かべる冷的。
とはいえシキガミクスを失っている彼女の留守番は確定なので、こればかりはどうしようもないのだった。
薫織はそんな組み分けを提案した嵐殿を横目に見ながら、
「今日中に、生徒会の反乱分子を叩き潰す。……
──
明らかに作為のある提案だったが、薫織はあえてそこに言及することはしなかった。
ようやく交わった道だ。
世界を諦めない者と、世界を諦めた者。
積もる話も、あるだろうから。