唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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33 最悪の二択 >> HELL OR HELL ①

「…………やっぱり納得いきませんわ」

 

 

 薫織(かおり)と連れ立って歩きながら。

 

 流知(ルシル)は、考え込むようにしながらも呟いた。

 

 

「何がだ? 闘いたくねェなら、今からでも待機で問題ねェけど」

 

 

 横を歩く薫織(かおり)は、そんな流知(ルシル)に問いかける。

 問われた流知(ルシル)は言葉を選びながらも、

 

 

「決着を急ぐ理由ですわ! 反乱勢力の方が勝負を焦る理由は分かりました。でも、会長がそれに応じる理由はないではありませんの。

 明日暗殺される危険があるなら、どう考えても会長に明日の生徒集会を欠席してもらった方が良いはず。目標である会長が現れないなら、生徒会の方々だってそもそも暗殺騒ぎを起こせないでしょう?

 ……むしろ、こちらから行動するということはいたずらに危険(リスク)を増大させるのではなくて?」

 

 

 流知(ルシル)の言は、道理だった。

 

 あの場では生徒集会へのピースヘイヴンの登壇は必須というような扱いになっていたが、それはあくまで『ピースヘイヴンを囮にすれば相手の隙を突けるから』という理由ありきだ。

 暗殺騒ぎが花蓮を刺激することに繋がり、それを回避するのが最優先──という理路であれば、選ぶべきは『今日中の決着』ではなく『登壇の中止による暗殺騒ぎそのものの阻止』。

 戦闘を嫌う流知の性格ゆえではあるが、至極理性的な発想である。

 

 ただし、此処には一つ共有されていない前提があった。

 

 

「……ああ、そういえばお嬢様には言ってなかったっけか」

 

 

 薫織(かおり)は何かを思い出したように言って、

 

 

 

伽退(きゃのく)は、霊能で他者を操作する」

 

 

 

 当たり前みたいな顔をして、その最悪の事実を指摘する。

 

 

「生徒会室でピースヘイヴンの野郎が裏切られた時、裏切ったピースヘイヴンの腹心……打鳥(だどり)とかってヤツの様子がおかしくてな。言動がふわふわしていたし、不自然に『契約』という言葉を口走っていた」

 

 

 思い返すように薫織(かおり)は続けて、

 

 

「おそらく……『契約』を軸にした精神操作系統の霊能だろう。精神操作系統の霊能は陰陽師相手では顕在化している霊気の影響で著しく効果が減少するが、相手に『同意』させた場合にはその限りじゃねェし」

 

「そ、そうなんですの……?」

 

「あァ、お嬢様のメイドになる前……民間陰陽師時代に似たようなタイプを何人か見た」

 

 

 不安そうな流知(ルシル)に、薫織(かおり)は何てことなさそうに頷く。

 

 

「それに『同意』させたっつっても、その『同意』の取り方はいくらでもやり方があるしな。事前に周知しておいた条件に合致すれば『同意』ってことにできる」

 

「じぜんにしゅうちしておいたじょうけん?」

 

「…………たとえば、『このゲームに負けた場合は同意したと見做す』って条件を最初に相手に伝えた上で、ゲームで敵を負かすとかだな」

 

 

 作中では、主に展開型のシキガミクスの使い手が行っていた戦法である。

 この種の霊能は物理攻撃を無効化する能力も副次的に備えているので、トリッキーなバトルになりやすい。

 その為、『シキガミクス・レヴォリューション』ファンの中でも根強い人気を持つ『名バトルメーカー』的な部類だった。

 

 

「他にも、実在の選挙にシキガミクスを組み込んで『同意』を取ったって扱いで大規模洗脳する……なんて計画があったりもしたな」

 

「あー。ありましたわね、アレ……」

 

 

 流石に、『シキガミクス・レヴォリューション』の原作で起きたイベントは流知(ルシル)も覚えているらしい。

 薫織(かおり)は呆れたように流知(ルシル)のことを眺めながら、

 

 

「……っつか、『原作』でも解説されてただろ、『精神操作』系統の霊能。なんで覚えてねェんだ?」

 

「…………じゅっ、一五年以上前の話ですしっ! わたくしは後追いだからコミカライズの関係性読みがメインだったんですぅー!!」

 

「………………まァいいけどよ」

 

 

 『ファン』としての嗜好の違いが浮き彫りになったところで、薫織(かおり)は誤魔化すように咳ばらいを一つする。これ以上は深刻な喧嘩の入り口になりかねなかった。

 流知(ルシル)は話を逸らすようにして、

 

 

伽退(きゃのく)さんが洗脳系の霊能を持っているということは分かりましたわ。

 ですが、洗脳系の霊能を持っていることと今日中の決着に拘るのは、必ずしも結びつかないのではなくて?」

 

「明日は全校生徒が集まる生徒集会だって言ったろ?」

 

 

 首を傾げる流知(ルシル)に、薫織(かおり)は呆れたように言って、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 『同意』がなければ洗脳能力は陰陽師には無力──なんて前提が機能すると思っているようでは、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 きちんとした世界観設定が用意されているのを前提とした上で、その世界観の原則の穴を突く形で例外や反則が叩き込まれるのがあの作品の魅力の一つでもあったからだ。

 

 そしてそうした物語を魂に刻み込んだ転生者が、前提を容易く踏み越えた反則技を繰り出さない訳がない。

 現に打鳥はあっさりと洗脳され、そしてピースヘイヴンは一度確かに殺されたはずだったのだから。

 

 

「ピースヘイヴンの所在は、向こうにしてみたら関係ねェんだ。

 どの道、大規模洗脳で手駒は増やす手筈。ピースヘイヴンが登壇しなくたって明日の生徒集会で連中は動くだろうな。

 ……そして、それに久遠が巻き込まれたらどうなると思う?」

 

「………………考えたくありませんわね」

 

 

 愛しの久遠がバカの手駒にされる。

 そこまで行かずとも、突如暴れ出した洗脳された生徒を見た久遠は素直に怖がるだろう。

 あれでそういうところは年相応な少女だ。

 良く考えずとも、花蓮の地雷にストンピングキックしている状況。

 確実にその場で爆発するし、そうなれば全校生徒が花蓮の怒りに巻き込まれかねないことになる。

 人的被害は、計り知れないレベルになるだろう。

 

 ──そして、薫織(かおり)のこの最悪の懸念は、さらに最悪なことに実現性がかなり高い未来だった。

 

 

「連中も流石にピースヘイヴンと(オレ)達が組んでいることは把握済みのはず。となれば真っ先に狙いてェのはお嬢様──だが、こっちはガードが堅い。(オレ)がいるからな。

 だから必然的に、狙われるのは久遠になる」

 

「それは……」

 

 

 それをあの場で話せば、花蓮は『つまり現時点で久遠は身の危険に晒されている』と解釈したはずだ。

 そうなればどこにいるとも分からない伽退(きゃのく)を叩き潰すまで無制限に破壊を撒き散らす暴走機関車が誕生してしまう。

 だから、あの場では話す訳にはいかなかったのだった。

 

 

「な? だから今日中に決着をつけるしかねェ……どころか、もうすぐにでも伽退(きゃのく)を見つけて叩かなきゃならねェんだ」

 

「……そ、それって、事前に会長と師匠とで話し合って考えたんですの?」

 

「特には。でもまァ、久遠の境遇を把握した時点で、アイツらも同じようなことは思い至ってんだろ。でなけりゃ流知(ルシル)と同じように集会不参加を提案するはずだし」

 

 

 あっさり言うメイドだったが、流知(ルシル)としては戦慄するばかりだった。

 

 思考の回転速度もそうだが──そもそも、会話の前提として必要とされる想定の複雑さの次元が違う。

 

 と、そこで流知(ルシル)はハッとして、

 

 

「……ん? でも、そうなると現状はマズイのではなくて? わたくし達が外に出ているということは、久遠さんの守りががら空きになってしまいますわ。

 相手が久遠さんを狙っているのであれば、その動向は筒抜けということに……」

 

「むしろ、それを狙ってる」

 

 

 神をも恐れぬメイドはあっさり頷いて、

 

 

「十中八九、向こうは(オレ)達の留守を突いて久遠を狙いに(オレ)の部屋へやってくる。獅子身中の虫を作り出す千載一遇の好機だからな。(オレ)達はそれを逆に狙って叩くわけだ」

 

「…………それって……」

 

「あァ。万一突破されて花蓮が出張ってきた場合、まず間違いなく(オレ)達が久遠を囮にしたこともバレる。そうなれば(オレ)達も神様(ヤツ)の報復対象に仲間入りだな」

 

「最悪じゃありませんのそれ~~~~~~~~~!!!!!!!!」

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