唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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34 最悪の二択 >> HELL OR HELL ②

「あううう……あううう……」

 

「お嬢様。口調、口調。ですわ」

 

「あうううですわ……あうううですわ……」

 

「そうではなく」

 

 

 あまりのことに頭を抱える流知(ルシル)

 だが、生徒集会での洗脳が相手の既定路線である以上、相手にその方針を捨てさせるにはこれくらい大きな隙を見せないといけないという事情もある。

 

 

「まァ切り替えな、お嬢様」

 

「無茶言いますわねぇ!?」

 

 

 ぽん、と肩に軽く手を置いてはそう言う薫織(かおり)

 あまりに気軽に提示された無理難題に、流知(ルシル)は殆ど逆ギレ(全然逆ではないが)のテンションで激昂する。

 

 しかし、当の傍若無人メイドは主人の激昂など素知らぬ顔で、

 

 

「だから、とっとと潰すんだ。お嬢様と(オレ)、会長と嵐殿(らしでん)のペアで別れたのも迎撃と遊撃の二手に分かれる為だ。

 ちなみに、役割としては(オレ)達が迎撃」

 

「……つまり、師匠たちが空振りしたらわたくし達が責任重大になるということでよろしいのかしら?」

 

「察しが良いじゃねェか。冴えてるな、お嬢様」

 

 

 薫織(かおり)はニッと笑いながら流知(ルシル)の頭を乱暴に撫でる。

 

 メイドのはずだ。

 メイドのはず──なのだが、その表情にはどこか頼り甲斐のある男の影が見えたような気がした。

 

 見る者を安心させるための笑みを浮かべながら、メイドは自信満々にお嬢様へとこう諭す。

 

 

「心配は要らねェよ。拠点防御と迎撃はメイドの十八番だ」

 

「そんな訳ないですわよね???」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 二人の少女達は、横並びになって無言で歩く。

 

 長身の嵐殿(らしでん)と比べ、ごくごく普通の高等部生くらいの歳に見えるピースヘイヴンは横に並ぶと姉妹のようですらあったが──

 ──二人の間に横たわる重々しい沈黙が、そうしたほのぼのした印象を全て消し飛ばしていた。

 

 

「アナタの部下から()()()()()()()

 

 

 歩きながら、嵐殿(らしでん)は言う。

 

 

百鬼夜行(カタストロフ)を起こし、()()()()。部下達もこれ以上の詳しい情報は知らされていなかったわ。……そんなことだからあっさり反旗を翻されるんじゃないかしらん?」

 

「耳が痛いな。だが、君にとっては都合がよかったんじゃないか?」

 

 

 嵐殿(らしでん)の言葉が、止まる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。反乱があったお陰でこうして平和的に私から設計図を得られるんだから、君としては万々歳。違うか? 柚香」

 

「だとしても、友人の人望が音を立てて崩れていって楽しくなるほど()()クズじゃないからね~、トレイシーちゃん」

 

 

 互いに今世の名で呼び合うのは、隔意の証か。

 

 互いに互いの腹を探り合うようにしながら、二人は先を急いで行く。

 

 

「しかし妹(くん)の方は彼女に任せてよかったのか? 私達が衝突しなければ彼女一人に任せることになるだろう」

 

薫織(かおり)ちゃんは、流知(ルシル)ちゃんが後ろにいる時の方が強いからね~」

 

 

 どういう原理か知らないけど、と嵐殿(らしでん)は言う。

 

 おそらくメイドなので、お嬢様を護ってると気分が乗るのだろう。

 これで納得できている時点で、だいぶ精神の深いところをあのメイドに毒されている気がしないでもないが。

 

 そんな精神汚染メイドの話はさておき、ピースヘイヴンは嫌そうに目を細めながら嵐殿(らしでん)に断りを入れる。

 

 

「……万一突破されたら私は逃げるが、構わないな」

 

 

 仮にも黒幕の癖にあまりにも弱腰なのであった。

 嵐殿(らしでん)の方も呆れたように唇を尖らせながら、

 

 

「どうして始める前から失敗することばかり考えるのよぉ~。もうちょっと明るく考えましょ?」

 

()()()()()だ。常に最悪を想定し続けるくらいでちょうどいいだろう?」

 

「……それを、アナタが言うのね」

 

 

 そこで、また会話の流れが途切れた。

 

 数秒か、数分か。時間の経過すらも曖昧になるような重苦しい沈黙の後、二人の足音だけが廊下に響く。

 

 

「思えば……こうしてきちんと話をするのは()()()()()になるか」

 

 

 それは、()()()()()高校三年生ということになっているトレイシー=ピースヘイヴンの言葉としては明らかに異常だった。

 

 さりとて、『前世』を計算に含めた話でもない。彼女は前の生の最期を、横を歩く少女に看取られているのだから。

 

 

 ──それが示すのは、つまり。

 

 

「今年で三八歳。はっはっは、陰陽術で若さを保っているとはいえ、流石に物悲しくなってくるなぁ」

 

 

 『ウラノツカサ』の事情に詳しい学生は、転生者に限らずピースヘイヴンのことをこう呼ぶ。

 

 永久に生徒会長の座に君臨する者──『永世会長(デスポット)』、と。

 

 

 考えてみれば、自然の流れではある。

 

 小等部から数えれば一二年の在籍期間がある『ウラノツカサ』だが、いかにピースヘイヴンが原作者であろうと、ほんの十数年程度で原作ではモブの集まりにすぎなかった組織を学園最大の派閥へ変貌させることは難しい。

 まして、大量の汎用シキガミクスを配備した万全の支配体制を作り出し、世界を揺るがすような計画を練ることなどできはしないだろう。

 

 校則は問題にはならなかった。

 そんなものは、生徒会長になって学園の権力構造の頂点に立った時点で容易に握り潰せた。

 

 つまり──この女は、二〇年間も生徒会長としてこの学園を支配しているのだ。

 

 

「君もよくやっているな。学籍もないのに二〇年間も素知らぬ顔で学生をやっているなんて正気の沙汰じゃないぞ」

 

「だぁって。アナタを放ってなんておけないもの~」

 

 

 からかうようなピースヘイヴンの物言いを、嵐殿(らしでん)は頬に手を当ててさらりと躱す。

 

 ──ピースヘイヴンが規則を強引に捻じ曲げて二〇年間生徒会長をやっているなら、嵐殿(らしでん)は規則をすり抜けて二〇年間学園に留まっているのだった。

 

 通常であればそんな横紙破りは通らないはずだが、彼女の手腕と──ピースヘイヴン自体が規則を捻じ曲げていることによる混乱で、そんな無法が罷り通っている。

 

 

「……どうして、デマなんて流したんだ」

 

 

 そこで。

 

 耐えきれなくなったように、嵐殿(らしでん)はぽつりと呟いた。

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