唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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更新ミスって投稿滞ってました!すみません!もう一話分は明日お昼に更新します!


37 このクソったれな世界で >> NONETHELESS ②

(煙幕!? 毒ガス……いや、紙袋のパッケージから見ておそらく小麦粉!! だとするなら次の手は煙幕に紛れた強襲……! この状況はマズイ!?)

 

 

 伽退(きゃのく)の判断は早かった。

 

 

押し売りの契約印(デモンズカヴァナント)! ()()()()()()()()()()!! ()()()()()()()()()!!」

 

 

 小麦粉の煙幕の向こうの声。

 それは切羽詰まったシンプルな撤退を意味していた。

 

 ──シキガミクスの操作に音声による指示は、厳密には必要ない。

 ただし、イメージによる操作というのは存外難しいものである。

 だから咄嗟の操作を行う場合には、声による指示を『操作のサポート』に使う術者はかなり多い。

 『原作』でも、世界トップレベルのプロがそのような操作をしているケースはままあった。

 

 しかしそれを耳にした薫織(かおり)は、()()()追撃の為に準備していた前方への跳躍を取りやめ、バックステップして煙幕から距離を取った。

 

 

 絶好のチャンスの放棄。

 

 その理由は、直後に判明した。

 

 

 直後、ブオン!!!! とメジャーリーガーのフルスイングよりも豪快な風切り音が虚空を走る。

 旋風と共に、押し売りの契約印(デモンズカヴァナント)の剛脚が煙幕を切り裂いた音だ。

 

 もしも薫織(かおり)が言葉を信じて追撃をしていた場合──その横っ面を蹴り叩くような軌道で。

 

 

 その一方で、カランカラァンと、それを追いかけるように()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にデッキブラシが落下する。

 

 

「……自傷覚悟の撤退、じゃなかったよなァ今の。嘘つきめ」

 

 

 つまり。

 

 煙幕による目つぶしという薫織(かおり)の一手に対し、伽退(きゃのく)は虚偽の指示を出しながらカウンターを狙っていたというわけだった。

 

 シンプルな策ではあるが、『音声指示がシキガミクス操作のガイド』という前提があるとなると、それがどれほどの高等技術かは分かるだろう。

 言ってみれば、全く違うイラストを下敷きにしながらオリジナルのイラストを描くようなものである。

 

 ──普通に無言で操作するよりも数段上のシキガミクス操作技術。

 

 

「お互い様だろカスが」

 

 

 対する薫織(かおり)もまた、敵の攻撃に対する防御を煙幕の展開と併せて一手で行うことで攻め手に移る余裕を無理矢理捥ぎ取った。

 それだけに留まらず、煙幕による詰めの手を打った後は相手が留まろうと逃げようとどう転んでもいいように、相手の逃走経路にモップの落下攻撃を仕掛けた。

 そして自身は留まって敵の出方を伺っていたのである。

 

 ──純粋な立ち回りによって手数を稼ぎ、それによって得た余裕で数手先の手を読む手腕。

 

 

「……何手先まで読んで手ぇ打ってんだ気持ち悪りぃ」

 

 

 煙幕の切れ間から覗いたのは──緑髪の少女の、憎々し気に歪められた表情だった。

 

 そこに、先ほどまでの秘書然とした落ち着きと行儀の良さは存在していない。

 路上のチンピラよりも粗暴で、研ぎ澄まされた悪性がそこには宿っていた。

 

 その変節自体には眉一つ動かさず、薫織(かおり)は内心で舌打ちする。

 

 

(……チッ。結局攻めきれなかったな。ここから無理に攻撃を仕掛けても逆にカウンターの危険の方が高い、か……)

 

 

 スッ、と。

 

 未だ宙に漂っていた小麦粉が、一瞬にして消え去る。

 

 

「だが……今の攻防は無意味だったなぁ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……テメェのクソ想定通り、私の霊能は『契約』よ」

 

 

 それを見て、伽退(きゃのく)は間髪入れずに宣言した。

 

 ──陰陽師にとって、霊能というのは基本的に替えの効かない一点ものの能力である。

 

 もちろん戦闘者の常として、抱えている霊能の秘密なんてものは現場で戦うならばいずれは分かっていく。

 そうした秘密の漏洩があっても問題なく立ち回れるような霊能の構築も、陰陽師の腕の見せ所の一つではある。

 

 だが、だからといって秘匿を怠っていいということにはならない。

 特に、精神系の霊能はいかに自分のギミックに相手をハメるかが勝敗を分けるカギとなる。

 

 それを、あえて自分から明かしていくということは。

 

 

「私とシキガミクスが口頭と文面の両方で提示し、相手が承諾した『契約』を遵守させる霊能。それが押し売りの契約印(デモンズカヴァナント)だ」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 伽退(きゃのく)は長めの前髪をうざったそうにかき上げながら、鋭い眼光で敵対者を射抜く。

 

 

 ──『精神操作』系統の霊能は、陰陽師など自身の体外に霊気を出して操る術を持つ者に対しては霊気によるレジストで大した効果を発揮しない。

 そうした弱点に対して多くの陰陽師がするアプローチの方法が、『同意』を得ること──即ち『契約』である。

 

 ただし、もちろん契約成立に至るまでのハードルは高い。

 相手が契約内容を認識すること、選択権を与えられた上で契約内容を承諾すること。

 ここまでしなければ、霊気によるレジストを無視した『精神操作』は発動できない。

 

 『原作』においてはそもそもレジストを無意味化するくらいの高出力に霊能をブーストするという大掛かりなギミックを利用したり、ゲームの勝敗を承諾・拒否と定義する展開型のシキガミクスが登場していた。

 しかし──押し売りの契約印(デモンズカヴァナント)はそのどちらでもない。

 

 

 伽退(きゃのく)は右拳を突き出させた己のシキガミクスを親指で指差して、

 

 

「文面はこのシキガミクスの顔面モニタでも提示できる。ちなみに、私の契約においては承諾・拒否は冷静な判断を促す為にシキガミクスに設置されたボタンによってのみできる仕組みだ。……どうだい、良識的だろ?」

 

 

 右拳には、左胸に浮かび上がる『NO』の文字と似たようなフォントで『YES』という文字が浮かび上がっていた。

 

 

「まあ、拳についてっから、もしかしたら戦闘中にうっかり触れちまうかもしれねえが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 つまり、仮に押し売りの契約印(デモンズカヴァナント)の右拳を躱しきれず食らってしまった場合でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という理屈が通ることになる。

 

 もちろんこれは暴論だ。

 

 暴論だが──魂の同意が絡む『契約』というのは、得てしてそうした論理を超越した領域の影響が如実に出る。

 

 

「……ヤクザかよ」

 

「大正解♡ 褒めてやるよボケ」

 

 

 事前に文面と口頭で契約内容を告知すれば、右拳で殴るだけで相手に『契約』をさせる霊能。

 

 まず大前提として自身の能力における契約メカニズムを説明しなければならないという縛りはあるにせよ──あまりにも、文字通り『無法』だった。

 

 

(……今の話からして、一発で『契約』を履行させることはできねェはず)

 

 

 伽退(きゃのく)は『契約』のプロセスを契約元に都合よく整えることによって半強制的に対象を操作することができるようにしているらしい。

 だが、そもそも霊気によるレジストを無効化できるのは、『同意』によって霊気が他者の干渉を阻害しなくなるからだ。

 

 言うなれば、ファイヤーウォールの除外対象に設定されるようなもの。

 その為には、形ばかりの『同意』ではなく心からの同意が必要となる。

 それを無理やりなプロセスにすれば、当然その分の歪みは発生する。

 

 

(おそらく、複数回同じ『契約』を承諾させなければ履行はさせられねェ。最低で二回、著しく戦況を悪化させる『契約』ならば三回以上……履行にはそれだけのハードルがあると見た)

 

 

 それでも、本来であれば直接戦闘すら厳しい霊能で至近操作使役型のシキガミクスを運用しているのは流石と言わざるを得ないが。

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