唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
「……、温室生まれのお嬢様風情が、」
「違います」
静かに激昂しようとした
ただメイドの背に守られていただけのはずの
「わたくしが言いたいのは、そこではありませんわ。
……正直なところ、アナタが酷いお生まれなのも察しはつきました。なればこそ、生まれの悪さを盾にして悪行を正当化しているアナタは」
そう言って、
その手には、脆弱なシキガミクス──
そして、
「…………
法的な理非ではなく。
倫理的な善悪ではなく。
そんなお行儀の良い次元の話ではなく──。
──
「ッ、はッ。話にならねェ甘ちゃんだな。感情論でこっちの罪悪感を搔き立てられれば私が揺さぶられるとでも思ったかよ? こっちは常に自分の為に最善の手を取ってるだけだっての」
「なら、何故『外』の影響がないこの学園でも、しがらみに縛られているのですか」
それでも鼻で笑う
この女の核心。
そこに潜む、極大の矛盾を。
「此処へ辿り着くまでさぞ苦労があったことでしょう。努力があったことでしょう。わたくしなんかでは遠く及ばないほどの……。
ですが、ならばアナタはその尊い努力に見合うだけの輝かしい未来を掴み取ることだってできたはずです!!」
『ウラノツカサ』は、ピースヘイヴンの独裁体制だ。
それ自体は悪徳の温床でもあるのかもしれないが、逆に言えば学園内では『外』のパワーバランスが通用しないということになる。
もし仮に
たとえば、
たとえば、
いいや。
『原作』に登場する人々を頼ったっていいだろう。
『自分の為の最善』というのならば、わざわざあてつけみたいに世界を滅ぼしてその後のポストアポカリプスで高笑いをするような未来絵図を選ぶ必要はどこにもない。
この学園には、歴史の本筋で活躍することの出来る名優達がゴロゴロいるのだから。
現実問題、本当に手段を選ばないのであれば──その手に取れる選択肢は、平和な方向性のものばかりになるはずなのに。
にも拘らず。
そうした選択肢ではなく、世界の破滅を容認する選択肢をとったということは。
「結局アナタは、私怨に駆られて全て壊すことを優先しただけですわ!! そしてその逃げ道に、アナタが必死に克服してきたはずの過去を使おうとさえしている!!
これがアナタが積み重ねてきた努力への愚弄でなくて何だというのですっっ!!!!」
自分のことを狙われただとか。
ピースヘイヴンのことを殺そうとしただとか。
学園全体を巻き込む
そういう最初に目につく相手の悪意にではなく──それに手を染めた
おためごかしの綺麗事ではない。
本気の本気で、
だから、
「何だ、テメェ……!? 何だよ、何なんだよ、一体ッ…………!!」
──恐怖した。
コイツは、
ただの時代錯誤なお嬢様言葉だけが変人ポイントな一般人。
非戦闘タイプのくせに妙なシキガミクスを構築してしまったせいで色々と目をつけられている不憫な女。
それが、
それが──この違和感はなんだ?
まるで、心に直接触れられているかのようなこの不快感は──。
「確かに」
そこで、
「
メイドらしくその手にデッキブラシを掴みながら、メイドらしからぬ構えを取って立ち上がる。
「ただ、それでも。ゼロから何かを生み出すことができるお嬢様を
その手足となって、描く未来を実現する絵筆にはなれる!!!!」
莫大な闘気が、その全身から噴き出した。
状況は何も変わっていないはずだ。
周囲には
状況は、圧倒的に
──そのはずなのに。
(なんだこの焦燥感は!? 何か見落としがある!? 今のやりとりの陰で何か対策を打たれていた? もしかして舌戦に動揺して見逃していた? ………………あ?)
そこで、
気付いてしまう。
(動揺? 私が?
油断なく状況を検証する、その鋭い思考。
それが、皮肉にも
「んなわけねぇだろうが、
絶叫。
髪を振り乱して叫んだ
「『
『甲は乙が「契約だ」と合図をした後に一番最初に受けた指示を遂行するものとする。』。
その契約の履行を開始した生徒会役員たちが動き出したのと、同時。
黒橙のメイドが、一筋の黒い矢となって
「長期戦だと摺り潰されると判断して、こっちに突撃して短期戦狙いか! だが後がねぇなぁ……テメェはあと一回で履行確定よ!!」
「だと思うか?
そう言って
そして手に持ったデッキブラシを、まるでバットでも持つみたいに構えた。
そのスイングの軌道上に、白い布とアイスピックが発現される。
(布? ……デッキブラシで飛ばす飛び道具の切っ先で、飛んでくる方向を判断できないようにするためか!!
最悪、
それに対し、
こうすれば、
そして
(間合いの外で飛び道具ってことは、向こうのハラは近距離戦回避!! ならこっちが接近戦を仕掛ければ意表を突かれて行動に遅れが生じるはず!!)
悪魔の笑み。
そう表現するに相応しい禍々しさで、
(確実に一発分の隙は稼げるわ! そして三秒も
ただし。
弾き飛ばされたアイスピックは白い布を貫いたまま
だが──当たるだけで文面が読めなくなるほど破壊されることはない。
多少動揺はしたものの、
「『
そして
ごふっ、と
ひぅ、と
「っしゃあ!! ザコの偽善者どもが!!!! テメェらはただでは殺さな」
ぐりん、と。