唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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41 このクソったれな世界で >> NONETHELESS ⑥

 シキガミクスとしての機能が停止し霊能も解除されたのか。

 流知(ルシル)に襲い掛かっていた生徒会役員の少年少女達もその場で固まる。

 

 

「い……、…………は?」

 

 

 思考が、停止する。

 

 行動を縛られ、まな板の鯉になったはずの敵の、まさかの反逆。

 己の愛機の破壊。

 特大の異常事態が、伽退(きゃのく)から思考能力を奪う。

 

 その間にも、事態は進行していく。

 いや。

 既に、致命的なまでに進行()()()()のか。

 

 

「あー()てェ。……だから言っただろうが」

 

 

 そう言って、薫織(かおり)は首から上を失ったシキガミクスを横合いに蹴り飛ばす。

 そして泣き別れになった押し売りの契約印(デモンズカヴァナント)の頭部を、改めて伽退(きゃのく)に見せた。

 

 

(オレ)に『契約』を結ばせるには、誠意が足りてねェってよ」

 

 

 ──首だけになった押し売りの契約印(デモンズカヴァナント)の、その顔面。

 デジタル表示の顔面には相変わらずの契約文が表示され、アゴに当たる部分には白い布をピンで留めるようにしてアイスピックが突き立っていた。

 

 白い布にはこんな文言が書かれている。

 

 

 『()()()()()()()()()()()』。

 

 

「テメェ自身が言ったことだ……。テメェの霊能は、文面・口頭の両方で提示した『契約』が対象。つまり、どちらか片方でも欠けていれば対象外になる。

 ……そして、シキガミクスで提示した文面とは言ってもそれは()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それはつまり。

 

 顔面に表示された契約内容に続く形であれば────

 

 ────第三者の『()()』が認められるということにならないだろうか?

 

 

「なっばっ……バカな……!?」

 

 

 理外の攻略法。

 

 確かに、筋は通る。

 文字数の関係で詳細な『契約』を締結できない弱点に対し、伽退(きゃのく)は契約文の外付けという形で対応していた。

 そこにつけ込めば、確かに伽退(きゃのく)の霊能をハッキングすることだって可能かもしれない。

 だが……。

 

 

「その文面!! その文面はいつ用意した!? テメェの霊能は物品の取り寄せ……あらかじめ文字が書かれた布を用意してあったなんてご都合主義…………!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…………あ」

 

 

 そこで、伽退(きゃのく)は思い出した。

 

 触れただけでイラストの完成図を描くことができる霊能の持ち主が、あの場にいたことを。

 

 戦闘メイドの後ろにいた彼女が具体的に何をしていたかは、伽退(きゃのく)からでは見えなかったことを。

 

 ()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「あ……あの時、お前ッッ!!!!」

 

 

 伽退(きゃのく)薫織(かおり)を詰る直前。

 

 あの時、薫織(かおり)は背中に隠して白い布を『取り寄せ』ていたのだ。

 そしてその意を汲んだ流知(ルシル)は、その布に霊能を使い、あの文言を『イラスト』として()()()

 そして、その後で白い布を『裏階段』に戻したのだ。

 

 

 伽退(きゃのく)の違和感は正しかった。

 

 あそこで唐突に飛躍する絵筆(ピクトゥラ)が握られていたこと。

 それ自体は、確かにおかしな流れだった。

 伽退(きゃのく)が気付くべき、敵の反撃の兆候だったのだ。

 

 だが、気付けなかった。

 

 己の心の大事な部分に触れられ、動揺してしまっていたから。

 

 ──流知(ルシル)の言葉が正しいと、心の中で『同意』してしまったから。

 

 

「うあ、」

 

「テメェは強かったよ。(オレ)一人じゃ負けはせずとも痛手を負っていたかもしれねェ。……だが、テメェの敗因を一つ挙げるとするならば」

 

 

 デッキブラシを消した薫織(かおり)は、ゆらりと伽退(きゃのく)に近づいていく。

 

 

「この物語(せかい)は、誰かが食い物にされて泣きを見たまま終わるような、そんなつまんねェ未来ばかりが蔓延る最悪の場所じゃねェと……忘れていたことだろうな」

 

 

 その拳は、まるで岩石のように固く握り締められている。

 

 

「…………………………なんでよ」

 

 

 二メートル。

 

 

「なんで、テメェはこのクソったれな世界でそんなことが言える!? この期に及んで絶望せずにいられるのよ!?

 強者だからだなんて言い訳は信じねぇ。お前も陰陽師としてこの世界で一〇年も活動してきたなら、嫌でも世界の腐った部分は見てきたはずよ!! なのにどうして!!!!」

 

 

 一メートル。

 

 

「そりゃあ、(オレ)自身が、あの物語(せかい)を間近で見て来たから……だろうな。……テメェだって、そうだったんじゃねェのかよ?」

 

 

 必殺女中(リーサルメイド)が、足を止める。

 

 

「……分かっているよ。だからといって、止まれねェんだろ? 考えるたびに、『じゃあなんであの悲劇は許容されたんだ』って思いが湧き上がってくるんだろ?

 その思いは、誰にも否定できねェ怒りだ」

 

 

 手を伸ばせば、触れ合えるくらいの距離で。

 

 

「だからもしもテメェが、かつて憧れたあの物語(せかい)の価値をもう信じることができねェのなら。踏み躙ることしかもう選び取ることができねェって言うんなら。

 (オレ)がテメェを止めてやる。救うなんてことはできねェが……せめてもう一度信じられるように…………スタートラインまで連れて行ってやる。

 それが、(メイド)の仕事だ」

 

 

 メイドが、その右拳を振るう。

 

 

「さあ、『ご奉仕』の時間だぜ」

 

 

 ──今度は、伽退(きゃのく)は何も言い返さなかった。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 面がモニタのようになっている全長二メートルほどの人型シキガミクス。

 普段は顔をデジタル表示しているが、短文(一二〇字以内)を表示することもできる。また、胸元に『NO』、右拳に『YES』と書かれたボタンが設置されている。

 

 『契約内容』を遵守させる能力。

 対象との間で締結された『契約』を履行させることができる。

 

 シキガミクスと本体が口頭・文面の両方で契約を提示すると、契約対象との間で『仮契約』が結ばれる。

 『仮契約』中は契約対象には一切行動の制限は発生しないが、契約に対してシキガミクスの体表に設置されたボタンによる『YES』か『NO』かの選択肢が提示されることになる。

 提示された『契約』に対し、対象が『YES』のボタンを押すと『契約』が成立し、相手はその契約内容を履行しなくてはならない。反対に『NO』を押せば、『仮契約』は破棄されもう一度契約内容を口頭・文面の両方で提示しなくてはならない。

 また、この契約締結は必ずしも相手の意志によってボタンを押下させる必要はなく、たとえば拳を押し付けることで『YES』ボタンが押されても、押し付けた対象が契約対象自身であれば『契約に同意した』ことになる。

 

 『契約』を履行させるときの挙動は『契約内容』にもよるが、原則的に即座に『契約内容』を履行しようと愚直に行動する。『契約』を時間差で履行させたり状況に応じて行動を分岐させることもできるが、『契約内容』はモニタに投影可能な一二〇字以内に収めなければならない。

 ただし、頭部に文書を貼り付けることで文字数を拡張し、より正確な『契約』を設定することは可能。この場合も口頭での読み上げ自体は必須となる。

 

 履行することになっても契約対象の意識は残っている為、契約対象の意志に反しすぎる『契約内容』を問答無用で履行させることはできない。重い契約を遵守させるには、何度も同じ『契約』を重ねて同意させることで『契約』を重複させる必要がある。

 基本的に、行動の一部を制限するような『契約内容』なら一~三回、思考や記憶の一部改変を含む行動強制なら五~一〇回、対象の目的や生命維持に反する行動であれば一〇回~相手の意志力次第という目安。(例外はある)

 

 元々は『相手の精神を操作する』という使い勝手の悪い霊能だったが、即時戦闘可能なように調整が行われた。

 

押し売りの契約印(デモンズカヴァナント)

攻撃性:70 防護性:65 俊敏性:65

持久性:30 精密性:40 発展性:20

※100点満点で評価

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