唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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44 ある反逆の終了 >> DEEP GROOVE ②

 …………。

 

 

 …………。

 

 

 

 

 それから一〇分ほど後。

 

 嵐殿(らしでん)とピースヘイヴンは、それぞれくたびれた様子で図書棟から退場していた。

 

 

「……というわけで、普通に全員ボコった訳なのだが」

 

「トレイシーちゃんの中でさっきまでの戦闘はカットされてる扱いなのねぇ……」

 

 

 そうぼやく嵐殿(らしでん)は、服装こそ乱れていなかったが、うっすらと汗をかいている。

 

 隣を歩くピースヘイヴンも、手をパンパンと叩いて一仕事終えた感を演出していた。

 いずれもこの世界で有数の実力者である二人には似つかわしくない苦戦の跡を感じさせる姿だったが──

 

 

「……アナタ、加減とかできないわけ?」

 

 

 ──そんな二人の惨状も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「私が居なかったらどう考えても図書棟倒壊してたわよ……?」

 

 

 大前提として、生徒会執行部の造反勢力は完全壊滅していた。

 

 彼ら彼女らの扱うシキガミクスは一機残らず大破し、本人たちも今も大小さまざまな負傷を負って図書棟の床に転がっていることだろう。

 ──生徒会執行部の半数、およそ二五名ほどが、である。

 

 伽退(きゃのく)の霊能に屈服して寝返ったり。

 あるいは直接的に霊能によって洗脳されたり。

 普通に口車に乗せられたり。

 ──結局のところ、造反した役員達は()()()()のレベルの人間でしかない。

 

 それでも陰陽師として陰陽術を修め、シキガミクスを行使する能力を持った人間が二五人だ。

 少なくとも、二人なんていうごく少数で対応するならば、ぶつかり方を工夫しない限り手痛い反撃を食らうのは確定のはずである。

 

 だが、彼女達の常識外れはそこに留まらなかった。

 

 

「壁は壊す、天井は壊す、床は壊す。……挙句の果てに私の方に敵が大量に雪崩れ込んでくるように仕向ける。いやがらせにしても陰湿すぎないかしらぁ?」

 

「フンっ。私を見捨てた罰だ」

 

 

 『メガセンチピード』を殴打のみで粉砕できる、圧倒的な戦闘能力。

 

 それはつまり、平凡な建物の建材など発泡スチロールのように粉々に殴り砕くことができるということである。

 そしてそれは、屋内というある種の限定された地形戦において、『地形を無視できる』というカードとして機能する。

 

 ピースヘイヴンは、己の霊能を秘匿する為にこのカードをとにかく使い倒した。

 

 結果として、図書棟は倒壊していないのが奇跡というレベルで破壊され尽くしてしまったのだが──

 

 

「それに、造反者を叩きのめしたはいいが、この後が問題だ。何せ首謀者の伽退(きゃのく)も併せて生徒会執行部の人員が半減してしまう訳だからな。

 学生牢の逼迫も問題になりそうだし、生徒会執行部の影響力も激減だ。組織の長としては頭が痛いことばかりだよ」

 

「うーん、お姉さんてば自業自得以外にかける言葉が見つからないわ」

 

「お姉さんを自称するならもう少しママみを出せ変態痴女め」

 

 

 何らかの拘りが見える恨み言を吐き、舌打ちを一つ。

 

 ──つまるところ、彼らの消耗は造反勢力との戦闘によるものではなく。

 単純に、お互いに足を引っ張り合いまくった結果発生したものなのであった。

 

 

「ともかく、だ。これで後顧の憂いは断った。だが大丈夫なんだろうな?」

 

 

 嵐殿(らしでん)の横を歩いていたピースヘイヴンは、前に出てからくるりと振り返り、上目遣いで嵐殿(らしでん)の目を見据えて念を押した。

 

 ──反乱分子の大半は鎮圧できた。

 だが、あくまでも計画の首謀者は伽退(きゃのく)であり、彼女の目下の目的は園縁(そのべり)久遠。

 そして、園縁(そのべり)久遠への加害は即ち神様の逆鱗への抵触を意味する。

 導き出されるのは、然る後の破滅だ。

 

 

「君のところのメイドがしくじっていたら、私はこれから高飛びの計画を練らなくちゃならなくなるんだがね」

 

「それなら心配には及ばないわよん」

 

 

 冗談めかしたピースヘイヴンに、嵐殿(らしでん)はスマートフォンタイプの霊話端末をちらつかせながら笑う。

 

 

「さっき薫織(かおり)ちゃんと連絡がついたわ。伽退(きゃのく)ちゃんは無事確保したって」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 と、いうわけで。

 紆余曲折ありはしたものの、薫織(かおり)流知(ルシル)嵐殿(らしでん)とピースヘイヴンはそれぞれ自分達の役割を全うして合流を果たした。

 

 現在地は、薫織(かおり)の自室前。

 一応は年頃の少女四人が顔を突き合わせているのだが、不思議と色気が感じられない絵面であった。

 というのも、

 

 

「……面倒臭せェ役目を押し付けやがって」

 

「そうですわよ! 結局ボスは薫織(かおり)が倒したんですからね!」

 

 

 この戦闘メイドをはじめ、全員が全員一仕事終えた後のような雰囲気を醸し出しているからなのだが。

 

 伽退(きゃのく)を打破した薫織(かおり)達は、シキガミクスを破壊されて無力化された彼女を学生牢に放り込んだ。

 そしてその後で自室に戻る途中、ピースヘイヴン・嵐殿(らしでん)組と合流した次第である。

 

 開口一番に文句を言われたピースヘイヴンは、しかし悪びれた様子もなく、

 

 

「それについては感謝する。ありがとう助かったよ。私が迎撃役を買って出ていたら伽退(きゃのく)君はおそらく警戒して表に出てこなかっただろうからね」

 

「うぐぅ……素直に感謝されると強く出づらいですわ……」

 

「バーカ。それを狙って殊勝な態度とってんだよ」

 

 

 速攻で丸め込まれる流知(ルシル)

 仮にも黒幕なので、そのへんの手管は油断ならないのであった。

 

 流知(ルシル)の頭をポンポンと叩きつつ、薫織(かおり)は真っ直ぐにピースヘイヴンを見つめる。

 

 

「まァ実際のところ、面倒臭せェ役目を押し付けたことについてはもう良いがよ。伽退(きゃのく)のヘイトは大分根深そうなモンがあったぞ。

 テメェ、何かあくどい真似を別口でやってたりはしてねェよな?」

 

「思い当たる節がありすぎて心当たりが絞り切れない……というのが本音だが」

 

 

 薫織(かおり)の詰問に対し、ピースヘイヴンはあっさりと答えた。

 最悪すぎる回答である。

 

 うーんと一通り考えた後、ピースヘイヴンは軽い調子で、

 

 

「彼女は『外』の裏社会からの刺客だったんだろう? ならばおそらく、動機の大半は世界の現状……自分が経験してきた苦境を『設定』した私への恨みだろう。正当な憎しみだな」

 

 

 あっさりと、そんなことを言った。

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