唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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45 ある反逆の終了 >> DEEP GROOVE ③

「…………煤けてやがるなァ」

 

 

 薫織(かおり)はつまらなさそうに舌打ちを一つする。

 

 ともあれ、何か追加で企んでいるということでもなさそうだった。

 ここでさらに陰謀おかわりとなったらいよいよ収拾がつかなくなるので、そこは一安心ではあったが……。

 

 

「サブのプランを裏で走らせているとかって訳じゃなさそうなのは分かった。無粋なことを聞いたな」

 

 

 そう言って、薫織(かおり)はピースヘイヴンに目礼する。

 メイドとは思えないほどに男気に溢れた所作であった。

 

 ピースヘイヴンは小声で隣にいる流知(ルシル)に声をかけて、

 

 

遠歩院(とおほいん)君。君のメイドって任侠と書いてメイドと読ませるタイプなのかね」

 

「わたくしもまだ完全には掴み切ってないんですの……。雰囲気は何となく分かりかけてきたのですが……」

 

 

 メイド観。

 人生観に並ぶ難しい話題である。

 ひょっとしたら、この突然変異メイドのそれを完全に推し量ることなど不可能なのかもしれないと、流知(ルシル)はどこか諦め混じりに考えていた。

 

 そんなこんな言いながら、いつまでも立ち話は何なので部屋に入っていく転生者四名。

 

 勝手知ったる我が家とばかりに扉を開ける薫織(かおり)(当然、扉を開けた後は他の面々が入るのを待っている)を横目に中へと入っていくと、ほどなくして中からパタパタと足音が聞こえて来た。

 

 

「オマエら遅かったな。わたしは、わたしは、ずっと、ずっと待ってたんだぞ」

 

 

 震える声を抑えながら四人を出迎えたのは、留守番係に任命されていた冷的(さまと)だ。

 

 神様相手の接待ゲームを余儀なくされた冷的(さまと)は、ぷるぷると生まれたての小鹿みたいな感じになっている。

 全体的に不憫極まりない有様であった。

 

 顔を青くしている冷的(さまと)に対し、流知(ルシル)は気まずそうにしながら、

 

 

「あー……なんというか、申し訳ございませんわ。カガミサマも、そう怖いばかりの方ではありませんのよ?」

 

「まァお嬢様は神様(ヤツ)に多少気に入られてるしな」

 

「だと思ったぞオマエ昔話で良い思いするタイプだもんなー!!」

 

 

 わーん! と冷的(さまと)は目をバッテンにして泣く。

 神様は不平等である。

 もっとも、神様と一緒にゲームをしても特に何の祟りもない冷的(さまと)もまた大分気に入られている部類ではあるのだが。

 

 

「さて、本題だ。いよいよ『草薙剣』のコピーに入っていくぞ」

 

 

 冷的(さまと)が合流してきたところで、ピースヘイヴンがどかっとベッドに腰かける。

 神様と久遠は居間でゲームの続きをしているらしいので、こういった込み入った話をするならば今がチャンスなのであった。

 

 

「まずは前提の共有をするか。たまに誤認している読者もいたことだしな」

 

 

 ピースヘイヴンはそう前置きをしてから、

 

 

「『草薙剣』とは『神様』スサノオノミコトの霊能を()()()()使()()()()()()()()特殊なシキガミクスだ」

 

 

 転生者(どくしゃ)にとっては大前提。

 

 その事実を、原作者は語っていく。

 

 

「分類としては『嘱託型』に分類される。怪異や霊魂を機体に封じる『封印型』だと誤解されがちだが、究極的にはスサノオの協力がなくとも運用できるのが『草薙剣』の長所でもあり短所でもあった」

 

「せめて強奪された時の為のセーフティ機能くらいつけとけよと思わなくもねェが」

 

「仕方があるまい。下手に認証機能をつければ悪用されるリスクの方が高かったのは原作(れきし)が証明している」

 

 

 ──もちろん、『草薙剣』のセキュリティ的脆弱性については原作でも改善が提案されたことがあった。

 

 たとえば、利用者を登録して強奪のリスクを減らそうというもの。

 しかし、その施策が検討された直後に発生したのが、利用者候補となった人員の誘拐と成りすまし。

 霊能というあまりにも自由すぎる概念の前では、下手なセキュリティは却って強奪者に利するという結論がなされたのも無理はなかった。

 

 結局は、霊能によるごり押しが通じないくらいの物理的な障壁で『草薙剣』を守るのが『原作』での結論だった。

 だが──結果として、何らかの方法でこの物理的な障壁を貫通して『草薙剣』を奪われてしまったのが現状のウラノツカサである。

 

 

「本来、余剰霊気は『常世』という追加領域に退避することで霊気の淀みを解消し、百鬼夜行(カタストロフ)を防止する仕組みになっていた。

 だが、五〇年前の怪異の『再発』によってこの機構は最早機能不全に陥っている。……『草薙剣』の霊能は、こうした余剰霊気を『常世』へと移送することだ」

 

 

 霊気淀みを解消し、百鬼夜行(カタストロフ)を防止する霊能。

 だからこそ、『草薙剣』は百鬼夜行(カタストロフ)に対するジョーカーとなっていた。

 

 ただし、この霊能は百鬼夜行(カタストロフ)にのみ有効となるわけではない。

 

 人に向ければ、その身から放たれる顕在霊気を丸ごと『常世』に移送されることになる。

 必然的に、『草薙剣』の太刀を受けた者の霊能はキャンセルされるのだ。

 

 ──霊能阻害(スキルジャミング)

 『草薙剣』が何者かによって盗難の憂き目にあったのも、こうした戦力としての優秀さが関係しているのは間違いない。

 

 

「とりあえず、『草薙剣』を再建する」

 

 

 そんな絶望的な状況において、『ライ研』が用意していた策というのは。

 

 

「……その話は前にも聞ーたけど、具体的にどうするんだぞ? 流知(ルシル)の霊能って、戦闘タイプではないらしーけど……」

 

「ああ、わたくしの霊能は飛躍する絵筆(ピクトゥラ)。このシキガミクスが触れたものの表面に望んだイラストの『完成図』を出力することですわ。ほらこんな風に」

 

 

 言って、流知(ルシル)は何気なく適当な紙に木製のGペンを触れさせた。

 

 とん──とそこから水面に波紋が広がるようにして、白紙の表面にイラストが広がっていく。

 浮かび上がったのは、金髪碧眼の神経質そうな美少女の姿。

 

 

「おおっ!? すご!! これが流知(ルシル)の霊能なのか?」

 

「ええ! これこそ世界最高の霊能ですわ! 出力できるイラストはわたくしがきちんと完成図までイメージしている必要があるとか、わたくしの画力で描けるものでないといけないとか、多少の制約はありますが……下書きとか線画とかそういうのをすっ飛ばして、どんな場所にも好きな画材でイラストを描くことができるんでしてよ!! しかも一度描いたイラストは時間経過でも解除されません!」

 

 

 胸を張って力説する流知(ルシル)

 

 実際、イラストを描くものにしてみれば夢のような霊能であるのは間違いないだろう。

 戦闘においてはほぼ無意味もいいところな霊能だが。

 

 ただ、それだけに冷的(さまと)の脳内に当たり前な疑問が生まれる。

 

 

「凄い……とは思うけど、これがどーやって『草薙剣』の再建に繋がるんだぞ?」

 

 

 つまりは、それが現状の打破にどう寄与するのか? という疑問である。

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