唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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48 束の間の安穏 >> BRIEF TEA TIME ②

 子ども組が『神様』と一緒にゲームで遊んでいるのを横目に見ながら。

 薫織(かおり)はダイニングテーブルについた嵐殿(らしでん)にお茶を振舞う。

 

 

「……ああ、ありがとう」

 

「あんま根詰めすぎんなよ」

 

 

 現状は、至って順調である。

 

 当初の予定とは違い戦闘なしにピースヘイヴンの協力を取り付けることができた為、ほとんどのメンバーが消耗することなく『草薙剣』複製にこぎつけることができた。

 

 今は肝心の『草薙剣』の機体を作る為の素材がないが、生徒会の権力を使えばそれも労せずこなすことができる。

 この分ならば、明日には『草薙剣』を製造して百鬼夜行(カタストロフ)の危険をとりあえず消し去れるだろう。

 

 もちろんその後も世界の危機は頻発することになるが、それでもジョーカーを再建できれば『避け得ない世界の終わり』というウラノツカサ全体を覆う閉塞感は打破できる。

 

 しかしそれでも、当事者の心労が完全に消え失せる訳ではない。

 特に、ピースヘイヴンと嵐殿(らしでん)──否、『虎刺看酔』と『オオカミシブキ』の関係性を断片的ではあっても知っている薫織(かおり)としては、そこが気がかりになっていた。

 

 

「何か、気になることでもあんのか。わざわざヤツと一緒に行動するなんてよ」

 

 

 今日の図書棟襲撃。

 本来であれば、あの場で嵐殿(らしでん)はピースヘイヴンと行動を共にする必要はなかった。

 

 お互い腕の立つ使い手だし、霊能の都合上、単独行動を好んでいる嵐殿(らしでん)としても誰かと共に行動するのは足枷にしかならない。

 

 それをおしてピースヘイヴンと行動を共にしたのは──一緒に行動することで霊能を探りたかったという思いももちろんあるにせよ、一番大きい動機は『現在のピースヘイヴンを見定めたい』という気持ちであることに疑う余地はない。

 

 

「……俺は、今から二三年前、高校生の時にトラと再会してね」

 

 

 溜息を吐くみたいに、嵐殿(らしでん)は話し始めた。

 

 

「俺は高等部入学組だったんだが、当時から既に、トラは生徒会長をやっていた。

 驚いたよ。生徒会は俺の知っているあの世界と違って、しっかりとした組織として成立していた。まるでフィクションに登場する生徒会みたいだった」

 

 

 生徒会執行部は、元々モブの集団のような脇役じみた組織だった。

 精々サブキャラクターのプロフィールに載っている程度の属性。

 それが生徒会執行部というものだった。

 

 

「当時から、既に『草薙剣』は失われていてね。トラは『草薙剣』に変わるセーフティネットを構築しようと模索している段階だった。

 俺も、二もなく協力を申し出たよ。……あの頃は、……いや何でもない」

 

 

 嵐殿(らしでん)はそこで言葉を止めて、静かに頭を振った。

 

 聞かずとも、その言葉の続きは薫織(かおり)には分かっていた。

 『あの頃は幸せだった』──嵐殿(らしでん)の表情は、そう如実に語っていた。

 

 無理もない、と薫織(かおり)は思う。

 無二の親友と共通の目的の為に力を合わせられる環境。

 どれほどの苦境だったとしても、当時の嵐殿(らしでん)は幸せだったに違いない。

 そしておそらくは、ピースヘイヴンにとっても。

 

 

「それから三年間、俺は生徒会副会長としてトラの右腕をやっていた。霊能は互いに秘密にしていてな。

 『全力で隠すから当ててみろ』……そういう遊びが好きなヤツなんだ」

 

 

 しかし──三年後。

 つまり今から二〇年前、二人に転機が訪れる。

 それも、これ以上なく悪い転機が。

 

 

「高校三年生の秋だった。俺達は、『草薙剣』の代用に成功した。今回のような完璧な複製ではなく別方式のモノだったが……少なくとも『原作』における役割を果たすくらいのことはできるようにはなった」

 

「それは……スゲェじゃねェか」

 

「ただ、当時の生徒会役員が欲に目を眩ませてね。完成した代用品を盗もうとした」

 

 

 ──百鬼夜行(カタストロフ)の防止。

 余剰霊気の移送というのは、人間相手に使えばあらゆるシキガミクスを機能停止に追い込むことができるジョーカーになる。

 

 手にすることができれば、最強の切り札を獲得できるのと同義だ。

 ウラノツカサから卒業間近で百鬼夜行(カタストロフ)に巻き込まれる危険も薄い人間であれば、魔が差すこともあるかもしれない。

 

 

「…………、」

 

「もちろん盗難は阻止された。俺とアイツがいるんだ、当然だろう? ……ただ、信じていた仲間の裏切りに遭ったアイツは、そこで絶望した」

 

 

 悲痛な面持ちで、嵐殿(らしでん)は静かに言い添えた。

 

 痛恨。

 そう表現するのが相応しいくらいに──己の罪を責めているような表情だった。

 

 

「二〇年後の百鬼夜行(カタストロフ)を阻止したところで、意味がない。誰かが少しでも欲をかけば即座に瓦解する。ならば、ただ穴埋めをするだけでは対応として不十分だ。

 ……ま、詳しいやりとりは省くが、そこで発生した方針の違いによって、俺達は袂を分かつことになったんだ」

 

「……その話を聞く限りじゃあ……」

 

「ああ。……現状は、ヤツが絶望したとりあえず目先の破滅を防ぐ、言い換えれば『誰かが欲をかけば瓦解する』方針でしかない。

 ヤツの策が頓挫したことでとりあえず妥協をしているならば、俺の取り越し苦労でしかないが……」

 

「随分警戒してくれるじゃないか」

 

 

 そこで。

 

 話に割って入るように、ピースヘイヴンがダイニングテーブルにつく。

 

 予想外の乱入に息が止まる嵐殿(らしでん)とは対照的に、薫織(かおり)は静かにピースヘイヴンの分の紅茶をテーブルに置いて、

 

 

「設計図は?」

 

「書き終わったよ! 後は明日、生徒会所有の資材をかき集めればいい。あー、遠歩院(とおほいん)君の霊能が使えれば楽だったんだがね。イメージが固まっていないから無理か」

 

 

 ピースヘイヴンはそう言ってから、温かな紅茶を一口含み、喉を潤す。

 

 

「……警戒するのも無理はないと思っているよ。そう思われても仕方がないだけのことを、してきた自覚はある。詫びるつもりはないが」

 

 

 寂しそうに言って、ピースヘイヴンは視線を横合いにずらす。

 

 エヴァーグリーンの瞳には楽しそうにゲームに興じる四人の姿が映っていた。

 

 

「だが、私は別に仲間(かれら)に絶望した訳じゃない。今こうして此処にいるのも、それが理由さ。……これだけでは、信じるには足りないか?」

 

 

 ピースヘイヴンの視線が、嵐殿(らしでん)と交錯する。

 

 先に視線を落としたのは、嵐殿(らしでん)だった。

 そんな彼女に寂しそうな笑みを向けてから、ピースヘイヴンはきっと表情を切り替えると、立ち上がって声を張り上げる。

 

 

「…………さて! 仕事も終えたし、私もゲームに混ぜてもらおうか!! どれ、負けたヤツが交代するルールで行こうじゃあないか!」

 

 

 四人でゲームに興じている集団に飛び込んでいくと、ピースヘイヴンは大人げなくコントローラ争奪戦を勃発させていく。

 

 

「あ、わたくしもうそろそろ休憩しようと思っていたので、代わりにどうぞ……」

 

「駄目だ! 争奪戦だ! あと、今日は徹夜でやるぞ!!」

 

「ええ!? 明日は全校集会ですわよ!? 他にも色々目白押しなのですから、明日に備えて寝ましょうよぉ!」

 

「フハハハ陰陽術を極めれば睡眠など不要! よって徹夜ゲーム!」

 

「いやあああこの人精神が明日の講義のことを一切考えない男子大学生になってますわああああ!?」

 

 

 なんだかんだで仲間の輪の中に入って行って笑うピースヘイヴンの横顔を見て、薫織(かおり)は静かにダイニングテーブルにつく。

 

 

「まァ、飲めよ。(オレ)にゃあ、話を聞いてやることしかできねェが……」

 

「十分だよ」

 

 

 ぬるくなった紅茶を啜って、嵐殿(らしでん)は一言、呟くように言った。

 喧騒の環の中にいる誰かさんには絶対に聞こえないような声量で。

 

 

「……今は、それだけでも十分だよ」

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