唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
世界がヒビ割れるような音が、どこか遠くから聞こえていたような気がした。
破砕された壁──木材の破片。
その中心では、半ばめり込むような形で一人のメイドが壁に背を預け座り込んでいた。
否──座り込んでいたというよりは、
いったいどんな衝撃を加えられれば人体が原型を留めたままこんな状態になるのか、そんな感心さえ抱いてしまうほどに、現実離れした光景だった。
「
メイドの傍らには、一人の少女がいた。
美しい金髪が振り乱れるのもお構いなしにメイドに呼びかける少女の横顔は、血と涙に汚れていた。
「大丈夫だからね!! 心配要らないよ! 今、今、
しかし──血に汚れた横顔は、別に彼女の負傷を意味しているわけではない。
夥しい血液の源は──座り込んだメイドの脇腹にあった。
端的に言うと、メイドの脇腹には風穴が空いていた。
拳大の穴が、ぽっかりと。
そしてそこから、生命の源が漏れるみたいに夥しい血液が流れ出て、漆黒のメイド服をどす黒い赤に染め上げていた。
「カガミサマが……『神様』が来ればきっと何とかしてくれるから!! だからそれまで絶対に意識だけは保つんだよ! 分かった!? ねぇ返事してよ!! ご主人様の命令だよ!!」
しかし、呼びかけられたメイドの視線は、虚ろに宙を彷徨うばかり。
少女に握られたその手も、今は握り返す力すらないようだった。
そんな二人に、ひとつの影が差す。
光を遮るように佇むそいつは──嘘みたいに冷たい眼差しで、死にゆくメイドの姿を見下ろしていた。
メイドは、虚ろな眼差しでそいつを見上げ、ぽつりと一言、溢すようにその名を呼んだ。
「…………
◆ ◆ ◆
「…………んぁ?」
翌朝。
夜を徹してのゲーム大会の途中で脱落した
おそらくキッチンで
むくりと身体を起こすと、隣のベッドに
「お風呂、途中で入っておいて正解でしたわぁ……」
欠伸を噛み殺しながら、
他人様の部屋のベッドなのでとりあえず形だけでも整えておきたいところだったが、それをやると後で異常メイドから文句を言われるのであえてそのままにしておく。
ご主人様なのになんで文句を言われるんだろう。
そんな日常の不満はさておき、
玄関から一直線に伸びた廊下に脱衣洗面所・バスルームとトイレ、寝室がそれぞれついていて、その先の突き当りにリビングとダイニングとキッチンがあるという構造になっている。
左手にキッチンと対面式のダイニング、右手にリビングがあるので、1LDKという字面に反してかなり開放的な作りになっている。
だが、
「……おう、おはようお嬢様」
「あら~
ダイニングまでやってくると、キッチンでは
「おはよう、お二人とも。……
「……料理の隙を突かれて配膳役を取られた」
「なんなんですのその地雷……」
普段はどこか超然としているメイドが『拗ねた部分』を見せるところがそこなのか……と思うと何か複雑な気持ちになる
そこで、
「そういえば、会長はどうしましたの? 寝室にもいませんでしたけど」
「あァ。ヤツなら今朝早くに出て行ったよ。生徒集会の準備があるんだと。執行部半分が学生牢送りになったから仕方ねェんじゃねェか?」
「ちなみに、設計図はちゃんと預かってある」
直後、パンと音を立てて設計図が消え去る。
『裏階段』に収納しただけなのだが、この様は何度見ても不思議だ、と
「……いやお待ちになって。あの方、わたくしが寝落ちしたときもまだゲームやっていましたわよ? いったいいつまでゲームやってたんですの?」
「さァなァ。お子様組が寝落ちして、お嬢様がソファの上でくたばったあとは、カガミサマとゲームやってた。
「ええ……」
一応生徒会長のはずなのに一番挙動がヤンチャなのはどういうことなのだろうか。
あと地味にこのメイドも日の出まで寝ていたって睡眠時間はとんでもないことになっているのではないだろうか。
色々と不思議である。