唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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50 裏切りの胎動 >> FOR THE AMBITION ②

「というか、昨日も少し話していましたけど、あの人あれで三七歳ってマジなんですの……?」

 

 

 『草薙剣』という特殊すぎるシキガミクスの設計図を完璧に己の脳内の記憶から抽出して書き出した挙句、その後『神様』を巻き込んでの徹夜ゲーム。

 薫織(かおり)の言ではないが、既に年齢という区別で人間性を判断するのが馬鹿らしくなる有様の元黒幕に対して、流知(ルシル)は戦慄したように言う。

 

 彼女をよく知る嵐殿(らしでん)は頬に手を当てながら、

 

 

「まぁ、子どもっぽいわよねん」

 

「いえ、そうではなく。挙動はさておき、見た目は本当に高校生相当じゃありませんの? 三〇過ぎのお肌じゃありませんわよ……」

 

「あ~……」

 

 

 恨み節すら感じさせる前世はアラサーでフィニッシュ少女こと流知(ルシル)に、嵐殿(らしでん)はどこか申し訳なさそうにしながら、

 

 

「まぁ、アイツは陰陽術を極めてるからねぇ……。陰陽術は霊気の流れを読み操る技術でしょ?

 普通は体内の霊気の巡りを調整して健康になる程度で、劇的な変化はないんだけど……アイツレベルになるとね~。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふろうふし」

 

 

 嵐殿(らしでん)は笑い話のように言うが、もちろんこれはとんでもない話である。

 

 確かに陰陽術の根幹は霊気を操る技術だ。

 陰陽術が義務教育となったこの世界では、誰もが子どもの頃から陰陽術に親しんだ結果、がんリスクが大幅に低下し、健康寿命は一五〇歳を超えるほどになった。

 ただそれでも老いを完全に克服できた人間はいないし、年齢相応に体力も落ちていくことになる。

 

 ──二〇巻近い『原作』の歴史において、登場したいかなる強者であっても、人間の範疇に収まっている存在が不老不死という領域に辿り着いたことはない。

 そう言えば、ピースヘイヴンがどれほどのイレギュラーかは分かるだろう。

 

 もしもその霊気制御技術をきちんと全世界に開陳すれば、おそらく十数世代クラスで陰陽術の基準が更新される。──そのレベルで、『格が違う』。

 

 

「ち、ちなみに師匠も……?」

 

 

 そして、その傍らにあり続けた『オオカミシブキ』としての顔も持つ目の前の少女も、同じく不老である。

 そう思い問いかけた流知(ルシル)に、嵐殿(らしでん)は苦笑してから答える。

 

 

「いーえぇ。私のは自前の霊能を使った裏技よん♪ ……だから、技術力合戦とかではあんまり期待しないでねぇ」

 

「……師匠は心配性ですわねぇ。昨日の様子を見る限り、会長と敵対するような展開はありえないですわよ」

 

 

 ピースヘイヴンの計画は最早潰えた。彼女は百鬼夜行(カタストロフ)を使って何かをしようとしていたようだが、その計画を実行する為の手足たる生徒会執行部が半分も離脱してしまった以上、計画は進めることはできない。

 

 そういう意味でも、これまで共に行動していた感覚から言っても、ピースヘイヴンの裏切りの可能性を考える意義は薄いだろう。

 彼女は、世界に絶望した大袈裟な自殺志願者という訳ではないのだから。

 

 

「……いや、まだ根本的な解決には至っていないからねぇ? この件が終わったらしれっと裏切るとか、全然あるラインだと思うし」

 

「どれだけ信用がないんですの……」

 

 

 あるいは前世の分だけ不信が蓄積されているのかもしれないが、酷い言われようである。

 

 そんな風にお喋りをしているうちに目が冴えてきた流知(ルシル)を見て、クッキングメイドは朝食のホットケーキ(流知(ルシル)の好物)を焼き上げながら、

 

 

「そろそろできるぞ。歯ぁ磨いて顔洗ったらお子様組を起こしてきてくれ」

 

「はぁい、分かりましたわー」

 

 

 お母さんメイドの号令を受けて、長女お嬢様は洗面所へとはけていく。

 

 その後ろ姿を見送りながら、薫織(かおり)は溜息を吐いて、

 

 

「……っつか、まだ百鬼夜行(カタストロフ)の危険が去った訳でもねェんだけどな。この図面がちゃんとしているかの検証もできてねェんだし」

 

「それは言わないでおいてあげましょ~♪」

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 それから少しした後。

 

 朝食を済ませ、薫織(かおり)の部屋から自分のクラスへ出向いた流知(ルシル)は、同じクラスの面々と共に全校生徒の集まる第一体育館へとやってきていた。

 

 普段は薫織(かおり)達と行動を共にしている流知(ルシル)だが、彼女にも彼女の学校生活があり、交友関係がある。

 今は薫織(かおり)達と別れて、そうした自分の交友関係の中にいた。

 

 なお、彼女の友人達は別に転生者というわけではなかった。

 

 もちろんクラスにも転生者は何人かいるし、その中には転生者であることを公言していない者もいる。

 しかし──同じ転生者である流知(ルシル)には、何となく分かるのだ。

 転生者と、そうでない者の違いが。

 

 転生者は流知(ルシル)を含め、()()()()()()が普通とは違う。

 キラキラと眩しいモノとして見ているか、あるいはグズグズに燻ったモノとして見ているか、その両極端だ。

 嵐殿(らしでん)は前者で、最近戦った伽退(きゃのく)は後者である。

 

 半面、転生者でない者はそもそも『()()()()()()()()()()()()

 何故なら、彼らは『そういう枠組み』自体を明確に実感する機会がないから。

 

 もっとも、

 

 

(中には例外もいるけど……)

 

「姉御ォ!!」

 

 

 一瞬、ヤンキー漫画に迷い込んだのかと錯覚するほど暑苦しい声が、下手なドーム球場よりも広い体育館に響き渡る。

 

 見ると、騒ぎの源は隣のクラスの集団だった。

 純白のブレザーと濃紫のスラックス/プリーツスカート姿の学生達に紛れるようにして──いや全然紛れてない異物感で、黒橙のメイドが堂々と重役出勤を決めていた。

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