唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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52 裏切りの胎動 >> FOR THE AMBITION ④

 ──劇的な現象は、何もなかった。

 

 するる、と。

 何かが滑るような音が、薫織の手渡した木の剣の中から滑り落ちてくる。

 一、二秒ほどしたかと思うと、その音もすぐに止んだ。

 流知(ルシル)はさっと飛躍する絵筆(ピクトゥラ)を解除すると、木の剣の柄底部にある蓋を開け、『草薙剣』の内部構造を確認する。

 

 流知(ルシル)は仕事人の表情で満足げに頷くと、

 

 

「よしっ! これで完成ですわ!」

 

 

 流知(ルシル)がそう宣言すると同時だった。

 ぱん、と。

 彼女の手の中にあった『草薙剣』が乾いた音を立て、木札へと変化する。

 

 流知(ルシル)は掌の上に載った木の剣の描かれたUSBメモリくらいの大きさの木札に視線を落とすと、

 

 

「さ、薫織(かおり)。できましたわよ」

 

「ん。流石はお嬢様」

 

 

 頷く薫織(かおり)ににっこりと微笑んで、流知(ルシル)は『草薙剣』の木札を差し出す。

 こういうのは戦闘能力のある薫織(かおり)に持っておいてもらった方がいいだろう、という判断である。

 

 しかし薫織(かおり)は無言でその手を押し返した。

 

 

「……? どういうことですの?」

 

「いや、その札はお嬢様が持っとけ。自衛用になるだろ」

 

 

 これに目を丸くしたのは、流知(ルシル)であった。

 

 『草薙剣』といえば、『原作』に登場するシキガミクスでも屈指の武力特化。

 最強の装具型シキガミクスといっても過言ではない。

 作中では、適当な着用型シキガミクスの使い手に『草薙剣』を持たせればそれだけで大妖怪と渡り歩けるレベルとまで言われたほどの代物だ。

 

 当然ながら、シナジーを考えれば薫織(かおり)が持つべきだと思っていたし──それに何より。

 

 

「はぁ!? 何を言っておりますの!? こんなものを持っていたら逆に狙われるんじゃありませんの!?」

 

 

 という、きわめて実利的な保身の感情もあるのであった。

 この流知(ルシル)という少女、ちょこちょこ自分可愛さみたいなところが出る人間性である。

 

 それはさておき、『草薙剣』の押し付け合いという前代未聞の事態に発展しかけたところで、押し付けメイドは至極真面目な表情で返す。

 

 

「『草薙剣』が本物なら並みのシキガミクスは返り討ちなんじゃねェの?

 ……というか、今(オレ)が一番警戒しているのはコレを創ったことでお嬢様の希少性が認知されるパターンだよ。

 この情報がどこから漏れるか分からねェんだ。(オレ)もなるべくお嬢様を守るが、いざって時の武器はあった方がいい」

 

「……あ、あまりにも物騒ですわ……」

 

 

 しかし、そう言われてしまっては全く武力を所持していないのもなんとなく怖いので、流知(ルシル)はすごすごと木札を胸元にしまい込む。

 

 ちなみに、多くのシキガミクスはこうして木札にして服の内側など分かりづらい場所に仕込んでおくのが通例だ。

 どうせ霊気を巡らせればシキガミクスは術者の傍らに発現するので、どこにどう保管していても問題ないのである。

 

 もっとも、流知(ルシル)のようにべたな場所にしまっていたら発現前に攻撃を食らって木札そのものが破壊されて使用不能になるリスクもあったりするのだが──そもそも発現前に懐に直接攻撃を食らうような状況は死んだも同然という観点から、この辺りは誰も気にしていなかった。

 

 

「じゃ、(オレ)はクラスに戻るぞ。集会中に何か異常があったらすぐ拾うから」

 

「あっ、分かりましたわ……」

 

 

 言いたいことだけ言ってさっさと行ってしまう要件メイドの背中を見送ってから、流知(ルシル)は遅れて自分のクラスの方から友人たちが視線を向けていることに気付いた。

 

 

(はぁ……。薫織(かおり)ももうちょっと目立たない方法を選んでくれたらいいのに。アイツは人の目に無頓着すぎるよ)

 

 

 とはいえ、本人に人目を気にするという発想がなさすぎるのだから仕方がない。

 薫織(かおり)のそういうところが好きでもある流知(ルシル)としては、なんとも痛し痒しといったところなのだった。

 

 そうして自分のクラスの集団に戻ると、早速友人たちが声をかけてくる。

 

 

「……ねぇねぇ流知(ルシル)ちゃん。さっきの人って確かE組の園縁(そのべり)さんだったよね?」

 

流知(ルシル)ちゃんと園縁(そのべり)さんって……いったいどういう関係?」

 

「どうもこうも、ご主人様とメイドですわよ」

 

「ごしゅじんさま!?」

 

 

 げんなりとしながら、流知(ルシル)は生徒集会の開始を待つ。

 

 トンデモワードの出現に目を丸くした生徒達の様子は、流知(ルシル)にとっては気にもならなかった。

 ──コイツもコイツで、大概である。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 生徒集会は、(つつが)なく進行していった。

 

 

 学長の言葉に、理事長の言葉。

 生徒指導担当からの注意事項に新年度の表彰者。

 連休後に始まる学園祭の準備についての予告etcetc...。

 諸々の式次を終え、最後に生徒会長の言葉となった、その後のこと。

 

 ざわざわ……というさざめきのような騒めきと共に、式が一旦停滞する。

 一分ほどそうして何も進行がないまま、流知(ルシル)も事態に困惑していたが──

 

 ズダッ!! と。

 

 真横に着地してきた黒橙のメイドに、思わず飛び上がったことで事態の進行は再開した。

 

 無言のままに流知(ルシル)を肩で抱えた薫織(かおり)は、そのまま体育館の外へと走り出す。

 

 

「なっ……なんですの!? 薫織(かおり)、どうしましたの!? 百鬼夜行(カタストロフ)ですか!?」

 

「あァ! クソ……(オレ)としたことが、抜かった!!」

 

 

 珍しく慌てた様子で薫織(かおり)が答えた瞬間、ぐぐっ、と地震のような揺れが、空間全体を波及していった。

 

 まるで胎動のような音をBGMにしながら、薫織(かおり)は言う。

 

 

()()()()…………(オレ)達を裏切りやがった!!」

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