唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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55 縛られた神秘 >> SOOTY DIVINITY ③

 神織(こうおる)悟志(さとし)と、浄蓮(じょうれん)

 

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ウラノツカサ高等部一年、神織(こうおる)悟志(さとし)──。

 彼の持つシキガミクスの運用方式は、『封印型』。

 その機体には──『神様』にも届きうる大妖怪、『()()()()()()()()』が封印されていた。

 

 

 そもそも『シキガミクス・レヴォリューション』という物語は、どこにでもいる平凡な少年であったはずの神織(こうおる)悟志(さとし)が、突然大妖怪・浄蓮に魅入られたところから始まっていく。

 

 構造からしてボーイ・ミーツ・ガール(大妖怪)であり、その絆の象徴として『封印型シキガミクス』というのは繰り返し描写されてきた。

 

 

 その構図を、もう一つ生み出すということは──即ち。

 

 

 

「新たなる『封印型』。既存の主人公とは異なる『軸』の獲得。……なるほど、こう表現すりゃあ世界を諦めちまった原作者らしい『決着』じゃねェか」

 

 

 新たなる主人公の資格の創出。

 

 即ち、かつてあった物語の完全なる放棄。

 

 霊気の流れを感知することによって、花蓮(かれん)がその前兆を前以て把握していたのであれば──それを彼女なりの『決着』と表現するのは納得がいく話だ。

 

 そこで薫織(かおり)は足を止めて、

 

 

「…………ってのが(オレ)の推論なんだが、どうだ?」

 

 

 地下鉄の島型ホームのような、太い支柱が幾つか立つばかりのだだっ広い廊下。

 ──その片隅でまるで幽霊のように希薄な存在で佇む女に、そう問いかけた。

 

 

『──概ね間違いありません。正解と言っていいでしょう』

 

 

 黒髪の巫女──花蓮(かれん)はただ目を伏せて、簡潔に答える。

 

 

()()()は、文化祭の準備にありました』

 

 

 『神様』──待機中の余剰霊気を取り込むことが可能な生態を持つ唯一の存在だからこそ分かる事実を。

 

 

『ゴールデンウィークの大型連休に向けた学内の喧騒。そして文化祭準備に向けた機材の搬入。──そこに紛れ込ませるようにして、虎刺(ありどおし)先生は()()()()()()()()()の材料を取り寄せていました』

 

「……そんなこったろうとは思っていたが……『霊威簒奪』はあくまで余剰霊気の総量を増やすための策略。場所やタイミングの調整の為に、別口でシキガミクスを用意していやがったって訳か」

 

 

 『神様』から明かされる事実に、薫織(かおり)は呻くように相槌を打つ。

 

 花蓮は物憂げな表情のまま、

 

 

『原理としては、生徒会長としての信認を「同意」として扱うことによる「精神干渉」が近いです。しかし──特別な霊能ではない汎用シキガミクスで得られる効果は、精々が全校生徒の余剰霊気に対する()()()()()()()()()()程度でした』

 

 

 もちろん、これだけでも凄まじい偉業である。

 

 生徒会長として信認を受けたという事実を「同意」と曲解することで、全校生徒の放つ余剰霊気の放出加減に対して干渉したというのだ。

 昨日戦闘した伽退(きゃのく)のそれをはるかに上回るトンデモ拡大解釈っぷり。

 しかも花蓮の話しぶりでは、どうやらピースヘイヴンの霊能は精神操作系のそれではないらしい。

 つまり、これは汎用的な霊気操作の範疇に留まる『技術』と言う訳だ。

 

 

「スゴイ話ですけど……でも、余剰霊気をちょっと動かせた程度で何か意味があるのかしら?」

 

「…………大アリだな」

 

 

 首をかしげる流知(ルシル)に、薫織(かおり)は忌々し気に答えた。

 

 

百鬼夜行(カタストロフ)ってのは、霊気淀みの濃度が一定以上を超えることで発生する。つまり、『余剰霊気をちょっと動かせる程度』でも、霊気淀みの濃度を調整するのには十分なんだよ」

 

「…………あっ」

 

 

 『霊威簒奪』などという無秩序に余剰霊気だけが膨れ上がる策略を展開しておきながら、ピースヘイヴンがいやに呑気だったのも此処に理由がある。

 つまり、ピースヘイヴンは最初から百鬼夜行(カタストロフ)が発生する場所も時間も全て把握済みだったという訳だ。

 

 ──そしておそらく、このシステムを使えば百鬼夜行(カタストロフ)の発生を阻止できないまでも、『ウラノツカサ』を百鬼夜行(カタストロフ)の危機から遠ざけることくらいはできる。

 

 

「…………あの野郎、これを(オレ)達が知れば面倒なことになるって黙っていやがったな」

 

 

 どうやら中立らしい『神様』はさておき、案の定隠し事だらけの黒幕野郎であった。

 舌打ちする薫織(かおり)を宥めるように、花蓮は言う。

 

 

『とはいえ、一時期は彼女の計画も危ういものでした。何せこのシステムは全校生徒の「同意」を基盤にしているので──』

 

「……あァ、生徒会の約半数が反乱を起こしたなんて状況じゃ、『同意』そのものが揺らぐって訳か」

 

 

 つまり、あの時点のピースヘイヴンにとっては本当に『計画は失敗した』ということだったようだ。

 とはいえ、

 

 

「……それって、わたくし達が生徒会の反乱勢力を倒してしまったから会長の計画が再始動してしまったってことですの!?」

 

 

 今は反乱勢力は全員学生牢に投獄されている。

 校則上、学生牢に投獄されている生徒は停学処分扱いとなる為──今は『同意』が履行されている状態といえるだろう。

 

 戦慄する流知(ルシル)に対し、薫織(かおり)はフラットに返す。

 

 

「そう悪し様に捉える必要もねェだろ。ヤツの計画が潰れていれば百鬼夜行(カタストロフ)は完全な暴走状態で発動していたんだ。そっちの方が幾分か厄介だ」

 

「……そ、それはそうかもですが……」

 

 

 もにょもにょしつつも、それ以上は言い返せなくなる流知(ルシル)

 変なところで責任感の強い少女であった。

 

 ご主人様の一応のメンタルケアを済ませたメイドは、そのまま黙している『神様』へと向き直り、

 

 

「んで。愛しの久遠をほっぽってこんなところまで来た理由は? ……(オレ)達は黒幕野郎に用事があるんだがよ」

 

『──安心してください。私は貴方達のどちらにも肩入れするつもりはありませんよ』

 

 

 花蓮(かれん)は顔を上げると、真っすぐに薫織(かおり)の方を見て答えた。

 

 

『貴方達は、どちらに向かおうとしていますか?』

 

「……屋上。空から霊気淀みを確認して現場に出向くつもりだ。流石にこの鳴動だけじゃ位置までは分からねェからな」

 

『手間を省きに来ました。──それでは間に合わなくなる可能性があるので』

 

「あァ?」

 

『私の種別を忘れましたか? ──「神様」は霊気を摂取する存在。ゆえに霊気の流れであれば手に取るように分かりますよ』

 

 

 そう言って、花蓮(かれん)はスッと横合いを指差す。

 

 

『第七体育館。虎刺(ありどおし)先生はあちらにいます。霊気の淀みがどんどん収束していますから、間違いないです』

 

「……アイツの肩を持つんだか、こっちの肩を持つんだか、はっきりしねェ態度だな」

 

『言ったはずですよ。私はどちらにも肩入れするつもりはありません、と。──あちらの計画を阻止せず見過ごす以上、それに釣り合う手助けをしているまでです』

 

 

 言い繕うような言葉のあと、花蓮(かれん)は目を逸らして、

 

 

『──私は、この世界に転生して救われました。己の魂を賭けてもいいと思えるくらいに大事な人との出会いを、永劫に渡って見守っていたいと思えるものを、与えてもらいました。

 そしてそれは、この世界を──「シキガミクス・レヴォリューション」を作ったあの方への恩です。

 だから──この世界に生きて初めて幸せになることができた私は、もしもあの方と巡り合えたなら、この力であの方の手助けをすると決めていました』

 

 

 話の内容は半分も薫織(かおり)には分からなかったが、意味は想像できた。

 

 三〇〇〇年も前に転生した転生者が、人間を辞めて『神様』になってまでこの世に生きている、その熱量。

 そこに思いを馳せれば──この『神様』がどんなことを考えているかはなんとなく予想できる。

 

 そしてそれは、『神様』として悠久の時を生きる彼女にとっては間違いなく希望だったはずだ。

 

 だが──現状が彼女の望んだ通りでないのは明白だろう。

 彼女がこの状況でしている『手助け』とは、その力によって恩人の望みを叶えることではなく──自分の意に添わぬ活動をしている恩人の所業を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということでしかないのだから。

 

 そこまでを斟酌して、薫織(かおり)は端的に、

 

 

「悲しいね」

 

 

 そう、切り捨てた。

 

 

「三〇〇〇年を生きた『神様』でも、行き着くところは()()か。……全く煤けていやがるよ」

 

「ちょっと薫織(かおり)! 酷いですわよ!」

 

 

 花蓮(かれん)への恐怖心から──というよりは、純粋な同情心から憤って見せた流知(ルシル)の指摘を、薫織(かおり)は軽く流して、

 

 

「…………伝えてェ言葉は?」

 

 

 そう、花蓮に──いや、目の前にいる一人の『同郷』に問いかける。

 

 己の力や恩義などで雁字搦めに縛られて、本当にやりたいこともできなくなってしまった女に対して、代わりにその思いを遂げてやる、と。

 

 三〇〇〇年積み重ねた思いを、代わりにぶつけてやる、と。

 

 

『────フフフ。全く貴方達は面白い主従ですね』

 

 

 そこで初めて、花蓮は愉快そうな笑みを浮かべた。

 

 昨晩、皆で一緒にゲームをしている時に見せたような。

 

 

『しかし、言葉は不要。────ただ、貴方達の「希望」を見せてあげてください。自然とそこに、私の感謝(おもい)も乗ることでしょう』

 

 

 そう言うと、花蓮は徐に薫織(かおり)の方へ手を差し向ける。

 

 ぽうっ、と。

 

 その指先から花弁が数枚散ったと思うと──薫織の腹のあたりへ、吸い込まれていく。

 薫織(かおり)は悪戯っぽく笑い、

 

 

「どちらにも肩入れするつもりはない、じゃなかったのかよ?」

 

『神を慮る人の子の慈しみに対する報いです。肩入れではありませんよ』

 

 

 花蓮は真顔で応えて、

 

 

『それに──いえ、確定していないことを賢しらに語る趣味はないので、やめておきましょう』

 

「なんだよ、気になるじゃねェか」

 

 

 意味深なことを言う花蓮に対して、薫織(かおり)はさらに言い募ろうとする。

 花蓮から見ても『確定していない』というあたり、起きるかどうかは五分なのかもしれないが、『何かある』と言われて触れないでおくのは難しい。

 

 そんな心理の薫織(かおり)だったが、次の花蓮の言葉によって行動再開を余儀なくされる。

 

 

『──それより、良いのですか? 行かなくて。そろそろ霊気の鳴動が無視できないレベルになってきていますが』

 

「クソったれ!! 予定が詰まりすぎてんだよ!!」

 

「ギャッ」

 

 

 一気に流知(ルシル)を抱え直し(その際大変ノット令嬢イングな悲鳴が出たのはご愛敬だ)、薫織(かおり)は指示された第七体育館の方へと向き直る。

 そして。

 

 

「……ありがとな、花蓮。助かった」

 

『──貴方もまた、「あの子」の子どもですから。愛おしいことに変わりはありませんよ』

 

 

 優しく微笑む花蓮の言葉を背に、俊足メイドは移動を開始する。

 

 

 ──三〇世紀を経た女神。

 

 その過去にあったであろう、現在へと続く物語に思いを馳せながら。

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