唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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56 されど筆は踊らず >> WROUGHT MYSTIC ①

 ──第七体育館。

 

 部活棟の西側に配置されているその建造物を目の前にして、流知(ルシル)は身震いをする。

 

 

「こ……此処が百鬼夜行(カタストロフ)が起きようとしている現場なんですのね……! なんだか緊張してきましたわ……」

 

 

 一応彼女なりに警戒しているはずなのだが、どうにも立ち居振る舞いから平和ボケが抜けていないのが流知(ルシル)らしかった。

 傍らの薫織(かおり)は最早そうしたところにはいちいちツッコミを入れず、

 

 

「お嬢様は(オレ)の後ろに。基本的には戦闘は(オレ)が引き受ける。……おそらく嵐殿(らしでん)のヤツも独自に行動しているだろうから、来たらそっちと合流して指示を仰ぎつつ行動してくれ」

 

「わ、分かりましたわ」

 

 

 いつもの粗暴な態度とは違う、テキパキとした指示。

 そこに薫織(かおり)の本気を垣間見たような気がして、流知(ルシル)は気後れしてしまう。

 無理もない。

 普段は異常メイドだのなんだのと言っているが、本質的に園縁(そのべり)薫織(かおり)は『一〇年間たった一人で陰陽師としてこの世界を生き抜いてきたプロ』なのだ。

 

 人間的な経験値も、陰陽師的な経験値も、流知(ルシル)とは文字通り桁が違う。

 本当なら、こういう場に流知(ルシル)がいること自体が場違いだと思えるほどに。

 

 

(……それでも私がこの場にいるのは、多分私のことを尊重してくれてるからなんだろうな)

 

 

 この粗暴なメイドは決してそれを認めようとはしないだろうが、流知(ルシル)はそう思う。

 

 世界の命運だとか、生命の危険だとか、そういうのはもちろん怖い。

 でも、友達である薫織(かおり)がたった一人でそういったものに立ち向かっているのを知っておきながら、安全な場所でのうのうと過ごしていたくない。

 

 普通ならそんな気持ちはわがままだと切り捨てられてしまうんだろうけれど、薫織(かおり)はそんなわがままを聞いた上で、最大限流知(ルシル)に寄り添ってくれる。

 それがありがたくもあり、ちょっとだけ申し訳なくもあった。

 

 

(……い、いやいや! 昨日の伽退(きゃのく)さん戦の時みたいに、私の霊能が突破口になるかもしれないんだ。

 自分で言うのもなんだけど、飛躍する絵筆(ピクトゥラ)はトリッキーな霊能だから……何かのタイミングで、私の手助けが薫織(かおり)の助けになる可能性は常に否定できない!)

 

 

 相手は、原作者。

 

 どんなものが出てくるか分からないこそ、少しでも手札は多いほうが良い。

 流知(ルシル)はそう考えて、弱気になりかけた自分の心を奮い立たせる。

 

 

「あ~、良かった。間に合ったみたいねん」

 

 

 と。

 

 そうやって戦意を高めていた流知(ルシル)の背中に、聞き覚えのある声がかけられた。

 

 

「遅かったじゃねェか。先に行ってるところだったぞ、嵐殿(らしでん)

 

「んもう。着用型の薫織(かおり)ちゃんと一緒にしてほしくないな~。お姉さんってば生身で、しかもこの爆乳よん?」

 

 

 そう言って、今まさに駆けつけてきた少女──嵐殿(らしでん)はギリギリワイシャツでつなぎ留められている胸を両手で押し上げて見せる。

 言われてみると、頬に流れる汗を見る限り確かに急いで此処にやってきたことは間違いなさそうだった。

 

 薫織(かおり)は無駄に卑猥な台詞回しをしていることには一切触れずに、

 

 

「ともあれ、一緒に行動するならそっちの方がありがたい。お嬢様のことは任せてもいいか? (オレ)は相手の懐に潜り込んでからが仕事だからよ」

 

 

 つまるところ、役割分担。

 

 当然の話の流れとして嵐殿(らしでん)に提案した薫織(かおり)だったが──意外にも、嵐殿(らしでん)の反応は渋いものだった。

 

 

「え~……。薫織(かおり)ちゃん、そういう態度は流知(ルシル)ちゃんに良くないと思うな~」

 

「は……?」

 

 

 穏やかに、しかし非難するような色の嵐殿(らしでん)

 その言葉に、薫織(かおり)は意図を図りかねて一瞬間が空く。

 そこに流知(ルシル)が口を挟もうとした直前で薫織(かおり)はハッとその言葉の意図に気付いた。

 

 確かに今の話の流れだと、『足手纏いの流知(ルシル)を邪魔にならないところに置いて行こうとしている』というように受け取られかねない。

 もちろん、それでへそを曲げるほど流知(ルシル)は子どもではない。

 ではないが、逆に気を遣おうとして変に気を張ってしまう可能性はある。

 ──嵐殿(らしでん)がわざわざ話を混ぜっ返したのは、そのリスクを前以て潰す為だろう。

 

 薫織(かおり)は言わなくともそんなことは通じているだろうと考えてわざわざ口には出していなかったのだが──案外、そういうコミュニケーションの甘えから綻びというものは発生するものである。

 それに実際、僅かではあるが流知(ルシル)の中に気負いが発生しようとしていたのも事実だった。

 

 ただ、薫織(かおり)はあえて心外というような声色を作って、

 

 

「馬ァ鹿。そういう意味じゃねェよ。お嬢様はこっちの切り札(ジョーカー)だ。対して(オレ)は切り込み隊長。

 同じ場じゃ運用できねェから、その間の安全をお前に守ってくれって言ってんだ」

 

「あ、そうだった~? ひょっとしてお姉さん野暮なこと言っちゃったかしらん?」

 

 

 『ごめんなさいね~』とにっこり微笑んで、嵐殿(らしでん)はあっさり引いた。

 実際のところ指摘は図星だった薫織(かおり)は、少し気まずそうに流知(ルシル)には見えない形で目礼した。

 

 もっとも、当の本人はいつものように感情の読めない笑みを浮かべているだけだったが。

 

 

「でも、これから立ち向かう相手は、こういう些細な綻びも利用してくる相手だってこと、忘れないようにね。…………冷的(さまと)ちゃん達は、実際にそれで仲間を失っているんだから」

 

「は、はい……」

 

「了解」

 

 

 噛んで含めるような嵐殿(らしでん)の忠告に頷き──それから、三人はそれぞれ行動を始める。

 

 行く先は、ピースヘイヴンの待つ万魔殿。

 

 

 何が出てくるかは、全くの未知数だ。

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