唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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60 破局 >> CATASTROPHE BEGIN ②

 先手を打ったのは嵐殿(らしでん)の方だった。

 

 シキガミクスと術者、同じ姿となった一人と一機は、全く同じ速度で合流すると同時に、シキガミクスの方が崩れ去る定説(リヴィジョン)目掛けて細かい破片や砂粒を蹴りで巻き上げる。

 

 目潰しで眼前が遮られた一瞬。

 その間隙を縫うようにして、一方の嵐殿(らしでん)崩れ去る定説(リヴィジョン)へと走っていく。

 

 その姿を見て、全校生徒を掌で弄んだ黒幕の脳裏を電瞬の勢いで思考が駆け巡っていく。

 

 

(変身の霊能!!

 おそらく生徒会役員の思考から伽退(きゃのく)君の計画を知ったのはこの能力の応用……変身対象の記憶している知識や記憶も把握できるのか!!

 霊能まで利用できるとしたらマズイな……。

 私に変身しないところを見ると何らかの制約はあるのだろうが、最悪この場で触れられたら私の霊能がバレるだけでなく、利用される可能性すらある!)

 

 

 油断なく迎撃態勢を整えながら、しかし崩れ去る定説(リヴィジョン)はこれ以上なく明晰(クリア)だった。

 あるいは、その透き通り具合こそがこの世界の上位層である資格とでも言わんばかりに。

 

 

(そしてこの局面で全く同じ姿に変身するということは、こちらを攪乱する狙い……。

 全く同じ身体能力になっているように見せているが、おそらくそれはブラフ! シキガミクスの方は本来のスペック通りに戦えると考えるべき!!

 つまり戦闘しながら常にどちらが『本物』かを記憶し続けていなければならないわけだが……)

 

 

 目潰しからの攪乱。

 注意深く観察していれば、どちらが本物かは判別できそうなものではある。

 しかし、その場が天井を破壊されてまだ間もなく、土煙が濛々(もうもう)と立ち込めていることを考えても──常人であれば瞬時に看破はできないだろう。

 

 そして、一瞬でも判断を迷えば意識の外から『亜音速の格闘性能』を保持した嵐殿(らしでん)が襲い掛かってくる。

 本体自身をベットしたあまりにもリスキーな策だが、そのリスクへの動揺も含め正常な対応は難しい。

 

 崩れ去る定説(リヴィジョン)はそこまで嵐殿(らしでん)の狙いを看破して、

 

 

(だが、こちらの機体性能を甘く見てはいないか? シキガミクス技師としても大天才……君自身が言ったことだ)

 

 

 ──崩れ去る定説(リヴィジョン)は、どちらの嵐殿(らしでん)が本物かを既に看破していた。

 

 そもそも、顔面に備えられたカメラはメインカメラであると同時にデコイでもある。

 別に、人間と同じようにカメラが二つでなければいけない理由などない。

 機械の処理能力を持っている崩れ去る定説(リヴィジョン)は、実際には関節各部に仕込まれたカメラによって同時に複数の視点から周囲の様子を観察することを可能としていた。

 

 そしてその視点からは──本物の嵐殿(らしでん)がどちらか、はっきりと分かる。

 

 

()()()()()()()()()()

 向かってきた方をシキガミクスだと判断して警戒しても、本体だと看破して攻撃しても、どちらにせよノーマークのシキガミクスが襲い掛かってきて最低でも相打ちに持っていける二段構えの策か……。

 ……だが、本体だと分かっていれば対応は容易い)

 

 

 崩れ去る定説(リヴィジョン)は向かってくる嵐殿(らしでん)本体の方へ対応するフリをして、おそらくその後方から強襲をしかけてくるであろう嵐殿(らしでん)のシキガミクスの方を警戒する。

 

 そして、殴り掛かる嵐殿(らしでん)の拳を片手でいなそうと崩れ去る定説(リヴィジョン)が右手を掲げた瞬間、

 

 

 

「…………『継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)』」

 

 

 

 ギュオ!! と、()()()()()()()()()()()()殿()()()()()()()()()()

 

 

『なッ、ば』

 

 

 一瞬のことだった。

 

 完全に想定外の事態に、崩れ去る定説(リヴィジョン)が目の前の現実を認識し終わる、その前に。

 

 

 嵐殿(らしでん)柚香(ゆずか)の右拳が、崩れ去る定説(リヴィジョン)の頭部を()()()()()()()

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 嵐殿(らしでん)柚香(ゆずか)が生来持っていた霊能は、『触れた人間に変身する』というもの。

 

 それだけでも十分有用な霊能ではあるが──嵐殿(らしでん)はシキガミクスを用いて、この霊能をとある形に調整する。

 

 その完成形が──『移植』であった。

 

 

『ガァルルルルルルルァァアアアア!!!!』

 

 

 ダークグレーの長髪をうねらせて、その美貌に似つかわしくない野生の唸り声をあげて嵐殿(らしでん)は拳を振るう。

 

 一発。

 

 二発。

 

 三発。

 

 四発。

 

 ──最早数えることすらできないほどの、拳のラッシュ。

 

 一秒にも満たない時間の間に降り注ぐ拳打の雨によって、崩れ去る定説(リヴィジョン)は粉々のスクラップへと変貌する。

 完全なる再起不能を確認した嵐殿(らしでん)──正確にはその姿へと変身した継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)は、そこで手を止め、

 

 

『やあ』

 

「………………!?」

 

 

 刹那、嵐殿(らしでん)の思考が混乱する。

 

 シキガミクスの後方に控えていた本体・嵐殿(らしでん)の眼前には──

 

 

 

 ──今まさに破壊したはずの、崩れ去る定説(リヴィジョン)が佇んでいた。

 

 

 

 その機体には一つの破損もなく。

 

 そして、茫然としている嵐殿(らしでん)目掛け拳を引き絞り──

 

 

「っ、継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)!!」

 

 

 ガギン!!!! と、寸でのところで嵐殿(らしでん)はその拳を受け止めることに成功した。

 

 ──否、嵐殿(らしでん)ではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『「入れ替わり」というわけか』

 

 

 直前に殴り掛かった嵐殿(らしでん)の姿の継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)から視線を動かさず、崩れ去る定説(リヴィジョン)は言った。

 

 

「…………残念、ハズレよん」

 

『なら「移植」かね?』

 

 

 嵐殿(らしでん)柚香(ゆずか)のシキガミクス、継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)の霊能は────『移植』。

 

 シキガミクスは術者が触れたことのある人間の姿を寸分違わず模倣することができる。

 そしてその状態で変身対象に触れることで、任意の部位を対象の部位と入れ替える形で『移植』するのだ。

 

 この『移植』によるダメージは発生せず、全く同じ肉体ゆえに拒否反応も発生しない。

 完全完璧な回復能力だが──術者たる嵐殿(らしでん)のみ例外的に、触れずに『移植』を行うことができる。

 

 そしてその奥義が、『全身移植』。

 即ち体を余すところなく置換するによる、シキガミクスと術者の瞬間的な『入れ替わり』だった。

 

 

「残念、それもハズレ」

 

『そうか? まぁ良いよ。発生する事象は分かった。原理は問題じゃない』

 

 

 表情一つ変えずに嘘を吐く嵐殿(らしでん)だったが、崩れ去る定説(リヴィジョン)はさもどうでもよさげに切り返して、

 

 

『……いや、実際のところ、本当に危ないところだった。

 初見の、無警戒の霊能だったというのもあるが……知略の上では上をいかれていたよ。偶然本体が霊能を使っていなければ、私は完全に破壊されていただろうな。

 ……向こうで霊能を使わされるほどに本体を追い詰めてくれた園縁(そのべり)君に感謝しなくては』

 

 

 脱力して言う崩れ去る定説(リヴィジョン)を避けるように、先ほどまで本体だったはずの嵐殿(らしでん)が信じられない身のこなしで跳躍して一方の嵐殿(らしでん)へと合流する。

 

 

(……また入れ替わったか。おそらく入れ替わりは瞬時、かつインターバルや回数の制限もほぼない。ネタが割れたとしても手強さはさして変わらないか。……厄介な(よくできた)霊能だな……)

 

 

 ──戦闘開始から、一〇秒が経過しようとしていた。

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