唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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61 破局 >> CATASTROPHE BEGIN ③

 白煙ももう掻き消え、ピースヘイヴンと薫織(かおり)の戦場も崩れ去る定説(リヴィジョン)の視点からよく見えている。

 それを改めて確認すると、崩れ去る定説(リヴィジョン)は声を張り上げる。

 

 

『随分余裕そうだな二人とも! 非戦闘員をこの場に置いておくなんて!』

 

 

 その声を聞いて、あまりにも激しい戦闘を目の前に竦み上がっていた流知(ルシル)がぴくりと肩を震わせる。

 

 

「あァ……!? あのシキガミクス、今自分で……」

 

園縁(そのべり)君! よそ見とは寂しいな!」

 

「チィ……!」

 

 

 薫織(かおり)がすぐさま口を挟もうとするが、ピースヘイヴンがそれを許さない。

 

 術者と自我を共有している崩れ去る定説(リヴィジョン)は己の目論見を本体も理解したのを確認すると、さらに言葉を続ける。

 

 

『それとも、私が彼女を狙わないとでも思ったか? 親近感を抱いてくれていることは喜ばしく思うが、楽観的だねぇ!

 現状、戦況は私の方が優勢だ! 一瞬のスキを突いて彼女を殺そうと動くことは可能だし、そうすれば彼女を守る為に君達は高確率で痛手を負うだろう!』

 

 

 嵐殿(らしでん)は動けない。

 

 この挑発が、嵐殿(らしでん)の攻撃を誘発させるものだと分かっているからだ。

 ──先ほどの攻撃を無効化された現象。

 あの原理が分からないうちには、攻撃しても嵐殿(らしでん)が追い詰められるだけになるのは間違いない。

 

 それを良いことに、崩れ去る定説(リヴィジョン)は悪辣な声色で流知(ルシル)に呼びかける。

 

 

『……こんな風に、ねぇ』

 

 

 言葉と同時に、崩れ去る定説(リヴィジョン)は隠し持っていた木片を横合いに投擲する。

 

 亜音速で空を引き裂く木片は、過たずに流知(ルシル)の腹部あたりへと飛来していくが──

 

 

「どういうつもりだ、コラ」

 

 

 ゴギン、と。

 

 薫織(かおり)が投げたナイフによって簡単に弾かれ、あらぬ方向へと飛んでいく。

 

 青筋すら立てて崩れ去る定説(リヴィジョン)の方を一瞥した戦闘メイドの眼光は、これまでに類を見ないほど狂暴な怒りを宿していた。

 

 

『こちらの台詞だが。……彼女のような非戦闘要員を戦場に連れ出して、狙われないとタカをくくる方が無責任だと思うよ?』

 

()()()()()()。テメェだって、流知(ルシル)の、」

 

 

 薫織(かおり)崩れ去る定説(リヴィジョン)に反論しようと声を上げた、その瞬間だった。

 

 流知(ルシル)は何も言わず、体育館の外へと走り出す。

 

 

「あの馬鹿……真に受けやがって!」

 

「おっと。行かせないよ、園縁(そのべり)君。もう少し私と遊ぼうじゃないか」

 

 

 流知(ルシル)を追おうとする薫織(かおり)だが、目の前のピースヘイヴンはそれを許してくれない。

 歯噛みする彼女の視界の端から、走り去る流知(ルシル)が消えていった──。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

(…………どうして、会長は私のことをあんなにおどかしていたんだろう)

 

 

 一方。

 

 走り去った流知(ルシル)はというと、静かにそんな思考を走らせていた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(私が非戦闘要員で、薫織(かおり)の弱点になりうるのなんて、私自身が一番よく分かっている……。それでも足手纏いになるのを覚悟で、『いざって時』の為のジョーカーとして待機するのを決意したんだ。

 会長だって私の覚悟は十分理解しているはず。だって、短い間とはいえ一緒に過ごしたんだもん。

 会長は、根っこはいい人だった。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 結局は裏切られた関係だが。

 そもそも最初は黒幕として出会った間柄だが。

 それでも、一緒に遊んだ仲として、一緒に笑い合った仲として──流知(ルシル)は、既にピースヘイヴンのことが好きだった。

 

 その彼女が、流知(ルシル)の覚悟や決意を軽く見るような()()()()()()()()とは思えない。

 嘘つきで裏切り者でろくでなしで外道だが────ピースヘイヴンは、良い人だ。

 それが流知(ルシル)の本音だった。

 

 だからこそ、あの悪辣に振り切れたような挑発がどうしても不自然だったのだ。

 まるで、流知(ルシル)のことをどうにかして怖気づかせて戦場から遠ざけたいかのような苦し紛れの脅しの数々が。

 

 

(……あのまま私が戦場にいたら、会長はたぶん困る状況だった。これは、きっと間違いないはず)

 

 

 流知(ルシル)はそこで、足を止める。

 

 そもそも体育館から一時逃げ出したのも、思惑通りの状況になったとピースヘイヴンに勘違いさせる為。

 自分の存在がピースヘイヴンにとって致命的になるならば、こっそり体育館に忍び込み直してしまえばいいのだ。

 だが、それよりも先にピースヘイヴンの思惑を読む必要がある。

 

 何故、ピースヘイヴンは流知(ルシル)のことを戦場から遠ざけたかったのか。

 

 

(私のシキガミクスに戦闘能力はない。だから、参戦されたら困るとかそういうのじゃない気がする……。だとすると、霊能関連? でも、今から準備をしてどうにかなるものなんて……、……あ!!)

 

 

 そこで、流知(ルシル)はようやく思い出した。

 

 

(私、馬鹿だ!! あるじゃん! 『草薙剣』が!!)

 

 

 己の懐にある──最大のジョーカーを。

 

 

(『草薙剣』があれば、百鬼夜行(カタストロフ)はキャンセルされる。妨害しようとしても霊気を相殺されるから、霊能が使用不能な隙が生まれてしまう……!

 私が百鬼夜行(カタストロフ)を邪魔するだけで、会長はめちゃくちゃ困るんだ!! なんでこんなことに気付かなかったんだろう……!)

 

 

 そうと決まれば、あとはもう再度体育館に突入するだけだ。

 

 体育館には正面入り口の他に、準備室を経由する裏口が二つほど存在している。

 鍵を破壊するだけなら戦闘中のピースヘイヴンには気づかれないだろうし、準備室はステージのすぐ近くに繋がっている。

 そこからなら、おそらく誰にも気付かれずに百鬼夜行(カタストロフ)の霊気の淀みに接近することができるはず。

 

 

「えいっ」

 

 

 最大(二メートル)まで伸長させた飛躍する絵筆(ピクトゥラ)を使い、流知(ルシル)は体育館裏口の扉の鍵を破壊する。

 

 いかに非戦闘タイプとはいえシキガミクス、通常の物質でしかない裏口の扉はあっさりと破壊された。

 

 

(……霊気の淀みに、近づくんだよね……)

 

 

 嵐殿(らしでん)が天井を崩落させてくれたおかげで戦場はステージから離れた場所になっているが、それでも体育館の入り口付近よりはずっと近くになる。

 もしかしたら流れ弾のようなもので負傷する可能性だってゼロではない。

 

 嵐殿(らしでん)の霊能を知らない流知(ルシル)にとっては、そこはかつて読んだフィクションの世界よりもずっと重たいリアリティを持つ危険区域だ。

 

 それでも。

 

 

(……私が上手くやれば、一気に状況を変えられる。最低でも会長の目的を潰すことができて、高確率で、生まれた隙を突いて会長を倒すことができる)

 

 

 ならば、やらない理由はない。

 

 

(会長が、師匠が、薫織(かおり)が……。あんな風に楽しそうに過ごしていた皆が、これ以上辛い陰謀のために争い合わなくて済むようになる……!!)

 

 

 裏口から準備室に入った流知(ルシル)は、飛躍する絵筆(ピクトゥラ)を解除すると『草薙剣』を呼び出す。

 

 両手剣サイズの木剣はずしりと重たいが、流知(ルシル)は気にせずに準備室からステージへと移動していく。

 

 天井が崩落した薄暗いステージには、大きく空いた穴から差し込む太陽の日差しと、その風景を歪める直径三メートル程度の『空間の歪み』──霊気の淀みがある。

 

 ステージの下では、まだ薫織(かおり)嵐殿(らしでん)、ピースヘイヴンが戦いを繰り広げている最中だった。

 ──もっとも、薫織(かおり)嵐殿(らしでん)も多少先ほどよりも負傷を重ねているようだったが。

 

 

(……!)

 

「ッ、流知(ルシル)!? 何してんだそんなところで!」

 

 

 真っ先に気付いたのは、流知(ルシル)に背を向けているはずの薫織(かおり)だった。

 おそらくメイド特有の感覚で流知(ルシル)の足音を察知したのだろうが、相変わらず常識離れした感覚である。

 

 

「会長!!」

 

 

 流知(ルシル)薫織(かおり)の言葉には答えず、手に持った『草薙剣』を掲げる。

 ピースヘイヴンの表情が強張るのを見て、流知(ルシル)は己の推測が正しかったことを確信した。

 

 

「アナタの野望は──これで終わりですわ!!!!」

 

 

 そしてそのまま、霊気の淀みへと『草薙剣』を放り投げ──

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