唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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62 破局 >> CATASTROPHE BEGIN ④

「やめろ流知(ルシル)!! ()()()()()!!!!」

 

 

 薫織(かおり)の言葉で、流知(ルシル)の思考は完全に停止した。

 

 しかし、もう行動は止まらない。

 我に返った時には既に、『草薙剣』は流知(ルシル)の手から離れていて──

 

 そして、霊気の淀みと衝突する。

 

 瞬間、霊気の淀み全体が一瞬鳴動したかと思うと、そのまままるで掃除機に吸い込まれるかのように『草薙剣』へと吸収されていった。

 

 後には、全てを呑み込みステージの上を転がった『草薙剣』だけが残る。

 

 

「…………え……?」

 

 

 何も、起こらない。

 

 薫織(かおり)の言葉に停止していた流知(ルシル)の思考が、徐々に動いていく。

 何も起こらないということは、『草薙剣』は霊気の淀みを消すことができたのでは?

 

 ──いや。

 

 『草薙剣』は、霊気を()()()()霊能を持つ。

 

 ならば、先ほどのような『吸い込まれる』動きはおかしい。

 あれはどちらかというと、『封印型』のシキガミクスに怪異が()()()()()()()()()()──、

 

 

「く、はははっ」

 

 

 笑い声が。

 

 まさしく耐えきれなかったという風体の笑い声が、漏れた。

 

 

「はははははははっ!! 本当にすまない! そしてありがとう遠歩院(とおほいん)君! 君のお陰で!! 私の計画は完成した!!」

 

 

 笑い声の主は、今まさに投擲された『草薙剣』の設計図を描いた張本人であるピースヘイヴンだった。

 

 そう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 そもそも、ピースヘイヴンは最初から薫織(かおり)達を裏切るつもりだった。

 であるならば──裏切るつもりの相手に、馬鹿正直に本物の『草薙剣』の設計図を渡してやる必要もない。

 

 考えてみれば当然の話だが──だからこそ、ピースヘイヴンはそこに至る思考の道筋を断つ策を打った。

 

 

「それは、『草薙剣』じゃあない。正式名称を『天尾羽張(あめのおはばり)』。百鬼夜行(カタストロフ)そのものを対象にした──私が設計した最新最悪の『封印型汎用シキガミクス』だよ」

 

 

 ──天尾羽張(あめのおはばり)

 

 古事記に伝承される神話においては、加具土命(カグツチ)を殺し、新たなる神を幾つも産んだとされる神剣。

 

 つまり、今ある何かと引き換えに新しいものを生み出すアーティファクト。

 

 その名を冠するシキガミクスを眺めながら、ピースヘイヴンは笑う。

 

 

「怖かったろう? 場違いだと思ったろう? それでも君は必死に仲間達の助力たらんと、自分が役に立てる要素を探したはずだ。

 そして諦めなかったはずだ! 信じ抜いたはずだ! 手ひどく裏切ったこの私の善性をも、君は信じてくれていたはずだ!!!! 何故なら、君はそういうお嬢様(ヒーロー)だからッ!!!!!!

 だから私はそれに賭けた! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 流知(ルシル)のことを執拗に挑発し、そしてわざと追い立てるような行動をとったのも、それが理由だ。

 

 

「……正直なところ、私はかなり追い詰められていてね。

 百鬼夜行(カタストロフ)の誘導システムを構築したのは良かったんだが、伽退(きゃのく)君をはじめとした生徒会の半数が離反したことで、百鬼夜行(カタストロフ)誘導が大きく乱れた。

 そのリカバリに関してはなんとか上手くいったんだが……その分、百鬼夜行(カタストロフ)の収束がどうしても上手く行かなかった。

 そんな時に、君の存在を思い出したんだ。設計図さえあればどんなシキガミクスだろうと作り出すことができる、君の存在を」

 

 

 あからさまに流知(ルシル)を遠ざけたい意思を匂わせれば、流知(ルシル)が思考の前提に『ピースヘイヴンは自分にあの場にいられたら困る何かを抱えていた』という条件を置くのは無理からぬこと。

 そこさえ固まってしまえば、あとは間違った前提の上に推測を積み重ね──そして流知(ルシル)は、自らの手の中にある最大のジョーカーを見つけてしまう。

 

 

「だから一か八か……君の反則的な霊能によるショートカットに頼った。

 賭けだったよ。

 園縁(そのべり)君が君に『草薙剣』として偽装した起動トリガーを預けてくれること。君が私の威圧に屈せず戦い続けてくれること。君が私が仕組んだ罠に気付かないでいてくれること!!

 随分薄氷の上に成り立った策だったが……私は勝った!!!!」

 

「あ、あ…………わ、わた、わたし……」

 

「聞く耳を持つなァッ流知(ルシル)!!!!」

 

 

 そこで、一陣の風が舞った。

 

 演説に夢中だったピースヘイヴンは無視して、薫織(かおり)はステージ上の流知(ルシル)のもとへと駆ける。

 

 

失敗(しく)った……! 『草薙剣』が罠であることなんか分かり切ってたってのに、その共有を忘れていた!! 嵐殿(らしでん)に事前に忠告されてたってのに……!!)

 

 

 もちろん、ピースヘイヴンが持ち出してきた『草薙剣』が罠である可能性について、薫織(かおり)は最初から想定していた。

 何ならピースヘイヴンが裏切る前からその可能性を考えていたくらいだ。

 

 だから、ピースヘイヴンの裏切りが確定した段階で薫織(かおり)の中で『草薙剣』が使ってはいけないものであることは自明となっていた。

 だからこそ──薫織(かおり)はそれを『わざわざ言うことでもない』と考えてしまっていたのだ。

 

 ──少しでも綻びがあれば、この黒幕(ピースヘイヴン)はそこを突いてくる。

 それもまた、嵐殿(らしでん)から警告されていたことだったというのに。

 

 

(……だが、まだ終わっちゃいねェ。流知(ルシル)が此処にいるのは僥倖だ。

 霊気の淀みがシキガミクスに内包されているのも考えようによっちゃあこっちに有利。戦闘中にタイムリミットが来ねェってことだからな。

 あとはこいつをぶちのめして、流知(ルシル)さえ守り切れば──)

 

「あっごっ、ごめ、ごめんなさい……! 私、役に立とうと思って、とっ、取り返しのつかないことっ……」

 

「クズの術中だ、()()()!! 心配しねェでも取り返しなんか幾億でもつかせてみせる。(オレ)を誰だと思っている。メイドだぞ!!」

 

 

 狼狽してただ詫びることしかできない流知(ルシル)を、従者は素早く一喝した。

 

 

「ありゃあお前の心を折る為の話術でしかねェ! 現状はこっちの有利に進んでる!! お前がこっちの切り札なのは何一つ変わらねェんだ!!

 ……さて流知(ルシル)。お前の憧れはこの局面でどう振舞うべきだっつってる?」

 

 

 問われて、流知(ルシル)はすうと一息の呼吸を入れる。

 

 一瞬後、そこには一人の令嬢がいるだけだった。

 

 

「……はしたない姿を見せましたわ! 薫織(かおり)、わたくしのことは構わずに!」

 

 

 舞台袖へ引き下がった流知(ルシル)を見送りつつ、ステージ上に立った薫織(かおり)は状況を把握し直す。

 

 現在地はステージの上。

 背後には流知(ルシル)

 眼前二メートルほど先に、百鬼夜行(カタストロフ)を内包した木剣。

 

 ステージの下には崩れ去る定説(リヴィジョン)とピースヘイヴン。

 

 少し離れたところに嵐殿(らしでん)と彼女の姿をした継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)

 

 

(……ああは言ったがまだ流知(ルシル)の精神状態は不安定だろう。立て直す為には、(オレ)の策を伝えればいいが……。

 ……今それをやると、ピースヘイヴンはマジで流知(ルシル)を潰しにかかる。…………できねェな)

 

 

 この状況では、秘密の内緒話をする余裕もない。

 何かを手渡そうものなら、ピースヘイヴンのことだしそれだけで流知(ルシル)のことを重要人物と見做して本気で狙いだすだろう。

 

 流知(ルシル)のことを利用するだけ利用したと思っているこの状況は、ある意味では非常に安全な状態でもあるはずなのだ。

 

 

(クソったれ……。マジで前以て言っておけば良かったことばっかりじゃねェか。流知(ルシル)にプレッシャーを与えねェようにと余計な気を回したのが完全に裏目に出てやがる……!

 ……いや、こんなもん結果論だ。終わったことに気を取られている時点で半ば敵の術中……! 切り替えろ、お前はメイドだろ!!)

 

 

 心の裡で己を叱咤すると、薫織の目の色がスッと平時に戻る。

 

 

(もう立て直したか……。本当に一瞬の狼狽だったな。まったく厄介な精神力のメイドだ……)

 

 

 それを認めて、ピースヘイヴンは一瞬だけ忌々し気に眉を顰め、

 

 

「先ほど、君は私の狙いを『大怪異』の誕生と看破したが……これは正確には少し間違いでね」

 

 

 いかにも上機嫌といった調子で、そんなことを語り出した。

 

 謎の霊能によるカウンターを警戒して嵐殿(らしでん)が攻めあぐねているのを良いことに、ピースヘイヴンは続けて、

 

 

百鬼夜行(カタストロフ)を精密調整して望んだ怪異を生み出そうとしているという君達の見立ては正しい。

 ()()()()()()()()()()()()()

 百鬼夜行(カタストロフ)の力を一点集中して、望んだ怪異を生み出せるならば……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 つまり、それは。

 

 

百鬼夜行(カタストロフ)により『神様』を生み出し、シキガミクスに封印する。……神織悟志のシキガミクスとなった『浄蓮の絡新婦』のようにな!」

 

 

 大妖怪を操る少年──を超える。

 

 主人公の、上位互換。

 

 

 計画の全貌を詳らかにした黒幕は、次にこう宣言した。

 

 

「さあ、唯神夜行(ゆいしんやこう)の開幕だ」

 

 

 ────直後。

 

 『天尾羽張』から迸った霊気の奔流が、薫織(かおり)の身体を貫いた。

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