唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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65 崩れ去る定説 >> RAGE AGAINST THE WORLD ②

「カガミサマが……『神様』が来ればきっと何とかしてくれるから!! だからそれまで絶対に意識だけは保つんだよ! 分かった!? ねぇ返事してよ!! ご主人様の命令だよ!!」

 

 

 おそらく、罪悪感にまみれていただろう。

 

 己の失策で、親しい相棒を傷つけ──命の危険に瀕させてしまったのだ。

 泣き喚き、許しを乞いたくなるのが正常な感情のはず。

 にも拘らず、流知(ルシル)はそうはしなかった。

 痛む心に鞭を打ち、自分が倒れ伏すメイドに対してできる最善を考え、それを遂行する。

 

 力もなく、信念もない、本当にただの転生者(いっぱんじん)にそれを行うのが、どれほど難しいことか。

 

 

「………………嫌になるな」

 

 

 ピースヘイヴンは誰に言うでもなく呟くと、『唯神夜行』を秘めた『天尾羽張』を回収に向かう。

 

 計画の失敗を疑う気持ちはある。

 しかし躊躇する気持ちは完全に失せていた。

 ただの一般人がその危険を無視して最善の行動を取ろうとしているのに、この状況を築き上げた元凶自身が怖気づいていては、今まで犠牲にしてきた世界に示しがつかない。

 黒幕としての、意地だった。

 

 そうしてピースヘイヴンがステージの方へ足を向けたタイミングで、

 

 

「お待ちなさい」

 

 

 見るとそこには、目元を赤くした流知(ルシル)が涙を拭って佇んでいた。

 

 その手には、二メートルにもなるGペンの槍──飛躍する絵筆(ピクトゥラ)が握られ、地面にその穂先を突き立てていた。

 

 

「……園縁(そのべり)君の命乞いかね。それなら心配には及ばない。どうせその傷では戦線離脱は免れないだろう? 私は私の目的さえ達成できればそれでいい。そのまま大人しくしてくれているなら、これ以上彼女を傷つけるつもりはないよ」

 

「何を勘違いしていますの」

 

 

 流知(ルシル)は、冷え切った声色でピースヘイヴンのとりなしを切り捨てる。

 

 

「わたくしが、まだ盤面にいますのよ。忘れまして? 我々の陣営におけるジョーカーはこのわたくし。その認識が足りていないのではないかしら」

 

「……何を、」

 

飛躍する絵筆(ピクトゥラ)ならば、あのシキガミクスに突き立てるだけで内部血路を書き換えられます。そうすればアナタが企んだ唯神夜行は簡単に崩れ去りますわ」

 

 

 ピースヘイヴンの動きが、止まる。

 

 その視線を、注意の全てを目の前の令嬢風の少女に集中させる。

 

 

「死ぬぞ。十中八九、霊気淀みは暴走する。上手くいったとしても、園縁(そのべり)君ともども命を落とす。そんな方針は最初から破綻しているじゃないか」

 

 

 声が強張っていくのを、ピースヘイヴンは自覚していた。

 

 しかし、流知(ルシル)はまるで感情を感じさせない平坦な声で、あっさりと切り返す。

 

 

「だから、なんです? ……薫織(かおり)はもう、……駄目ですわ。助かりません。だったら、薫織(かおり)をこんな風にしたアナタの野望を道連れにして死を選びますわ」

 

 

 その、真っ青な瞳が──ピースヘイヴンの目には、世界全てを憎んでいるように見えた。

 

 

 瞬間、ピースヘイヴンは鋭く声を上げていた。

 

 今まさに、その善性を踏み躙った張本人のくせに。

 

 

「待て!!」

 

 

 親しい友人を己の判断ミスで死に追いやってしまった。

 一縷の望みをかけた助けも、おそらく間に合わない。

 その元凶である憎き黒幕の野望だけが成就してしまうという状況。

 ──自棄になって自滅を選んでも、ちっとも不思議ではない。

 

 少なくとも、ピースヘイヴンにはそう考えてしまう気持ちが()()()()()()

 

 だからこそ、全ての元凶であるくせに、ピースヘイヴンは気付けば心裡(しんり)から流知(ルシル)を制止していた。

 

 

「……今の言葉は撤回しろ。()()()()()()()()()。邪魔さえしないなら救命措置は私がとってやる。園縁(そのべり)君が死ぬことはない。

 だから、君が……君が()()なる必要はない。それに君が……、」

 

 

 『君がその心根を闇に堕とすことは園縁(そのべり)君だって望まないだろう』。

 そこまで言いかけて、ピースヘイヴンは状況の不自然さに遅れて気が付いた。

 

 

 ──そもそも、本当にその気ならわざわざ自分に注目を集めるような真似はしないのでは?

 

 この距離だ。

 流知(ルシル)がどんなに策を講じようと、ピースヘイヴンの動きの方が早いのはどう考えても明白。

 それなのにわざわざ自分の目的を宣言するのは道理に合わない。

 

 もちろん、ピースヘイヴンへの憎しみからあえて不合理な行動を取ったという可能性はある。

 だが、今はそれよりも違う可能性を危惧するべきだ。例えば──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とか。

 

 

「しまッ──」

 

 

 反射的に、ピースヘイヴンは自身のシキガミクスである崩れ去る定説(リヴィジョン)を見る。

 

 やはりというべきか、同じ思考回路を持つ崩れ去る定説(リヴィジョン)はピースヘイヴンと同じように流知(ルシル)の一挙手一投足に注意を向けているようだった。

 だが、この状況での肝はそこではない。

 

 

「今更気付いてももう遅いですわ!! 玉砕覚悟の自爆特攻!? それも薫織(かおり)を巻き込んで!? そんな選択をわたくしが捨て鉢になって選ぶ!?!?

 ……わたくしを馬鹿にするのも大概になさいっ!! わたくしは! 薫織(かおり)の! ご主人様でしてよ!! そのわたくしが、彼に顔向けできないような選択、するわけないでしょうがっっ!!」

 

 

 不敵な笑みを浮かべる流知(ルシル)の背後。

 

 薫織(かおり)の傍には──嵐殿(らしでん)が佇んでいた。

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