唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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66 崩れ去る定説 >> RAGE AGAINST THE WORLD ③

 本体ではない。

 流石に本体が移動するのに気付けないほどピースヘイヴンの集中は乱されていなかった。

 流知(ルシル)の変節とそのシキガミクスに対する警戒と説得、それによって全神経が流知(ルシル)へと集中した数瞬の隙間を縫うようにして、継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)薫織(かおり)の元へと移動したのだ。

 

 

「師匠、薫織(かおり)をお願いします。カガミサマのところに運べば、きっとまだ間に合うはずっ……!!」

 

 

 涙を袖で拭いながら言い募る流知(ルシル)に、嵐殿(らしでん)の姿をした継ぎ接ぎしたての救済(ザ・リグレット)は静かな口調で断りを入れる。

 

 

「大丈夫。その必要は無いよ」

 

 

 嵐殿(らしでん)の姿をした継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)が、倒れ伏す薫織(かおり)を見下ろす。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを見上げて、薫織(かおり)はぽつりと呟く。

 

 

「…………(らし)殿(でん)

 

「喋るな。……『継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)』」

 

 

 継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)がその場に屈むと同時、ギュオ!! とその姿が薫織(かおり)のものへと変化する。

 

 変化はそれだけではなかった。

 

 まるで画面が切り替わるかのように突然に、継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)の脇腹にぽっかりと赤黒い穴が空いた。

 それと引き換えに、薫織(かおり)の脇腹が何事もなかったかのように修復される。

 

 

「運が良いのか悪いのか……。『カガミサマ』の『加護』が干渉したお陰で、出血はギリギリ許容範囲内だ。でなければ……霊気の奔流の直撃を至近距離で食らったら……俺が対処する間もなく即死だっただろうな」

 

 

 ──『移植』。

 

 衣服すらも、瞬時に回復していた。

 

 

「解除、っと」

 

 

 薫織(かおり)の声で呟いた継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)の一言と同時に、その姿がブレる。

 

 先程までの不自然なほどに人間的な姿から──脇腹が()()した狼頭の獣人型シキガミクスの姿へと。

 

 

「…………まんまとハメられたという訳か……っ!」

 

 

 此処に至り、ピースヘイヴンはほぼ状況を理解していた。

 

 つまり、流知(ルシル)が『天尾羽張』を破損させる云々は完全なるブラフだったのだ。

 自暴自棄になったように見せたのもただの演技で、ピースヘイヴンの注意をごく短い間でも自分に集めて嵐殿(らしでん)薫織(かおり)を治療する為の隙を与えたという訳である。

 

 ──もっとも、嵐殿(らしでん)の霊能を知らない流知(ルシル)は、自分が戦場に取り残されるのを覚悟の上で薫織(かおり)を戦場の外へと運び込むつもりで買って出た決死の囮役のようだったが。

 

 ピースヘイヴンも、嵐殿(らしでん)の霊能が『移植』であることはほぼ読めていた。

 つまりピースヘイヴンはこの展開を読めていて、対策を打っておくべきだったのが──

 ──この局面での敗因は、流知(ルシル)の気迫に()()()()から、と言うべきだろう。

 『この女はやりかねない』。

 そう思わされた時点で、この状況に辿り着くのは確定していたのかもしれない。

 

 

「だが!!」

 

 

 明確な失策。

 

 しかしピースヘイヴンの精神は、〇コンマ一秒の停滞もせずに次の手を叩き出していた。

 

 

園縁(そのべり)君の治療の為にシキガミクスを離したのは失策だったな、柚香(ゆずか)! お前自身のガードががら空きだぞ!!」

 

 

 ピースヘイヴンが嵐殿(らしでん)へ向き直ろうとしたのと、ほぼ同時に。

 

 

『いや待て「私」!! 飛躍する絵筆(ピクトゥラ)が発動している! そちらに意識を向けていては間に合わなくなるぞ!!』

 

 

 崩れ去る定説(リヴィジョン)からの警告で流知(ルシル)の方を向き直り、そしてピースヘイヴンは目を疑った。

 

 流知(ルシル)が床に突き立てた飛躍する絵筆(ピクトゥラ)から──赤い紋様が『唯神夜行』を秘めた『天尾羽張』へと伸びているのだ。

 

 先程流知(ルシル)は『突き立てる』という表現を使ったが、飛躍する絵筆(ピクトゥラ)の霊能は穂先が触れたところから伸びるように発動していく。

 それならば、別に直接突き立てずとも床や壁を伝って離れた場所にも絵画を描けるのは自然のなりゆきである。

 

 

「ば、かな……!?」

 

 

 今度こそ、ピースヘイヴンの思考は混乱の渦に叩き込まれた。

 

 崩れ去る定説(リヴィジョン)流知(ルシル)を叩かせる為に跳躍させながら、ピースヘイヴンは叫ぶ。

 

 

「馬鹿なことを!! 自暴自棄の自爆はしないんじゃなかったのか!? 何故……!」

 

「馬鹿はアナタですわよ!!」

 

 

 しかし、流知(ルシル)は一寸の躊躇も迷いもなく、明確に断言した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! ならもう『唯神夜行』の暴走なんてノーリスクも同然でしてよ!!

 あまり……わたくしのメイドを、ナメるな!!」

 

 

 ゴッギィィィィン!!!! と。

 

 その信頼に応えるように、崩れ去る定説(リヴィジョン)の拳が受け止められる。

 

 受け止めたのは──

 

 

 

「……やれやれ。病み上がりにメチャクチャ言ってくれるお嬢様だぜ」

 

 

 

 黒髪紅目。

 場違いなコスプレ衣装に身を包んだ──筋金入りのメイド。

 

 園縁(そのべり)薫織(かおり)

 

 

 即座に、今度はピースヘイヴンが動く。

 着用型の汎用シキガミクス──『ターミナルスカーフェイス』による補佐を受けた肉体が、過たず流知(ルシル)を狙う。

 しかしそれは、狼頭の獣人に防がれてしまう。

 

 

「シロウ……!!」

 

「年貢の納め時だよ、トラ。……お前の野望は、ここに潰えた」

 

 

 崩れ去る定説(リヴィジョン)は、薫織(かおり)に。

 

 ピースヘイヴンは、継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)に。

 

 

 二つの刺客が抑えられた結果、流知(ルシル)が描いた内部血路は『唯神夜行』を秘めた『天尾羽張』まで到達し。

 

 

 

 直後。

 

 

 ()()()()()()()()()

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