唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

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67 崩れ去る定説 >> RAGE AGAINST THE WORLD ④

 そこはまるで、大破した宇宙船内部のようだった。

 

 それまで戦場だった体育館──正確にはその空間全体の至る所に亀裂が走り、その奥から星空のような闇が覗いている。

 

 

 そして、あらゆる物質が静止していた。

 

 

 戦塵も。

 薫織(かおり)も。

 継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)も。

 飛躍する絵筆(ピクトゥラ)から伸びる赤黒い紋様も。

 そしてピースヘイヴンや崩れ去る定説(リヴィジョン)自身まで、この世の全てが動きを止めていた。

 

 

「……危ないところだった……」

 

 

 そんな中で、ピースヘイヴンはひとり呟く。

 

 と同時に、世界が運動を再開した。

 ──()()()()

 

 

 飛躍する絵筆(ピクトゥラ)から伸びる赤黒い紋様が、先端からどんどん消えていく。

 継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)とピースヘイヴンの距離が離れていく。

 薫織(かおり)と衝突した崩れ去る定説(リヴィジョン)が元の位置へと戻っていく。

 

 まるで、時間が逆行しているかのように。

 

 

「まさか……遠歩院(とおほいん)君が此処までやるとは思っていなかった。彼女はただの紛れ込んだ一般人だと……稀有な霊能を持つだけの非戦闘要員だと……。侮っていた。心からお詫びする、遠歩院(とおほいん)君」

 

 

 逆行に身を任せながら、ピースヘイヴンは言う。

 

 そこで、世界は再度動きを止めた。

 

 

「そして『崩れ去る定説(リヴィジョン)』。この世の『時』を五秒だけ巻き戻した」

 

 

 グッ、と。

 

 ピースヘイヴンは屈み、ステージ上に転がる天井の破片を拾い上げた。

 

 同様に世界が徐々に歩みを再開し始める中、ピースヘイヴンは独白する。

 

 

「『一秒』。

 一秒だけ、世界は私の霊能に()()()()()()。『時の慣性』と、私はそう呼んでいるがね。

 そしてその時間、私と私の魂魄を保有している崩れ去る定説(リヴィジョン)のみが!」

 

 

 ピースヘイヴンは改めて流知(ルシル)の方を見る。

 

 位置的に、流知(ルシル)を直接狙うことは不可能だった。

 立ち塞がった薫織(かおり)が盾になっていて、

 ここから一秒以内に流知(ルシル)を直接攻撃することはほぼ不可能。

 ──できたとしても、直後に手痛い反撃を食らうことになるだろう。

 それでは、『唯神夜行』への干渉を防げても先がない。

 

 

「『時』を『書き換える』。それが私の霊能、崩れ去る定説(リヴィジョン)……即ち『改稿』だ。もっとも、『時の慣性』に囚われている君達には聞こえていても認識できないだろうが」

 

 

 ピースヘイヴンはそこで、薫織(かおり)の身体の端から僅かに飛躍する絵筆(ピクトゥラ)がちらついているのを確認した。

 霊気を帯びたシキガミクスは、通常の物質では破壊することはできないが──破壊できないだけで、()()させることはできる。

 

 つまり。

 

 先程拾った瓦礫片を投擲することで、流知(ルシル)飛躍する絵筆(ピクトゥラ)を取り落とさせることは可能。

 

 

「重ねて言うが本当に危ないところだった……。遠歩院(とおほいん)流知(ルシル)。間違いなく、これまでで一番私を追い詰めたのは君だったよ」

 

 

 ドヒュ!! と。

 ピースヘイヴンが飛躍する絵筆(ピクトゥラ)目掛け瓦礫片を投擲する。

 

 投擲された瓦礫片は過たず飛躍する絵筆(ピクトゥラ)に命中し、飛躍する絵筆(ピクトゥラ)は弾かれて霊能も中断される。

 ──これで、『唯神夜行』の阻止は無効化された。

 

 

「……やれやれ、」

 

 

 庇うように流知(ルシル)の前に立った薫織(かおり)がそう呟いた瞬間、ピースヘイヴンと崩れ去る定説(リヴィジョン)以外の全てが『時』に追いついた。

 

 

「……………………流知(ルシル)

 

「いったた……。大丈夫ですわ。何かされたみたいで、飛躍する絵筆(ピクトゥラ)を落としちゃってますけど……」

 

「そうか……。……、……いや、ありがとう。助かった」

 

 

 薫織(かおり)は、喉まで出かかった謝罪の言葉を呑み込んで、素直な感謝を口にした。

 

 そして、後ろで張り詰めた流知(ルシル)の雰囲気が少しだけ綻んだのを感じ取り──自分の選んだ言葉が間違っていなかったことを悟る。

 

 

「どんなもんですか。わたくしだって、やるときはやるんですのよ?」

 

「ああ……まったくだ。お見逸れ致しましたってヤツだぜ、お嬢様」

 

「お、おうふ……。そ、そうですか……えへへ」

 

 

 ステージ上には、中央の『唯神夜行』を秘めた『天尾羽張』を挟むようにして、ピースヘイヴンと薫織(かおり)継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)、そして流知(ルシル)が向かい合う。

 

 ステージの下では、崩れ去る定説(リヴィジョン)嵐殿(らしでん)が向かい合う形となっている。

 

 

崩れ去る定説(リヴィジョン)! こちらに!」

 

『分かった』

 

 

 人数不利を解消する為、崩れ去る定説(リヴィジョン)を呼び寄せるピースヘイヴン。

 

 状況は、振り出しに戻った。

 ──いや。

 

 

継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)、だったか。あの霊能……傷の『移植』もできるとしたら厄介だな。私が触れられた時点で姿をコピーし、あの大怪我をこちらに『移植』される可能性がある)

 

 

 見たところ継ぎ接ぎ仕立ての救済(ザ・リグレット)の動作に陰りは見られない。

 ということは、強力な即死技を入手した分相手の方が有利になったと見るべきだ。

 もちろん『破損部分は「移植」できない』という縛りがある可能性も十分考えられるが、この状況での楽観視は即・敗北に直結するのだから。

 

 その事実を踏まえ、ピースヘイヴンは尚も不敵に笑う。

 

 

「それでこそだ。我が野望の最後に立ちはだかる難関達よ。そのくらいの強敵でなければ、越え甲斐というものがない!!」

 

挑戦者(チャレンジャー)気取ってんじゃねェよ、黒幕(ラスボス)!」

 

 

 両手を広げ高笑いをするピースヘイヴンに対し、薫織(かおり)は腰を低く落として拳を構える。

 

 

 ────最終ラウンドが、幕を上げた。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 紳士然とした風貌の筋骨隆々とした人型シキガミクス。

 体長は二メートル前後。紳士服のような意匠で、遠目に見たら人間と見紛うような見た目。ただし、カメラの瞳にスピーカーの口と、顔は一目見れば分かる程度に機械的。

 術者の魂魄の一部を『封印』することによりシキガミクス自身の判断で行動する自立稼働を可能としている。なお、術者とシキガミクスで自我は共有している。

 

 『時』を書き換える能力。

 霊能を発動すると、まずこの世の『時』が最大五秒まで巻き戻る。術者だけが巻き戻った後も未来の記憶を保持したまま行動を変更し、『時』を書き換えることができる。

 『時』を巻き戻してから一秒ほどは『時の慣性』とでも言うべき力が働き、術者以外の存在は本来の時の流れの通りにしか現実を認識できない。その為、術者以外から見たら認識が追い付いた瞬間に突然直前までの状況が変化したように見える。

 (術者がナイフで刺された瞬間に『時』を書き換えて回避した場合、刺されて致命傷を負ったはずの術者が復活してさらに瞬間移動をしたように認識される)

 『時』を巻き戻す時間は一秒未満を設定することはできず、能力発動後は再発動までに一〇秒ほどのインターバルが必要となる。

 

 元々術者が生まれつき備えていた霊能も、上記と完全に同じ。また、陰陽術を極めている為シキガミクスなしでも霊能を行使できる。

 このシキガミクスに霊能の調整・補助機能は存在しておらず、その神髄は魂魄の一部を『封印』している部分にある。

 魂魄の一部を『封印』したこの機体は、術者と同様に自分の意志で霊能を発動することができる。

 また、霊能発動中でも『時の慣性』を無視して自立稼働することができる。(逆もまた然り)

 本来は上述の制限の為、発動する間もなく失神・即死した場合は『時』を書き換えることもできなかったが、このシキガミクスがあることで、シキガミクスと術者が霊能を発動する間もなく両方とも思考能力を奪われない限り、不死身となった。

 

 なお、他方の霊能発動中やインターバル期間中にさらに霊能を発動して時を巻き戻すことはできない。

 

崩れ去る定説(リヴィジョン)

攻撃性:100 防護性:100 俊敏性:80

持久性:70 精密性:80 発展性:70

※100点満点で評価

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