唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション   作:家葉 テイク

68 / 121
68 崩れ去る定説 >> RAGE AGAINST THE WORLD ⑤

「とはいえ、だ……。開幕早々で()りィが、テメェの霊能ももう察しがついた。()()()()()()

 

 

 ピースヘイヴンが実際に行動を起こすよりも、一瞬早く。

 

 薫織(かおり)はそう宣言してみせた。

  ピッと人差し指をピースヘイヴンへ向け余裕を持って佇む姿は、なるほど確かに自らの勝利を確信しているかのようだ。

 

 ──少なくとも、十数秒前まで腹に穴を開けられていた女と同一人物とは思えない不敵さがあった。

 

 

「……ほう。ちょっと前まで生死の境を彷徨っていたとは思えない威勢の良さだ。空元気もメイドの職能かね?」

 

「メイドの職能は不死身の方だよ。覚えて帰りな、生きていられればな」

 

 

 しかし、薫織(かおり)はピースヘイヴンの挑発など全く意に介さない。

 

 そればかりか嘲るような色の笑みを浮かべて、両手を腰に当ててくつくつと声を上げる。

 

 

 明確な油断。

 

 そう判断したピースヘイヴンだったが──その場では動かなかった。

 

 

 シキガミクスは、悉く霊気を帯びている。

 そして『怪異』がそうであるように、多くのシキガミクスには物理的な攻撃は通用しない。

 例外は内部血路を熱で破壊しうる炎などだが──『着用型』の場合、この『物理攻撃への耐性』が本体の露出部にも波及している場合が大半である。

 

 つまり、シキガミクスに遠距離攻撃機能を持たない崩れ去る定説(リヴィジョン)がたとえそのへんの瓦礫を投擲したとしても、薫織(かおり)は体勢をにわかに崩すことこそあれどさしたるダメージは受けない。

 

 それが追撃に繋がるならまだ良いが、それを見いだせていない状態で無駄な攻撃を繰り出すのは薫織(かおり)の挑発に乗ってなお有効打を見いだせていないことを意味する。

 それでは、ピースヘイヴンの精神が今のやりとりで無視できないさざ波を立てられていることを自分から認めているようなものだった。

 

 

園縁(そのべり)君の言動が真実にしろブラフにしろ、あの態度の目的は明らかに私と崩れ去る定説(リヴィジョン)の意識を集めてシロウに対する警戒を薄れされること。

 ……良し、崩れ去る定説(リヴィジョン)はヤツへの警戒を解いてはいない)

 

「あー、もしかして勘違いしちまってるのか?」

 

 

 油断なく盤面を把握しようと心がけるピースヘイヴンに対して、あくまでも強気で薫織(かおり)は言う。

 

 

「これは、駆け引きなんかじゃねェ。単なる宣言だ。霊能を察した察してねェで余計な腹の探り合いにリソースを割くのは、(オレ)の好みの()り方じゃねェんでな」

 

 

 その姿に、ピースヘイヴンは一人の男を幻視する。

 

 別に見知った顔ではなかった。

 ただ、目の前の少女の生き方の背景に──裏打ちされた、確かな『人生』の影が見えた。

 

 誰かの為に戦い、誰かを護り、誰かを救い。

 そうやって一つの歴史を築き上げてきた、一人の男の人生が。

 

 

(ハッタリではない)

 

 

 だからこそ、ピースヘイヴンは速やかにすべての楽観を捨てた。

 

 

(こちらに心理的圧迫を与えようとかなんてチャチな思惑はない。本気で園縁(そのべり)君は私の霊能のすべてを看破した。

 そしてその上で、それを包み隠さず正直に宣言している。……駆け引きの為ではなく、おそらくは()()()()()()()()()()()()()

 

 

 合理性で言えば、仮に霊能の原理を看破したとしてもその事実はギリギリまで伏せておくべきだろう。

 相手が霊能の原理を知られていないという前提で動いていた方が、行動にも油断が生じやすい。

 だがあえてそれをしないということは──あらゆる言い訳を封じて、その上で完璧な勝利をしてみせるという宣言に等しかった。

 

 

「……随分、ナメられたものだな」

 

「高く買ってもらえるほど、テメェに黒幕としての格があるとでも?」

 

「おや。原作者で生徒会長でラスボス、此処までの属性を安く見られるとは意外で心外だな」

 

 

 言葉と同時に、ピースヘイヴンはステージ上へと駆けて『天尾羽張』を手に取ろうと動く。

 しかしそれは当然薫織(かおり)が阻止しにかかる。

 

 両者がほぼ同時にステージ上の『天尾羽張』を取りにかかったこのタイミングで、奇しくも二人は同時に状況を判断した。

 

 

((このまま『天尾羽張』奪取を優先すれば、確保の瞬間を狙われる))

 

 

 ゆえに二人の目的は、『天尾羽張』奪取と見せかけてその瞬間の攻撃に対するカウンター。

 

 互いに『着用型』を纏った二人は流星のようにステージ中央まで駆け──そして一瞬後には、『天尾羽張』の一歩手前の距離で互いに拳を交差させていた。

 

 

 互いの拳を互いに受けつつ、そして互いに拳を繰り出す体勢。

 

 しかし、霊能が絡んだ戦いはそこでは終わらない。

 

 

「『崩れ去る定説(リヴィジョン)』」

 

 

 刹那、世界が静止し、空間の切れ間から星空のような異空間が展開されていく。

 

 逆行していく世界の中で、ピースヘイヴンは静かに宣言した。

 

 

「『一秒』、時を巻き戻した。……そして書き換える。この先一秒、君は私の行動の変化に適応できない」

 

 

 一秒の逆行が終了し、世界が運行を再開する。

 

 互いに『天尾羽張』へ駆けていくピースヘイヴンと薫織(かおり)

 この先の一秒間の未来は既に確定している。

 『天尾羽張』に到着する直前に薫織(かおり)とピースヘイヴンは互いに攻撃を仕掛け、そして攻撃は互いに受け止め合う。

 

 しかし、この時にピースヘイヴンがほんの少しだけ異なる位置にいればどうなるだろうか。

 

 薫織(かおり)の攻撃を回避し──そして自分だけが薫織(かおり)の防御を貫けるような立ち位置にいれば。

 

 

「これが『崩れ去る定説(リヴィジョン)』だ。たとえ君が私の能力を看破し対策を打とうとしようが……()()()()()()()()()()()()()()()()。君の『対策』が始まる前に、既にな」

 

 

 空を切った拳──それを掻い潜るような姿勢で、ピースヘイヴンは言う。

 

 無理な姿勢ではあるが、『ターミナルスカーフェイス』を纏い運動補助を受けているピースヘイヴンにとって、この程度の姿勢は格闘家が臨戦態勢をとっているよりも自然な体勢だった。

 

 

「私の霊能を看破したという君の発言、信じよう。そして私に何もさせるつもりがないというその自信もな……。

 だからこそ私は君という宿敵が、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 致命。

 

 薫織(かおり)の拳を掻い潜ったピースヘイヴンは、そのまま必殺の蹴りを薫織(かおり)の喉笛へと叩き込む。

 喉を突き抜け、延髄に蹴りの衝撃が伝播するような勢いでピースヘイヴンのつま先が薫織(かおり)の喉笛に突き刺さった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。