唯神夜行 >> シキガミクス・レヴォリューション 作:家葉 テイク
「えいっ」
横合いから、
そして次に、大きめの木片がまるでボウリングのピンみたいに『天尾羽張』をステージの奥まで弾き飛ばしていた。
──しかし、
その答えが『大きめの木片をぶつけてカーリングみたいに「天尾羽張」を弾く』だったのは、直前に自分が同じことをされたことを差し引いてもあまりに原始的すぎる選択だったが──
──しかし、この場においてはその『気が抜けるような単純な方法』であることが功を奏した。
「あ、」
想定外の指し手の、想定外の一手。
それは時間にすれば一瞬のことだったが、それでもそこで確実に戦場は一旦停止する。
そして、一度止まった流れが再び始動した。
此処で、両者の勝利条件の違いが如実に表れる。
彼女自身が『天尾羽張』を回収しなくても、ピースヘイヴンが『天尾羽張』を回収しなければ問題ない。
極論を言えば、雑に破壊してしまったところでその後の
その点で、立ち回りの自由度はかなり高い。
一方で、ピースヘイヴンは『唯神夜行』を宿した『天尾羽張』を確保して計画を完遂しなければならない。
もちろん『天尾羽張』を破壊することなど以ての外だし、二人のうちどちらかに強奪されてしまっても計画は成り立たなくなってしまう。
そのほかにも
だからピースヘイヴンは反射的にステージの奥に飛ばされた『天尾羽張』の方を目で追い──対する
「まずは
「くっ……!!」
思い切り振りかぶったミドルキックは流石にピースヘイヴンの両腕にガードされてしまうが、しかし勢いまで殺しきれる訳ではない。
そのままピースヘイヴンの身体は数メートルほど後方、体育館中央側へとフッ飛ばされ──ステージ上から離脱することになる。
この時点で、ステージ東袖に
ピースヘイヴンは
あの分なら仮にすぐさま引っこ抜こうとしても数十秒は霊能を使うことは難しいだろう、とピースヘイヴンは判断する。
「……流石だな」
ピースヘイヴンはすっと居住まいを正すと、
これは霊能発動のインターバルまでの時間稼ぎの意味もあったが、一方でピースヘイヴンの偽らざる本心でもあった。
「今の動き。確かに私の霊能を完全に看破していなければ不可能な動きだった。どうやら私の霊能を暴いているというのは間違いないことらしいな。
…………そうだよ。私の霊能は『時』の『書き換え』。この世の時間を数秒ほど巻き戻し、そしてその中で私だけが行動を変更することだ」
「……!! そんなデタラメな……!」
当然そんなことは考えもしていなかったらしい
しかしやはりと言うべきか、
ピースヘイヴンの足から、ナイフが音もなく消える。
おそらく逆用を警戒したであろう
「テメェだけが自由に動ける時間は精々一秒程度、だろうがな」
ピースヘイヴンの説明に、冷静に補足を入れた。
「テメェは未来の出来事を予知した上で行動することができる。だが、未来の予知は何もテメェの専売特許じゃねェ。当たり前な予測を積み重ねていけば
テメェが狙うであろう位置を予測して防御を置けば、そこに勝手に引っかかる形でテメェの攻撃は防げんだよ。さっきみたいにな」
「簡単に言ってくれるね。君のそれを霊能抜きでやっていると言われたら、困惑と共に憤慨する人間が大半だろうよ」
「だが可能だ。ご主人様の命を受けたメイドならな」
ステージの上から、黒幕を見下しながら。
──ただし。
忘れてはいけないのは、ピースヘイヴンは曲がりなりにもこの世界を二〇年近くにわたって掌握し続けてきた実績を持つということ。
その悪辣な発想が、
「では、こうしよう」
言葉と同時に、ピースヘイヴンと
一切の意思疎通を省いた行動だったにも拘らず、同じ意思を持つ二つの戦闘者は寸分違わない意図で同時に行動を果たした。
即ち。
「選手交代だ」
今までの、『本体がシキガミクスと同等に動ける』程度のスケールとは桁が違う。
現存する中で間違いなく『最強』の性能を誇るシキガミクスが──主人を背に守るメイドへ牙を剥く。